新生活の買い出し 【挿絵】リュミナ
城下町では、散々冷やかされた。長いこと女っ気なくいたのだから、無理もない。
リュミナの服装は上質だし、何より見た目が美貌のエルフ娘にしか見えない。
それが、無口で、心細そうにアレスの袖をつまんでいるのだ。
並の男ならイチコロだ。
そうでないのは、訓練された男だけである。
アレスはよく訓練されているので、平静を保っていた。
時折、腕にしがみつかれたが、平静を保っていた。
店屋がダブルベッドを勧めてきたときは、さすがに血管が切れそうになった。
――自分の苦労を、何だと思ってるんだ。
軽い頭痛もしてきた。食器選びに入った雑貨屋で、リュミナが耳打ちしてくる。
「あなた、結構人気者なのね」
不意に囁かれ、耳がこそばゆい。
「同じ所にずっといるからな。顔馴染みなだけだ」
「そうじゃないわよ。敵意を向ける人が、まったくいないって事」
「みんな人が良いからな」
「そのいい人達に、私は敵意を向けられてるのだけどね。 特に、若い娘から
「リュミナは可愛いから、ライバル心かもな」
予期しない答えに、リュミナはうつむいた。
「……まぁ。そういうことにしておくわ」
店を後にすると、リュミナがようやく顔を上げた。
「アレス、もう一つお願いがあるんだけど」
「入り用なら、ついでに買うぞ。なんだ?」
――その後。女性の買い物に付き合うには、別の訓練が必要だと知るアレスだった。
日が傾き夕焼けに染まる頃、アレスは小屋に戻ってきた。
どんな訓練よりも、疲れた。
背負ったシングルベッド二つと寝具のせいだけではない気がする。
疲れ切ったアレスをよそに、リュミナは買ってきた服に夢中になっていた。
「人間の姿になったからには、楽しまないとね」
新調したベッドと寝具の上に服を並べ、笑みを浮かべている。
今の服が一番上等だ。だが、リュミナにとっての楽しみは、そこではないのだろう。
うとうとしていると布ずれ音が、アレスの耳に届く。
ああ、リュミナ、そこで着替えるな。
見える。
いや見ちゃうからやめて。
お願い。




