第10話 あいつの正体とは…
俺は咄嗟にそいつの顔面を蹴り飛ばす。数ある選択肢の中からなぜ蹴り飛ばすことを選択したのかは分からない。けど、蹴ることが他の選択肢よりも一番速く行動できる手段であったことは確かだ。
その蹴りは相手の顔面に直撃し、仮面が少しへこむ。そして怪物の体が少し奥に吹っ飛び壁と衝突する。
その瞬間、俺はベッドを出て急いでエレベーターへ向かう。そして一番上の階のボタンを押して急いでエレベーターの閉めるボタンを連打する。
怪物「お待ちくださーい。逃げてようとしても無駄ですよー。」
部屋を出た怪物が急いでエレベーターまで走ってくる。ドアがゆっくりと閉まる中、怪物がドンドンと近づいてくる。
そして、怪物がこっちが見えるほどまで近づいてきた。扉は後2秒で閉まる。俺は扉がゆっくりなことに焦りながらもひたすら閉まることを願い続ける。
怪物「逃がしませんよー。絶対に殺しまーす。」
そう言って目の前に来て包丁を振り下ろそうとする。その瞬間、扉はきれいに閉まり向こうからガンッと鉄と鉄を強く打ち付けたような音がした。
俺「ふぅ…。ひとまず安心だ…。」
俺はギリギリだが逃げ切れたことに安堵し、その場に倒れ込む。しかし、俺は自分が押した階のボタンを見て絶望する。俺は一番不吉な4階を押してしまっていた。
このエレベーターのボタンの中で唯一異様な雰囲気がある4階のボタン。その階は一体何があるのか…。もしかしたら地獄のような光景が広がっているかもしれない、そう考えると不安でいっぱいになった。
逃げ切れた安心と4階の不安で俺の中の感情はぐちゃぐちゃになり、少し涙が出そうになってしまう。でも、ここでくじけてはいけない。俺の中の何かがそう強く思わせてくる。
チーン
エレベーターが到達した音が鳴り、扉が開く。そこは白いコンクリートで作られた研究施設のような光景が広がっていた。
目の前には十字路があり、正面には研究室、右側には倉庫、と看板で書かれているが左だけは鎖などで封鎖されていて入るな危険という文字が赤色で書かれた看板が立っていた。一応、鎖は伏せて通れば通り抜けられそうではあるな。
まず俺は一番安全そうな右側の倉庫を探索する。さっきの蹴りで奴に物理的なダメージを与えられることに気づけたので、何か武器になりそうなものがないか探そうする。
倉庫の中は倉庫というより生物の保管室といったほうがいいのか、中には小さなケースや大きな檻の中に数多の動物たちが入っていた。
動物たちの中には息をしていない動物も少しいたが、ほとんどはまだ生きている状態だった。しかし、自分から動こうとする動物は誰もいない。みんな通り過ぎる俺をただ珍しそうな目で眺めていた。
奥へ進むと一つのパソコンを見つける。どうやら起動しっぱなしで画面はまだ光っている。
中の情報を調べると、この倉庫の残りの生物の数や実験結果などが記載されている。そして、その中にこの状況を打開する一つの情報が載っていた。それは猿夢の解除方法だった。
以下の文章はそのパソコンに記載されていたものだ。
猿夢の解除方法
1、この現状を夢と受け止めて、現実と区別をつけて起き上がる。
2,この現象は自分の夢と自覚し自分の都合の良いように考えて、最強になる。
3,どんな状況でも精神を安定させ絶対に不安にならないようにして助けを待つ。
とりあえず、3はあくまで最終手段だと思っておこう。多分向こうは今何しても俺が起きず、無理やり起こそうとしてるあたりだろうけど。
となると、一番最適というかどちらともこの現状を夢と受け止めないといけないのか。そういえばあまりにも現実とそっくりすぎて夢と認知していなかったな。なら、やってみるか。
これは夢だ。これは夢だ。これは夢だ。これは夢だ。これは夢だ、これは夢だ…
よし、一度やってみよう。起き上がるぞ。
その場でジャンプしてみるが何も起きない。ただ着地音が無音のこの倉庫に少し響いたくらいだ。
じゃあ次は俺が最強と思い続けないと…
少し経ったあと、俺は唱える。
俺「神よ!今我にその力をお与えください!」
俺の声が倉庫内に響くだけで他には何もなかった。まだちゃんと受け入れられてないのか。何度も繰り返す。それでも反応がない。
もう一度パソコンの画面を見ると、そこには違う画面が映っていた。
赤色の背景に「ここはお前の夢じゃない。」と黒文字で書かれていた。
俺は誰の操作もなく勝手に画面が切り替わっていることに驚きながらそのパソコンをいじろうとする。でもこちらの操作を受け付けていないらしく、こっちがマウスを動かそうが、キーボードを打とうが画面が何も動かない。
もうこのパソコンが使えないことに少しショックを受ける。このパソコンからはいろんなことを調べられたからもしかしたらここからの脱出方法も調べられたかもしれないのに。でもすぐに切り替えて倉庫を出る。ここには用はもうない。
脱出方法らしいものは見かけたかた。ならそれが成功するまで続ければいいのだ。安全な場所でただひたすらやればいい。ホテルの一室で隠れて受け入れられるまで続けるのが一番安全だ。
俺はエレベーターに入り、下の階のボタンを押そうとする。けど、4階以外のボタンがすべてなくなっている。つまりもう降りられなくなっているのだ。
俺「一方通行かよ…。しゃーねえ。ほかの場所も探索するか…。」
エレベーターの中で一人でそうつぶやき、また十字路に戻る。次は中央の研究室へと向かう。
白い廊下を渡り、奥の部屋に入る。奥の部屋は研究室で、たくさんの資料とブラックホールの模型のようなものが置かれていた。少し気になって資料などを少し読むと、そこにはタイムスリップや運命を変えることは可能なのか?ということを題材にした実験試料のようだ。いや、不可能だろ。時間は変わらない。どうあがいても変えられない。それは…。なんで俺はこんなことを唐突に思ったのだろう…。
自分が少し語ろうとしたことに疑問を抱きながら色々な資料を漁る。すると、紙の山に埋もれていた一つの気になる本があった。それは誰かの日記のようだ。
日記に書いてあったことを以下の通りにまとめる。(〇の部分は汚れて見えなくなっている。)
〇〇00年〇月12日
大切な人を◯った。もう終わりだ。俺が無力だから。俺が◯かったから。何もできなかった。これ以上この日記を書く気も起きない。
〇005年3月〇日
この日になると、いつも◯い出す。〇〇の存在を、◯力だった自分を。その後悔は今でも続いている。現に俺は◯学者になった。元から自頭はいい〇だったがそれでも猛勉強をした。もし、やり〇〇〇なら。もし、〇〇〇来が変えられるなら。それならいくらでも◯張ろうと思える。
〇〇〇〇年9月1〇日
今日、タイムリープにな〇〇うなヒントを見つけた。ブラックホー〇〇〇辺はどうやら時〇の流れが遅くなるらしい。もし〇したら、これを使えば行〇〇のかもしれない。過去へ戻れるかも〇〇ない。
これ以上はびりびりに破かれていて、文字を読むことすら不可能となっている。でも、タイムリープにブラックホール…。そのすべてがこの部屋にある。つまり、ここはその研究者の場所なのか?なら、もしかしたら、あの俺を殺しに来る奴はその研究者なのかもしれない。なら、もしかしたら説得させられるかもしれない。そうすれば脱出できるかもしれない。
そんなことを考えていると、急にバンッと大きな音を立てて扉が開く。そこには包丁を持った猿の面をしたさっきまでの奴がいた。
俺「なあ、お前はもしかしてこの研究者じゃないのか?」
俺はゆっくりと柔らかい声で話しかける。