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ヤンデレに嘘告してしまい、「貴方様が嘘告なんて愚かで醜悪なこと、するわけないですものね」と無表情で繰り返される話。

作者: ノワール
掲載日:2026/03/29

 ある時、学園の中庭を歩いていたルミエーラは、見知った人が友人と話している声に、足を止めた。

 中庭の長椅子で数人の友人と談笑しているのはガルクァッド。二年前に学園に入学して一目惚れして以来、ルミエーラが密かに慕う相手だ。日常的にこっそり近くで顔や声を見聞きしているので、間違える筈もない。


「そんなにこれが欲しいのかよ、ガルク」

「お前はそれの貴重さが分からないのか?」


 ルミエーラは即座に、音もなく木陰に身を寄せ、様子を伺った。普段からよくこうして影のようにガルクァッドのことを尾こ…もとい熱い目で見つめているので、手慣れたものである。


 友人(ルミエーラは彼の名前を知らない。ガルクァッド以外に興味がないので)が手に持っているのは、小さな紙片だ。恐らく、何らかの券。


「今時、爆発粉(フレ・エグル)を燃料にした内燃機関(エンジン)の汽車なんて、骨董品だぜ?」

「分かってないな。確かに魔導式を使った最新の乗り物はどれも素晴らしいが、汽車のような風情はない」

「風情ねぇ。うちの爺さんみたいなこと言うな」

「ほんとに。ガルクは趣味がじじくさいよ」


 友人達が口々に言う。

 最近は魔力のこもった鉱石などを燃料にしたり、媒介にして魔法として発現させる道具より、魔導式という高度な魔力回路の刻まれた高性能な魔導具が増えてきていて、乗り物も革新的なものが次々と世に送り出されてきている。確かに、若者が憧れるのは新しくて洗練された方だろう。


(古き良き伝統と情緒の魅力を理解なさっているのね…ああ、そんなところも素敵)


 ルミエーラは高鳴る胸に手を添えた。ルミエーラにとっては、ガルクァッドのどんな面も魅力的に見えるのだ。燃え上がるような赤い髪も、少し鋭い目も、鋭利な輪郭も、背筋より少し高い背の高さも、実は結構鍛えていて厚い胸板も、全て。


「お前のそれは、少し前まで近隣の国からの利用者が殺到して、貴族や富裕層に人気だった夜行列車の乗車券だぞ。最近は寝台車がある汽車も減り始めているんだ。その中でも豪華で有名な、テラード鉄道。しかも氷の国レングテックで夜光見学までついた特別券。欲しいと思っても手に入らないんだ」

「希少らしいのは知ってるけどさ。わざわざ寒い国に行って、氷に囲まれて空の光を見るだけなんてなぁ。親父の仕事の関係で貰ったらしいんだけど、正直使う気がしねえよ」


 北の小国、レングテックの夜光は有名だ。かの小さな島国は、夏でも一部の氷は溶けず、美しい氷の都であり、さらには冬には時折、空に美しく荘厳な光の帯が現れるという。人生で一度は訪れるべきところなのだが、ガルクァッドの周囲を飛ぶ羽虫(ルミエーラ視点)には理解できないらしい。


(ガルクァッド様と二人で観ることができたなら、なんて幸せなことかしら)


 確かに、まだ若い少年達にはあまり興味をそそられないのかもしれないが、気になる女性でも誘えばいいのに。ガルクァッドの友人の癖に、馬鹿な羽虫だ。


「だから、要らないなら俺に売ってくれ。ちゃんと金は払う」

「いやーでも、なんかただ売るのもつまんねぇしさ」


 (ガルクァッド様が要るとおっしゃっているのだから、頭を垂れて進呈しなさいよ、ゴミが)


 ルミエーラは内心そう憤っていたが、口を挟むわけにもいかない。忸怩たる思いで覗いていると、あーだこーだと話した挙句、突然友人の一人が手を打った。


「そうだ、あれさせようぜ!何代か前の先輩達の間で流行った嘘告ってやつ」


(嘘告ですって?)


 確かに数年前、学園の一部の男子達の間で流行ったと聞いたことがある。女性を呼び出し、告白し、相手を赤面させてからかったり、あるいはしばらく付き合ってから捨てるという悪趣味な遊びだ。

 当然、当時の女性達の間でその男子達は蛇蝎の如く嫌われて、ろくな婚約もできなかったらしいのだが、あの馬鹿は知らないのだろうか?


(ガルクァッド様にそんな下らないことをさせようと?)


 これは陰ながら阻止し、速やかに乗車券がガルクァッドの手に渡るようにしなければ。ルミエーラが頭の中でその算段について検討し始めた。その時。


「ほら、あの子とか面白いだろ。ルミエーラ・ヴェーリエ」

「ああ、あの鉄仮面とか人形とか言われてる?」


(……ガルクァッド様が、私に?)


 突然出てきた自分の名前。確かにルミエーラはあまり表情が動かず、常に冷静沈着で淡々と生きている(ように見える)。常に学年主席であることをやっかんで、鉄仮面だの人形だのと、ほんの少しの嘲りとともに陰で言われていることも知っている。長い黒髪が魔女を連想させるらしく、第一印象は怖がられることも多い。


「あの無表情が少しでも顔色を変えるところ、見てみたくないか?」

「もし本気にして成功しても、あの子が恋する乙女になったりしたら面白そうだな」


 口々に勝手なことを言っている。全く下らない。


(ガルクァッド様がそんな下賤な企みに耳を貸すとは思えないけれど)


「彼女に告白すればいいのか?別に成功しなくてもいい?」


 なんとまさか、ガルクァッドが興味深そうに食いついてきたではないか。ルミエーラは木陰から必死に目を凝らして凝視した。


「まぁ、そうだな。面白そうだ。告白して成功したら無料(タダ)でやるよ。失敗でも定価で売ってやる」

「…分かった。やろう」


 それで男子達は盛り上がり、ルミエーラを呼び出す日程や場所、こっそり告白を除く算段について盛り上がり始めた。

 ルミエーラはそれを一通り聞いて、音をたてないように身を翻し、素早くそこを離れた。


(なんてこと!)


 その顔に浮かぶのは、歓喜だ(とルミエーラは思っているが、完全なる無表情である)。

 まさかガルクァッドが自分に告白してくれるなんて。


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 つまり、それは嘘告に見せかけた本気の告白だ。友人達の思惑に乗るふりをして、ルミエーラに告白するのだ。これまで勇気を出せずに動かせなかった、二人の恋を動かすつもりなのだ。


(ああ、三日後が待ち遠しいわ!!!)





 そう…、ルミエーラは思い込みが激しいのだ。





 ガルクァッドは王都にある自宅へ向かいながら、ため息をこぼした。


(つい乗ってしまったけど、やはり心配になってきたな…。いやでも、あの才女な上に美人なルミエーラさんが俺の告白に頷くわけもない。振られるところを見ればあいつらも満足するだろうし、ルミエーラさんには悪いけど、すぐにどうでもいいと忘れるだろうし、それほど迷惑も掛からないだろう)


 そんなことを思っていた。この時の軽い気持ち、安易な判断を、後々思いっきり後悔することになるとも知らずに。





 さて、そして三日後、その時はやってきた。ルミエーラは手紙で呼び出され、中庭からも少し離れた、目立たないところに呼び出された。すぐ近くの物置の影に阿呆どもが隠れていることも知っているが、どうでもいい。


「ルミエーラさん、来てくれてありがとう」

「いえ。何か御用でしたか?」


 ルミエーラは澄ました顔でガルクァッドの前に立った。


 (ああ!ガルクァッド様!こんなに近くでご尊顔を見たのはいつ以来かしら!相変わらず一部の隙もない、完璧な造形美だわ!)


「実は、以前からルミエーラさんのことが気になっていて…良かったら俺と付き合ってくれないかな」

「かしこまりました」

「…え?」


 食い気味の返答(ただし無表情)に、ガルクァッドがぽかんとした間抜け面になる。物置の陰では馬鹿どもがひそひそと何か言っているような気配がしたが、そしらぬ顔でガルクァッドの手を握った。


「それでは今からわたくしたち、恋人同士ですわね。明日からは昼食は一緒に摂りましょうね」

「え、ああ、えーと、…はい」

「ガルクァッド様の分のお弁当もご用意いたしますね。それではまた明日」


 弾んだ足取りで(と本人は思っているがしずしずと)満面の笑みで去っていく(と本人は思っているが無表情で)ルミエーラの背中を見ながら、ガルクァッドは内心冷や汗だらだらになっていた。


 (う、嘘だろ!?あの才女がなんで俺みたいな脳筋の告白を了承してくれたんだ!?)


 物置の陰から出てきた友人達も戸惑っている。


「え、本当に付き合うのか?」

「でも完全に無表情だったぞ、最初から最後まで」

「明日から昼食をって言ってたけど」


 それからしばらくやいのやいのと話し合ったが、ルミエーラが本気でガルクァッドが好きなようにも見えず、いつも一人でいるのに昼食を二人でという大胆さも理解できず、結局全員が首を傾げたまま解散となるのだった。





 そして翌日の昼休み。ルミエーラは来た。本当に来た。


「ガルクァッド様。お昼ご飯にいきましょう」


 教室にやってきて、ガルクァッドに声を掛ける無表情のルミエーラを見て、同級生たちは驚きすぎて静まり返った。嘘告を勧めたゴミどもすら、口をあんぐりと開けて固まっている。

 そして全員の目がガルクァッドに向いた。


 突き刺さる視線。騙していることへの後ろめたさ。内心の読めないルミエーラ。ガルクァッドはおおいに動揺しつつも、とにかく動かないわけもいかず、ルミエーラと連れ立って教室を出て歩き始めた。

 途端に騒がしくなる教室の喧騒を背に、ああ、これは後で質問攻めだな、と暗澹たる気持ちになりながら。


食堂に行くのかと思ったが、ルミエーラは中庭に向かった。この学園は王立であり、元は王族も通っていた由緒正しい学園である。中庭はとても広く、東屋がいくつもある。


 二人はその中でも、特に奥まった小さな東屋に向かった。小さな池のほとりにあり、とても静かだ。しかし池のお陰で開いた空から明るい陽がさし、水面に反射して煌めいている。木々の木漏れ日と相まって、なんとも言えない美しさがあり、穏やかな空間になっている。


 ルミエーラが座ろうとしたので、ガルクァッドは慌てて手布を取り出し、椅子に敷いた。


「どうぞ」

「まぁ。ありがとうございます」


 にこりと、ルミエーラが微笑んだ。ガルクァッドは昨日から何度目かも分からない衝撃を受けた。彼女が笑うところなど、初めて見たからだ。


 まだ学園に入ったばかりの頃、やんちゃな男子学生たちが下らない賭けをして、ルミエーラを笑わせようとしたことがあった。その時も、あの手この手で笑わせようとしてくる男たちに、ルミエーラはただの一度も表情を変えることなく、ただひたすらに氷のような視線を向けて無視し続けたという話なのに。


 しかもその笑顔の威力は凄まじかった。美しいなどという言葉で済ませることはできない。結局ルミエーラがやっかみを受けたり男子に揶揄われたりするのは、美人だからというのが大きい。その上成績も断トツというのもあるが、やはり思春期の若者たちの間で隔絶した美人というのは存在感があるのだ。

 そのルミエーラの微笑みは、なるほどこれは見せてはいけないと思えるものだった。もしかしたら、ご家族に強く止められているのかもしれない。人を虜にしすぎるという理由で。

 快活な笑みではない。静かなものでもない。清楚な見た目なのに、何故かえもしれぬ妖艶さがあり、傾国の美女とはきっとこういうひとなのだろうなと、そう思えるものだった。

 あっけにとられた次の瞬間には、また無表情に戻っていたのだが。


「お口に合うといいのですが」


 ガルクァッドが衝撃から覚めやまぬうちに、ルミエーラは持参していた弁当を机に広げていた。この学園の食堂は美味しいが、高位貴族などは弁当を持参する場合が多い。予算は平民が美味しいものを食べる為に使われるべきという教えがあるからだ。まぁ普通は侍女が昼休みになると届けてくれて、そのまま給仕もするものだが。


 食事はどれも素晴らしく美味しかった。ルミエーラは確か伯爵家で、それほど資産家な家ではなかったと思うが、侯爵家の自家の食卓のものと遜色ない。


「これ、子どもの頃好きだった料理なんだけど、俺の家で食べてたものと似てるな」

「それはようございました。わたくしも好きで、よく料理人にお願いするのですよ」


 嘘である。


 今王都にあるルミエーラの家で働く料理人は、ガルクァッドの領地の家で昔働いていた者なのだ。修行を終えて他家に独り立ちして働いていたところを引き抜いて、ルミエーラが学園に通う為に使用している王都の別邸で働かせている。

 ルミエーラはガルクァッドの好みを幼少期から今までのものまで、全て調べて把握しているのだ。ちなみにルミエーラはこの料理を元々好きでも嫌いでもない。今は大好物である。何故ならガルクァッドが好きだから。


 (ああ、わたくしを見る目!こんなに情熱的だったなんて、何故気付かなかったのかしら!いえ、今までは胸の奥に隠していたのね。その必要がなくなったから、堂々とわたくしへの愛を曝け出してくださっているのだわ!)


 ルミエーラは澄ました顔で内心踊り狂っていた。なにしろ両想いだったことが(ルミエーラの中では)分かったのだ。二人きりでの食事!この日をどんなに夢見たことか!


 一方のガルクァッドは困惑しつつも、

 

 (意外と普通に話せるんだな。無口な印象だから、気まずくなったらどうしようかと思ってたのに。なんというか、普通の女の子じゃないか。どうして孤立しているんだろうな)


 などと考えていた。


「この東屋にはよく来るのかい?」

「そうですね、お昼のたびにここまで来る方は少ないですから、静かなのです。ほとんどここに来ていますわ」

「俺も気に入ったよ。ここは落ち着くね」


 そうやって、短い昼休みはお互い楽しい時間になったのだった。


 教室に帰ったら級友たちから質問攻めにあい、なんとか当たり障りない答えで付き合い始めたことを話した。ガルクァッドはひどく申し訳ない気持ちになりながら、昼の穏やかな時間を思い出し、途方に暮れることになったのだった。


「どうしよう。いつまで続ければいいんだ」

「いや、正直成功すると思ってなかった。どうしよう…」

「俺もだわ。でも皆に知られちゃったから嘘告とか言える雰囲気じゃなくね?」

「てか俺兄貴に聞いたんだよ。あの当時、嘘告したやつらは女子たちからめちゃくちゃ嫌われて、婚約者探しとかも苦労したらしい」

「げ、マジかよ。俺らがけしかけたことだけど、どうしよう。悪い、ガルク」

「いや、俺も承諾したんだ…。でも本当にどうしよう」

「こうなったらしばらく付き合って、何ヶ月後かに振るしかなくね?」

「そうしろよ。嘘告だったことは俺たちだけの秘密にしとこう」

「それがいい。悪かった、ガルク。せめてもの詫びとして、この乗車券はタダであげるよ。いや、それは賭けの成功報酬だったな。…よし、次の休みは皆でガルクに奢ろうぜ」


 悪友たちにそんな風に言われて、頭を抱えるガルクァッドだった。


 しかしながら、いざ数日を過ごしてみると、思いのほか楽しい毎日だった。いつも用意してもらっては悪いからと弁当は交代制にして、池のほとりの東屋で昼を過ごしているだけなのだが、頭の回転が早く話題も豊富なルミエーラとの会話は楽しいし、悪友たちと違って上品な彼女のとなりは、とにかく居心地がいい。


 無意識のうちに、ガルクァッドはルミエーラと一緒に過ごすのを楽しみにし始めていた。




 さてそんなガルクァッドだが、もともと学園ではもっぱら一人の女性との恋が噂されていた。


 ジャクリーンという幼馴染の侯爵令嬢だ。誰にでも紳士的だがそれほど女性とは親しくしないガルクァッドが、唯一気安く接する相手である。ガルクァッドの家も侯爵家で親戚筋なので、それこそ生まれた直後から交流があるらしい。しかも、ルミエーラと並んで美少女として有名である。ルミエーラが黒髪の妖艶で大人びた美人であるのと対照的に、ジャクリーンは小柄で可愛らしい金髪碧眼の美少女。細身で背が高めのルミエーラに対して、女性らしい魅力に溢れた体つきであり、明るく快活で、性格も正反対である。


 さて、ある日ルミエーラが廊下を歩いていると、ジャクリーンが女友達と歓談しているところを通りがかった。

 少女たちがジャクリーンにひそひそと何かを言う。ジャクリーンは苦笑いで軽く手を振り、話を終わらせた。そしてルミエーラを見る。

 ルミエーラは堂々と歩き続ける。ジャクリーンがルミエーラを見る目は凪いでいる。いや、少し探るような目ではあるかもしれない。しかし悪意は感じない。

 すれ違いざま、声を掛けられた。


「ルミエーラさん、こんにちは」

「…こんにちは」

「ガルクァッドとのこと、驚いちゃいました」

「わたくしも驚いていますわ」

「いつから好きだったんですか?」

「…それは…答える必要がありますか?」

「あ、ごめんなさい。気になったからつい聞いちゃっただけなんです。気にしないでください」


 それで終わった。声色も普通だ。ルミエーラはガルクァッドに近しい者として、当然ジャクリーンのことも調べ上げている。親同士が仲が良く、幼少期から互いの家を行き来して交流がある。しかしジャクリーンの気持ちというのはどうにもよく分からなかった。恋する乙女にも見えないが、しかし噂を積極的に否定するでもなく、ただガルクァッドの一番近くに居続けていた。


 彼女の動向には注意を払っておかなければならない。もしも二人の愛を邪魔するのであれば、ガルクァッドが悲しまないよう秘密裏に排除しなくては。




 ある日、ガルクァッドが家に帰ったらジャクリーンがいた。勝手知ったる我が家と言わんばかりに、我が物顔で家にいるのはいつものことであるが、ガルクァッドの顔は引き攣った。なんとなく、何の用事なのか察してしまったからである。


「で、どういうことなの?」

「いや、その」

「前から好きだったなんてことないよね?わたしにそんなの隠せるわけないもんね?それが急に告白?絶対おかしい」

「ええと、あの」

「いいから吐きなさい」


 ガルクァッドは、幼少期からこのちっこい美少女に頭が上がらないのであった。今でこそ体格にも差があるが、小さい頃のジャクリーンはやんちゃで、大人しかったガルクァッドは子分扱いだったのだ。そして成長した今でも、見た目と裏腹に、天真爛漫ながらも実はやたらと姉御肌なのである。

 そんなジャクリーンは嘘告であることをあっさり白状させ、怒り狂った。


「クズ!女の子の気持ちを何にも考えずに、傷付けて楽しいの!?」

「いや、本当に振られて終わりだと思って。なんというか、気にも止めずに忘れられるだろうと」

「そんなの関係ない!最低!」

「すみません」

「早く本当のこと言ってあやまりなさい!」

「でも嘘告って周りにバレたら…」

「自分の保身がそんなに大事!?」

「いや、向こうにも迷惑がかかるだろ」

「う、それもそうか…」

「だからしばらく付き合ってから別れようかと」

「いやでもやっぱり、もし本当に貴方のことを好きなら、傷付けることになるのは変わらない。だったら、貴方が徹底的に悪者になるべきよ」

「……」

「女子の間でも言いふらしておいてあげるわ。ルミエーラさんが被害者で、貴方たちが最低のクソ野郎だってね」


 ガルクァッドはそれでもう何も言えず、ただ項垂れた。


「…ちゃんと反省したら、わたしも皆やルミエーラさんに一緒に謝ってあげるから」

「…うん、すまない。でもそうだな。自分のしたことの責任は取らなきゃいけないな。ありがとう、怒ってくれて」

「まずはわたしから、それとなく話してみるから」




 翌日、ジャクリーンはまず仲良しの数人に話し、ルミエーラを呼び出した。


「あのね、ルミエーラさん。落ち着いて聞いて欲しいのだけれど。ガルクァッドの告白は、嘘告だったらしいの」

「まさか。何を言ってるんですか」

「信じられない気持ちは分かるわ。でもね、実は男子たちの間で賭けにされたらしくて」

「いえ、それは知ってます」

「そうなの、それで…ん?え?あ?知ってる?」

「はい、偶然居合わせて聞いていたので」

「え、じゃあなんで」

「ジャクリーンさん。貴方も幼馴染ならご存知でしょう」

「な、なにを」

「ガルクァッド様が嘘告などと、そんな最低なことをするはずがありません」

「え、聞いてたのに信じてないの!?いや、結構あいつバカなところあるから」

「ガルクァッド様が嘘告などと、そんな最低なことをするはずがありません」

「え、あの聞いてる?」

「ガルクァッド様が嘘告などと、そんな最低なことをするはずがありません」

「……アッ、ハイ、ソウデスネー」

「あれは嘘告に見せかけた本気ですわ」


 ルミエーラはにっこりと笑った。ジャクリーンとその友人たちはぞわっと鳥肌が立つのを感じた。ルミエーラの笑顔は綺麗なのに、なんかこわい。特に目がこわい。焦点が合ってないような、光がないような目で、同じことを繰り返すのだ。普通じゃない。


「でもね、賭けの成功報酬として…」

「夜行列車の乗車券ですね。誘われるのが待ち遠しいです。二人で夜光を観るなんて、きっと素敵な思い出になることでしょう」

「……」


「あの、今までにガルクァッドがルミエーラさんのことを好きな素振りって」

「何一つありませんでした。きっと何かお考えがあって、完璧に胸の内に隠してしまわれたのね。でもわたくし、ガルクァッド様と結ばれる未来を疑ったことなどありませんでした。時が来れば二人は惹かれ合い、結ばれるのだと」

「……」


「…じゃあそれまで何もなかったけど、嘘告の話を聞いた瞬間、自分のこと好きだったのねって思ったの?」

「思ったと言いますか、知ったと言いますか、時が来たと言いますか」

「……」


「あ、そういえば昨日はガルクァッド様のおうちに行かれてましたよね。三日ぶりでしたから、ここ三か月の中では比較的早めの再訪でしたけど、何をお話になられたんですか?」

「……」


「そうそう、ちょうど良かったですわ。ガルクァッド様の幼少期のことも全て調べ上げたのですけれど、やはり思い出というより情報としてしか集められないものが多くて。ジャクリーンさんから思い出を聞かせていただきたく」

「……あの、わたしちょっと用事を思い出し…」


 ジャクリーンはにげようとした!

 しかしまわりこまれた!

 いまはにげられない!


「使用人や乳母の方々から聞いた思い出はどれも素晴らしかったですけれど、やはりご友人という立場の方からの思い出もまた格別……」

「ヒェッ」


 それから日が暮れるまで、幼少期の他愛もない思い出を語らされるのだった。ちなみに友人たちはいつのまにか消えていた。もう明日から友達じゃない。



 


「はぁ…昨日は酷い目にあった…。まさかルミエーラさんがあんなヤバ…いや、思い込みの激しい人だったなんて…」


 ジャクリーンは学園に向かう魔法車の中でぐったりとしていた。一刻ほどの間だったが、ルミエーラの相手をするのは非常に疲れた。昨晩は早めに就寝したというのに、疲れがとれていないほどだ。

 しかも、学園に付いて憂鬱な気分で門をくぐると、朝から面倒な奴がいた。


「あら、ジャクリーンさん」

「…ベネデッタさん、おはようございます」

「ちょうど良かった、話したいことがありましたの。教室までご一緒しましょう」


 近いうち来るだろうとは思っていた。なぜならベネデッタはガルクァッドのことが好きなのだ。はっきり聞いたことはないし、隠しているけれど、ベネデッタとも長い付き合いだから、ジャクリーンには分かる。ルミエーラと付き合い始めたと言う噂を聞いたのだろう。


 ベネデッタは王家の血筋を色濃く継ぐ公爵家の令嬢であり、現在王族が通わない学園では最も高貴な家柄の姫である。世が世なら他国の王族に嫁ぐようなこともあるお方であるが、近年は政略結婚よりも恋愛結婚が主流になってきているし、侯爵家のガルクァッドなら相手としても申し分がない。

 桃色の髪をもつ、すらりと細身で清楚な雰囲気の、嫋やかな正統派美少女である。

 妖艶な美女のルミエーラ、童顔で天真爛漫なジャクリーンと並んで、口さがない男子生徒の間では学園三大美少女と言われることもある。


 決して悪い子ではないのだが、年の離れた王子や王女に可愛がられて育った公爵家の至宝であり、自分の望みは叶えられて当然と思っているところがある。

 ジャクリーンはガルクァッドと仲が良い為、何かと近付いてくる。そして嫌味を言うでも責めるでもないのだが、薄らと圧を感じる会話をするはめになるのである。


「まさかルミエーラさんがガル様と恋人になるだなんて、わたくし、まさに青天の霹靂といった思いでしたの…ジャクリーンさんもご存知なかったの?(おいお前まさか隠してたんじゃないだろうな?)」

「いや、わたしも全然知らなかったからびっくりして…」

「まぁ、そうですのね。ジャクリーンさんはあくまで幼馴染だっておっしゃってたけど、やっぱり何とも思わないものですの?取られた、とかそういう気持ちは…(まさかここへきてやっぱり好きとか言わないよな?)」

「ないない。あいつが誰と付き合おうがどうでもいいし」

「じゃあ、応援しますの?(ウチとあの女のどっちに付くんだ?ああ?)」


 副音声はあくまでジャクリーンが感じる圧を言語化しただけである。嫋やかな公爵家の姫君がそんなことを思っているはずかないのだ。ないったらないのだが、何故かジャクリーンはいつも、ベネデッタの深層心理を感じ取って深読みしてしまう。


「応援…うーん、ベネデッタさんには言ったほうがいいよね。(面倒くさいことになる前に)」

「なにをですの?」

「実はね……」





 

 さて、その日の放課後である。


「ルミエーラさん、ちょっとよろしいかしら」

「ベネデッタさん」


 ベネデッタは事情を知ってすぐに動いた。嘘告などという愚かな真似で、将来の夫候補の評判を落とすわけにはいかない。


「わたくし、貴女にお伝えしたいことがありまして…」

「分かっております」

「分かって…?それはつまり…」


 身を引くということかと、そう思ったのはほんの一瞬だった。


「ベネデッタさんはガルクァッド様のことをお慕いしておりましたものね…。でも申し訳ありません。時が満ちてしまったのです」

「え、いえ…わたくしガルクァッド様のことを特別になんて思っていませんけれども」

「ええ、分かっておりますとも。貴女様の秘めたお気持ち、わたくし誰にも言っておりません」


 友達がいないだけだろ、とルミエーラに突っ込む者はいなかった。


「勘違いですのよ、わたくし…」

「入学してから今まで、話しかけること百三十四回。さりげなくお茶会やお出掛けにお誘いすること十一回。偶然会えないかとガルクァッド様の侯爵家付近を街歩きすること二十一回…」

「ななななななななんのことですの!?」

「ベネデッタ様はこの国の独身女性の中で最も高貴であり、美しく、努力家で、真っ直ぐな心をお持ちの素敵なおかたです。けれど、ああ、けれど…。ガルクァッド様はわたくしと結ばれる運命にあるのです。諦めてくださいませ」

「ちょっと待ってくださいませ話を進めないでさっき言ったことについて聞かせてくださいな」

「ああ、総評としては、下調べが足りないように存じます。お茶会は公爵家なら付き合いもあるでしょうから、親同士を巻き込んだりジャクリーンさんも引っ張り込んで誘うべきでした。四月の十五日と六月の三日なら、うまく手を回せば連れ出せたはずでございます。街歩きではガルクァッド様の予定を把握できていないのが勿体のうございました。半刻違いですれ違ったのが二回と、違う大通りやお店で惜しくも会えなかったのが五回。二十一回中遭遇できた成功が三回というのは、手際が悪かったと言わざるをえません」

「あのわたくしが聞きたいのは一つだけですのどうしてルミエーラさんはそんなに詳しくご存知ですの?」

「ガルクァッド様の行動は全て記録しておりますし、彼の身近な方のことも調べ尽くしているからですけれど?当然ではないですか」

「当然ですの、そうですの…」

「わたくしとしては、いずれ失恋なさるのが決まっているのですから、止めたほうがよろしいかと考えたのですけれど…あまり話す機会がなかったものですから、お伝えできずに申し訳ございませんでしたわ」

「…伝えるとは、何をですの?」

「わたくしがガルクァッド様と結ばれるのが、女神ヴィータ様によって決められていることをです。例え大魔女アルトラヴィクタ様でも変えられない運命ですので、早めにお伝えして諦めていただいた方が、有意義に時間を使えると思ったのですけれど…」

「…ちなみにそれは、いつから決まっておりましたの?」

「わたくしがガルクァッド様と初めて目を合わせたその瞬間に決まっています」

「……」





 翌日は学園が休みだった。ジャクリーンはベネデッタに呼び出され、公爵邸でお茶会である。


「なんですのアレは…なんなんですの…。貴女から話を聞いておりましたけど、そんなもんじゃなかったですの…」


 ベネデッタは放心状態に近く、だらだらと愚痴を垂れ流していた。


「どうやったらあそこまで細かく調べられますの?こわい。目がガンギマってましたの。あんなバッキバキの目をする方だったなんて。目が合った時に決まったってなに?何もかも意味が分かりませんでしたの。こわい」

「よしよし…怖かったね…。だから行ったのに、アレに関わっちゃいけないって。あの目は正気じゃないって」

「忠告を聞き入れるべきでしたわ。わたくし、ガル様のことは諦めます。アレには勝てません。いえ、勝てても戦いたくありません。敵に回したら終わりです」

「…そうだね」

「…ぐすっ。貴女にはどうせバレてたから今更だけど、本当に好きでしたのよ」

「…知ってる。お似合いだと思ってたんだけどね。一応、応援してたよ」

「本当に好きでしたの…。でもこわいの。あの光の消えた目、何してくるか分からないもの。今朝は最悪な目覚めでしたの。夜道でガンギマリのバッキバキの目をしたルミエーラさんが迫ってくる悪夢で目が覚めたの」

「ヒェッ」


 これ以来、二人はぐっと仲が良くなり、親友といえる間柄になっていくのであるが、その話はまた別な機会に。





 さて、そんな付き合いも二月ほどになった。何度か休日に二人で出掛けたりもして、ルミエーラ的には幸せの絶頂である。もはやこれからの日々は絶頂を更新するのみと、信じて疑っていない。


 一方ガルクァッドは、正直ルミエーラのことを好きだなと思い始めていたが、やはり罪悪感はある。

 結局ジャクリーンもルミエーラや学友達に何も言わなかったようだし、やはり自分で言うしかない。


「ルミエーラさん、今日はちょっと話したいことがあって」

「婚約の申込みですか?」

「え?」

「いえ。何でしょう?」

「実は…」


 しかし、嘘告の話を聞いたルミエーラの表情は変わらない。


「と、言うわけで…。本当に、申し訳ない」

「そうですか。ところで話は変わりますけれど、次のお休みはこないだお話したお店に行きませんか?」

「ん?」

「他にも行きたいところがありますか?あ、もしかして何かご予定が?」

「え、いや。あの、嘘告のこと、怒ってないのかい?」

「まさか。そういう口実なのは存じておりましたし」

「こう、じつ?」

「貴方様が嘘告なんて愚かで醜悪なこと、するわけないですものね」

「んんん?えーと、あの、した…ので、そのー…」

「貴方様が嘘告なんて愚かで醜悪なこと、するわけないですものね」

「いや、俺はそんな大した人間じゃ…」

「貴方様が嘘告なんて愚かで醜悪なこと、するわけないですものね」


 ガルクァッドは悟った。自分がこれまで見ていたルミエーラは幻だったのだと。


「…ていうか、知っていたのかい?」

「ご友人たちとお話されてるところを偶然見ておりまして」

「え!?」

「ああ、これを口実に告白してくださるのね、と天にも昇る心地でした」

「……」

「レングテックへのお誘い、お待ちしておりますね。楽しみです」


 ガルクァッドはここで気付いた。今、自分はとても危険な立ち位置にいる。


「…ルミエーラさん、嘘告なんて最低なことをして、本当に申し訳な…」

「貴方様が嘘告なんて愚かで醜悪なこと、するわけないですものね」

「ヒェッ」


 ルミエーラの目から光が消えている。僅かに目を見開き、焦点の合わない瞳がガルクァッドを見ている。冷や汗がだらだらと垂れてくるのを感じながら、ガルクァッドはどうするべきか、必死で頭を回転させた。


「あ、次の休みの話だったね。そうだね、あのお店、最近どんどん予約が取りにくくなっているみたいだから、早めに行っておきたいよね。今ならまだ予約も取れるだろうから、取っておくよ」

「まぁ、ありがとうございます」


 今は時期尚早である。ガルクァッドはそう言い訳をして、戦略的撤退を決めた。





「どうすればいいと思う?」


 翌日、ガルクァッドはジャクリーンに相談した。するとベネデッタも交えてお茶会の場がもたれることになった。最近、二人が仲良くなったことを不思議に思っていたガルクァッドだったが、どうやらルミエーラ絡みらしい。


「もうそのまま結婚するしかないんじゃないかな」

「ご愁傷様ですの」

「いや待ってくれ諦めるのが早すぎる」

「だって無理だと思うもん」

「あの方に狙われたのが運のつきですの」

「いやあんな深窓のご令嬢があんなヤバいだなんて思わないだろ!?今まで常に冷静沈着、淑女の中の淑女と評判の彼女があんな…」

「目覚めさせたのはあなた」

「いえ、でも時がくれば起きていたことですの。やはり目を付けられた瞬間に運命が決まっていましたの」


 二人とも完全にお手上げ状態であった。二人が経験した恐怖も聞き、それでもあれこれ話し合い、ガルクァッドはなんとか仲裁を頼み込んだ。


「一応話してはみるけど…あんまり期待しないでね」

「都合の悪い部分は聞こえない耳をされてますから、無駄だと思いますの」

「…それでも頼む…」


 作戦その一。

 まずはもう一度、嘘告であることを丁寧に説明する。


「ガルクァッド様が嘘告などと、そんな最低なことをするはずがありません」


 七回繰り返された時点で、二人の心は折れた。


 作戦そのニ。

 ガルクァッドのダメなところを話して幻滅させる。


「まぁ!そんな意外なところも素敵ですわね!」

「え!?そんなことが!?でも大丈夫です、わたくし、そんなところも愛せます」

「ジャクリーンさん、男の子は子供の頃、やんちゃなものですよ。今のガルクァッド様は紳士に成長なされましたわ」

「ベネデッタさん、どうにかしてわたくしに諦めさせたいのでしょうけれど…。残念ながら、これは運命ですので、無駄な努力になってしまいますわよ?」


 無理だった。何を話しても受け入れられるか斜め上に解釈されるかである。


 作戦その三。

 …諦めて結婚を覚悟する。


「いや、その前に自分でも対峙してみる。…二人とも、協力ありがとう」





 さて、決戦の日である。いつもの東屋にルミエーラを呼び出したガルクァッド。ちなみにジャクリーンとベネデッタもこっそり影から覗いている。


「ルミエーラさん…。ちょっと聞きたいことがあって」

「式場の希望ですか?新婚旅行の行き先ですか?」

「いや…。あのさ、例えば俺がうわき…」


 その瞬間、澄ましたルミエーラの無表情は僅かに変化した。目がぎらりと開き、瞳から光が消えたのが分かる。三人には分かった。ガンギマリの顔だ。目がバッキバキだもの。


「例えば!例えばの話だよ!」

「…ええ、もちろんそうですよね。ふふふ」


 バッキバキのままである。


「もし!もしもだよ!?俺が浮気したら、どうする?」

「別に構いませんわ。貴族男性ですもの、愛人くらい普通です」


 三人は思った。え、意外。


「ただし、お相手の方にはご自身があくまで遊び相手であること、ガルクァッド様の愛の全てはわたくしのものであるということをしっかりご理解いただきますけれど。身の程を知らない女はおやめになってくださいね。でないと、その方がどうなるかは存じ上げません」

「しない!しません!」


 多分これは違う。許すとかそういうのじゃない。多分どうあっても相手の女性は不幸になる。命も危ない。


「あとこれも例えば!本当になんとなく聞いてみたいだけで他意はないんだけど、俺がルミエーラさんに冷めてしまったりしたら…」

「人の心は移ろいゆくもの…そんなこともあるかもしれませんね…大丈夫です。悲しいですが、わたくし、許します」


 三人は思った。意外だ。つまりそのままの意味に捉えることはできない。


「大丈夫です。ガルクァッド様がまたわたくしを愛すようになるまで、わたくし努力を惜しみませんわ。…ええ、手段は選びませんし生涯をかけてでも」

「「「ヒェッ」」」


 三人の背筋は凍った。多分大変なことになる。


「爪からいきます」


 剥ぐの?


「その次は…指は手足で二十もありますもの。きっと二十日もかかりませんわ」

 切り落とすの?一日一本ってこと?指全部イッたあとは?


「それでも愛を思い出していただけないようでしたら…()()()()気長に頑張ることにいたします。最終的には達磨になっても愛せます、わたくし」


 少しずつ、どうするの?もしかして、凌遅刑ってやつかな?この世で最も残酷な拷問のひとつの。


「まぁ、そんなことはありえないと思いますけれど」


 ほほほと笑うルミエーラ。声だけである。表情は一切変わらずバッキバキのガンギマリのままだった。こわい。


「最後にもう一つだけ…。これも例えばね。天地がひっくり返ってもないと思うんだけど…もし俺が、君のことを捨てたら」

「ころす」

「あ、はい」

「一族郎党、一人も残さない。友人も。全てです」

「もしの話だから!聞いてみただけだから!」


 陰で聞くジャクリーンとベネデッタも涙目である。彼女たちの安全の為にも、ガルクァッドは生贄になるしかない。


 ガルクァッドはこの日、全てを諦めた。多分家族も何もかも捨てて逃げても見つけ出されると思う。その後が怖いから、試す気もしないけど。


 (いや、でもまぁ普段の昼食時は楽しかったし、めちゃくちゃ美人だし才女だし。こんな人に愛されるならいいじゃないか。なぁ!いいじゃないかガルクァッド!俺は幸せだ!そう、俺は幸せ…幸せなんだ!俺が変なことを考えなければいいだけだ!)


 ジャクリーンとベネデッタは見た。ガルクァッドが涙を流しながらえへえへと壊れたように笑うのを。…頑張れ。





 それから、二人は仲睦まじい恋人になった。すぐ後に夜行列車での小旅行に行き、夜光を見た夜に結ばれ。そのまま卒業とともに結婚し、三人の子供に恵まれ、幸せに暮らしたという。


 死が二人を分つまで、お互いを愛し続けたというが、時折ガルクァッドは妻を化け物を見るような目で見ることがあったという。

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