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元勇者の俺と竜王(少女)の二人暮らし。 世界平和は家庭円満の後でいい?  作者: Hike技研


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9/12

港町の違和感

街道を半日も歩けば港に着く。ただし、俺たちの足で、だ。


普段なら活気に満ちているはずの市場も、今日は妙に静かだった。喧騒が、聞こえない。

違和感はある。


だが港の様子に、リュミナははしゃいでいた。


「ねぇ、船がいっぱいあるわ!あれに乗って、別の国まで行ってみたいわ」


「その船じゃ、ちょっとキツいな」


漁船に寝床はない。数日を過ごすには、さすがに厳しいだろう。



「別の国……ね」

住み慣れた場所を離れ、俺のもとへ来た。それだけでも大きな変化だというのに、まだ見たいものが、行きたい場所が、山ほどあるらしい。


波風を立てずに生きてきた俺の日常を、リュミナは遠慮なく押し広げてくる。その変化を、今は悪くないと思っている。


「ねぇ、約束覚えてるわよね」


「飯なら、ちゃんと食わせてるだろ」


「違うわよ。旅」


「ああ……一緒に旅ができたら、ってやつか」


竜王の姿だった頃、確かに交わした約束だ。


「楽しみにしてるからね」


「……これは旅じゃないのか?」


「こんなの、散歩よ」


半日歩いて散歩。


思わず苦笑が漏れる。


「少し寒いわね」


「今日も足出してるしな」


「絶対領域っていうらしいわよ」


「知らんな、そんな言葉」


「じゃあ、こんな格好は好き?」


「……」


「……好き?」



強い圧で覗き込まれる。


胸元も開いている。そんな距離で来るな。それが寒さの原因だろ。

目のやり場に困っていると、リュミナが不満そうに頬を膨らませた。


やれやれと頭をかき、観念して言う。


「好きだよ。可愛いし、似合ってる」


ここ数日で、褒める技術だけは確実に上達した。

覚悟の時間と精神力の消耗が必要だが。


「ふふふ。よくできました」


上機嫌で港を歩き出すリュミナを追いながら、俺は小さく息をついた。


「少し行けば岩場だ。そこから、海に降りるか」


岩場に出て、海を見下ろした。


そこでようやく、あの違和感が何だったのか分かった。

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