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Unmade -歪みし世界の中、人身御供となりて奏でた仮初めの青春譚-  作者: イチジク浣腸
仲間

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それでも、前を向く

フィリップ・ド・ベルモンド、アルフレッド・ヴァルディア、ヴィクトリア・リュシアの三人は、荒れた戦場に立っていた。瓦礫が散乱し、煙と硝煙が空気を濁す中、足元は揺れ、地面に血と泥が混じり合っている。彼らの周囲には、倒れた訓練仲間たちの姿があちこちに見える。骨折や裂傷を負い、無理をして戦い続ける者もいれば、深手を負って動けない者もいるが、まだ死に至ることはない。


ヴィクトリアは、心の中で何度も何度も呟いた。

「これは訓練だ――ただの訓練のはずだ」と。

恐怖に慣れるための、ただの試練。だから大丈夫。逃げる理由なんてどこにもない。


だが、足は震え、喉の奥がぎゅっと詰まる。

視界の端で誰かが倒れ、呻き声が響くたび、胸が締めつけられた。


「こわい……でも、逃げたら……」


涙が零れそうになる。

ここで泣けば、本当に崩れてしまう気がして、必死にこらえた。

これは訓練、あくまでも訓練――


……そう思いたかった。


(違う。これが“訓練”だって? 本当に?)

思考は何度も同じ場所をぐるぐる回り、心は冷たく沈んでいく。

鼓動は耳を叩き、呼吸は浅く途切れた。


目の前の光景は、あまりにもリアルだった。


ヴィクトリアの足元は泥と汗でぐちゃぐちゃに濡れていた。

汗で張り付いた戦闘服は肌にへばりつき、もはや自分の体とは別の重りのようだった。

震える指先は、自分の感触すら信じられなかった。


「こんな……こんなはずじゃなかった」


それは、誇り高き王族の娘の声ではなかった。

幼い子供のように壊れかけた、か細い声だった。


鼓動が耳を打ち、呼吸は浅く断続的に途切れる。

視界の隅で仲間が崩れ、呻く声が確実に彼女の心を砕いていた。


足は震え、膝が泥に沈む。

膝をついた瞬間、冷たさが骨まで染みわたった。


「私、もう……立てないかもしれない」


心の叫びは消え、虚ろな瞳は遠くを見ていた。

しかし、その中で確かに響いていたのは、彼女の“尊厳”が破壊されていく音だった。


それは静かで、残酷だった。


誇りも強さも、薄皮のように剥がれ落ちる。

崩れた心の断片は泥の中で重く沈んでいった。


強さを失い、ただの「一人の女」として曝け出される瞬間――

美しくも痛ましい、深い痛みと諦念。


叫びは出ない。涙も流れない。

ただ静かに、壊れていく。


それは痛みであり、諦念であり、厳しい現実の証明だった。


――だが、誰も救いには来ない。


それが戦いだ。

それが、ヴィクトリア・リュシアの今だった。



「このようなものが立っているとは…」フィリップ・ド・ベルモンドは目の前の巨大な影をじっと見つめ、息を呑む。しかしその表情には、恐れを感じさせることはなく、むしろ冷徹な判断力が光っている。「それでも、俺たちは進むしかない。」彼の胸中で、いくらかの覚悟が固まる。その強い意志が全身に走り、動ける範囲で最善を尽くす決意を固めていた。


アルフレッド・ヴァルディアは、見上げるほどに大きなゴーレムに一歩踏み出す勇気を振り絞る。足元にひび割れた地面が広がり、足を踏み外せば大怪我は避けられないだろう。だが、それでも訓練だからこそ、自分の力を試さなければならないと思い直して、背筋を伸ばす。「どうしたら、この巨体を打ち崩せるのか…」頭の中で数多の戦術が駆け巡るが、どうしてもゴーレムの巨大さに脅威を感じずにはいられない。だが、ここでひるむわけにはいかない。


「やるしかない、もう後戻りはできん。」アルフレッドは何度も自分を鼓舞しながら剣を構え、前に進む。


泥に沈む膝が、重たかった。

震える拳は、もう何を殴るためのものかもわからなくなっていた。

ただ、自分が「高名な貴族だから」「教官が見ているから」と、

そう言い聞かせ続けるしかなかった。


崩れかけた尊厳は、まだ足元に落ちていた。


(……それでも、まだ、私は――)


拳がわずかに動く。

指に力が戻る。


「こんな場所で、終われるものか。」


声はかすれていた。

だが、それは確かに彼女の意思だった。


恐怖は消えない。

消えないまま、共に進むしかなかった。


ゴーレムは、そこに立っていた。

巨体は動かず、まるで試しているようだった。


ヴィクトリアは唇を噛み、立ち上がる。

泥を踏みしめ、足に力を込めた。


震える足でも、進むことはできる。

拳が震えていても、殴ることはできる。


背後には、倒れた仲間たちがいた。

だからこそ、立ち上がらなければならなかった。


逃げたい自分も、泣きたい自分も、今は全部そのまま背負って。


彼女は、前を向いた。


――負けてたまるか。彼等の想いを背負っているのだ。


三人は、それぞれ異なる感情を胸に、ゴーレムへと立ち向かう覚悟を決めていた。どんなに骨折しようとも、どんなに痛みを感じようとも、訓練が命をかけた試練ではなくとも、彼らはそれを乗り越えることで成長し、次の段階に進むために立ち続けた。恐怖とともに、ゴーレムの進撃が迫るが、それでも立ち向かうことを選んだ。


ゴーレムは一歩一歩を踏みしめるたび、その重みが地面に深く刻まれ、周囲の空気が震える。だが、三人はその威圧感に屈することなく、ただ自分たちの進むべき道を信じて戦い続ける。それが訓練であり、成長への第一歩なのだ。

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