名もなき兵士
命気
生命の活動に伴うエネルギー。鼓動、呼吸、血流...
命が動くことで生まれる“熱”。
怪我を治す、生体機能を高める、動物と意思を交わす、自然の生命力を感じ取るなどに使われる。
無理やり引き出すことはできず、溢れ出るように“湧いてくる”もの。
植物、風、水、大地──自然と心を通わせた者が呼び起こす力。癒しと破壊、両極の顔を持つ“生の力”。
極めると他者から得ることができる。
遠雷のように響いた第一発。
それはまるで、世界の重力が歪む瞬間だった。
――俺は、マギスフィア(一式特殊魔銃)のボルトを引き、冷えた鋼の感触を確かめた。
針金のように細いボルトを後ろに引き切ると、かすかな「カチッ」という音。
先端に練り込まれた雷の魔弾が、冷却ジェルをまといながら薬室に滑り込む。
一撃、また一撃と放たれるたびに、バレルの表面が熱を帯び、蒸気のような白い湯気を吹く。
冷却間隔は五秒。短いが、命取りにもなる――。
背後から薙ぎ払うように押し寄せる黒い羽音。
突風と共に現れたのは、大悪魔ベルゼブブの先兵――
無数の蝿の群れ。その一匹一匹が、獲物の肉を貪る食屍鬼のように獰猛だった。
「――貴様らは甘い!」
俺は膝を地につけ、次の冷却完了を待つ。
耳元でビリビリと雷鳴の余韻が消えゆき、辺りには薬莢の焦げ臭さと、湿った土の匂いが交じる。
六発目の魔弾が装填されると同時に、俺は引き金を絞った。
「ドンッ!」
鋼の後座力が肩を叩き、衝撃が全身を駆け抜ける。
雷光は蝿の群れを貫き、幾体かを地に叩き落とした――が、刹那の勝利に過ぎない。
群れはその残骸を乗り越え、薙ぎ払うように押し寄せる。
冷却時間は、再び五秒。
その間に俺は、側面のサブマガジンから新たな雷魔弾を取り出し、慎重に薬室へ装填する。
薬弾一つにつき、炎属性・氷属性・雷属性の腐化を防ぐための魔導結晶が焼き切れないよう、
指先で転がすように状態を探りながら。
「クソ……間に合わねえ!」
冷却ゲージが赤い警告を点滅させた瞬間、背後から氷の牙が襲いかかる。
振り返りざまに拳銃を抜く。これもまた、片手で撃てる古式魔弾銃――だが射程は短く、威力も落ちる。
ひと息で引き金を二度引くと、氷の結晶が砕け散る音が近くで響いた。
気づけば、隣の仲間は既に倒れていた。
胸に巻かれた魔道証明の印章は暗く翳り、
ドッグタグは、微かな音を立てて揺れていた。まるで命気が凍結したかのようだ。
彼の冷たい瞳が、俺を見ていた。
「やめろ……」
その唇が動いたかどうかもわからぬまま、俺は立ち上がる。
冷却完了のランプが青く光る。
瞬間、俺は再びボルトを引き、雷の魔弾を撃ち放った。
「ドゥルルル…」
連続射撃ではない。咄嗟の単発一発。だがその一発に、俺の全てを込めた。
群れは消え、空気が静寂を取り戻す。
だが、安堵の余裕はなかった。
ベルゼブブの咆哮が、遠くの空に反響している――まるで、世界そのものが呻いているかのように。
俺は吐き出すように息をつき、魔銃のボルトを静かに戻した。
戦えるかどうかじゃない。
戦い続けられるかどうか――それが今、この掌に問われている。
魔弾の煙と血の匂いが交じる中、俺はただ一言呟いた。
「死は望むところ、か…?」
学園の鐘は、どこまでも遠く。
あの鐘が、間違いなく俺を許すはずもない。
しかし俺は、まだ――生きている。
この銃口の彼方へと。




