堕天と魔王の語らい
「人技」とは、人間の限界を超越した特殊能力であり、選ばれし者にのみ発現する力。
これは魔法とは異なり、**生まれ持った特異性や精神性、経験の極限により形作られる「唯一無二の力」**である。
誰もが扱えるものではなく、また人族にのみ発現する。強力な人技は王侯貴族や特異な血筋の者に多く見られる。
名称:神魔招来
分類:召喚・神魔依存型・自己行使可
■ 概要
神・悪魔・天使など、高次元の存在を一時的に降ろし、その力を直接行使する召喚型の究極技。
召喚された存在は意識を保ちつつ、召喚者の意志に基本的に従う。言わば「従属させる召喚」であり、支配と契約の両面を併せ持つ。
*一部例外は契約した存在をストックし、状況に応じてノータイムで召喚・融合が可能。
融合中は召喚対象の能力を召喚者自身が使える。
通常は一体のみ降ろすのが限界だが....
格上との契約には高位存在との取引・対価が必要。内容は非公開だが、“魂の欠片”を差し出すこともあるという
午前十時。
レタルは、そこに立っていた。
既に一度は沈黙したはずのゴーレムたちが、再び動き出してから、僅かな時が経っただろう。
彼はただ、その異形たちの列を、黙して見つめ続けていた。
「強いには強いけどね……せいぜい中の下ってとこか。共闘するまでもない、がっかりだね。」
軽く右手を振る。指先に灯ったのは、夜を喰らうごとき漆黒の魔力。空気は低く唸りを上げ、刃のように裂けた。
先制の一撃。詠唱の儀を省いたまま風を切り裂き、放たれた《嵐王ノ羽搏(ラン=グラスタ)》が、風鳴のごとく疾り――ゴーレムの頭部を、寸分違わず穿ち抜く。
――はずだった。
だが、ゴーレムはその直前、わずかに首を傾け、まるで時が止まったかのように、攻撃を“避けた”。
「……あ?」
一瞬、思考が止まる。
反射ではないし、偶然でもない。まるで「軌道を読んだ」かのような動きが、確実に目の前で繰り広げられていた。
次の瞬間、残りの三体が一斉に動き出す。包囲網を築き、高出力の物理攻撃が迫る。挟撃――その動きはまさに、計算された戦術のように精緻である。
──素早い。
レタルは回避を試みる。しかし、その選択さえも、どこか違和感を覚える。まるで、自分の意図が先読みされていたかのような、予測された動き。
《嵐王ノ羽搏(ラン=グラスタ)》を放つが、その攻撃は、まるで水面に落ちた石のように、あっさりと相殺されてしまった。
「……いや、待て。今の一手、もしかして――先程放った私の攻撃を、模倣し、咀嚼し、己の術へと昇華したというのか? 馬鹿な、そんな道理が……」
瞬間、脳裏に稲妻が奔り、思考が火花を散らすように駆けめぐった。
(これは……そうか。こいつら、私の魔法、もしくは魔力など根源の構造を読み解き、己の殻に取り込んでいる。適応している……もし魔力に適応しているなら非常に厄介極まりない。)
理解が脳裡を過ったときには、すでに遅かった。
四方は密やかに封じられ、立つ足元さえ、まるで逃げ道を拒むように圧迫の気を孕んでいた。
けれども、レタルは――ふと口端を吊り上げる。
「ようやく面白くなってきたじゃないか」
その声音には、怯えも苛立ちもなかった。ただ純粋な、高鳴りだけがあった。
戦いの中に在る者の、本能が歓喜を知る時のそれである。
レタルは
(外殻が硬い。今の私では体術で押すにも限度がある。)
魔法を散らしても、相手は即座に適応し、無効化する。
その機構はまるで、戦いそのものを愉しむ“模倣の獣”。
だが、レタルは知っていた。適応とは、真の意味での理解ではない。
模倣の域を出ぬ知識には、限界がある。
「なるほど、試してくるじゃないか……なら、こっちも“やり方”を変えよう」
レタルは殴った。
拳は鋭く、空気を裂く直線を描いた。
だが、打撃の直前。ゴーレムの首がわずかに傾いた。
反射ではない。――読んでいる。こちらの動きを。
レタルの拳は空を切り、拳の重みがそのまま身体に返ってくる。
地面がわずかにひび割れ、足場が揺れる。だが、彼は瞬きすらしない。
「……やっぱりな。お前ら、こっちの動きを“学んで”やがる」
半歩、後退。槍の穂先が頬をかすめる距離。ミドルレンジ。
ゴーレムの右腕が振り上がる。重い。直撃すれば肋骨ごと砕かれる。
だが、レタルは肩をひねり、刃のように腰を回転させ――
すれ違いざま、右足の内側でゴーレムの膝を刈り上げる。
手応えは、ない。
(外殻が硬い。今の俺では、体術で押し切るには限界がある。)
脳が高速で回る。
同時に、全身の感覚が冴え渡る。足裏の重力、空気の密度、敵の殺気。
まるで時間がスローになったかのように、戦場のすべてが見える。
――力で砕けぬなら、流れを変える。
「だったら、“手札”を変えるだけさ。」
レタルの脚が、爆ぜた。
風を纏い、空を裂く勢いにて一気に距離を隔てる。
相対するは、もはや触れ合わぬ遠間――完全なるロングレンジ。
その一挙手一投足、まるで修辞の中に生きる漢詩のごとし。
獣の如く猛りながら、どこか人知の及ばぬ静謐を孕んでいた。
「さて、舞台は整った。次は、我が言葉をお前に届ける番だ」
…そんな気配を、彼は足元に漂わせていた。
「神魔招来――」
その言葉が口から漏れると、空間が裂け、無数の魔力の光が彼の周囲に集まる。
「我は呼ぶ──高天に在りし者、地に堕ちし光の残滓よ」
「知を授けし裏切りの星、《見張りの王》よ。名を、呼ぶ──
サミーザ……」
雷鳴のような音が空を裂き、虚ろな空間から姿を現したのは、人とも獣ともつかぬ異形の者だった。
漆黒のローブに身を包み、顔の半分はひどく焼けただれている。
引きずるように重たく翼を広げ、金色に淡く光る双眸で、男はレタルをまっすぐに見つめた。
サミーザ――堕ちた“見張り”、かつて天界の叡智を人に洩らした背徳の者。
「……貴様か。あのとき、よくも私を倒してくれたな、人間。」
声には怒気も嘲りもなかった。ただ、深い倦みと、どこかしら未練の混じった調子が残るだけだった。
それでも彼は、またレタルの前に姿を現した。
――敗北という名の鎖に繋がれたまま。
サミーザは、ふっと鼻で笑った。
「貴様、何用あって我を呼び出した」
レタルは、ひとつ息を吐き、静かに応じた。
「おそらく、私の魔力や命気などでは効かない。
目の前の奴ら──ゴーレムを倒す手段が、今の私にはない」
そして、短く言い切る。
「力を貸してほしい」
沈黙が落ちた。
やがてサミーザが肩を震わせたかと思うと、喉の奥から笑い声が漏れた。
「良いきみだ。我を下した人間が、チンケな人形に手こずるとはな」
声に嘲りの色はない。ただ、どこか皮肉めいた愉悦が滲んでいる。
「良かろう。力を貸そう。だが忘れるな──この屈辱は、貴様の魂に延々と刻まれることになる」
サミーザの双眸が妖しく輝いた。その直後だった。
──ゴンッ!
轟音とともに、岩でできた巨腕が横薙ぎに振るわれた。
回避も叶わぬまま、サミーザの身体は宙へと弾き飛ばされる。
空中で一度、ゆるやかに回転し――そのまま地面に叩きつけられた。
激しい衝撃とともに土煙が舞い上がり、大地が低く唸る。
「……なるほど。油断も隙もないか」
砂塵の中、ゆらりと立ち上がる影。
サミーザは口元の煤混じりの禍々しき血を指でぬぐい、薄く、しかし確かに笑った。
その笑みには怒りの色はなかった。
あるのは、久しく忘れていた“興”。
退屈という名の眠りを破った、かつて天使だった者の、深淵の悦び。
「しかし……こんなものか。」
その一言で、ゴーレムの力を侮ったわけではないことがわかる。サミーザはその巨大な体を前にして、わずかな間をおいてから足を踏み込む。
「よかろう……殺す前に、少しだけ遊んでやろう」
ゴーレムは無骨な腕を振り上げ、その巨拳をサミーザめがけて叩き落とす。
大地が呻き、空気が震えるその一撃――しかし、サミーザは寸前で身をひねり、風のようにかわしていた。
まるで、重力という概念すら拒むかのような動き。
それは人の域を逸した、なめらかで、異様に静かな回避だった。
「……ただの物体にしては、なかなか面白い動きをするな」
唇に笑みを浮かべながら、サミーザは足元を滑るように後退する。
その眼差しは笑いとは裏腹に、凍てつくように冷たい。
ゴーレムが再び腕を引き、今度はさらに力をこめて拳を振り上げた。
だがサミーザはその動きすら、すでに計算の内にあるとでも言わんばかりに、目を逸らすことなく、ただ黙して相手を見据えていた。
その眼差しには声があり、言葉以上の意志が潜んでいた。
その瞬間――サミーザは、指を鳴らした。
音はしなかった。
だが、空気がわずかに震えた。世界の理が、目に見えない形で捻じ曲がった。
ゴーレム達の核たる魔石が、一瞬だけ蒼く点滅する。
その瞬間、「契約」は刻まれた。
《汝、この地にて動くことを禁ず》
言葉など不要。ただ、その存在に「掟」が植え込まれる。
次の瞬間、ゴーレム達がわずかに脚を動かす。
……音もなく、その膝から下が砕けた。
「……なるほど。無理にでも抗えば、そうなるか」
サミーザの瞳は冷ややかに光り、まるで自然の摂理を見るかのような静けさでそれを見下ろす。
ゴーレム達はもがき、再び動こうとする。が、そのたびにどこかが砕けていく。崩れ、剥がれ、粉になる。
「ルールを破るたび、魂の器がひとつ、剥がれる」
そう呟いたサミーザの声すら、裁きのように響く。
やがて、魂ごと肉体が崩壊したゴーレム達は、ただの塊となって沈黙した。魂を壊されたまま、救いも赦しもなく。
「……終わりか?」
サミーザが問いかける。声には興味も失せたような、乾いた響きがあった。
「ひとまず、私の周りは片付いたよ。」
レタルは肩の埃を払いながら、静かに答えた。
「だから、もう帰っていい。」
「ふん……貴様ら下界の民は、本当に身勝手な連中だ、度し難い。
だが、それもまた、神のような、力を持つ者にしか理解できぬことだろう。」
サミーザは、まるでそこに残るものを、赦すことすら許されぬかのように、言葉を吐き捨て、静かに踵を返した。そして、まるで薄い霧のように、そこから消えていった。
その姿には、もはや何の感情も宿っていないかのように見えた。
サミーザをアッシーにするなんて、レタル君、ほんとにすごいですね。
まさかあの堕天使が、レタルの「使い魔」になるとは…。
正直、最初はこんな展開になるとは思ってもいませんでしたが、レタルのあの力が、サミーザを手懐けちゃうんですから、さすがです。
もちろん、サミーザ自身は内心ムカついているんでしょうけど、それでもどこかしら楽しんでいる感じがしませんか?
こんな形でサミーザが活躍(?)するとは、思いもよらなかったですね。
それでは、次回もお楽しみに!




