* プロローグ *
※文章の執筆に、ChatGPTを使用しています。
「チキンとエール、置いとくぞ。遠慮なく楽しんでくれ!」
長身の若き女騎士が、料理とエールを一つひとつ手際よく長机に並べていく。
ディープワインの髪が背中で陽を受けて揺れ、飾り気のない端正な横顔に、凛とした気配が宿っていた。
「隊長、俺たちでやりますって! そんなことまでしなくても」
大柄な男騎士が、どこか困ったように笑う。
だが彼女は笑って、エールの樽を抱えたまま首を横に振った。
「隊は人で成り立つものだ。私はその中でも、いちばん支えられてる立場。
だからこそ、これぐらいやらせてくれ。――今日は、君たちを労う日なんだから」
彼女の名は、リシェル・グレイスフォード。
新たに編成された王国騎士団第三部隊の隊長である。
今夜は、各部隊の顔合わせと、新人騎士たちの歓迎会を兼ねた宴だった。
騎士団本部の広間にはいくつもの長机が並び、料理やエールの香り、笑い声、杯の音が入り混じっている。
その中で、リシェルは料理を運び、エールを注ぎながら忙しく立ち働いていた。
隊員たちは口々に「らしいな、隊長」「ほんとありがたい」と笑い合い、和やかに杯を交わす。
だが――
その輪の少し外れたところに、一人だけ離れて座っている青年がいた。
ノア・ディアスフィールド。
侯爵家の令息にして、この第三部隊に配属された新人騎士。
銀灰の髪が光を受けてきらめき、蒼の瞳が静かに瞬く。
息を呑むような美しさと、隠しきれない気品が、ただ座っているだけで際立っていた。
その外見と、貴族の家柄のせいか――
彼に声をかける者は、まだ誰もいなかった。
(……なるほど)
その空気を感じ取ったリシェルは、何の躊躇もなくノアの隣に腰を下ろした。
「浮いてるな」
唐突な一言に、ノアは一瞬きょとんとした顔を向けた。
けれどすぐに、困ったように目元を細めて、ふっと笑う。
「……そうですね。自覚はあります。慣れてますから」
「だろうな。侯爵家の令息が入団なんて異例だ。皆も戸惑うのは仕方ない。
けど、入団式で団長が言ってただろう?」
リシェルは真っ直ぐな眼差しでノアを見た。
「志を持つ者に、身分は関係ない。私はそのつもりで接するよ」
彼女の言葉に、ノアはふっと目を伏せる。
そして、少しだけ口元を緩めて、リシェルを見上げた。
「……ありがとうございます。そう言ってもらえるの、すごく嬉しいです」
ノアはそう言いながら、まっすぐリシェルを見つめた。
深い青の瞳が、真剣な色を帯びて彼女だけを捉えている。
不意を突かれたように、胸がわずかに跳ねる。
けれどノアはすぐに目をそらし、柔らかな表情を取り戻していた。
(……何を動揺してる)
静かに吐息を吐き、切り替える。
するとノアは、ゆるりと席の方へ身体を向け、やや声を張って言った。
「ノア・ディアスフィールドです。今日から第三部隊に配属されました。未熟者ですが、よろしくお願いします!」
その一言で、凍っていた空気がふわりと緩む。
最初に反応したのは、先ほどリシェルに声をかけてきた隊員だった。
「おう! 一杯やれ、ノア!」
「ようこそ三隊へ!」
「フフ、かわいがってやるよ!」
酒の入った隊員たちは気が大きくなっていたのか、次々に杯を掲げてノアを歓迎する。
ノアは少しだけ目を見開き、驚いたような顔をした。
けれどすぐに表情を和らげると、自然な笑みを浮かべて杯を受け取る。
その姿を見つめながら、リシェルは微笑んだ。
「お、盛り上がってるな」
低く太い声とともに現れたのは、騎士団団長・ガロスだった。
隊員たちが一斉に振り返り、敬意を込めた視線を向ける。
「団長、お疲れ様です!」
リシェルがすぐに立ち上がり、近づいて頭を下げる。
そして料理の皿とエールの杯を手に取り、席の一角を指し示した。
「こちらへどうぞ。料理もできたてです」
「おう、すまんすまん」
ガロスは豪快に笑いながら席につき、すすめられるままに椅子に腰を下ろす。
すると手元にあったもう一脚を叩いて、にやりと笑った。
「リシェル、まあ座れ。隊長がずっと立ってちゃ落ち着かん」
促されるまま、リシェルもその隣に腰を下ろす。
その姿を見ながら、ガロスはふっと目を細めた。
「見習いから入って、もう十一年か。……あのとき十二歳だったおてんば娘が、今じゃ第三部隊の隊長だ」
その口調に、わずかな誇らしさがにじんでいた。
「アイツも、きっとあっちで喜んでるだろうよ」
その言葉に、リシェルの胸がきゅっと締めつけられる。
――父の顔が、ふと脳裏に浮かんだ。
あの穏やかで厳しく、そして誰よりも優しかった笑顔。
たった九歳で失った、かけがえのない記憶。
「……はい。次の休暇に、墓前で報告します」
「そうか。……うん、それがいい」
ガロスは一度だけ小さく頷き、杯を飲み干すと、肩を軽く叩いた。
「これからも、頑張れよ。お前なら、きっと大丈夫だ」
「……はい、ありがとうございます」
短いやり取りだった。
だがその言葉のひとつひとつが、リシェルの胸にじんわりと沁み込んでいく。
ガロスが空になった杯を軽く掲げると、
リシェルはすぐに樽の傍へ歩み寄り、木製の柄杓でエールをすくった。
泡立つ琥珀色の液体が、なみなみと杯に満たされていく。
「まあ、一杯のめ」
ガロスは嬉しそうに片眉を上げ、にやりと笑った。
「はっ。では遠慮なく」
リシェルは小さく笑って受け取り、ぐいと杯を傾けた。
喉を通るエールが心地よく、宴の熱気にすっとなじんでいく。
「ぷはっ……染みますね」
豪快に飲み干して笑うその姿に、周囲からどっと笑い声が上がった。
その様子を、ノアは静かに見つめていた。
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