会議の事前準備
今回いつもより短い構成で制作していましたが思ったより長くなりました。
中央アルラード管理本部所全アルラード管理長官室
アルフィンは長官室の窓際に立ち、外の灰色の街を見渡していた。
「テルン」
声に呼ばれ、テルンは緊張しながら一歩前に出た。
「はい、長官。」
アルフィンはゆっくりと振り返り、青年の目をじっと見据える。
「会議を開く。」
テルンは一瞬、耳を疑ったように目を見開く。
「会議……ですか?」
「数名の重要顧問全員を集め、アルラード独立について話す。」
テルンは小さく頷き、メモ帳に素早く書き込む。
「かしこまりました、長官。会議の日時と場所を調整し、出席者に連絡します。」
アルフィンは窓の外を再び見据えた。
「覚えておけ、テルン。今回の会議は単なる議論ではない。
反逆の狼煙を静かに上げる、最初の舞台だ。」
テルンは深く一礼した。
「……はい、長官。」
アルフィンは軽く頷いた。
そしてアルフィンは椅子から静かに立ち上がった。
ブラインド越しの光が消え、室内の空気が一層冷たく沈む。
「テルン、外出する。会議の準備は任せた。」
「はっ、どちらへ行かれるのですか?」
「……少し、古い友人に会いにだ。」
アルフィンは長官の徽章を外套の内側に隠し、コートの襟を立てると、静かに部屋を後にした。
――アルラード中央区の外れ――
かつての工業地帯にある古びた酒場「クローヴァ」。
アルラードとオルランタ連邦との戦争の影響で今は瓦礫とバラックとこの酒場しか無かった
看板の文字が薄れ灯りは半分が消え、夜霧に包まれて揺れていた。
アルフィンが扉を押すと、鈍い鈴の音が響いた。
中は薄暗く、壁際のランプだけがぼんやりと光を投げていて、アルコールと古い木の匂いが入り混じっていた。カウンターには誰もおらず、奥のテーブルに一人の男が腰を下ろしている。
ぼろぼろのコート、古臭い茶色の帽子を着こなし白髪の混じった髪を無造作に束ね、
手には氷だけが残った瓶を握っていた。
アルフィンはその男が座っているテーブルの席の隣に腰掛けた。
「マスター、ウォッカを二本。――こいつと私に一本ずつだ。」
マスターは無言で頷き、棚の奥から瓶を取り出す。
音を立てて栓を抜き、グラスを二つ並べた。
琥珀色の液体が静かに注がれ、
ランプの明かりの中でわずかに輝く。
アルフィンは無言でそのウォッカを一気に飲んだ。
「…ここの酒はうまい。何回でも飲みたい味だ。
そしてグレイお前の情報も何回聞いても有益な情報しかない」
アルフィンの言葉に、隣の男はゆっくりとグラスを傾けた。
その仕草には、ただの酔いどれには似つかわしくない品と重みがあった。
――ハウスター・グレイ
かつてアルラード公国情報機関の局長を務めた男。
戦争の最終年、敵国オルランタ連邦への諜報線を指揮し、
幾度となく暗号解読を成功させた伝説の情報屋だった。
だが、アルラード・オルランタ戦争の敗北により、
その情報機関は「存在しなかったもの」として消された。
局員たちは処刑、またはオルランタへの“人道的”な労働派遣――。
生き延びたのは、皮肉にも局長ただ一人だった。
以来、彼は肩書きを捨て、街を流れ歩く酔いどれとなった。
古びた勲章だけが、かつての“国家の人間”であった証。
かつて部下たちが命を懸けて運んだ機密も、
いまでは彼の記憶の片隅に沈み、酒で上書きされていく。
それでも、元アルラードの情報機関局長であったこともあり
酒場という酒場を渡り歩き、かつての情報線を拾い集めており現在でも“アルラードの人間”であった。
「随分褒めてくれるじゃねーか。ならオルランタ連邦軍の動向を観察した時の報酬の量をもっと増やしてほしかったんだがな。」
「すまんすまん軍統帥の時の給料は少なかったんだ。」
アルフィンは苦笑し答えた。
「で次はどんな依頼なんだ?」
グレイがアルフィンに問いかける
「依頼はまだいつ始まるかはわからないがアルラードの独立やその後の行動などを決める会議に参加するメンバーの情報を集めてくれ。メンバーの一覧はこれだ。」
アルフィンは一枚の手書きで書いた参加者メンバーの名前を書いた紙を渡した。
「了解だアルフィン。一週間後までには情報を揃えておく」
グレイはアルフィンが注文したウィスキーを飲みながら答えた。
「一週間ではない遅くて2日だ。それ以上は待てん」
アルフィンはきっぱりと断った。
「おいおい人使いが悪ぃぞ。2日で数人の情報しかもアルラードの高官だ。こりゃ報酬はこのウィスキー2年分でも足りねぇぐらいだぞ。」
グレイは飲み干したグラスを指さしながら答えた。
「まぁそう言うと思った。だから今回はいつもとは違う方法での報酬を与えようと思う。」
「何だ?蒸溜所でもくれんのか?」
グレイのつまらないジョークを無視してアルフィンは答える。
「グレイも知っていると思うがアルラード公国は独立しようとしている。そしてもしアルラード公国が復活したあかつきにはお前を情報機関の局長に復帰させたいと思う。どうだこの報酬は?」
「……」
グレイは黙り込み数分ほどの沈黙が続いた。
やがて彼は、短く息を吐いた。
「……あんた、本気でそんなことを言ってるのか?」
アルフィンはまっすぐに彼を見た。
「本気だ。アルラードを、ただの敗戦国では終わらせない。
独立を、名誉を、誇りを取り戻す。」
グレイはくぐもった笑いを漏らした。
「誇り、ねぇ……。」
「……俺がこうして飲んだくれてるのはな、酒が好きだからと、飲まなきゃ、やってられねぇからだ。アルラードが崩れて十四年……国は焼け、仲間は死に、俺はこうして生き残っちまった。くだらねぇジョークで笑って、安酒で夜をやり過ごしてきたが……それでもな、アルラード人としての誇りだけは一度も失っちゃいねぇんだ。どれだけ国が奪われようが、誰に踏みにじられようが、俺たちがアルラードの名を覚えてる限り、あの国はまだ死んじゃいねぇ。――そして俺はアルラードが復活しない限りは死にきれねぇ」
アルフィンは黙って聞いていた。
グレイの言葉に偽りはなかった。それは、敗北の底でしか知り得ない本物の記憶だった。
「だからよ長官さん俺はその報酬受け入れてやる。アルラードの局長をな」
グレイは席から立ち上がった
グレイは古びた帽子を被り直し、
「じゃあ、“情報局長”に戻る初仕事だな。」
そう言って、夜霧の中に消えていった。
「じゃあ私も長官室に戻ろうとするか」
アルフィンも席から立ち上がった
「ちょっとまってください」
今までずっと黙って作業をしていたマスターが声を掛ける
「お代がまだです」
「そういえばそうだった何ウィンだ?」
「ウィスキーが2本で4000ウィンでその前にもウィスキーを5杯頼んでおりましたので合計14000ウィンですね。」
「…これは出世払いとでもしておくか」
アルフィンはお金を払い店を出ていった。
次回もお楽しみに




