第三話「平和なんてそんなもの」
周囲にはまだ血の匂いが漂っている。
しばらく放心していた。
(あれは、、、)
重火器をトリガーに能力を使う。
この特徴にあった組織を知っている。
『rubreak』
無差別大量殺人グループ、、、つまりテロリストだ。
「なんで、そんな奴らが学校を?」
校舎の半分は崩れており、どう見ても休校になるだろう。
警察が来る前に帰らなければ、
(拳銃持ってんだよなぁ。)
めんどくさいことになるだろう。
「翔っっ!大丈夫か!?」
声のした方に首を向ける。
佐藤だ。
「お前、、、逃げろって言ったろ。」
逃げないにしてもわざわざ来ることないだろ。
「いや、なんでお前平気な顔してんだよ!!テロだぞ!!?人が死んでんだぞ!!」
確かに人は死んだ。でも、
《それが自分に何の関係があるんだ?》
佐藤は一瞬遠くを見るような目をして
「お前は昔からそうだったな、、、。」
そう言い聞かせるように言った。
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ビルの屋上で美しい女性が佇んでいる。
白い髪は風でなびきより一層あざやかに輝く、
色素のない肌、赤い瞳は人間離れした姿を演出していた。
崩壊させた校舎を見下ろす。
思った通りにはならなかった。
が、思わぬ収穫があった。
プラスマイナスで考えるのならば迷いなくプラスと言えよう。
(アレを獲られた時点で詰みだと思っていたが、、、。)
やはり人生とは何が起こるかわからない。
「く、ははは!狂イ物!楽しみにしてるよ!!」
狂い切らないでくれよ、報いが来るその日まで。
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なに《かがおか》しい。
まただ、考えがまとまらない。
体調不良を伝え調査は変わってもらった。
自室で今日のことを思い出す。
《自分に何の関係があるんだ?》
恐ろしく冷たい声、自分のものと今でも思えない。
少なくとも声を出していうべきことじゃなかった。
(くっそ、、、なんなんだ。)
何もやる気が出ない。
まあどうせ明日は休講だろう。
(一旦、休もう。)
目を閉じるとあっさりと意識が沈む。
すんなりと眠れた時は悪夢が多い気がする。
それは気のせいかも知れないし、自分だけかも知れない。
少なくともコレは悪夢だ。
あの日から、姉が死んだ日に見た夢。
真っ黒なヘドロがこっちを見て微笑んで、
微笑んで、
、、、
怖くなどないはずなのに。
漠然とした不安が、
漠然とした胸の苦しみが続く。
本当はまだ一緒にいたかったんだ。
死んでほしくなかった。
できれば幸せになってほしかった。
だから、、、
だからどうってわけじゃないし、
今更そんなこと考えても意味はない。
『ビーーーーッッ!!』
飛び起きた。
「はぁー、、ふぅ。」
息を整える。
混乱から醒めていく。
(意味あったな、アラーム。)
ぼんやりとそんなことを考えた。
、、、お腹がすいた。
よく考えてみれば昨日の昼すら食べ損ねていた。
そう思い自室を探索する。
が、見つけたのはカップ麺。
正直お湯を沸かすのもめんどくさいし、3分も待ちたくない。
(水でいいか、、、)
腹を満たす代わりに、歯は犠牲になった。
、、、買い置きはしといた方がいいな。
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『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴る。
誰だ?
生憎だが今日は堕落を貫くと決めているのだ。
そもそもテロを経験した直後に訪問とか、、、
人の心がないのか?
そう頭の中で文句を言いつつドアを開く。
そこには楓が立っていた。
なんだろう失礼かも知れないが嫌な予感がする。
だがその心配とは裏腹に
「先輩大丈夫でしたか?」
それは身を案ずる言葉だった。
「まあ、大丈夫。爆発地点から離れてたし。」
彼は安堵したような表情をみせる。
「じゃあなんでメール返さないんですか?」
前言撤回嫌な予感的中だわ。
いや返さない俺が悪いんだけど、、、
悪いんだけどさぁ、、、
つ、疲れてたし、、、
「心配、したんですよ。」
服の裾を力強くつかみ、こちらを見上げる。
「ごめん。本当に。」
今更ながら自分のことしか考えていなかったことを後悔する。
彼は一瞬ため息をついたかと思うと、
「じゃあ、パンケーキ食べに行きましょう。」
あ、そうだこの前約束してたの忘れてた。
「、、、忘れてたんですか?」
呆れた顔で言う。
「いやいやいやいや!!。」
「忘れてない忘れてない!。」
なんだコイツ人の心読んでんのか。
それとも俺がわかりやすいだけなのか、、、。
「もういいですっ!ついでに色々なとこ連れて行ってもらいますから!!。」
(こりゃまずATM行かないと金が間に合わんな、、、)
そんなことを考えながら家を出た。
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スマホのナビゲートを頼りに街に繰り出す。
なんとしても楓の機嫌を取らなくては。
だが、
正直言って行き当たりばったりのギャンブルだ。
楓が好きそうなこと、、、
わからん13の男の子って何考えてんだ?
そう考え込んでいると、
「先輩、僕と出かけるの楽しくない、、、ですか?」
と、心配そうな顔で見上げる。
「いや、どうすれば楽しんでもらえるかなって、、、考え込んでた。」
ここは無駄に言い訳しないで素直に言おう。
すると、少し驚いたような顔をして、
「、、、。」
黙り込んでしまった。
、、、やらかしたか?
「い、いや本当に楽しんで欲しくてっ!他意はないから。」
焦って訂正する。
「別にそれくらいわかりますよ、、、?」
じゃあなんであんな顔するんだ。
「、、、うれしかっただけです。」
「え?ごめんもう一回言っ、、、」
「わーーーっ!!いいですから!!早く行きますよ!!」
ついからかってしまった。
まあ楽しんでくれているようで良かった。
無駄に考えすぎたなと反省する。
(そうだよな、自分のしたいこと提案すればいい。)
「ゲームセンターってやつ行ってみないか?気になってたんだよ。」
そう提案する。
にぱっと年相応の顔を見せ、
「了解ですっ!」
楓が笑う。
コレで良かったんだな人付き合いって。
そう心の中で思考していると、
甘い匂いがあたりに満ちていた。
その匂いはこれからの期待を膨らませる。
そう!パンケーキ専門店!
「すごい本格的ですね。」
楓が興味津々と言った様子で店内を覗く。
そうだろう、そうだろう。
なんと言っても専門店だからな!
「ここのパンケーキはな、レベルが違うぞ、、、。」
「あの、仕事の時より真剣な顔しないでください。」
そんなことを言っていられるのも今のうちだ。
楓の手を引き店に入る。
「いらっしゃいませー。何名様ですかー?」
「二名です。」
席に着きメニュー表を開く。
そこには色鮮やかな写真が載っている。
だが、その誘惑を振り切り、何ものっていない『普通のパンケーキ』を指さす。
「これだ、、コレを頼むのをお勧めする、、、、、。」
そういうと楓は笑みを浮かべる。
「あ、わか、、、」
「まて!言いたいことはわかる、、、。」
「こんな鮮やかなメニューの中でなぜ普通のパンケーキを頼むのか、、、だろ?」
「え、いや、全然そんなこと、、、」
「だが!この店はパンケーキを主役にするために死力を尽くしているのだ!!。」
「は、、はい、、。」
唖然とするのも仕方ないだろう、がそれ相応の理由がある。
そのこだわりは生地だけに留まらない。
バター、蜂蜜、、、パンケーキに関係するもの全てが高基準だ。
「な、なるほど?」
納得してくれたようだな、、、
「あ、そうだ、別に強制するつもりないし、好きなの頼みな。」
「わぁああ!きゅ、急に落ち着かないでください、、、。」
その後パンケーキを全身全霊楽しんだのは言うまでもない。
「先輩!ごちそうさまでした!!美味しかったです!。」
楓が無邪気に言う。
正直自分の好みを押し付けた感が半端ない。
「ごめん、熱くなりすぎた、、、。」
「大丈夫ですよ。いろいろ知りたいこと知れましたし。」
「ならいいけど、、、。」
反省だな、調子に乗りすぎた。
そう思いながら街を歩く。
思えばこう落ち着いて街を見る機会とか久しぶりかもしれない。
あたりはまだ明るく昼はこれからだという気概を感じる。
もう9月だがまだ暑さが残っている。
ビルの照り返しで余計にそう感じるかもしれない。
そんな中、学生たちのオアシス『ゲームセンター』が見えた、
と、言ってもゲームセンターについて詳しくない。
そのため適当こいているだけになる。
一階はクレーンゲームで満たされている。
そして二階は半分メダルゲーム、もう半分はレースゲームなどのアーケードゲームで構成されている。
ここが良いゲームセンターなのかわからない。
だが、少なくとも初めて来る場所には申し分ないだろう。
「何かしたいのある?」
「クレーンゲームしてみたいです!。」
クレーンゲームについては動画で見たことがある。
動画では簡単そうにしていたが、、、
「なんも取れねぇ、、、。」
「ですね、、、。」
もう千円も溶かした。
このペースでやっていたら破産するだろう。
「、、、別のやつやらない?」
そう心から懇願した。
二階、メダルゲームに挑戦することにした。
絶えず絵が回転し絵柄を揃えることでメダルが増える、、、
そう、いわば子供版スロットだ。
絵を止めるだけだと言うのに見返りがあるとこんなに楽しいものなのか、、、。
ギャンブルにのめり込む人の気持ちがわかる。
こう言うものはあまりメダルが稼げないものだと思っていたが、運良く増やすことができた。
「わあ、、こんなに大量のメダル、、贅沢ですね!!。」
「結構貯まったから対戦ゲームやろうぜ。」
そういいある台を指さす。
ある台とは釣り竿のような機械を動かし画面上の魚を釣り上げると言うものだ。
昔このゲームをやったことがある。
その時はやりすぎて手の皮がむけてしまったが、、、
今は肉体再生がある!
、、、やっと役に立ったな。
楓は楓でちゃんとした狂い人だ肉体の強度が違う。
心配はしなくていいだろう。
「どっちが多く取れるか勝負しない?」
「いいですよ。なら僕が勝ったらお願い一個聞いてくれませんか?」
お願い?まあ一個くらいなら大丈夫だろう。
「おっけ、でも負けるつもりはないからな。」
結論から言うと負けた。
もっと詳しく言うとボロ負けした。
狂い人のなりそこないが本物に力で勝てるわけなかった。
「で、お願いって、、なに?」
恐る恐る聞くことにした。
楓は何か考えるそぶりを見せ、
「、、、忘れちゃいました。」
満面の笑みでいった。
なんだその笑いは何企んでやがる。
恐怖を覚えつつゲームセンターを後にした。
「この後どこ行きますか?」
あたりはうっすらと暗くなっている。
だがまだ方法はある。
「俺の部屋で映画見ない?」
そう室内であれば補導される心配もないのだ。
そもそも中学生を夜中に連れ回したくないし。
「お邪魔していいんですか?」
「もちろん。ってか同じアパートなんだし暇な時いつでも来ていいよ。」
「っはい!」
そう話していると、
「きゅう!」
と何かの鳴き声がした。
そう自分の足元から。
えっと、、、
恐る恐る下を見る。
黒い塊が足のまわりを飛び跳ねていた。