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ダンジョン作成記  作者: MS
第二章
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閑話 傭兵

 傭兵

 主義主張を問わず、金で雇われる戦士を指す。

 傭兵は金さえ払えば圧政を引く領主でも、立ち向かう革命者でも雇われる。

 傭兵達の経歴は様々だ、受け継ぐ財産もない貧乏貴族の子弟、仕える君主や理想を失った騎士、兵役を終えたが村に帰らなかった元兵士、そして探索者。

 傭兵の稼ぎ時はやはり戦争だ、ヌイ帝国の内乱に多くの傭兵が参加している。

 五ヵ国同盟の一角、分断山脈からの守護国家、傭兵王国エテルノからも多くの傭兵が参加し、その名を高めていた。



 戦争がない時でも仕事は溢れている。隊商や旅人の護衛、魔物退治等々、需要は大きい。

 だが昔は傭兵の地位も信用も低かった。

 戦争時以外は盗賊稼業な人間。不利と見れば、或いは金で平然と雇い主を裏切る者。護衛に雇った傭兵に荷物や財産を奪われる、殺されたりする商人。

 

 商人達が信用の置ける傭兵だけを雇う様になるのは当然の流れだった。

 だが交易商や行商人も年中移動をしている訳でもない。

 故に経費のかかる傭兵を常時雇う訳にもいかず。必要な時に信用する傭兵が別の仕事を請けおっていたり、そもそも近くに居なかったりした。

 資金力や常時傭兵を使う仕事等がある大商人ならともかく、他の商人にとって傭兵の質の向上は必要事項となる。

 その様な思惑の元に傭兵ギルドは発足し、今日の様な規模と信用を得られたのだった。

 要塞都市アベローナに存在する傭兵ギルドに新たな依頼が持ち込まれた。よくあるものでヌイ帝国のハル城塞都市までの護衛だ。

 名の有る多くの傭兵はヌイ帝国東部地区での争乱に稼ぎに出ており、残っている者は少ない。

 持ち込んだ商人も駆け出しで、報酬もそれほど出せず。Eランクの傭兵を二名雇う。

 魔物や盗賊が出た話も聞かないので二名で十分、とその商人の判断も加わってだが。


 ランクとはギルドのメンバーに対する信用度だ。仕事の実績や依頼人からの評判、ギルドの査察などからつけられる。

 故に高ランクが高戦闘力者とは限らない。もっとも高ランク者はベテランゆえ、結果的に戦闘力も高い事が多いが。

 Eランクは見習いを終え、最低限の信用度はある人間の事だ。

 ドワーフだったりもするが。



 水樽や牧草、乾物を主にした食料品等が荷馬車に積み込まれていく。


「傭兵の増員か?」


 奴隷商のマチムは護衛隊長のノカナの進言に考えこむ。チュヴァ達買われた奴隷の運搬を任された中年の太った白髪混じりの男だ。


「向こうに多く人数を残しましたので」


 護衛隊長であるノカナは二メートル近い大男で、筋肉質の体に傷だらけの鎖帷子チェインメイルを身につけている。


 フルスゥターリ王国の村々で奴隷を仕入れた彼らは、一足先にヌイ帝国まで運ぶために、まだ村を廻る本隊と別れた。


「何か情報でも掴んだのか?」

「いえ。勘です」


 現状は要塞都市アベローナで、王国領最後の補給中だ。

 水は途中の休暇施設でも補給できるが、食料は狩り以外はヌイ帝国ハル城塞都市までの約八日間は不可能だ。 

 奴隷商のマチム、護衛にノカナを含む五名、奴隷が二十二人、馬が十一頭。

 そして荷物持ち、馬の世話等の雑用の為の奴隷が四匹。

 此だけの規模だと消費する物資も膨大だ。人数が増えれば荷物も多くなる。

 暫し眉間にシワを寄せ悩んでいたが。


「……いや、必要なかろう」

「了解しました」


 名高い傭兵団や傭兵はヌイ帝国の内乱で、どちらかの勢力に雇われている。

 参加していない傭兵は、三流か現護衛のように特定の商人に雇われている、それか雇われる予定の者ばかりのはずだ。


「すまんな」

「いえ」


 ならば三流処を雇って問題を起こされるより、とマチムは考えて進言を退けたのだ。

 ノカナも確固たる理由もないので食い下がる事はなかった。

 マチムの所有奴隷である犬人コボルトや、商店の使用人が次々と物資を荷馬車に積み込むのを監視する二人。

 ノカナ以外の護衛達は預かった奴隷の見張りを命じてある。

 仕入れた奴隷も大人しく、逃げ出す様子もない。そう仕込んだのだが。



「値がつきませんな」

「不作続きだからな」


 良い値がつくなら王国内でも奴隷を捌くのだが、運搬経費を考えても帝国で売る方が利益が出る。

 口入屋をあたってはみたが値段交渉が折りあわず。

 奴隷の仕入れは家族に払うよりも、領主に支払う金額の方が多い。領民は領主である貴族の財産なので、許可なく連れ出すと犯罪になる。

 件もその様な事まで考えている貴族は稀、大概は下級役人に丸投げで賄賂にて費用をおさえられているが。

 因みに入市税も奴隷は荷物扱いだ。

 交易商や行商が良く情報交換や、商談に使う酒場や市に顔を出し情報収集を行う。

 交易路の状態や盗賊、魔物の出現情報。関税の状況等の生命線たる情報のやり取り。

 この様な場で偽情報等を流した商人は信用を失い、生きて行く事が不可能となる。

 勿論商人の命たる商品の情報は例外だが。

 ギルドという狭い共同体に所属しているのだ。新規参入でない限り、顔見知りばかりなので噂が流れるのも早い。

 この様な状況なので、偽りを聞かされる事は少ない。

 酒場なら一杯奢り、市ならば必要物質を購入すればほぼ正確な情報を入手可能だ。

 

「どうやら問題ないようだな」


 護衛に控えるノカナに確認する。無言でうなずく彼に奴隷商人マチム満足げだ。

 長い付き合いである、ノカナの進言だったので念を入れて情報収集を。

 時機良くハルから交易商が到着した事もあり、改めて交易路とヌイ帝国内の情報を仕入れた。

 帝国お抱えである塩商と戦時需要以外に落ち込んでいる商人達が、久々の稼ぎ時にハルに続々と集まっているらしい。

 この情報が正しいのなら、奴隷を捌くのも思いのほか簡単かも知れない。


「心配事もなくなった、急ぎ出発しよう」

「……了解しました」


 長年生き延びて来た傭兵の勘が、警鐘を鳴らしているが上手く説明出来そうにもなく。

 仕入れた情報も、安全を示す以上は手はない。

 警戒だけは怠るまい、そう内心強く決意を固めるノカナだった。

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