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第1章 催花雨【Synthetic】


【Boundaries Fade】が開始からまもなく1年で

ここまで続けれました。

たまたまですが、1年をきっかけに新作を作りました。

それがこの【優しさは透明な毒】です。


複雑な感情を表現するのが難しかったですが、思いのほか

サクサク作れた気がします。合計で7万文字を一気に作成したのは初めてです。


楽しんで頂けたらとは思っています。引き継ぎ読んで頂けると嬉しいです。


プロローグ

【Dispersed in particulate form,

        internally referred to as “dust.”】


★★


何もない部屋、中央には小さな机がある。男はベッドに寝ていた。部屋にはカーテンは無いので朝の木漏れ日の日差しが差し込んでアラームよりも先に目が覚める。するとコンコンとノックが聞こえる。


AM6:00


眠い目を擦りながらドアの前に行き、起きていることを伝える。テーブルの向かいの小さな棚の壁の鏡を覗き込んで、手で髪を整える。棚の上には小さな名刺サイズのメッセージカードが数枚置いてある。


カラフルなペンで色々書いてある。1枚を手に取って見る。そこには


【今日はいい天気!今日は1日ハッピーだよ】


あの時の懐かしい記憶が甦る。おっと、もうじき朝食の時間だ。慌てながらも手に取ったカードを大切に元に戻す。


ズキッ


一瞬視界が歪むぐらいの頭痛がするが直ぐに収まる。頭痛までが、ここ数日の朝のルーティンになっていた。


AM6:50


さて朝食を食べて、今日は運動かな?そんな事を考えながら1日が始まる。一昨日は外は寒かったけど今日はどうだろう?そう言えばあの時も寒かったなぁ…



第1章 催花雨【Synthetic】


「お前!なにやってんだよ!あぶねーだろうが!」


工場勤務をする久我透くがとおるは今日も怒られていた。小さい頃からコミュニケーションを取るのが苦手で協調性が低い。それが原因で先輩たちに怒られることが日常になっていた。


「その薬品は毒性が強いから使用するときは換気が必要って前に言っただろが!ここはもういい、久我はゴミ捨ててこい!」


「はい…」


怒られている上に、ちゃんと話すことも苦手なので、背筋も小さくなりゴミ袋をコソコソもって行く事になる。それを見た他の人が


「仕方ねーッスよ。久我はあんな感じなんで、あんまり強く怒らないであげて下さい」


「けどよ、俺たちの仕事は精密機械を扱ってるんだ、少しでもって気持ちが事故に繋がるんだ。でもまあ、俺もちょっと言い過ぎなのはわかってるんだけど、つい、強く言ってしまうんだよ」


トボトボとゴミ置場に来てゴミを置く。冬の風は冷たく、頬を撫でると言うより切り裂くようだった。身体を縮めて工場内に戻ろうとすると敷地内のコンクリートの割れ目からタンポポの蕾が。寒さの中に、間もなくやってくる春の訪れに少し心が温かくなる。


蕾を傷つけないようにそっと触り、工場に戻る。すると工場長が自分を待っていて


「“リト”おつかれさん。今日は終わりだけど帰りにご飯でも行くか?」


一部の工場の人は僕の事を“リト”と呼ぶ。僕の名前を変化させたらしいけど、何故かは知らない。まあ、聞くこともないが、僕のニックネームみたいな感じ。


「すいません。今日も用事があるんで帰ります。」


僕の事を気にして誘ってくれるが、付き合いには行ったことがない。工場長に「すいません」と言ってお断りのお辞儀をして、ロッカーに向かう。話が得意でないので行っても疲れが貯まるだけだろうと思い、いつも断る。


ロッカーからダウンと大きめのマフラーを巻いて工場を出る。入り口の警備員に社員証を見せて、素早く従業員入口から出る。前にマフラーが顔のほとんど見えないぐらい巻いてしまって警備員に止められたので、あの警備員さんは苦手だ。


朝が早いので帰る時間は18時頃で学生達がワイワイしながら帰っていたり、お迎えをしたお母さん達が子供と晩御飯の話をしながら帰っている。もちろん僕はマフラーを顔までかぶって低い姿勢で家路を急ぐ。その時カバンに付いていたコウモリのキーホルダーが激しく動いていた。


地方から出てきて、この職場で働いて数年、27歳になる。学生時代も仲のいい友達と漫画の話をしてたけど、女子とは話したことも無く、彼女は居たことはない。


社会人になっても職場と自宅の往復で遊びに行くことはない。漫画の話題で話していた仲間たちも大学に行ったりと徐々に会うことがなくなった。


足早に家に帰る途中でスーパーに寄って20%OFFのお弁当と明日のパンと牛乳を買って、セルフレジでお会計をして鞄に入れて家に向かう。


家に着いてポストを確認。不動産の案内やフィットネスジムのチラシ、ピザのチラシなど。どれも僕宛ではなく、無条件に入れられるものばかりでそれを全て集合ポストの近くのゴミ箱に入れて部屋に行く。


職場から比較的に近く、駅から徒歩12分は歩かないとダメだけど帰りにスーパーがあったりと便利で家賃が格安の3万5千円。築20年の1Kのアパートだが内装は綺麗で周辺環境は静かで住みやすい。


ガチャガチャ


鍵を開けて暗い部屋の電気をつける。引っ越してきてからカーテンを開けたことない、電気をつけても少し薄暗いがもう慣れた。特に帰って何もする事もないので。


無造作にテーブルと言うには小さいちゃぶ台に先程買ったお弁当を置いてテレビをつける。キッチンに向かって備え付けの冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出す。キッチンは使ったことない、料理なんてしたことないし作れない。


テレビからは夕方のニュースが流れて、恋人を怨恨で刺したや芸能人の熱愛など興味のない事が流れている。1ミリも興味は湧かないが無音で家にいると怖いので、賑やかしの為につけているだけ。工場長に用事があるとは言ったが特に趣味もなくただ寝て過ごす家。


趣味もなく、付き合いもない。お酒やタバコはもちろんギャンブルもしない。たまに自分の存在理由がわからなくなる。そんなネガティブになると、寝られなくなったりするので興味のないテレビを永遠見続けて寝る。


安くなったお弁当の蓋を開けて、思い出したかのようにキッチンに向かう。工場長の断ったことで悪口を言われているのではないかと、頭がグルグルしてて、お箸を貰うのを忘れてしまった。ほぼ毎日行くので多めに貰っているので、割り箸の予備は置いてある。


家にレンジは無く、冷たいご飯を口に運ぶ。それでも自分は人に気を使わなくていい、この家が一番落ち着く。家具と言えばテレビとちゃぶ台と小さい棚ぐらいで質素なものだけど…


するとスマホのバイブレーションが騒ぐ。完全に気を抜いていたので、驚いて箸で掴んでいた揚げ物を床に落としてしまう。工場長からかと思いビクビクしながらディスプレイを見ると


【お母さん】


ホッとして、通話ボタンを押す。


(もしもし、透?いつもお疲れ様、今家?)


「うん。何?かあさん?」


(毎月入れてくれてる仕送りあるでしょ?来月からはもういいわよ。あんたもいい歳なんだから、将来の為に貯金したら?こっちはお父さんが警備員のバイトも行きだしたからそこまで厳しくないから、あんたの給料なんだから好きに使いなさいよ)


「でも、僕…」


(いいわよ。むしろそろそろ彼女でも作ってこっちに遊びに来なさい。わかった?だからもう振り込みはいいからね。じゃあ、そろそろご飯作るから切るわね。)


そう言って一方的に電話を切られる。かあさんは言い出したら聞かないからなぁ。どうしようかな、いきなりそんなこと言われても…


仕方なく仕送りをやめることになっても、自分には使い道となる趣味もなければ、遊びに行く相手もいない。どうしようと思い食べ掛けのお弁当を食べようとすると先程落とした揚げ物にご飯粒が付いていたみたいで足の裏で盛大に磨り潰してしまう。スマホと持っていたお箸を置いてカーペットにこびりついたご飯粒をため息を付きながらティッシュで取る。


テレビでは華やかな女性がお酒を飲んで、煌びやかなお店でワイワイしている映像が流れる。薄暗い部屋から見るそのお店は、世界が違うものかと思うぐらい煌びやかな世界だった。


「あんな綺麗な女性と僕とは一生出会うことはないんだろうな…。そもそも僕なんて行ったら追い出されるんだろうな」


テレビに映し出される美男美女は、同じ人間なのかと思うぐらい自分とは違うものだった。横目で映像を見ながらご飯粒を頑張っても全部は取れなかった。そのうちに乾いて取れやすくなるだろうと思いながら、テレビを再び見ると煌びやかな世界の美女はグラスをタワーにしてお酒を上から流していた。


「僕とは住む世界が違う」


そう呟いて残った冷たいご飯を食べて、翌日を迎えるためにお風呂に入る。これが僕の生活。ここから先もずっと変わらないと思ってた。ましてや僕が“あの煌びやかな世界”に行くだなんて…。そして、彼女との出会いによって全て変わってしまうなんて、思いもしなかった。無色透明だった僕の生活に色彩が生まれることになるとはこの時の僕は夢にも思っていなかった…。


~~ ~


「あぶねーなー!どこ見て歩いてんだよ!」


朝起きて仕事に行く途中に車を運転している人から怒鳴られる。僕は深くお辞儀をして逃げるように走る。前から狭い道を3人が横に並んで歩いていたので、僕は避けるように車道に出たら危ないとのことで怒られたのだった。歩道の3人は僕を見てクスクス笑ってすれ違っていく。僕の安心できるところは家だけで、1歩外に出たら部屋よりも明るいのに僕には、全てがグレーに染まって見えている。


「…おはようございます」


職場についてロッカーに行くと工場長が着替えていた。僕は基本的に誰かと一緒にいるロッカーは気まずいので就業時間より早めに来て準備をする。目があった工場長は笑顔で


「リト、おはよう。今日も早いな、昨日は飲みすぎたんだけど、今日中に仕上げないと行けない報告書があったから早く来たんだ。」


たぶん、昨日行かなかったから行ったみんなで楽しくして、僕の悪口とかで盛り上がったんだろうなって思っていたが、それは言えない。というか言うはずがない。気まずいなと思っていたら工場長が


「すまんが書類整理を手伝ってくれないか?もちろん時間外労働だから打刻していいよ。それに無事に終わったらお礼もするよ」


目線を合わせれないから、工場長の肩の辺りを見ながら


「お礼とかいいです…て、手伝いますよ…」


言われたら断れない。断り方がわからない。こんな逃げ場のない状況で言ってくるのは卑怯だ…


「すまんなー。サッとするか」


タイムカードを打刻して他のみんなが来るまで書類整理を行う。


「久我!その部品はこっちだよ!早く持ってこいよ。なにやってんだよ!」


書類整理は終わって工場長からはお礼を言われたが、結局仕事が始まると余裕と自信がないので、今日もまた別の先輩に怒鳴られる。いつもの事だけど、僕にはどうしょうもできない。


お昼は1人で、昨日買ったパンを公園で1人で食べる。最初の頃は誘ってきてた同僚も数回断れば声をかけなくなる。公園で食べているときに3人組の同僚が見える。ご飯に行ってたのだろう。見えないと思うが身体を縮めて姿を見えなくする。どうせ見つかったら悪口言われるだけだし、むしろ笑いながら歩いてるから、きっと僕の悪口に違いない。


「おい!これを早く持っていけよ!次の分が置けない!久我!早くしろ!」


昼からも相変わらず怒鳴られる事が多い。強く怒鳴ってくると身体が萎縮して連鎖的にミスが誘発され、気持ちが下がってくる。まあ、仕事中に気持ちが上がることは少ないけど。


「リト、お疲れ様。これだけ片付けて終わりにするか。今日も疲れたなー。」


1日の仕事が終わり、自分と同期の佐東さとうくんが声をかけてくる。自分とは違って生産ラインから発注や取引など会社の中核を担う人物で自分とは天と地ほどの差が開いている。僕の状況がわかってるのに、相変わらず声をかけてくる。上手くいっていない僕と居て何が楽しいのか?もしくは楽しんでいるのだろうか、嫌なやつだからあまり好きではない。


佐東くんに簡単に挨拶して書類をまとめて持っていこうとすると


「ああ、俺も工場長の所に行くから半分持つよ。一緒に行こうぜ」


僕の持つ書類の束を半ば強引に奪って僕の歩幅に合わせて工場長のところに行く。


「そう言えば最近…。近くの中華…。彼女がさ…。」


行く途中に色々自慢話をしているが興味ないので「あ、うん」だけ返しているが、数分の間に弾丸トークをしてくる。僕に言っても意味ないのに、自慢じゃないか?と思いながら工場長の部屋に行く。


コンコン


僕がノックしたら、隣の佐東くんが


「工場長!失礼します。報告と書類をお持ちしました!」


「ああ、入っていいよ」


僕と佐東くんが部屋に入る。


「ああリトも居たのか、おつかれさん。お、佐東もリトの手伝いもしてくれたのかありがとう」


なんだ、やっぱり“点数稼ぎ”か…評価なんて別にもういいだろう。みんなから信頼もあって実績もあるのに。心の中で皮肉っていたら佐東くんが


「それは偶然ッスよ。来る途中で会って僕も報告で行き道、同じだったのと、同期も少なくなってきたんで気軽に話せるのはリトぐらいなんですよねー。これからも同期組は頑張るんで、よろしくッス」


そんなことを佐東くんは言うが僕には関係なこと。僕の事を気にしておけば評価も上がるし、比べたら優秀さをアピールできるだろう。そんな黒い感情が支配して気持ちが沈みそうになったので


「…すいません。この書類…置いときます。お先に…失礼、します…」


素早く書類をテーブルに置いて立ち去ろうとした時、佐東くんが


「リト、ちょっと待ってくれ。工場長、ひとつ相談があります。丁度いいから、この件でリトも同席してほしい。」


まだ僕をネタにしたいのかと思ったけれど、断ることも出来ず、促されて椅子に座る。佐東くんが工場長と僕にプレゼンをする。


「まず、工場長に相談と提案なのですが、新規での部品の下ろし先の取引が決まりそうなんです。」


「おお!本当か!すごいじゃないか佐東。」


工場長は嬉しそうに手を叩く。なんだ自慢話か…続けて佐東くんが


「それに合わせて工場長も含めて顔合わせをしたいんです。先方は企画書、方針は承諾いただいてるので、取引の開始は決まってるんですけど、どちらかと言うと飲み会をしたいそうです。」


「まあ、顔合わせと考えのすりあわせはしたいよな。あれか?飲み会の金額と場所が問題なのか?」


「いえ、費用も先方が用意してくれるのと場所も行きつけのお店があるみたいで大丈夫ですね」


「ん?至れり尽くせりで、こちらが考えることは何かあるか?」


工場長は疑問に思い悩む。僕はただ聞いているだけで居てる意味あるのかと思う。すると佐東くんがおもむろに書類を工場長と僕に手渡す。あれ…これって?すると工場長が


「これあれか、リトが昔作った計画書か」


昔、1度だけ計画書を考えたことがある。当時は時間の縛りもなかったからのんびり作ることができたが人員が減るにつれ、工場ラインの人手が足らなくなって駆り出されることになった。ただ僕の企画書は当時の人員でもクリアするのが難しい難題だったので計画自体がお蔵入りになってしまったのだ。


「最初に事業提案の時に持っていった資料にリトの計画書が入ってたんですけど、その資料を先方の社長が気に入ったらしくて、この計画書を進めるのではなくて、先方のチームとリトが業務提携をしないかって提案されてて」


僕はギョッとしてしまった。ただでさえ怒られてばかりの、毎日なので仕事のミスはしたくないし、そんな重要な人たちと仕事して失敗したら…すると佐東くんが


「ただ、リトはコミュニケーション取るの苦手だからリモートの提案をしたら、それも了承えたのですが。ただ、ご飯会だけ呼んでほしいって言われて…」


工場長と佐東くんは一斉に僕を見る…


「リト、すまん。最初だけでいいから参加してくれないか?もちろんこれは仕事だから時間外は出すぞ。」


佐東くんからの提携の話を聞いて、工場長からの頼みで断れないじゃん…


「…はい。それでし…たら…。」


それを聞いた二人は嬉しそうにする。こんなの断る事も出来ない、逃げれない状況ではないか。すると佐東くんが


「日にちと場所は後日連絡するからお願いな。先方が言うには楽しむところだからあんまり話さなくていいみたいだったから気楽にしていいよ。リトも楽しめるとは思う」


楽しいわけないじゃんとは思うが言えず、会議後1人帰る。寒いので身体を縮めてスーパーに行く


ドンッ


「痛っ!」


寒いので急ぎ足で下を向いて歩いていたのでスーパーの駐輪場の所で女性にぶつかる。驚いて小さい声になったが、「すいません」と謝る。女性は「大丈夫、大丈夫。」と言ってくれたから、立ち去ろうとすると


「お前!人の女にぶつかっといて、謝りもしねーのか!」


女性の連れの人だろう。怒鳴りながら近づいてきて僕の胸ぐらを掴み、威圧してくる。それに驚いた僕は震えが止まらなくなる。ぶつかった女性は咄嗟に


「やめなよ!ぶつかったのは私も悪かったし、この子も謝ってくれたからいいの!怖がってるじゃん!」


明らかに一回り下の男性に怒鳴ら、更に一回りの下の女性に助けて泣きそうになる。胸ぐらの手は、ほどかれ自由になったとたん、僕は走り出していた。


家に着くと、ポストも確認せずに階段を駆け上がり角部屋まで走り慌ててカバンから家の鍵を出して家に入り鍵とチェーンを閉める。


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


電気も着けずにカバンを投げて上着を着たまま、ベッドに飛び込み布団を頭から被る。


「…これじゃ当分あのスーパーに、行けない…どうしよう…」


そのまま、震えが治まるまで3時間かかり、0時になった頃そっとベッドから降りる。家に居ることがバレないように電気をつけずに食品の棚を開けて食べ物を探す。結局お弁当は買えなかったので家にあるものを探す。コンビニ近くにあるが、もし僕を探していると思うだけで買いに行けない。


少し前に買っていたカップラーメンを見つけたので今日は我慢する。お湯を沸かすためにコンロに火をつける。


チチチ…ボッ。


無音の部屋に響く、コンロの着火の音が大きく感じて、気付かれたと恐ろしくなり、玄関の覗き穴から玄関を確認するが誰も居ない。その後も電気はつけずに生活をして1日を終える。


翌朝になったが、報復が怖くて一睡も出来なかった。フラフラしながら洗面所のある鏡を見ると、目の下にはしっかりクマが出来ていた。手でササッと髪を整えて出掛ける準備をして玄関を出ようとすると全身から汗が吹き出して手が震える。


「だめだ…だ…。」


玄関にカバンを置いて布団に逃げ込む。スマホを持って布団から震えながらボタンを押す。プルプルと通話音が流れて相手からの声が聞こえる。


(リト、おはよう。この時間に電話ってことはもしかして、昨日何かあったか?まあ、無理すんな今日は休みでしとくから、ゆっくり休め。ああ、あともし今日のやつが佐東の件なら断ろうか?)


「あ…いえ…。さ、佐東くんのじゃないんで…だ、大丈夫です…。それは会社の為に…がんばりますので…」


(そっかそっか、すまんな。けどな無理はすんなよ。とりあえず今日の件は了解したからな。)


そう言って工場長との連絡を終えて、スマホを布団から放り投げる。手の震えはまだ止まらず。カーテンは開けてないので部屋は暗いまま布団を被り、更に暗いところに身を隠す。


気がつけば深夜の2時。一日中気絶しているような状態で飲まず食わずで今に至る。ベッドから落ちたスマホを手に取ったらメッセージが1件でメッセージは佐東くんからだった。


【おつかれさん。体調崩したらしいみたいじゃん?また、食べてないとかじゃないかと思ったから、玄関の扉に適当に買ったやつの袋かけといたから食べて元気になれよ】


フラフラしながら玄関の覗き穴から外を見る。誰も居ない事を確認して、ゆっくり扉を開ける。身体を出さずに手だけ伸ばして、ノブにかかっている袋を手に取る。扉にはコンビニで買われたのだろうパンやおにぎり、飲み物に栄養ドリンクなどぎゅうぎゅうに詰められていた。


確認したら素早く、扉を閉めて鍵をかける。勢いよく動いたので朝に放置したカバンにつまづいて転ぶ。すると袋の中の食べ物が通路に散乱しました。


「はは…なんだよこれ…そんなにみんな僕の事をバカにして楽しいのかよ…。昨日の2人も佐東くんもどうせ僕の事、バカにしてるんだろう…」


そのまま、廊下に座り込んで三角座りして身体を丸める。部屋が暗いのもあるがパンやおにぎりのパッケージ、栄養ドリンクのカラフルなラベルもグレーに染まって色がどんどん無くなっていく。


「何で僕だけ…僕…どうしたらいいんだよ…。」


結局、次の日も動くことは出来ず休んでしまった。流石に飲まず食わずでは、ダメで他のものを探すが何もなく、廊下に散らばった佐東くんの差し入れを泣きながら食べることになった。


流石にこれ以上は迷惑かけれないと思いようやく3日目に出勤前の為にカバンを持って玄関に行き、扉を開ける。2日間も電気の無い部屋に居たので目が眩しくて潰れるかと思った。眩しいと感じるものの空はグレーになっていて看板、待ち行く人からもグレーになっていて僕が見る世界から一層、色が消えたのだった。


「おう、久我おはよう。もう大丈夫か?」


「久我くん、おはよう。無理しないでね」


「リトさん。辛かったら直ぐにいってくださいね」


出社早々。みんなから声をかけられる。「はい」や「ああ」ぐらいしか言えないが返事を返す。そんなに僕が惨めに見えるのだろうか?普段はミリも気にしないのに何か起きたら会社の評価が下がることを恐れてみんな対応を変えてるのだろう。先ずは工場長の部屋に行って迷惑をかけたことを謝罪する。


「んなもん気にすんな!それよか、食事会大丈夫か?無理にとは言わないから断ろうか?」


「…いえ、それはだ、大丈夫です。明日でしたか?」


「わかった、無理はすんなよ。仕事終わりに行くからスーツ用意しといてもらっていいか?」


深々とお辞儀をして部屋を出て職場に戻る。普段から怒る先輩や同期は今日はやたらと優しかったり。後輩からも差し入れなど普段感じたこと無い気の使われようだった。


どうせ新規の取引の件で嫌なことを押し付けようとか、評判を下げたくないとかそんなことだろう。僕を生け贄や腫れ物ぐらいとしか思ってないのだろう


★★★


白い部屋で、僕に男の人が話しかけている。僕の昔の事を聞きたいとか。あの時は僕は、世界を恨むことで自分を保っていた。だから口を開けば誰かのせいにして僕が被害者だったことをずっと思っていた。


昼からだったので部屋に光が差し込み目を細める。視界が真っ白になって慌てて目を覆う。


「すまない。そうだったね。最近、瞳孔が開いてて眩しすぎるんだっけ?」


「すいません。暗いところに居てることが多かったので直射日光が眩しくて…最近というより昔から外の日光では目が開けれないんですよ。だから幼年期の写真は全部目を瞑ってます。ははは…」


僕は笑いながら目の前の男と楽しく談笑をする。昔の僕が今の僕を見たらびっくりするだろうな。自分の意思で行動して、人とこんなに楽しく話が出きるだなんて。


「そう言えば処方している薬はどうだい?しんどいとか、ないかい?」


「はい、先生が処方してくれている薬を飲んでから、体調悪いとかはないですね。むしろ、元気すぎて今日も1時間散歩したぐらいです」


「そっかそっか、それは良かった。次の話も聞かせてくれるかな?昔話をすると脳が活性化するらしいからね」


これからの話は僕が彼女と初めて会った日の事。



「リトこの後、本当に大丈夫か?」


工場長が心配してくれる。その隣で珍しく佐東くんが緊張している。


「工場長~俺、緊張で心臓が飛び出しそうです」


そんなことを佐東くんが言うが工場長が


「お前は大丈夫で心配してない。どうせお前の事だからそんなこと言っても誰とでも仲良くなれるんだろう」


「ひどいですよー、俺だって緊張ぐらいしますよ」


工場長は「はいはい。」と簡単に返事して支度する。僕も緊張はしている。手に【人】という字を書いて緊張を紛らわせる。工場長が準備できたことにより3人のスーツを着た男性が気合いを入れる。


「佐東のお陰で失敗はないけど、気を引き締めよう。けど、お互いに無理すんなよ」


佐東くんを先導に指定された場所に向かう。流石の佐東くんもここまで大きな案件が初めてらしく、手と足が同時に動いて緊張している。普段、凛としている工場長ですら何度も汗を拭う。僕はというと、先ほどから吐き気が止まらない。


工場から数十分かけて歩いてきたとことは繁華街。煌びやかな夜の町だった。あまりの明るさに僕はキョロキョロするが僕の見える世界は相変わらずグレーのままだった。すると工場長が


「なぁ佐東…指定された場所はここであってるのか?」


慌ててスマホを確認する佐東くんは何度も店の名前を見て


「…あってますね。ここって俗に言う“夜の店”?」


煌びやかな看板店の前には黒服。話し合いの場所に違いないのだけど、場違いな感じがする。すると入り口の黒服の人が


「もしかして○○会社の方ですか?○○様が中でお待ちなので中へどうぞ」


やっぱりここであっているみたいだった。黒服の男は屈強の筋肉で殴られたら僕なんて1発で消えてしまいそうな感じだった。


外観だけではなく廊下も煌びやかなで鏡とライトが行く道を照らす。すると黒服の男が


「ここからは暗くなっておりますので足元注意してください」


煌びやかな廊下を抜けると落ち着いた雰囲気の大広間に通される。各テーブルが見渡すことが出きるが部屋の明るさがワントーン下がっているので人の表情まで伺い知ることはできない。


「こちらへどうぞ」


黒服が一番奥のテーブルに僕たちを案内する。すると置くのテーブルに座る男性が


「おお!佐東くんこっちこっち、わざわざ来てもらってすまないね。工場長さんもご足労ありがとうございます。」


「こちらこそ、ご招待ありがとうございます。そして、この度お力添えありがとうございます。」


先方さんと工場長が、名刺交換して談笑をする。先方の社長さんは気さくでとても優しそうな雰囲気の男性だった。ふと僕の方を見て


「君はもしかしてあの計画書の作った人かね!会いたかったよ!あ、今夜は固い話は無しで気軽に話そうじゃないか!そこの君!」


僕の手をブンブン振って握手をして黒服に声をかける。


「じゃあ、いつものボトルと彼達のドリンクと女の子をお願いするよ」


黒服の人は僕たちの飲み物を確認して、気がつけば社長さんの隣にも人が居たが、終始無言だった。僕たちの視線に気がついた社長さんは


「ああ、すみませんね。彼は月野つきのって言うんだ、仕事も優秀で経理を担当してるんだが、いかんせんユーモアが足らないから、今日は社会見学で連れてきた。彼も含めてよろしく頼むよ」


ボトルや飲み物が運ばれてきて数分後、煌びやかな女の子達がやってくる。僕も月野さんもギョッとしたがテーブルに女の子達が座る。社長さんも工場長も佐東くんも楽しそうに盛り上がっている。月野さんも僕と同じ感じなのか、女の子に話しかけられているが困惑している。


僕と佐東くんの間に女の子が座って僕にも話しかけるが話すことも出来ずに愛想笑いしかできないでいると結局、佐東くんと話し始める。テレビで見た光景だけど、やっぱり僕の見える世界はグレーに染まっていてこんな世界は、僕にとって苦痛でしかなかった。すると月野さんが


「社長、私はこれにて帰ります。やはりこういうのは苦手ですね」


「相変わらずお前は固いなぁ。まあ顔見せだから仕方ないな。すいませんね。こんなヤツですけど、これからもよろしくお願いします。」


社長さんはそう言うが佐東くんも工場長も「こちらこそですよ」って言って月野さんを見送る。僕もあれぐらい言えたらいいけど無理だよな…。辛いけど帰るだなんて言えない。


女の子が入れ替りをして目まぐるしく変わる。まだ終わらないかなと思ってた時に1人の女性が現れる。


「あ!社長じゃないですか~。お久しぶりです~。会いたかったんですよ。」


そう言うとピンク色のツインテールの女の子がスッと座る。


「おお、レイちゃんじゃないか。会いたかったとか言うのにほとんど表に出てこないじゃないか。あ、紹介しとくよ。この人達は今後、私たちと一緒に仕事する仲間だよ。」


社長さんがそう言うとピンクの女の子は嬉しそうに


「そうなんですか!じゃあ私ともお友達になってください。レイです。よろしくお願いします。」


レイと名乗ったこは座りながら深々と頭を下げる。何か、あのアニメの“ミレイちゃん”ぽいな。すると社長さんは


「この子もキャストなんだけど、店の経理担当で殆ど表には出ないけど、時たま現れるレアな子だよ。良い子だから、いる時は場が盛り上がるから呼ぶんだけど、あれ?今日は居ないって言ってなかったか?」


「この時間で帰る子多くて、急遽入ることになったんです。来るならDMくれたら社長さんならいつでも行くのに」


「レイちゃん基本、忙しいじゃないか。居たときにお話しできたらで良いよ。」


グレーの世界に突如現れたピンクのお姫様で、僕はレイさんを見惚れていた。そんな視線に気がついたのかレイさんが


「あれ?もしかしてそれって“モモット”?きみもしかして…」


一呼吸置いてレイさんが演じるように僕に問う


「“本当に飛べるの?”」


僕は咄嗟に答えた


「“断固拒否します”」


僕が普通に意味不明なのを答えたので、社長さんや工場長、佐東くんも頭の上に、はてなマークが出ている。するとレイさんが笑いを堪えれずに


「あはははー。もしかして君も【バットラー執事くん】知ってるんだ!キーホルダー付いてるからまさかとは思ったけど、君は誰推し?もしかして“モモット”だったり?」


僕は嬉しくなって答える。


「みんなに変だって言われるけど“モモット”が好きなんだ」



「やっぱりだよね!だってそれってガチャガチャ限定でしょ?好きじゃないと付けないもん」


「あ…えーと、その…く、詳しいんだね。だいぶ昔のアニメなのに」


レイさんは嬉しそうにポケットからポーチを出す。その時、レイさんを中心に暗くなっていた世界に色が現れた。僕のグレーに染まった世界に初めて光が舞い込んできた。


「私も“モモット”が好きなの!しかも見て、お揃い!初めて好きな人に出会えた!」


そのポーチには、ガチャガチャ限定で入手が難しい、僕と同じ“モモット”のキーホルダーが。



この作品の続きから最後まで作成しており、

この度、自分の【個展 0より】に先行で展示予定です。

編集が間に合わず誤字があるかもですが、印刷して

置いてます。【Xアカウント 幸奈いたみ】で検索して頂けると詳細が出ますので見ていただければと思います。

場所も大阪で1週間の会期となりますが、見て頂けると幸いです。


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