一章第九話
三月十四日、19時に改訂した改訂版と差し替えさせて頂きました。
フルゥスターリ王国は北に五ヵ国同盟とヌイ帝国、西にアルンペル自由都市連合。
東と南に未開拓地域に囲まれた国家である。
即ち海に接していない為、塩の入手が非常に困難なのだ。
塩は『白い黄金』と呼ばれる程の価値がある。
ヌイ帝国以外の国家も海に面していない、五ヵ国同盟もアルンペル自由都市連合も塩の入手は国家思案だ。
もし地下迷宮や魔物の問題がなければ五ヵ国同盟はヌイ帝国に侵略していただろう。
五ヵ国同盟とヌイ帝国の戦争の大義名分は異種族弾圧政策からの解放だったが、その実はヌイ帝国が吊り上げた塩税への報復戦争だったとの噂が根強い。
その根拠として挙げられるのがフルゥスターリ王国との間接交易である。
ヌイ帝国からフルゥスターリ王国に輸入され、ミュール王国に輸出されだすと冷戦状態になった事からだ。
戦争当時、帝国は絶頂期でウウゥル大陸制覇の野望に燃えていた。
塩に重税を掛けたのも強制外交の一手で必要物資を押さえる為だ。
国土は五ヵ国同盟の自称八倍以上、自称総兵力三百万。
現状でも未だに地図作成技術は未熟で正確とは言い難い、故に真偽は別だろうが。
それに対し当時の五ヵ国同盟は、同盟国家全ての兵を集めても約十万だったと伝えられている。
ヌイ帝国は戦わずに勝利を収められる積もりだったのだろうが、五ヵ国同盟は戦争を選択した。
結果、両国は武力にて雌雄を決する事になる。
当時の記録の一つ、ミュール王国騎士の手記に『ヌイ帝国兵が地を満たした』との記載があった戦争は、兵数に劣る五ヵ国同盟の滅亡で決着かと思われた。
が、ヌイ帝国落日の始まりと呼ばれる終結を迎える。
ポース聖王国が誇る魔導師や聖位騎士の力によって。
その後、フルゥスターリ王国を仲介とした秘密外交にて停戦条約を結び、表向きに冷戦、実質的に膝を屈したのだった。
自然洞窟に偽装された地下迷宮に規則正しい足音が響く。
幅は最も長い場所で四五〜五十メートル程、長さは百メートルはあるだろうか?
彼の七日間の成果であるこの大部屋は、骸骨兵達の演習場と化していた。
骸骨兵達は武装をしていない、待機場所として彼が創った小部屋に置かれている。
新兵達の技量を確認した後は、ひたすら行軍訓練を敢行していた。
最初は酷かった、歩行配分がバラバラで隊列も何もなく、前や横同士でぶつかったり、岩壁に突っ込ませて破損させてしまったりと。
イースが一体一体の名を呼び配分を調整し、何度も何度も繰り返し……
指導者が同じスケルトンでなければ、発狂するか諦めるかだっただろう。
諦める事を知らず、不可能と考える事もなく、休息も睡眠も必要ないイースだったからこその。
そしてイースについてきた骸骨兵達の成果だ。
踏みしめる足の機微とあげられる膝の高さ、振られる腕の高さと速度。
一糸乱れぬを体現した行軍。
骸骨兵長イースを先頭に二列縦隊で行進。
「骸骨兵ゼンエイ! 弓兵コウエイ!」
二列縦隊から横隊へと移っていく。
右からイース、エース、コス、シーザー、アース、スウと並び、後列には弓兵達が並ぶ。
停滞や衝突もない、速度もあり迷いもない。
かなりの練度だ、知能が低いとされるスケルトン達が訓練のみで身に付けたとは信じられないだろう。
骸骨兵達は待機部屋の小部屋に戻ると、各々で武具の手入れ作業に移る。
皮鎧の痛み具合を確かめ、ブラシや布で汚れを落とす。
きれいになったら硬化皮鎧用の保皮油を塗り込む。
保皮油が乾くまで、剣や槍の槍頭が欠けてないかを確め、砥石にて研ぐ。
槍は槍頭を外したら、柄や石突きの状態も確認する。
弓も反りや弦の状態を確認し、交換等の処置を施す。
改造で高い知能を与えられたイースならば不思議には感じない。だが、そういうカスタムを施されていない骸骨兵達も手入れやらしてるのだが……。
本当に知能が低いのか?
骸骨兵らは、武装を整えると大部屋に再び戻る。
弓は弦を外した状態で先程の部屋の中だが。
骸骨兵長イース以外の骸骨兵達が、兵士型と弓兵型の組合せで五組に別れ、互いに武器を構える。
弓兵は小盾と小剣、硬化皮鎧で装備を固めている。
中型盾は攻撃を受け止め、小盾は受け流す。
小剣は攻撃より防御を得意とする。
弓兵は接近戦時は、時間稼ぎを主点に置いている為の武装だ。
「訓練カイシ!」
イースの号令の元に剣同士がぶつかり合い、盾に止められ、空を切る、そんな喧騒が広まる。
イースは片手半剣を鞘から引き抜くと、両手で握り構える。
左足を肩幅程に前に出し、爪先は仮想敵に対し真っ直ぐに。
右足は後ろ、左足に対し開く。
上体は左半身に八相の構え。
イースは仮想敵に集中しながらも、骸骨兵達の動きも把握していた。
仮想敵が動く、剣で真っ直ぐな突きが襲いくる。
突きを叩き落とし斬り上げた。
肺があるならば、フゥーーッと息を吐いていただろう。
仮想敵の顎が落ちて転がる。
既に八相の構えに戻っていた。
夕食を済ませた後も彼は、ダンジョンの拡張を続ける、横になっても寝付けないからだ。
エレナは夕食後は洗い物が終われば仕事は終了と命じられている。
ネブラは農場の日が沈み、鶏達を小屋に戻せば、だ。
小屋に戻した後は食堂へ行き、シャワーを浴びに浴槽へ。
その後二人で丸太小屋に戻り勉強会だ。
骸骨兵達に休みはない、今も訓練を繰り返している。
先程とは違い全員武装し行軍訓練中だ。
別に男女で差別してないよ?
ちゃんと聞いたよ、休み欲しいかって?
でも要らないって
魔力の使いすぎでまたグロッキーな彼だった。