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異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま)  作者: ニキ
1-1:出会いを見せずに最初から関係値MAXのヒロインが出てくる作品は基本的に駄作らしい
7/10

1-1-B3:もし仮に万が一この作品がコミカライズでもされた場合、おまけページとかでその後のエミの描写が数カット挟まってそうな〆

「エミー? 風呂空いてから10分経ったぞー?」

「今! いいところなのよ!?」


 それで四巻手に取り始めたら終わりだよ。

 潔〇一みたいなワードセンスでゲームが止められない10才の子供みたいなこと言いよってからにコイツ。その内布団の中で俺に隠れて深夜でも読み始めてそうだ。

 力ずくで取り上げればむぅ〜と頬を膨らませて睨まれた。出会ってからかなり経つのに初めて見たぞお前のそんな顔。


「爆速で出てくる」

「寝巻きは?」

「持ってきてるわよ。……あ、何か着て欲しい服でもあった?」

「無いです」


 自分の可愛さを自覚してる系女子特有のからかいやめてね。ニヤニヤしながら聞かれても女子の服の予備とか異世界じゃあるまいし持ってません、顔面が優勝してるから心臓に悪いんだよ。


「……そう言えばエミ、バックって他に何が入ってんの?」

「んー? 着替えの他だと換金物と装備一式、調味料とブランケットくらい? あ、アルバムもあるわよ」

「調味料とブランケット」

「調味料とブランケットよ。──もし無人島に遭難してもこれさえあれば生きていけるもの」

「それはそう」



 事実生きていけたし。



「……前から気になってたけど、このデカいの何?」

「洗濯機。物を入れて操作すると自動で洗ってくれる」

「魔法で良くない?」

「一般人は使えません」

「ああ……思ったより不便なのね? こっちって」


 その感想が出てくるのは人類でも多分あなたくらいです。

 場所は変わって洗面所。連れ添って風呂場の使い方を教えていると、ふと(あれ? 魔法が使えるなら洗濯機いらなくね?)と恐ろしいことに気付いてしまった。

 ……水塊作って柔軟剤入れてそこに衣類放り込めば、あとはそれかき混ぜればいいだけだし……水気も条件式で弾けば干さなくてもいいし、それでもう洗濯終わりじゃね? マジかよ異世界転移最高だな、水道代をケチれるチートで現代無双でも始めよう。


「シャワーの使い方はこうね。で、こっちがシャンプー、隣がボディソープ。タオルに出して泡立てて使ってくれ」

「はーい(脱衣開始)」

「お前マジでさァ……」


 本当に泣け無しの魔力で視界を歪めて裸を自衛。平気で男の前で脱ぎ出してんじゃねぇぞこの女、洗面所に仕切りのカーテンでも導入するか? したところで閉めないわ、クソが。

 どうせ下は薄いキャミとスパッツなのが一応の救いではあるが、モロの下着でなくてもスタイル良いから目に毒なんだよなぁ。言っても直らんしこいつはマジで……


「お湯が無いのですが」

「男が入った後の湯なんて抜くに決まってんだろ」

「偶に思想が過激よねあんた」

「配慮が行き届いてると言ってくれます?」


 浴槽を魔法()で秒で満たして浴室のドアを閉めるエミ。タオルの上には綺麗に畳まれたワンピースと異世界(あっち)で見慣れた肌着(ぶかシャツショーパン)。……畳むあたりそもそもの行儀は良い筈なんだけどなァ……


 ガチャッ


「何? 一緒に入りたいの?」

「恥じらいを持てよお前はマジで!」

「そこから離れないから聞いただけなのに!?」

「それは俺が悪かった! ごめんってすぐ出てく!」


 ……流石に今のは俺が不注意だったな、後で大声出したのちゃんと謝ろう。


 ……いや、そこに居たからって自分でドア開けるか普通? え、これどっちがヤバいの?




 ****




「アランー」

「んー?」

「髪」

「ん」


 そういや普通に答えちゃってるけど、この体ってもう上城(あらた)なんだよな。……まぁ一文字違いではあるし、訂正する理由も無いか。

 ソファに腰掛けていた俺の膝に当たり前かのように座ってくるエミと、それをなんの疑問も無く受け入れている俺。何の情報量も無い会話なのに伝わるのは飽きる程してきたいつもの(・・・・)ことだからで。


「ぐえっ……ごめんけど前にズレてくれる? 俺の身長が低くて見えん」

「ちょっと、今の潰れたカエルの鳴き声何?」

「正直に言うと重かった」

「おーい、筋肉無さ過ぎやしませんかー?」

「ぺちぺち腿を叩くな腿を」


 魔法には適性がある。エミでいえばそれは水で、(アラン君)であれば風だった。

 視界一面に広がるさらさらの銀髪。……見下(みお)ろせないのが少し悲しいそれはまだ水気が多少残っていて、ちゃんと落としてこなかった(・・・・・・・・・)のを確認する。

 左手で側頭部を優しく掴み、右手の平に魔法を形成。術式の威力を調整して温度を付与、出力されたのは優しい温風(・・・・・)だ。


「元々これってこっちの家電のパクりなんだよね」

「そうなの?」

「うん。お痒いところはございませんかー」

「さいこうでーす」


 人力のドライヤー(・・・・・・・・)にも手慣れたものだ。

 長いクセしてろくに髪のケアもしないエミは、俺によって魔法での水分飛ばしを髪に限り禁止されている。

 肌はまだしも髪から水分完全除去したら傷みそうだし、思い付きでやり始めたらエミが思いの外ハマったのも相まって、これは半ば日課と化している。

 わしゃわしゃと荒れない程度に髪を揉み、()き、(ほぐ)し、丁寧に乾かしていく。

 魔力は……ギリ持ちそう。音がしない分俺の手って本家本元より優秀じゃね?


「見た目も声も匂いも姿勢も……何が変わってもあんたはあんたね。特に手つき」

「言い方。アラン君の方がいい?」

「どっちでも。外面で見てないし」

「は? お前アラン君のこと今馬鹿にした?」

「なんでそうなるのよ……」


 あの子の一番のファンは俺なので。

恨むのが当然だろうこんなクソみたいな俺(理不尽な運命)に『生きろ』と言って消えた彼を馬鹿にする奴は、どんな手を使ってでも彼の名誉のためにぶちのめす。

 どれ程運命に弄ばれようと高潔であった彼は誰よりも尊いし、イケメンだし、何より報われるべきだった。……今でも思う。四年前のあの日、あの子の代わりに俺が消えていれ──


 ゴッ!


「痛った!?」

「もう乾いたわ。これ以上は痒いだけよ」

「……ごめんて」

「分かれば良し。……ご飯、今日は何?」

「げ、忘れてた」


 いそいそとある物を取りに行き、筒状の少し大きなカップが2つ置かれているテーブルの前へと持っていく。沸いたのは五分程前だ、まだ暫くは熱湯としての役目を果たしてくれることでしょう。


「こいつはティ〇ァールと言ってだね、水を入れてボタンを押すと熱湯にしてくれる機械なんだ」

「魔法で良くない?」

「良くない、魔力がねぇんだよ。で、テーブルに置かれているのはカップ麺」

「麺?」

「おう。なんとこいつは……熱湯を入れて3~5分待つだけでラーメンが出来ちまうんだ!」

「お前は何を言っている???」


 現実。

 幸いにもパスタもうどんもラーメンもある世界だったが故に、単語について上手く伝わってない……ということは無い。

 シンプルに『そんな都合の良い食べ物なんて有る訳ないでしょ』と馬鹿にした顔で諌めてくるエミに、内心ほくそ笑みながらカップ麺の蓋を半分まで開けて見せてやる。ククク……後々の反応が楽しみだなぁ!?


「……乾燥した麺と、具、かしら?」

「物によってはお湯注ぐ前にかやくや粉末スープを入れるタイプもある」

「火薬!?」

「多分想像してるモノと字が違うかな」


 トポトポトポと規定線まで注いで蓋を戻し、まだ袋のままの割り箸を上に敷く。時計は……わぁもう11時半だぁ、食ったら歯磨いてとっとと寝よう。

 ……あ、歯ブラシ買い忘れた。一から同居って大変だなぁ……



 ****(三分後)



「有り得ない……有り得ないわ……ッ!」

「生卵と刻みネギ要るひとー」

「はーい!!!」


 箸による封印を解除した先、立ち上る湯気と共に現れるは黄金のふやけた麺の海。

 解放されたおいしそうな匂いに圧倒されて現実性を見失う異世界人に対し、俺が提案するのはあまりにも悪魔的な破滅の誘い。まさに味覚への暴力……!

 深夜近くに食べるトッピングカップ麺とか太りそー……まぁエミ(運動大好き星人)なら大丈夫か、コイツ幾ら食べても太らないし。


 生卵をぱかり、パックの刻みネギを摘んで少々。七味は……探す前にエミがバックの中から取り出してる!? マジで調味料持って帰ってきたのかよコイツ!? もっと持ってくる物他にあっただろ!?


「これが……異世界飯……ッ!」

「トッピングの内30%があんたの世界の物なんですが」

「美味しければいいのよ!」

「それはそう。さてじゃあ──」


「「いただきます!」」


 箸を抜刀、突き刺す先は麺の山。

 本当に久しぶりの日本飯、その初回として選んだカップ麺を意気揚々と摘みかかり……


「熱っづ!?」


 ……息を吹き掛けてちゃんと冷ましてから口に運ぶ。


「……究極美味(ガチウメ)ェ」


 口内に広がる、練られた小麦のツルツルとした食感。脳へと突き刺さる海鮮(シーフード)の暖かな旨み。

 冷まして尚舌を若干焼くスープの跳ねも、はしたなくも鳴る麺をズルズル啜る音も、何もかもが涙が出るくらい懐かしい。

 ご馳走様と呼べる程のものでは決してない、高々200円幾らとトッピングの庶民飯は、頭じゃなく魂に効きまくって……


「おいしっ……! ねぇこれ本当に゛……なんで泣きながら食べてんの!?」

「うぅ……か、帰ってきたんだ……本当、に……っ!」

「私の反応よりあんたの反応の方が凄いんだけど!? えっ本当に大丈夫……?」


 日本に帰ってきた実感の到来、二度目。あかん涙が止まらねぇ。素朴で暖かな味が感情を崩壊させに来るよぉ……

 最初に出来た友達は死ぬし、親は俺を息子に憑依させた張本人(クソ野郎)だし、運命上俺は途中退場する序盤のボスだし、逃げようとしても世界最強が殺しにくるし、敵は毎回理不尽だし、勝ち確の状況作っても毎回ご都合展開で逆転されるし、味方はほぼいないし、神様には物理的に嫌われるし、育ての親は自分の手で殺すことになるし、アラン君は俺を庇って消滅するし……ろくでもない思い出が一瞬の間に脳内を駆け巡って、手の内のシーフードヌードルからはそんな煉獄からの解放の味がして。


「……頑張ったわね」

「…………う゛ん゛」


 一日中ずっと情けない姿しか見せてないのに、それでも呆れず背中をさすって慰めてくれるエミ様はきっと天使か何かなのだろう。


 頼むからこの子だけは幸せになってほしい。



 ****



「最後にもう一回聞いとくわ。一緒に寝なくて大丈夫?(・・・・)

「……大丈夫」

「また(うな)されない? ちゃんと眠れる? 夜中に起きたりしない?」

「大丈夫だってエミママ」

「誰がママだ」


 軽めのチョップを貰う。あんま腕上げんな襟の内から紐が見える。

 久しぶりに泣いたなぁ……お陰で眠気もちゃんとやって来た。肉体も一般人だから感覚も冴えてない、薬がなくてもこれならちゃんと眠れそう。


「精神の経過年数だと20超えてんだけどなぁ俺」

「肉体年齢15のガキが何か言ってる」

「エミはエミで15の割に精神成熟し過ぎじゃない……?」

「家族いないし」

「唐突に重いのやめろ」


 言いながら買ったばかりの布団を敷いていく。もふもふに顔を埋めてご満悦だ、こっちは何の問題も無さそうだな。

 普通、誰かが泊まりに来た場合、アニメや漫画だと客人の方にベッドを貸すものだが、同性なら兎も角自分の匂いの染み付いた寝床を異性に貸すのは俺が精神的に受け付けない。流石に失礼というか、申し訳無さが勝つというか……


 そこら辺を知ってか知らずか、ニコニコ顔でクッションを抱き締めてるエミに不満の色は無さげ。……じゃあ寝るか、これはもう放置でいいだろ。


「エミーおやすみのキスしてー」

「歯磨いてないから嫌よ」


 ──そうして雑な冗談を放り投げるだけ投げといて、俺の異世界"帰還"生活の一日目は終わった。

用語:潔世一

週間少年マガジンで連載中の『ブルーロック』の主人公。

アニメ一話を見て数日後、家には全巻揃ってました。

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