ビキニという名の災厄
飲みすぎたのか、リュミナはまだ寝ている。
漁師たちが仕事を終え、港へ戻ってくる時間だ。
暇を持て余した俺は、港で彼らの働きぶりを眺めていた。
大量の魚を捌く者、別の街へ運ぶために荷造りをする者。
長い時間見ていても、なぜか飽きない。
港の隅で魚を焼いていた老人が、手招きした。
「あー、部屋貸してくれてありがとうございます」
昨日、海辺の家を貸してくれた老人だ。
「せっかく作ったがな。息子が街へ行っちまって、使わねーんだ」
そう言う老人の顔は、少し寂しそうだった。
「よく寝れたか?」
「いや、連れのいびきがうるさくて、朝から散歩ですよ」
酒を差し出されるが、首を振る。
代わりに、老人は湯飲みにお茶を注いでくれた。
「可愛いお嬢ちゃんだが……そんなにすごいのか?」
「ええ。竜並みに」
老人は腹を抱えて笑った。
「ふははっ! 昨日はすごかったな。ありゃ竜神様でも不思議じゃねぇ」
(まさしく竜王です)
「若いのが旅してんだ。夜も楽しめばいいのにな」
俺はお茶を噴きそうになる。
「深い意味はねぇよ。若いうちは楽しむもんだ」
焼けた魚を差し出しながら、老人は満足そうに笑った。
◇◇◆
リュミナが起きてきたのは、昼を過ぎてからだった。
「服を見に行きたい」
そう言われ、俺は首をひねる。
港町に、そんな洒落た店があっただろうか?
なくはない。
だが、あったとしてもリュミナ向けではない。
案の定、最初の店では首を横に振られた。
「お嬢ちゃんなら、三件先の店がいいですよ」
言われた通り向かい、店先を見た瞬間――
俺は絶句した。
異世界文化の結晶。
水着。
(……これで何が隠れる)
いや、知っている。
これは、いわゆるビキニアーマーだ。
防御力など、存在しない。
「良いわね。涼しそう」
リュミナはあっさり気に入った。
(マジか……)
そういえば、リュミナの部下にワンショルダーのワンピースを着たトロールがいたし、
スケルトンはほぼベルトだけだったな。
異世界より恐ろしい文化圏。
「ねえ、これどう?」
差し出されたのは、金色のブーメラン。
「……誰が履くんだ」
「あなたよ」
「履けるか!」
履く前に破けるわ。
「当店の品質は丈夫ですよ」
「うるさい」
試着室から出てきたリュミナは、赤いビキニ水着。
防御を期待する厚みなどない。
留め金などない。
ヒモだ。
俺の心臓がやばいことになっている。
せめてもの抵抗で薄手の上着を二着買う。
一着は俺、もう一着をリュミナに。
こんな姿で歩かせられない。
おっと自分のサイズだったからリュミナには大きかった。
「……大きいな」
取り替えようとすると、リュミナが俺の手を引く。
「これでいい」
顔が、少し赤い。
まぁでかいほうが体隠れるから良いか。
そう思ったのだが。
上着を羽織った途端、
なぜか太ももが、さっきよりまぶしい。
隠したはずだ。
なのに破壊力が上がっている。
どんな戦いの一撃より、俺は打ちのめされた。
(やめろ。裾を押さえるな。赤くなるな)
現在、アレスのHP5以下。
回復手段は、ない。
◇◆◆
そのまま海へ向かった。
視線が集まるたび、俺は無意識に前へ出る。
「邪魔よ」
「邪魔じゃない。目立つんだ」
「あなたもデカくて目立つわよ」
上着の裾をつかんだまま、隣を歩くリュミナ。
波打ち際で足を浸し、楽しそうに笑う。
「涼しいわね」
「……そりゃそうだ」
距離が、少しずつ縮まる。
「ねえ」
「なんだ」
「これ、気に入ったわ」
聞かなくても分かる。
海は穏やかで、
太陽は高く、
竜王様はご機嫌だった。
◆◆◆
「そういえば、海の上を歩けるって言ってたわね」
「ああ。昨日は加減を間違えたが」
「教えて!」
浅瀬で何度も挑戦するリュミナ。
俺が見本を見せると、
「……変態ね」
失礼なやつだ。
上着は浜辺に畳まれている。
濡れるのが嫌だという。
結果、ビキニ姿が全力で視界に入る。
残りHP2
「ちゃんと見てて!」
「無茶言うな」
俺は浜辺に座るしかない。
……立てないからだ。
いや、正確には――立っている。
ドゥー・ユー・アンダースタンド?
分からない方は、そのままで結構です。
だから言ったろ。
ブーメランじゃダメだって。
あーリュミナがこけて髪まで濡れてるな。
でも笑ってるから良いか。
竜王は水浴びを良くしてたって言ってたな。
いまの姿なら被害は俺だけだ。
しばらく俺は立てなかった。




