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Unmade -歪みし世界の中、人身御供となりて奏でた仮初めの青春譚-  作者: イチジク浣腸
光と影

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災厄

天と地とが、まるで理を忘れたかのように交わり、善悪の境もまたあいまいとなる。

生と死の間にある薄膜が、今や風に揺れる簾のごとく震え、虚空を漂う黒煙は何かしら蠢く意志のように天を覆っていた。


世界が、音を喪った――そのようにさえ感じられたそのとき、

ふたりの若者が、確かに、声を交わした。


「行くぞ、ノア」

「……ああ、終わらせる」


エゼル・ノクス、《熾天葬セラフ・レクイエム

焔は抗う者の印にして、天に在りしものの赦しの証なり。

命気と融合し、まるで天帝の指が描いたかのような光の弧をなして、聖なる火雨がこの世を濡らす。

背には六枚の翼、熾天使の幻影が揺れ、

その足元に在るものすべて――悪しき因果、穢れ、呪い――を、静かなる慈悲と共に焼き尽くす。


ノア・エヴァンス、《滅影刃閃ネメシス・アヴァロン

その杖が放つ一閃は、神とて眼を背けるだろう。

断罪の意志が顕現し、神すら届かぬ領域――因果のさらに外――に白銀の光刃を伸ばす。

怒りと誓いがひとつとなったその剣は、時間の裂け目を裂き、空間を砕き、終わりを告げる“なにか”を呼び覚ます。


その瞬間。


ふたつの異なる光が重なり合い、そして融けた。


「《聖裁連歌ディア・レクイエム》」


天を貫く白銀の光刃と、地を焦がす神焔の奔流が交わり、

まるで天啓の交響が鳴り響いたかのように、大気が震え、光が閃き、

世界はしばし――永遠にも似た一瞬――時の歩みを忘れた。


「アブリミーナァアアアアアア!!」


その名を呼び、魂の限りを込めて放たれた一撃。

白と金とが織りなす光の奔流が、天地を同時に割り、

大地はその重さに耐えかねて裂け、空は光によって悲鳴を上げた。

黒煙もまた、逃げ場をなくして塵と消えた。


そして、すべては白に包まれた。


静けさが満ち、ただふたりの姿だけが、そこにあった。

杖を下ろしたノア。その傍らで、帽子を目深にかぶり直すエゼル。

ふたりの呼吸が、まだかすかに残る熱に溶けていく。


「……終わったか?」


ノアの呟きは、まるで幕が下りたあとの舞台に響く独白のようだった。


だが。


“ザリ……ザリ……”


その音は、灼け焦げた地を踏みしめる足音。

夜の夢の残り香のように、忌まわしくもかすかに、確かに。


その声は、血に濡れた囁きのごとく、耳朶をくすぶった。


「やれやれ、少しは骨のある演奏だったわ……

でも残念。まだ――“私”の本当の幕は上がっていないのよ?」


そこに立つはずのなかった者が、また立っていた。

焔に焼かれ、刃に貫かれたはずの、アブリミーナ?。


その唇が微かに笑んだとき、

ふたりの心に走ったものは、勝利の余韻ではなく――静かな戦慄である。


焦げた空。砕けた大地。沈黙した世界。


その中心に、なお立つ女。

しかし、もはや彼女を“アブリミーナ”と呼ぶには相応しくなかった。

人の皮をかぶった異形――“アスタロトとアブリミーナの意識が混在して生まれた新たなモノ”。

裏切りと憎悪をその身に宿し、神に牙を剥いた、かつて天に愛された哀れな亡者。


全身を包むのは、禍々しさと神々しさがせめぎ合う黒白の衣。

背に広がるは、闇を裂く六枚の黒翼――

そしてその中心、胸元には眩い銀の核が脈打っていた。


「……ッ、まさか……」

ノアの声はかすれ、何か決定的な“違和感”に気づいた様子だった。


堕天顕現アブソリュート・イミネンス


「これが……“真の私達”。

あの日、唯一神に裏切られ、私は神を殺すために目を覚ました。

それでもなお、人間を愛してしまった私を、愚かだと笑えばいい。

私は悪魔でも、天使でもない。

信仰を踏みにじられた魂――ベルゼブブ様に救いを求めた、ただの裏切り者よ。」


彼女の声は、すでに人のものではなかった。

冷たく、絶対的で、哀しみに濡れていた。



「夜の庭先に、透き通るような白い花がひっそりと咲いている。

月光のもと、その花の蜜を求めて、一匹の小さな蛾が翅を震わせ舞い降りる。

翅に映る淡き光は、星屑のごとく儚い。だが――


その蛾は、蜜の甘さに溺れ、炎の灯る燭台へとあまりにも近づきすぎた。

熱に怯むことなく、ただひたすらに輝きを求め、やがて翅を焦がし、身体は燃え尽きる。

花の香りも残さぬまま、無情にも闇へと消えゆく……。


私たちは知っている。

どれほど美しく、どれほど強く舞おうとも、

たったひとつの炎があれば、存在は簡単に塵と化すことを。


――ノア・エヴァンス。

あなたもまた、同じ道を辿る蛾なのだわ。

燭台の炎を「希望」と呼ぶのなら、どうぞその腕白な翅でその瞬間を確かめてみせて。


ただし──


最後に残るのは、灰と、跡形もない虚しさだけ。」


――“在ってはならぬ存在”

「絶対災厄」の、冷たく優雅なる嘲り。

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