一章第十話
三月十四日、19時に改訂した改訂版と差し替えさせて頂きました。
小川で水車が回る。
小川の流れは穏やかで、下掛式水車では動力と考えると非力だ。
家は丸太小屋風で三軒、家畜小屋と思われる小屋も三つある。
その内一つは鶏小屋らしく、小屋近くの柵で出来た囲いに鶏とヒヨコが放たれていた。
農家三軒では信じられない程広大な農地があり、その一部に野菜畑や麦畑等が広がっている。
小さな村だと紹介されても疑問に感じないこの場所は、バージョンアップされた農場部屋だ。
懸念された作物も引き継がれ瑞々しく育っている。
小川の水面が盛り上り人形を作りだす。
水で出来た人形は、水上から農地に足を進めると色づき、青い髪に瞳、白い肌、薄い唇……
そこには年頃なら十歳前後の少女が居た。
その華奢な身を包むのは青いドレス。
胸元や背中が大きく開いたドレスは、本来なら色気を醸し出す物だが彼女が着ていると可愛らしく感じられる。
神秘的な眼差し、静寂な表情。
顔の造形も整った美しい少女。
そんな美少女が水精霊のミールだ。
水精霊の彼女も本来、睡眠は必要ないのだが彼から命じられたから休んでいたにすぎない。
太陽が昇ったら水を撒く様に命じられていたので小川から出て来たのだ。
エレナもネブラも丸太小屋内で起床しているが、身嗜みを整えたりと出てくるまで暫くかかる。
その間に小川から遠い畑から水撒きするのが命じられた仕事だ。
水その物である彼女に如雨露は無用、手をかざせば水が生み落とされる。
ホムンクルス達が使ってる丸太小屋も、内部が変わっていた。
ベッドは変わらず一つだが広くなった。
彼女達には不要だがトイレも小屋内に。
後は大型のキッチンが追加された、が使われる事はもう暫くはないだろう。
小屋からエレナとネブラが出て来て、食堂と鶏小屋に別れる。
農場部屋の出入口にも小屋が創られていて、出入りに少し手間が増えていた。
鶏達を囲いに放すと籠を手に作物の育成具合の確認、収穫がネブラの仕事に定められてきている。
「おはよう。早いね」
近くまで来たネブラの挨拶にミールはうなずく事で返事とした。
そんな態度を気にするでもなく、にこやかなネブラはミールに話かけながらも収穫の手は休めない。
律儀にうなずいたり、左右にふったりしてネブラの言葉にミールは反応しているので拒絶したり嫌がってはないのだろう。
二人の関係は端から見ている以上に良好だった。
骸骨兵が演習場に使っている大広間を含めて、ダンジョンは自然洞窟に偽装されている。
ミールは現段階のボス候補として創作したのだが、意外な欠点があり再考している。
水精霊は近くに水場がないと十全に戦えないのだ。
彼はダンジョン出現場所にフルゥスターリ王国を選んでいた。
五ヵ国同盟とヌイ帝国に国境を接してる事。
両大国が冷戦状態のため、両国がフルゥスターリに大軍を送り込めないだろうと見込める。
未開拓地域がある事。
それ故に正確で精密な地図がなく、さらに地理に詳しい者が居ないはずだ。
名声が轟いている武将等が居ない事。
強力な個人や有名な地下迷宮踏破者が近くに居ないなら、成長する時間を稼げる。
未開拓地域に自然洞窟があっても不思議ではない。
発見されてもダンジョンと気付かれないかも知れない。
最初は開拓村から三日から五日の距離にダンジョンを出現させ、一先ず未開拓地域の魔物を狩って力をつける。
説明書によれば自分が創作した以外の命を奪う事でポイントと経験値を獲得出来る、とあった。
人間を殺したくない、との気持ちが後押ししなかったと言えば嘘になるが。
魔物狩りで獲得出来ない可能性もあるので、人間の村も近くに必要だ。
同時に人間の欲深さや強さも理解している。
漫画か小説かは忘れたがこんな言葉がある。
化け物を殺すのは何時だって人間だと。
後日技能フルゥスターリ王国知識で開拓村の実情を知り、計画を修正する事になるのだが。
精霊
精霊は単なる力にしかすぎず、自らの意思で動いたりしない。
しかし、精霊達は精霊魔法使いと契約、ダンジョンマスターに使役、その他の原因で肉体を得たり力を振るったりする。
精霊魔法は森妖精族が主に使用する魔法だが、人間族や大地妖精族にも少ないが使い手は存在した。
エルフやドワーフと違い、確固たる肉体を持たず、使役者の魔力にて一時的な身体や影響力を得る。
精霊は意思を持ち、使役者と個別に契約を結ぶ。下級精霊種の数は無数に居るが契約を結べるのは一体のみだ、契約精霊が滅びない限り。
使役者との友好が高ければ、精霊は積極的に力をかすので効果が上がったり、魔力消費が少なくなったりする。
ダンジョンマスター等の例外は複数の同種精霊を従属可能だが。
精霊の使役には色々と制約がある。
一時的に力を借りる程度ならば、火精霊ならば松明につけられた炎。水精霊ならば水筒に容れられた水、の様に触媒が必要なのだ。
実体化させるには精霊との良好な関係、魔法の熟練が必須である。
そうなれば、精霊と相性が悪い場所でない限り、触媒がなくとも精霊魔法が行使可能になるのだ。
ダンジョンマスターたる彼も水精霊ミールと友好(或いは思慕や忠節)が深まれば水場でなくても使役可能となるが、この情報は知る事が出来ないでいた。
彼が名付けたカスタム本や説明書に載せられていない、故に致し方ない事であるが。
意思がある、と述べたが下級精霊は好みがある程度で確固たる自我はないに等しい。
彼に創作、肉体を付与された下級精霊たるミールもまだ自我は薄い。
元々持っていた知識に加え、創作時に与えられた情報にて一見問題なく行動しているだけだ。
彼女は穏やかに、だが急激に学習と成長を始めていた。
名を与えられた事で、個(自我)を認識して似て非なる同族と明確な違いができたために。
彼女がどの様な成長を果たすかは、現状彼とホムンクルス次第である。