フィナーレ
アブリミーナの体が膨れ上がり、闇そのものが具現化したかのような圧倒的な力が周囲を包み込む。視界を支配するほどに巨大な闇の塊がその存在を誇示する。
彼女の声が、雷鳴のように響く。
「ほう、レタル・レギウス。君もようやく目覚めたようね。だが、そんなものを見せられても――」
その眼差しは、まるで全てを見透かすように冷徹で、揶揄を込めて続けた。
「“王の力”だと? それで世界を変えるだと? そんなもの、私達にとっては些細なものだよ。どんなに“王の力”を示そうとも、私にとっては所詮、臆病者が背伸びしているように見えるだけだ。」
アブリミーナはその巨躯を揺らし、漠然とした笑みを浮かべる。自らが絶対的な力を持っていることを誇示するように、レタルに向けてゆっくりと歩み寄った。
「君が示したその“力”は、私の目には何も新しいものではない。ただの臆病な王の力にすぎない。」
彼女は止まり、レタルをじっと見つめながら、声を低く、挑発的に続ける。
「“絶対災厄”の力をまとった私達に、どう立ち向かうつもりだ? 貴様のその王の力が、いくら強力でも――」
その言葉の隙間に、闇が膨れ上がり、アブリミーナの体から渦を巻くように拡大した。
「全ては破滅へと向かう。私だの力の前では、無力さを感じるだろう。」
レタルがじっとアブリミーナを見据えたまま、無言で立ち尽くしていると、彼女はその沈黙を楽しむように笑う。
「王が“命令”を下したところで、何も変わらない。支配する力が無力であることを、君は早く学んだほうがいい。大人しくベルゼブブ様の器になれ。」
アブリミーナはその言葉を放ちながら、レタルに再び近づく。そして、一瞬思考を巡らせ声をさらに低く、挑戦的に囁いた。
「...良い、精精足掻き私に全てを示してみせろ。お前の“王の力”が、私に届くかどうかを。」
その言葉が空気を切り裂くと、周囲の闇が一層深く、強く、冷徹に広がっていく。
――アブリミーナの挑発に、レタルの瞳が静かに燃え上がった。
レタルの瞳が燃えるように光を帯びた瞬間――
天が裂ける。
命の風が舞い、空を焦がすほどの雷光が渓谷を覆った。
レタルが静かに、だがはっきりと言い放つ。
「その嘲りも、虚無も、ここで終わりだ。」
右手を掲げる。
空が応じる。
再び円形の“神の紋”が浮かび上がる。
「命と空に命ず――『天命奏起・雷鎚《ライ=ツォルン》』!」
天から雷鳴が降り注ぎ、アブリミーナの影を貫く。
だがそれでも、完全ではない。
「お前一人で決めるなよ、レタル!」
今度はノアが前に出た。
その手には、光の剣。
唯一神が与えた神聖の“原型”。
彼の内にある”神の力”が覚醒する。
「――仲間を“守りたい”と思った気持ちに、貴族も庶民も関係ないんだよ!なぁ、エゼル!」
ノアの一閃が、アブリミーナの巨躯を切り裂く。
闇の中に、光が走る。
「チッ……まだ足りねぇか」
焔をまとい、エゼル・ノクスが三人目として姿を現す。
コートを翻し、掌に漆黒の炎刃を灯す。
「オレの役は、最後に幕を引く“悪党”ってとこか……いいだろう。」
その刃は燃え上がる闇をも灼き尽くす。
「行くぞ、“共演”だ――」
三人の力が、一点に集約されていく。
雷が空を割り、光が世界を貫き、焔が闇を薙ぐ。
「『三命連律――終誓の断章』!!」
轟音と共に放たれる、三人の力の極致。
雷鳴、神光、黒炎が一つの“法”となって、アブリミーナに直撃する。
「これは……この力は… ルシファー...否、女王リリス、アルケス・ゼル=ネメスッ!!」
初めて、アブリミーナの声に“怯え”が混じった。
彼女の身体が砕け、闇が霧散していく。
「私を殺しても、何も変わらない、この世界は破滅へと続くぞ!!」
その断末魔は悍ましく、絶対災厄の象徴すら、もはや残響でしかない。
沈黙。
風。
凪。
崩れた闇の向こう、立ち尽くす三人の背に、ようやく陽が差し込んだ。
――終幕の時。
静かに、しかし確かに、世界は一つの夜を越えたのだった。




