表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Unmade -歪みし世界の中、人身御供となりて奏でた仮初めの青春譚-  作者: イチジク浣腸
光と影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/138

唯一神と八百万の神


「――サミーザの御使い、再びこの地に舞い戻れり」

地が鳴った。空が震えた。

黒き風が吹き荒れ、天と地の狭間が裂ける。


そして、現れた。

それは巨人――いや、“堕ちた神の子ら”の末裔。


ネフェリム。


旧約聖書の中で語られた、神の子と人の娘の間に生まれし存在。

かつての天界の規律を犯し、禁忌の血から生まれた巨人たち。

世界が神の怒りに触れ、洪水で粛清されたはずの“異形の血族”。


その一体が今、現世に顕現した。


「オギァァァァァァァ、ホギァァァァァァ。」


ネフェリムの咆哮が、大地を裂いた。

空が哭き、地平が震える。

人の理を超えた力が、ただ“存在している”だけで、世界が崩れそうだった。

だが、その渦中で——

ノア・エヴァンスは、まるで散歩のような足取りで、巨人へと歩を進める。


「でかいなぁ」


そう言って、片手を軽く上げた。

まるでじゃんけんで負けた子供が、仕方なく手を挙げるような動き。


だが——次の瞬間、**神の言葉ロゴス**が、世界を塗り替えた。


「――凍てろ。」


言葉と共に放たれた蒼の光が、直線的にネフェリムの胸を貫いた。

まるで天の法が告げられたかのような一撃だった。


命気レーベン魂気ゼーレンが融合した“神業”。

それは、ノアにしか扱えない“唯一神の継承者”たる証。


ネフェリムが崩れた直後、

霧が立ち込めるように空気が変わった。


「まだ……終わってない!」


遠くから、召喚者の声が響く。

黒衣の男、その手の甲には歪んだ聖痕スティグマ

** 血塗ラレシ啓示オルカーネイション**の術者——

**血塗ラレシ啓示オルカーネイション**の使い手が、第二の召喚を試みる。


レタルは目を細め、即座に詠唱を始めた。


「風よ、駆けよ——《乱流陣テンペスト・リング》!」


彼の足元に魔法陣が浮かび、空気が唸りを上げる。

突風が渦を巻き、敵の詠唱を遮るように切り裂いた。


男のローブが裂け、顔が露になる。

目は血走り、口元には狂気の笑みが浮かんでいた。


「止められると思うな……!サミーザは今ここに“降りる”!」


レタルはさらに一歩踏み出し、今度は両手を高く掲げる。


「《水鏡障壁ミズカガミ》!」


純粋な水の膜が張られ、ノアを包み込む。

それは衝撃と呪詛を弾く、防御魔法の極致。

ノアが口笛を吹く。


「やるね、レタル。君の魔法、ほんとに頼りになるよ。」


「君の無茶がなければ、僕も少しは楽できるんだけどね。」


「まぁ、期待してるから。」


冗談めかしたそのやり取りの中、

敵が、己の胸を裂いた。


赤黒い血が地を這い、禍々しい文様を描いていく。


「来たまえ、サミーザよ……我が身を通じて顕現せよ!」


天が割れ、サミーザの顕現が始まる。


呪詛の血が地に満ち、空間が軋む。

まるでこの世界そのものが、彼を拒んでいるかのように。


「ネフェリム、貴様も来るんだ。」


サミーザの一言で再びネフェリムが顕現した。


「まずい、あれは完全降臨じゃない。**“不完全な神化”**だ……!」


ノアは、ほんの少しだけ表情を引き締めた。


「そうだね。それじゃあ、そろそろ——僕も本気出していい頃合いだね。」


レタルは即座に魔法陣を組み、両腕を広げる。


「万象よ、ここに集え。《神魔招来グラン・アブソリュート》——」


その詠唱と共に、空に裂け目が生じる。


冷気を帯びた風が渦巻き、咆哮一閃。

空が震え、大地が呻く。


神聖と邪悪、相反する二つの気配、そこから現れたのは、フェンリル――神々をも畏れさせた“狼”が顕現する。その瞳は人の理を嗤い、その爪は運命の糸を切り裂き、その牙は神性すらも噛み砕く。

彼はレタルに片膝をつき、静かに問う。

「敵はヤツだ。サミーザを顕現させる者。……喰らえるか?」


フェンリルは、嬉しそうに、唇を吊り上げた。


「神だろうが、悪魔だろうが——俺にとっては“肉”だ。」


レタルが指を鳴らす。


「なら、いってらっしゃい。喰い散らかしてくるんだ。」

その瞬間、ネフェリムに向かって疾駆するフェンリル。世界が震え、神と魔がぶつかり合う。


ネフェリムの咆哮が途絶えた。

巨体を貫いたのは、フェンリルの牙だった。雷鳴を裂くその一撃は、まるで天の裁きのように、巨人の喉元を抉った。


「——これで終いだ。」


レタルの呟きが、冷たい風に乗って宙へ溶けていく。彼の手のひらに残る神魔の力は、まるでその務めを果たしたとばかりに薄れていく。フェンリルは一歩退き、赤い舌で血を舐めた。



だが、残るは主——サミーザ。


「……なるほど、ネフェリムがやられたか。」


サミーザは微笑んでいた。

血に染まった自らの腕を広げ、また新たなネフェリムの“顕現”を試みようとする。


しかし、その背後で空間が捻じれる。


蒼光の渦とともに、ノアが歩いてきた。


「君ら、派手にやってるじゃないか。」


その声には、愉悦と絶対の自信が滲んでいた。

彼の身体を蒼い命気レーベンが包み、瞳は氷のように冷たく光る。


「いいかい、サミーザ。神様に手を出すってのは、命を賭けるってことだ。君、ちゃんと覚悟してる?」


そして、彼の手には白銀の魔法陣。


——“秩序の再定義”。


「演算開始。——僕のルールで、ここから先の世界を“書き換える”。」


「終わらせるよ。」


ノアの声は静かで、冷たい。そしてその瞳は、燃え盛るような蒼光に照らされていた。


「“唯一神の理”( Y”H”W”H”)」


言葉と共に展開される魔法陣は、天と地を貫いた。空気が張り詰め、全てが静止する。


その一撃は、祝福ではなかった。

唯一神による“否定”。

神すら例外ではない——そんな傲慢に満ちた、けれど恐ろしいほど美しい、絶対の秩序だった。


光は万物を塗り潰し、天地を揺るがした。

サミーザの身体はその光に飲み込まれ、声なきまま蒼白の闇へと溶けていった。

その存在は、ネフェリムの根幹ごと、この世界の彼方へと断絶された。

大地に倒れ伏したその姿は、まるで朝靄に揺れる蜃気楼のごとく儚く、見果てぬ夢の残像のようであった。


されど、その静謐はただの序章に過ぎなかった。


やがて暗闇の底より、一条の黒き渦が蠢き、ゆるやかに舞い上がる。

レタルの命気は奔流となり、その魂の渦は飢えた獣のように神魔の残滓を貪り始めた。


「サミーザ、汝の力は私の内に宿り、永遠に在り続けるであろう。」


蒼白の堕天使はもはや抗うことなく、漆黒の渦に攫われ、静かに彼の内奥へと飲み込まれた。

魂の海は波立ち、彼の身体には神魔の紋様が淡く光を灯し始める。


そして風が吹いた。

それは全てを洗い清めるかのような、冷たく透き通った風。


その風は静かに告げる。



ノアはゆっくりと腕を下ろし、レタルの方へ視線を向けた。


「……退屈じゃなかった、な?」


レタルは苦笑する。

「気楽だね。...私は死ぬかと思ったよ。」


フェンリルが静かに二人のもとへ戻る。血を滴らせながらも、その瞳はどこか満足げだった。


戦いは終わった。

サミーザの野望も、ネフェリムの咆哮も、すべては静寂の中へ消えていった。


——この戦いが、ほんの序章に過ぎなかったと、知る由もなく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界 唯一神 選ばれし者 孤独 青春 成長 バトル チート  運命 主人公最強 神の力 家族  王族 受肉 天啓 葛藤  友情 救済 ファンタジー 神話
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ