前日談、後編「狂った世界」
「大丈夫か?」
さっきまで苦しかったはずなのに。
なぜか気分がいい。
だが大丈夫なわけないだろう。
「そう、、だな、申し訳ない。」
おっと声が出てしまった。
周りを見渡す。
相変わらず世界は変わらないし、姉は死んだ。
でもまだやることがあるから。
「大丈夫です。それよりも、話を聞かせてください。」
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「大丈夫か?」
取り返しのつかないことをしてしまった。
「大丈夫なわけあるか。」
少年が怪訝な目でこちらを見る。
「そう、、だな、申し訳ない。」
このままでは彼女に顔を合わせられない。
守ると息巻いて約束したのに。
「大丈夫です。それよりも、話を聞かせてください。」
その眼にはとてつもない覚悟がこもっていた。
そして、それはとてつもない狂気だ。
姉が死んでさらにあんな体験までした。
精神がおかしくなっていないほうが珍しいだろう。
自分はダメな人間だ。
そう自己嫌悪に逃げてしまう。
だが、今は逃げている場合じゃない。
こんな少年を苦悩させる、
そんなことはあっていいことじゃない。
あっていいわけがない。
「あ、あのー?」
少年は待ちくたびれた子供のような顔をする。
覚悟した。
この少年をこんな世界に入れてしまった責任を、
この少年を死なせてはいけないと。
「長くなる。理解しがたいことかもしれない。だが、」
自分に言い聞かせるように言った。
「この狂った世界の生き方を教える。」
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『自分の住んでいた世界は生易しいものだった』とか
『そんなありきたりな感想』を塗りつぶすくらいに、
話された内容は信じがたかった。
なのに、
それなのにすんなりと受け入れた。
あまりにも痛々しく語っていたから?
リアリティーのある話だったから?
そんなんじゃない。
記憶を思い出すように、
文字を書くように、
すんなりと、、、だ。
奇妙な親近感すら覚える。
(こういう漫画ばっか読んでたからか?)
言われたことを再度思い出す。
どうやらこの世界には【憑き物】というものがいるらしい。
ソレは人を飲み込み狂わせ、
【狂い物】となって人を襲いだす。
ゾンビみたいだ、
だけどゾンビと劇的に違うことが一つある。
【狂い物】となっても自我は残っており苦しみ続ける。
永遠と衝動を抑えられず。
人を殺して。
自分を嫌悪して。
とても憎悪の籠った声で言っていた。
身震いした。
もし自分がそうなっていたら、、、
意味もなく生き続けるのは苦しいだろう。
だが【憑き物】に狂わされても飲み込まれない人もいるらしい。
誰かが対抗するすべを持たしたように。
【憑き物】に飲み込まれず、逆に従える者を【狂い人】と呼ぶ。
狂い人が集まり狂い物を解放する組織。
それが
(双眼組の本当の顔、、、)
ああ、やっぱり自分の世界は変わってしまった。
取り返しのつかないほどに。