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三つ巴

帝都レインバルドにある、帝国軍直属士官育成機関《セラフィエル学園》。


そこでは、春の風よりも冷たい選別の儀が行われていた。


無数の少年少女たちが、軍帽と制服をまとって、聖堂のような大理石の間に整列している。

威圧感すらある厳粛な空間。その中央に鎮座していたのは、神代の魔力を宿すとされる測定結晶アストラ。


帝国の人材を選ぶのは、試験官ではない。

魂の形を測るのは、この《アストラ》だけだ。



別会場:南塔第7ホール


「次、レタル・レギウス。」


響く名。誰もが注目した。


あの“レギウス”の名。


イデアトラの王家中でも、とりわけ異邦の血を色濃く宿し、力を求めて幾度となく異民族や異種族と交わり続ける、謎多き家系である。


政界を牛耳るヴェルディーニ家、芸術文化を支えるフィオレンツィ家、騎士道の誉れ高いカヴァリエーリ家、魔法技術に秀でるバルディーニ家──いずれも王家の血を引く貴族や主要な分家に連なる名門であり、イデアトラ半島の屋台骨を支えてきた。


だが、レギウス家はそのどれとも異なる。正統を飾るでもなく、美徳を誇るでもなく、ただ力のために鍛え上げられ、しばしば「王家の兵器」と呼ばれて恐れられてきた。


かつて、フロランティーヌ帝国の雄、ルシアンは大陸全土に権力を及ぼす野望を胸に、ルミナ教皇領を奪い支配下に置いた。

しかし、その支配は長く続かなかった。

レギウス家は鋼の意志と軍事力でこれを奪還し、教皇の信任と認証を取り戻したのである。


教皇はついに、レギウス家をイデアトラの正統なる王家と認め、その頭上に神の名を借りた冠を授けた。

その認証は単なる宗教儀式ではなく、長きにわたる政治的駆け引きと、密やかな取引の果実であった。

権力こそが正統を形づくる――その厳然たる現実の証である。

無論、反対する声は存在した。だが、彼らは武力の前に屈し、あるいは外交の網に絡め取られ、やがて口を閉ざし、記録の中からさえ消え去った。

歴史は勝者のために綴られる。紙上には「レギウスの必然的勝利」とのみ記され、その裏に渦巻いた裏切りと流血と策謀は、闇へと葬られていった。

こうしてイデアトラ半島は統一され、現在の王位は、力と正統性の両輪を手にしたレギウス家のものとなった。

その支配の下において、異議を唱える者はもはやいない。

力が正義を定め、正統をねじ曲げる。

民はそれを疑うことなく受け入れ、強者こそが支配者であるという世界の理を、当然のごとく信じ込んだ。

――だが、その王権はあまりにも重く、あまりにも脆い均衡の上に築かれている。

圧倒的な威光に覆われたレギウスの支配は、すでに揺らぎの芽を内に宿していた。


そして今、学園に現れた少年は、その名を背負いながらも、なお一層謎に包まれていた。

誰の子であるのか、何のためにここへ送り込まれたのか、皆が知り得ぬその秘密は、ただ一つ確かなことだけを語っていた。

それは総監シュヴェルト・レギウスの手引きにより、この学び舎へ入学したということである。


長い睫毛の奥に覗く瞳は、遠く夢見るように揺れつつも、すべてを見透かすかのごとく冷たく輝いていた。


「ふぅ……どうせ、測られるのは皮一枚の波紋だけさ」


呟き、レタルは《アストラ》に触れる。


次の瞬間、部屋が呻いた。


光が破裂したかと思えば、結晶体が悲鳴を上げるような音を立てる。

天井に届く魔力の奔流。周囲にいた訓練士たちが距離を取る。


「し、審査停止!結晶が焼損しかけている――!」


「こいつ……本当に十五歳か?」


「放出量、統計史上最大……人間の域を逸脱している……!」


少年は、ただ笑っていた。


「ああ、やっぱり“普通じゃない”ってさ。母さん。」


誰に言うでもなく、誰にも届かない言葉を残して、彼は歩き去った。

その背に、“化け物”という視線が静かに付きまとう。



同時刻:北塔特別室


「次、ノア・エヴァンス。」


一瞬、部屋がざわめいた。

“セフィラ王国の王子エヴァンス”――その噂だけが、まるで呪いのように周囲に広がっていた。


ノアは静かに前に出た。

彼の足取りには、恐れも誇りも、何ひとつ宿っていない。


ただ静かで、透明で、まるでこの世界にすら興味がないようだった。


《アストラ》に触れたとき――


部屋は音を失った。


結晶は、まるで震えるように淡く脈動し、中央に“完璧な円”が浮かび上がった。

誰もが見たことのない精緻な魔力波――ノイズひとつない、絶対的な制御。


「……制御率、100%。誤差ゼロ。」


「やばい……これは……制御どころか、結晶の出力を逆に“再構築”してる……?」


「……彼は……いったい何を見て生きてきたんだ……?」


ノアは、目を閉じていた。


“感じない”というより、“感じることに意味を見出せていない”ような表情だった。


少年はただ立ち去る。


まるで、この世界に何も求めていないかのように。



その夜、学園本部


「今年は……とんでもない年になりそうだ」


副学長がぽつりと呟いた。


「史上最強の放出と史上最強の制御、加えて史上最高値の魔力量。三人がこの学園に……同時に入った」


その名は、すでに教員たちの間でも囁かれていた。


レタル・レギウス。

ノア・エヴァンス。


......。


まだ出会わぬ、対をなす存在とライバル。


運命は、少しずつ、確かに動き始めていた――。

ノア・エヴァンス(Noah Evans)

•所属:《蒼鷲》

•立場:セフィラ王国王子

背景:

 女性にしか宿らないはずの「唯一神の力」を宿して生まれた、王家の異端にして奇跡の存在。

 姉・エルフィリス王女だけが彼を庇い、他の家族、とくに父王からは冷遇され、形ばかりの王子として扱われてきた。

才能・能力:

 魔導、剣術、騎乗、戦術――あらゆる分野に秀で、学園屈指の天才。

 中でも魔力コントロールの精度は学園No.1を誇る。

 しかし本気を出すことは滅多になく、人も簡単には信用しない。

 また、神の力はいまだ未熟で制御できず、その不安定さが戦闘にも波を生み、強さにムラがある。

性格:

 表向きは柔らかく、軽口も叩き、誰もが思い描く「王子様」の仮面を完璧に演じる。

 裏では退屈と孤独を見下ろすように冷たく笑い、誰もが想像する“孤高”のさらに上を行く冷静さを持つ。

一言で言えば:

 「天才すぎて、他人(秀才)の速度に合わせて生きている。」

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