表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Unmade -歪みし世界の中、人身御供となりて奏でた仮初めの青春譚-  作者: イチジク浣腸
光と影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/138

神のお遊び

演習が終わった頃には、空が茜に染まり、校庭にはまだ生徒たちの話し声が残っていた。

その喧騒をよそに、ノアは一人、古びたベンチに腰を下ろしていた。


「ふう……今日も、退屈だったな。」


まるで独り言のように呟いたその声に、返事をする者があった。

傍らに現れたのは、同じく演習に参加していたレタルである。


「ノア、また手加減してただろ。あの魔物、君なら一振りで済んだはずだ。」


ここで少し、補足しておく必要がある。

演習に使われる魔物たちは、“模擬型”と呼ばれる──命気の制御によって生かされた、半ば人工の生命体である。

それは、魔力の暴走によって生まれた野獣や、災厄のごとく現れる怪物どもとは違い、訓練のためだけに設計された存在だ。

一定以上の出力を受ければ、自壊するよう仕組まれており、生徒たちが実戦に近い経験を積むべく、厳格な管理下においてのみ使用される。

安全と緊張、その二つの両立の上に立つ、教育の一形態である。


ノアは肩をすくめ、少しだけ口の端を上げた。


「全力出しても、面白くないじゃん。君も……そう思わない?」


レタルは眉をひそめ、それでもどこか楽しげに笑った。


「君って、本当に性格が悪いよな。でも、まあ……そういうところが、君らしいんだろうな。」


ノアはニヤリと笑った。

それは悪戯が成功した子供のようでもあり、どこか疲れた大人のそれのようでもあった。


「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ。」


レタルは溜息混じりに首を振る。その横を、一人の青年が通り過ぎようとしていた。

エゼル──この学び舎の中でも、言葉少なで人と距離を置くことで知られた存在だ。


「……。」


彼はノアたちに目もくれず、黙って歩を進めていた。

だが、その沈黙に、ノアは何かを感じ取ったようだった。

小さく肩を竦め、楽しげな口調で声をかける。


「おい、魔力お化け。君、演習中ずっと黙ってたけど、何か面白いことでも考えてたの?」


その時、エゼルが通りかかった。


その声に、彼はぴたりと足を止めた。

ゆっくりと振り返り、言葉なくノアを見つめる。


その瞳は、深い湖の底のように静かで、どこか冷たさを湛えていた。

まるで、家族の愛に触れたことのない者の眼差しだった。

貴族ばかりが集うこの学園で、平民の彼は孤独を背負っている。

ノアとの距離は、まだ見知らぬ他人以上に遠く、夕暮れの影のように冷たく伸びていた。


「別に。ただ、君たちのやり取りが滑稽だっただけだ。」


ノアは軽く笑みを浮かべて立ち上がる。


「そうかい。じゃあ、今度は君も混ざってみたまえ。きっともっと滑稽なことになるだろうから。」


エゼルは一瞬、口の端をほのかに緩めたかと思うと、すぐにそれを引っ込めて、何も言わず背を向けて歩き去った。


レタルがノアに問いかける。


「ねえ、ノア。本当にエゼルに興味があるのかい?」


ノアはふと空を見上げる。夕暮れの光が校庭を染めている。


「さあね。でも、彼の中には何か面白いものが隠れている気がするんだ。勘だけどね。」


言葉はさらりと流れ、沈黙が二人を包む。


やがて二人は、夕暮れに染まった校庭を背にして、寮への道を歩き始めた。


レタルがふと尋ねる。


「ノア、エゼルのこと、どう思ってる?」


ノアは少しだけ間を置いて、遠くの空を見上げた。


「一筋縄じゃいかない奴だと思う。それに、どこか自分と似ている気がするんだ。」


その言葉には、ただの興味以上の重みが滲んでいた。

夕焼けに染まる影が、二人の足元を長く伸ばしていた。


「改めて言うけど、君って本当に性格悪いよな。でも、そこが君らしい。」


レタルは苦笑いを浮かべた。


「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ。」

ノアはニヤリと笑う。



その夜、寮の部屋の窓から夜空を見上げながら、ぽつりと呟いた。


「エゼル、君の中には何が隠れているんだろうね。僕の勘、外れているといいけど。」


東の空には、まだ昇らぬ明星が、落ちた記憶を胸に沈黙していた。

それはまるで、夜が手放した光が、もう一度選ばれるのを待っているようだった。



夕暮れの訓練場での演習を終え、ノアとレタルは教師・メトセラ・アサリエルに呼び出され、校舎内の応接室へと通された。


「ノア・エヴァンス、レタル・レギウス。君たちの演習中の振る舞いについて話がある。」


メトセラは厳しい視線を二人に向ける。


「ノア君、演習での態度がよろしくない。手加減しすぎて演習の意味を損なっている。」


ノアは軽く肩をすくめ、少しだけくだけた敬語で答えた。


「はは、相手がそこまで本気になるほどじゃなかったんです。それに、正直言って面白みがなくて単調だったんですよね。」


メトセラはため息をつき、レタルに視線を移した。


「レタル君も、彼の行動を制止すべきだった。君たちは模範となるべき存在だ。」


レタルは真剣な表情で頷く。


「申し訳ありません。今後は必ず諫めます。」


メトセラは少し間を置いてから、封筒を二人に差し出した。


「これは君たちへの極秘任務だ。最近、帝国内で不審な魔力の動きが報告されている。調査を頼みたい。君たちは優秀だから期待しているよ。」


ノアは封筒を開き、中の書類に目を通す。


「ふーん、面白そうじゃん。なぁレタル、退屈しのぎにはちょうどいいかもな。やるじゃないっすか、メトセラ先生。」


レタルは真剣な表情で書類を読み、うなずいた。


「承知しました。全力で取り組みます。」


メトセラは二人を見据え、


「この任務は機密事項だ。絶対に口外しないように頼む。」


二人はうなずき、静かに部屋を後にした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界 唯一神 選ばれし者 孤独 青春 成長 バトル チート  運命 主人公最強 神の力 家族  王族 受肉 天啓 葛藤  友情 救済 ファンタジー 神話
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ