港町の違和感
街道を半日も歩けば港に着く。ただし、俺たちの足で、だ。
普段なら活気に満ちているはずの市場も、今日は妙に静かだった。喧騒が、聞こえない。
違和感はある。
だが港の様子に、リュミナははしゃいでいた。
「ねぇ、船がいっぱいあるわ!あれに乗って、別の国まで行ってみたいわ」
「その船じゃ、ちょっとキツいな」
漁船に寝床はない。数日を過ごすには、さすがに厳しいだろう。
「別の国……ね」
住み慣れた場所を離れ、俺のもとへ来た。それだけでも大きな変化だというのに、まだ見たいものが、行きたい場所が、山ほどあるらしい。
波風を立てずに生きてきた俺の日常を、リュミナは遠慮なく押し広げてくる。その変化を、今は悪くないと思っている。
「ねぇ、約束覚えてるわよね」
「飯なら、ちゃんと食わせてるだろ」
「違うわよ。旅」
「ああ……一緒に旅ができたら、ってやつか」
竜王の姿だった頃、確かに交わした約束だ。
「楽しみにしてるからね」
「……これは旅じゃないのか?」
「こんなの、散歩よ」
半日歩いて散歩。
思わず苦笑が漏れる。
「少し寒いわね」
「今日も足出してるしな」
「絶対領域っていうらしいわよ」
「知らんな、そんな言葉」
「じゃあ、こんな格好は好き?」
「……」
「……好き?」
強い圧で覗き込まれる。
胸元も開いている。そんな距離で来るな。それが寒さの原因だろ。
目のやり場に困っていると、リュミナが不満そうに頬を膨らませた。
やれやれと頭をかき、観念して言う。
「好きだよ。可愛いし、似合ってる」
ここ数日で、褒める技術だけは確実に上達した。
覚悟の時間と精神力の消耗が必要だが。
「ふふふ。よくできました」
上機嫌で港を歩き出すリュミナを追いながら、俺は小さく息をついた。
「少し行けば岩場だ。そこから、海に降りるか」
岩場に出て、海を見下ろした。
そこでようやく、あの違和感が何だったのか分かった。




