プロローグ
初めて小説を書くので、文体や表現が間違っているかと思いますが、優しく指摘して頂けると助かります。
この小説が誰かの楽しみになる事を祈って
よろしくお願いします。
気付けば椅子に座っていた。
周りを見回すも光源が右手のサイドテーブル上にある、ランタンの様な物のみで薄暗く視界がきかない。
そもそもここが何処で何故座っているのかも、そして己が誰かも解らないでいた。
(昨夜は確かに布団に入って寝たはずだが?)
だがこの記憶すら断言できない。
布団だったと思うのだが、ベッドで寝ていた気もする。
腕をくみ、深く考えこむ。
己の名前、家族、友人、仕事等は解らないのにテレビ番組の内容や読んでいた漫画、小説等は思い出せる。
混乱しそうな状況なのに、いやに冷静だ。
自分は恐らく日本人で学生でなく社会人だった、と思う。
これ以上は思いだせない様なので改めて周りの様子を観察する。
先程は気付かなかったがサイドテーブル上にはランタンの他に薄いノートの様な物もあった。
冷静なつもりだったが意外と動揺していたらしい。
そのノートには日本語でこう書かれていた。
[ダンジョン・マスターの心得]
『ようこそ、ここは剣と魔法の所謂ファンタジーの世界です。』
ノート、と言うか説明書の冒頭はこんな文から始まっていた。
薄い事、日本語で書かれていたのもあわせて、そう時間もかからずに読み終える。
どうやらB5サイズでページ数が二百五十ぐらいの本は、薄いと感じるらしい。
念のため、三度程読み返し内容をまとめるとこんな物だった。
自分達は選ばれた存在である。
ダンジョンを作らないといけない。
モンスター等もポイントを消費して創作可能。
初期ポイントは1000ポイント。
自分が創作したモノ以外を殺したら、その価値に等しいポイントと経験値を入手できる。
ダンジョンの心臓部の宝石を失ったら滅びる。
宝石がある限り、ダンジョンマスターは寿命や老化では死亡しない。
宝石は若返りの力があり、ダンジョンが発見されれば狙われる。
ダンジョンを作成すれば、後は何をするも自由。
ダンジョン作成の猶予時間は目覚めてから720時間。
ダンジョンの場所指定は先着順。
略奪や強姦等推奨。
創作可能リスト。
以上、楽しんでね。
より詳しい事を知りたいなら執務室を調べる事。
説明書、いや、この状況を作り出した存在の悪意を感じさせられる。
特に『以上、この世界を楽しんで貰えると嬉しい。』
説明書の原文だが、この後二ページあり表紙になる。
その二ページは一見すると柄が描かれているだけに見え、意味がなさそうなのだが柄に紛れて『より詳しい情報を欲するならば執務室を調べてみるとよい。』この文が隠されていた。
この文に気付かなかったとしても、おそらく調べるので問題がなさそうに思える、が
この説明書だけで十分にダンジョン作成可能で、この様なゲームに慣れた存在なら一時間もかからずにダンジョンを完成させられそうなのだ。
猶予時間がかなり長く有るのに、ダンジョン場所指定が先着順になっていたり。
原文だとやけに親切かつ、こちらを持ち上げる様な文体だったりと。
自分は逆に警戒心を刺激されて、三度も読み返して隠し文に気付いたが。
ランタンを片手に探索に向かう。
まずは執務室の発見からだな。
仮称王座の間は広さだけなら立派なものだった。
椅子、背もたれと肘掛けがあり、背もたれの頭部に握り拳大きさのダイヤモンドだと思われる宝石が嵌め込まれている。
多分だが、あれがダンジョンの心臓部たる宝石だろう。
右手にランタンを、左手に説明書を持って真っ直ぐ歩き出す。
因みに椅子は宝石以外は質素でクッション等もなく、粗大ごみと言われても納得のできだ。
床も天井も壁も石畳で作られており、打ち捨てられたコンクリートより多少見栄えが良い程度。
椅子から三メートル程歩くと、一段低くなっていた。
絨毯やカーテン、シャンデリア等があれば仮称が取れそうだが、現状だと廃墟にしか見えない。
その後十五メートルぐらい進むと、両開きの扉がある。
三人ぐらいならば横に並んでも余裕で出入り出来そうな扉だったが押しても引いても開かず。
引き返すと椅子の右奥にドアを見つけ、中に入る。
八畳程の部屋は入ってすぐの右手にドア、中央より奥側に机。
机の奥に本棚らしき物も見える。
机にランタンを置くと、机の上に有ったノートに目を通す。
『魔力の使用』との題名の書物を簡単にまとめると次の様な事が書かれていた。
この世界は多い、少ないは有るが基本的に誰にでも魔力がある。
魔法は訓練が必要だが、魔具の使用には問題ない。
魔力を使うこつ。
説明書の様な隠し文にも注意しながら読んだが、本当に魔力の使い方だけらしい。
机の上には他になく、引き出しはなかった。
隠し文に書かれていた事が嘘だったのか
あるいはこの部屋は執務室ではないのか
結論を出すのは早すぎる、と本棚を調べだすのだが
「読めない」
説明書や魔力使用本は日本語だったので読めたのだが、本棚に収まっていた本は何語で書かれているかも不明。
後半分ぐらい本は残っているが
空腹を感じ、集中力が切れた、いや気力が萎えた。
仮称執務室にあるドアは三つ。
仮称王座の間と繋がっているドアと、その近くにあるドア。
本棚や机等で見えなかった本棚の横のドアだ。
まずは近くの本棚の横のドアを開け中に入る。
寝室らしき部屋なのだが、ビジネスホテルのシングルの安い部屋?
長さはあるが、部屋は狭く、ベッドやシーツも質が悪そうだ。
出入り口は二ヵ所、入って来たドア、そこから右側、構造上仮称執務室との隔てる壁にぴったりとベッドがあり、箪笥らしき物、押入れぽい場所と並び、右側壁に再びドアが。
思わず遠い目をして黄昏てしまう。
説明書によればポイントさえ払えばグレードアップ可能らしいが。
「住めば都、住めば都」
空腹な事も重なりネガティブな方向へ突撃しそうな精神を奮い立たせる。
右端のドアの中は浴槽とトイレだった。
不思議な事にトイレは洋式で、電気でなく魔力で作動する、ウォシュレット付きの現代風。下水等どうなっているかも謎だが正直助かるので深く考えるのは止めておいた。
浴槽とトイレの部屋のドアも二ヵ所。
そのまま次の部屋へと進む。
「えーと?」
その部屋は簡単に述べればマンションの一室だった。
入口近くのスイッチに魔力を流せば、初めての事で加減ができず、スイッチに触れていた指先から血液を吸いとられる様な感覚。
貧血時の様に目の前が暗くなる感じで、立ってられなくなり、しばらく身動きができなくなったが。
そんな失敗も有ったが、ランタンなど問題にならぬ明かりが天井から降りそそぐ。
テレビがない、窓等がない事を除けばモデルハウスで納得してしまいそうだ。
広いリビングと対面式のシステムキッチン。
カウンターと六人は座れるテーブル。
思い出せない記憶だが、己の住まいよりランクが遥かに上だと確信している。
魔力を使う事を除けば変わらないシステムキッチン。
空だったが冷蔵庫もあり(魔力の充電、充魔式)
砂糖や塩、酢に味噌や醤油の調味料。
包丁や鍋、フライパン等も完備。
調理器具を探している途中で棚の一つから、黒く硬いパン、干し肉ぽい肉塊、ジャガイモぽい作物がそれぞれ三つずつ入った籠を発見。
片手鍋に水、皮を剥いて一口大に切ったジャガイモモドキ、干し肉のぶつ切りをジャガイモモドキが柔らかくなるまで茹で、塩で味を調整したスープ。
魔力の調整が上手くいかずに、火力が強すぎて鍋底を焦がしたりしたが。
スープを木製の皿によそい、パンと一緒にテーブルへと運ぶ。
男の料理なんて、こんな物だろう。
シチューにしたかったが、ルーを作る知識がなく断念。
パンがかなり硬く、スープに浸し柔らかくしながら食べる。
パンのおかげでよく噛んだためか満腹感が強い。
スープ?
空腹は最高の調味料だね。
食事中にテーブル上にメモを発見。
内容は食料や調味料は定期的に補充される。
補充食料の内容は定まっているので他の食材は略奪するべし。
やはり悪意があるな。
メモの感想だ。
食事を終え、明るい場所に居て余裕が出た為か、今まで考えない様にしていた事が思い浮かぶ。
即ち、この先の事だ。
(残り時間は?)
瞼を閉じ、そう念じれば。
《残り後約706時間》
頭にそう浮かぶ。
説明書によれば、時間内にダンジョンが完成しなければ消滅するらしい。
ダンジョンマスターとともに。
だが完成させれば、宝石を狙う存在達との殺し、殺される生存競争が待ち受ける。
死にたくないとの思いと、殺したくないとの思いが交差する。
思い出せない為断言出来ないが、命のやりとりは勿論、喧嘩の経験も少ない、と思う。
親兄弟や友人、結婚していれば嫁や子供の事を覚えていたのなら殺してでも生き残る、と天秤が傾くのだが。
あるいは、別世界ゆえしがらみはないと欲望のおもゆくままに生きれれば。
ならば死のうか?
生きる意味を見い出せず。
誰かを殺して生きるよりは、このまま時間切れまで穏やかに生きる。
いや、違う。
深い、深い溜め息。
黒瞳に烈火の意思が燃え映る。
理不尽に利用されたままで
何者かの掌で踊らされたままで
死にたくない
他の存在を殺してでも
ゆえに、死なない。 殺したくないからと、殺すぐらいなら死ぬと、綺麗な生き方はできない。
殺す事で、恨まれ、憎まれ、呪われようとも
涙を、絶望を、悲劇を招くとしても。
死ねない。
死を望まれる存在と化しても。




