閑話 開拓村
小鬼
農民や町民に知ってる魔物を聞けば教えられる代表格。
人間族より小柄だが目立つのは顔に不釣り合いな程大きく、燃えるようにぎらつく赤い目だ。
頭部に数本の角を持ち肌の色は土色。
個体の戦闘力は犬人より強い程度で兵士や探索者からすれば手こずる相手ではない。
これだけでは脅威にならないが小鬼の真の恐ろしさはその繁殖力と方法だ。
小鬼達は人間族や森妖精族、大地妖精族、他の亜人達の腹に子供を孕ませれる。
また同様に雌は他種族の種でも子を孕めるのだ。
フルゥスターリ王国の南方にある、開拓村は緊張感に包まれていた。
「間違いはないんだな?」
「ああ、間違いない。小鬼どもだ」
フルゥスターリ王国の開拓者達は、基本的に兵役に就いていた者達だ。
兵役に就くとその家族は免税される。
そして三年間従軍すれば村へ帰る事が出来るが、この退役兵に王国は目を付けた。
兵役中は軍で働いているので、故郷の仕事は出来ない。
なのに故郷が正常に運営されているならば、その兵は故郷の余剰人員。
それなら故郷に返すより、新たに土地を開拓させ税収を増やそう、と。
従軍中にその性格等検討され、分類される。
軍に残す者、開拓者にする者、故郷に返す者に。
故郷に返す者には何もしない。
軍に残す者と開拓者にする兵には、伴侶が宛がわれる。
軍に残す者ならば兵士の娘や姉妹、死亡した兵の未亡人、町民の娘等を。
開拓者候補には農民の娘等を、神殿やらの力も借りて結ばせる。
生活の基盤が違う嫁を連れて故郷へ帰る者は少なく(そのための分類)、兵役が終わっても志願して兵士となる。
農民の娘を嫁にした人間には親切にも開拓村を紹介する。
何故ならば村社会は共同体で余所者を嫌う。
兵だった男の、また嫁の故郷でも疎まれてしまう。
ならば新天地を自分達で作る方が良い、と国に感謝して開拓村へと旅立つ。
以上の理由で開拓村の住人の多くは三年以上の軍事経験者であり、緊急時の対応も確りとした物だ。
「よし、早馬をとばすぞ」
「そうだな、誰をやる?」
「自分は軍で伝令をしてました」
「そうか、なら頼めるか?」
「了解しました」
開拓村のまとめ役が指示を飛ばし、他の人間達も動きだす。
女子供を集める者、武具を装備しだす者……
村のまとめ役と自警団の団長が他人に聞かれぬ様に小声で話し出す。
「どっちだと思う?」
「まだ判らんが、野良じゃないか?」
「出現期か?」
「……何とも言えんな」
偵察を出し、その結果で判断を下す事に。
開拓村の放棄も視野に入れ、脱出の準備と戦いの準備を調えだす。
偵察は自警団団長と偵察兵だった人間の合わせて三人で向かう。
報告の有った場所に風下から近付くと、森の入り口となる場所に小鬼が二匹。
手信号で止まれと指示し、観察する。
この森は薪拾いや、茸や薬草の採取が可能と解り危険がないか念入りに調査した。
その時はダンジョンはなかったし、地理も明るい。
小鬼達がその場から動かない事もあり、はぐれか野良だと判断すると帰還を指示し開拓村へと戻る。
まとめ役との話し合い、自警団で小鬼を追い払う事に。
装備を変える為家へと帰る。
皮鎧から鎖帷子に装備を変え、愛用の槍と中型盾を持って出ようとした時に声をかけられた。
「おとうさん、だいじょうぶ?」
今年で六つになる娘だ。
目に入れても痛くない程に可愛がっている、大事な娘。
「何、心配いらん。お父さんは軍に居たころ、小鬼の群れを退治した事もあるんだ。心配せずに待ってなさい」
まだまだ死ねない、娘が嫁に行くまでは死ねんよ。
その想いを胸に家を出る。
「いってらっしゃい、けがしないでね」
懸命に手を振るって見送る少女の瞳は潤んでいた。
自警団十一人は夜の戦闘を避ける為に朝から出発し森を目指す事に。
夜、村への襲撃の見張りは他の村人に任せ、緊急時にすぐ動ける様、開拓村中央区にある集会所で寝る。
襲撃はなく自警団は朝から村の出入口へ行き、開拓村に派遣されている大地母神の神官と合流。
「神官様。本日はよろしくお願いします」
「団長殿、気になさらずに。魔物退治は神の御意志。此方こそよろしくお願いします」
簡単な打ち合わせ後、村から出発し小鬼が見張っていた森の入り口へと向かう。
見張りの居る森の入り口に近付くと部隊を二つに分ける。
弓を得意する者二人と彼らの護衛に二名。
残りの人間、団長と自警団が六人、神官が一人に別れる。
四人の分隊が風向きや物音に注意しながら、弓を使いやすい場所まで先行する。
場所取りに成功し、弓を引き絞り狙いを定める
見張りの小鬼は二匹、眠たげに欠伸をしていた。
ふっと息を吐き出すのに合わせ指を放す
一瞬だけ遅れて、もう一人の射手からも矢が放たれ二本の矢が小鬼に突き刺さる。
「グゥギャアァアァッ!?」
矢が肩に深々と突き刺さり首を貫通する。
「うおぉおぉっ!」
腹の底から声を出し、突撃する団長率いる本隊。
絶命したらしい小鬼を置き去りに、もう一匹は慌てて森へ逃げ出す。
念のため小鬼の頭を切り離すと隊列を整え待ちぶせる。
自警団員は団長と射手以外は硬化皮鎧に槍と中型盾を、神官は槌矛と小型盾を構え、柔軟皮鎧で身を守っている。
射手達は弓を持ち、硬化皮鎧を装備。
接近戦の為に小剣も所持。
この入り口以外は木々の間隔が狭く、小鬼とて出入りは出来まい。
入り口に対し半円を書く様に囲み、神官は少し後方で待機。
射手は仲間に射線がかからない場所で弓構え、矢を番えて待つ。
暫くすると森から小鬼達が飛び出して来る。
射手達が飛び出して来た小鬼に矢を浴びせ足止めを狙う。
小鬼達の武器は森で拾ったらしい、木の枝だけで腰巻きすらない程貧相だ。
「ふっ!」
「グギャ?!」
小鬼に突き刺さった槍を引き戻し周りを見渡す。
地には小鬼にが倒れ伏し、血の匂いも濃い。
森から飛び出して来た小鬼は十匹、鎧も盾もなく武器も棍棒らしき木の枝のみ。
小鬼はずる賢く勝てないとなれば逃げ出す。
数も少なく、仲間が倒されている現状なら逃げ出しそうな物だが。
己に降り下ろされる棍棒を盾で受け止め胴を突くも身体を捻られかわされる。
が、横から突かれた槍に貫かれ絶命。
戦闘は自警団の圧倒的優位で進み、犠牲者を出さずに終わった。
「治療」
神官の手から暖かな光が降り注ぎ、怪我を癒す。
「ありがとうございます。神官様」
「いえ、神の御加護ですので」
治療をすませると、慎重に森を探索する。
だか慌てて逃げ出した様な跡があるだけで、小鬼の姿は見当たらず村に戻ったのだった。
これより先の対応は領主の指示を仰いで、となり森への出入りを禁止にした。




