第11話 命がけの脱出
奴「何を言ってるのですか?よくわからないことをおっしゃらないでください。殺しますよ?」
俺「!?」
俺はあまりにも衝撃的過ぎて少し固まる。絶対にあってると確信していたことが外れると、脳の処理が少し追い付かなくなる。
しかし、そんな固まっている状況にお構いなく向こうは近づいてくる。部屋の中は細長い机が中央に一つだけだから、そこでチェイスするしか逃げる手段がない。俺はやつとは反対の位置に動く。
奴「小賢しいですね。めんどくさいので大人しくとまっててくださいよ。」
俺「自分から死にたがるやつがどこにいる。」
奴「あなたのお友達なお仲間さんはみんな自分から私のもとに来て殺されていましたよ。」
俺「これや夢だ。現実じゃない。あいつらは今頃俺が起きなくて困ってるだろ。」
奴「いつ、ここが夢と私はいいました?」
その言葉に俺は固まる。確かに、こいつは夢とは一言も言っていない。なら、ここは現実なのか?だとしたらみんなは…。いや、ありえないな。凪人はそうするかもしれないけど瑠己也なら死ぬかもしれないってなったら直前で泣き叫ぶはずだ。あいつがあんなに従順に死んでいくのはおかしい。
そんなことを考えていたうちに気がつくとこちらの方まで奴が接近していた。あと数秒反応に遅れていたら捕まっていただろう。けど、俺は咄嗟に下がって攻撃をよける。そして、そのまま机の周りをまわってこの部屋のドアへと向かう。その時、そのドアの近くにほうきがあったあったことに気が付き、そのほうきを手に取る。
ドアを出た後、ドアの周りが少し出っ張っていることを利用し、ほうきを斜めに立てかけて出れないようにする。
奴「どうして開かないんですか?開けてください。」
俺はその声を無視して、次の場所へと向かう。エレベーターは当然のように動かなかったので、最後は立ち入り禁止と書かれた通路へと入っていく。地面にはいつくばって、鎖を超えたらとうとう危険地帯だ。
まるでなん百年にも前に作られたのかとでも思わせられるほどボロボロで壁や床が崩れかかった廊下を歩く。コツ、コツと静かな廊下に俺が歩いた音が響き渡る。正直、今からでも引き返したい気分だ。だって足場が不安定だったり、あまりにも暗くて怖すぎる。さっきまではかろうじて少し明かりがあったが、ここには全くない。なのになぜかわずかに見えるのは夢であるからだろう。
少し歩くと、またいつものように部屋があった。しかし、雰囲気に合わないとてもポップな扉でピンク色で色々な飾り付けをされていた。
少し迷ったが今更引き返すのもおかしいと思い、異様な雰囲気を漂わせているその部屋の中へと入る。すると、そこはまるでまだ設定していないゲームの空間のようで壁も床も真っ白でその部屋の真ん中に一つのものだけが落ちている。
興味本位で俺はその小さなボタンに近づきボタンを拾うと、そこには1Fと書かれたボタンであった。
これでやっとこの夢から脱出できるのかもしれない。俺はそう思い、ここの部屋を出る。
俺「どうなってんだ…これ…。」
廊下を見たとき、思わずつぶやいてしまった。さっきまで見ていた廊下とは大きく変わっている。ボロボロだった廊下はまるで地獄への1本道のようで真っ赤に染まっている。それでも、エレベーターのところに戻る手段がここを通るしか無いから恐怖心を押し殺して歩く。
しばらく歩いたあたりから、なんとなく後ろから音がしているような気がしてたまらない。というか音がしてる。ドシ、ドシと大きく重たい巨人とかが歩いているときの音がだんだんこちらに近づいてきた。しかし、後ろを振り向いても何もいない。ただ赤く長い通路が広がっているだけだ。
さらに数分後、その音があまりにも大きくなったので、もう一度後ろを振り向く。すると、今度はその姿がはっきりと見えた。血で真っ赤に染まった牙を見せつけるように威嚇をしている犬の仮面をした巨体が俺の後ろに立っていた。多分身長は200cmあるだろう。そして、その手には大きな刀を握っていた。
俺「あ…。っす…。」
少しだけあとずさりしながらそれだけ言い残し、俺はすぐに走り出した。そしてそれを追うようにあいつが走り出す。一応、俺の方がギリギリ速いがほぼ互角。先に体力が尽きた方が終わりだ。俺は全力で走り続ける。ただ無心で、ひたすら頑張り続ける。
また結構経った後、巨体にはいまだに追いかけられてるけどエレベーターがあった部屋が見えてきた。なんか…こんなに遠かったっけ。来た時は徒歩数分だったはずだけどなぁ…。まあでもいい、もう終わりなんだからな。
俺は元の十字路に戻って来た。後ろから巨体がまだ迫ってきていたから急いでエレベーターへ入ろうとする。そして、エレベーターの目の前に来て扉が開いたとき、その中には猿の面をしたやつが乗っていた。ちゃんと包丁を持っている。
奴「手こずりましたが、今度こそ死んでください。」
俺「うわ!」
奴が突きの構えをし、俺の胸をめがけて突っ込んでくる。近くてもう回避手段はない。そう思っていた。しかし、奇跡というものは頑張ったものに来るもの。目の前で奴がずっこけて包丁が俺の腹部に少し刺さった程度のけがで済んだ。
奴「まだ。まだ終わっていない。必ず殺して見せます。」
倒れたまま奴がそういうが、俺は無視しして軽く刺さった包丁を奥の方へぶん投げて、ドアの場所で倒れたやつをエレベーターの外へ押し出す。よくよく考えれば包丁は護身用に持っておけばいいのだから別に投げる必要はないとその場で思うがもう遅い。投げてしまったものは帰ってこない。
包丁をあきらめてさっきの小さいボタンをエレベーターに無理やりはめ込む。そうすると、ボタンが光り1階へと行けるようになったらしい。
そうして、俺は一階のボタンを押しエレベーターのドアが閉まる。最後まで奴の表情が見えなかったが多分焦っていただろう。へっ、最後にざまあねえな。
そうして、俺はホテルの一回のエントランスへと向かう。そしてこの建物を出る扉へと向かう。扉は開いており、真っ白に輝いている空間が先に広がっている。
俺「やっと…これたんだな…。」
安心と安堵を胸に俺はその白い世界へと踏み出す。そして、そのまま徐々に意識が薄れていく…。
目が覚めると、自分が宿泊していたホテルの部屋の布団で寝ていた状態であったことに気が付く。外はもう日が出ていて二人はもう先に行っているのだろうか、この部屋にはいなくなっていた。
俺「気持ちのいい目覚めだなあ!これが解放されたってことか!」
そう叫んだあと、部屋の扉がノックされる。
??「おーい、いるかー?」
多分先生が俺のことを見に来たのだろう。この部屋で唯一ひとりだけ遅刻してるはずだし、そりゃあ見に来るよね。
俺「はーい。」
俺はそう返事をして扉を開く。すると、そこにはさっきまでいた猿の面をしたやつが立っていた。
奴「絶対に殺すって言いましたよね。だから、ちゃんとその約束を守りに来ました。」
急な出来事に俺の脳は処理を拒む。俺は脱出したはずだ。でも奴がそこにいる。その矛盾に脳が処理できない。でも本能は自分が死ぬということを理解したらしく、体の全身から冷汗が止まらない。
奴「では、死んでくださーい。」
脳が理解できていない時点で俺の体と神経は動くことができず、その刃物が振り下ろされる。よける手段もない。ただぼーっとしていた。
自分の体に触れるその瞬間、自分の部屋の扉から廊下の方の場所と俺が今いる部屋の場所がきれいに分かたれた。まるでいきなり地割れでも起きたかのようだった。
奴「な、どうして…どうして殺せないんですか…。」
少しずつ、この空間が破壊されていく。壁や床が崩れ先まで平坦だった廊下や部屋がデコボコで中の家具やベッドなどもボロボロになっていく。そんな中、俺の意識はまた遠ざかっていく。
???「…真……かり……しろ……。」
少しずつ目が開く。するとこれで三回目か。この天井を見るのは。さっきまでと同じ部屋に出ただろうが、一つ違うのは瑠己也が凪人がそこにいて俺の顔を覗き込んでいるってことだ。
瑠己也「颯真!大丈夫か!?体調は!?」
俺「ああ、大丈夫だ。」
瑠己也「良かった…。お前がずっと寝てるから起こそうとしても全然起きなくて…。何度起こそうとしても全く起きる気配がなくて…。もう…死んだんじゃないかって…。」
少し泣きそうな顔でずっと俺に話してくれる。それほど心配してくれてたんだな…。いい奴だ。
凪人「ふう…。何とかなったか…。」
レコードプレーヤーのような機械の近くにいる凪人が俺に話しかける。
俺「それはなんだ?」
凪人「これはレコードを入れると音楽が鳴るやつだ。なんか修学旅行へ行く前に部長に持たされたんだよ。もしあいつが何度起こしても起きなかったらこれを急いで使えって。」
俺「へえ~。よくわかんねえからいいや。」
凪人「俺も同じ感想だぞ。」
そんな話をしていると、部屋をノックする音が聞こえる。
荒川「おーい、大丈夫か?ずっと起きないっていうから急いで保健室の先生を呼んだんだが…。」
凪人「大丈夫です。色々あって何とか起こせました。」
荒川「ならいいんだが…。これからもちょっとでも体調に異変があったらすぐに言えよ~。」
凪人「わかりました。ありがとうございます。」
そういって先生は去っていったんだが…。…ノックの音がしばらくトラウマになりそう…。