1-4-A2:青信号が一見緑色であるように、アニソンランダムダンスはアニソンランダムダンスである
女の子の外出に必要な準備(化粧や服飾品コーディネート等)や、途中「衣装家だから一回家寄っていい?」と言うざくろのお願いを聞いたりしつつ、イベント最寄り駅に降りれる電車に乗ったのは最終的に12時15分となった。
会場までは最寄り駅から更に10分前後歩くらしく、電車時間も含めた予想到着時刻は13時。
目的であるアニソンランダムダンスステージの開始までに、何事も無ければ30分前には着く計算だ。
「──今回行く予定だったイベントの正式名はゴールデンウィーク特設〇〇〇市コスプレフェス。会場オープン自体は10時からで、適宜休憩時間は挟みつつコスプレパフォーマンスとかDJステージとか……撮影会ってよりかは文化祭みたいなノリで、オタクカルチャー全振りなステージが一日に詰め込まれてる感じなんだー。アニソンランダムダンスはそのステージの中の一つで、贔屓目無しに一番盛り上がるイベントだよー?」
今がゴールデンウィークとは言うものの今日が休みな理由は振替休日でしかないため、電車内に見える人影はそこまで多くない。
余裕を持って三人並んで座る俺たちの並びはエミ──俺──ざくろ──手すりの順で、外を物珍しそうに眺めるエミをそっとしておこうと決めたのか、ざくろのイベントについての説明は専ら俺だけに降り注いでいた。
「なるほど? だから向こうの制服持ってこいと……」
「ファンタジー世界のガチ制服とか、それこっちの世界じゃ超絶解像度の背景ストーリー付きオリジナルコス衣装でしかないからね???」
「大体メイ〇ラゴンのコミケ回じゃん」
「コイツ……! 私が"あれ? これ言って通じるかな……?"って遠慮した例えを平気で私には投げてきやがって! ……因みに、実際に元異世界人が向こうの服でイベントに紛れ込んでることは多々あります」
「うーんサイエンスフィクション」
「どっちかと言えばローファンタジーじゃない?」
……なんだろう、ざくろちゃんって身内のオタク歴戦個体達(母と妹)と同じ香りを感じるんだよね。こう、二次元のことなら大抵何言っても通じるとことかマジでそっくり。もし彼方ちゃんと会ったら親友になるんじゃねぇかなぁ?
「……てかざくろちゃんってコスプレイヤーさんだったんだね?」
「んー……そんな一面もあるって感じ? 前言ったと思うけど私、無駄に行動力だけはあるからさ、一時ハマったオタクカルチャーは大体実際に齧ってるんだよね。……ま、どれも中途半端なんだけどサ」
どこか自嘲げに語るざくろの弁に、記憶が該当するのは初めて家庭教師でざくろの家に訪れた日の会話。
『……私、昔から筋金入りのオタクだったんです。アニメや漫画、ラノベが好きで、行動力だけは無駄にあったから、その時その時にハマってる物を中途半端に齧りながら生きてきたんですけど……中学生くらいのある時に、"あぁ、なんか将来働きたくないなぁ"って思い始めまして』
……思い出さなくていいとこまで掘り返してるけど、今振り返ってみれば確かにそんなようなことは言っていた。
後半が衝撃的過ぎて意識から飛んでたけど、この子の正体の大きなヒントって実は最初からあったんだなぁと。
高そうなカメラ持ってたり、謎に撮影が手馴れてたり、小説を書いてたり、しまいにはアニソンランダムダンスというカルチャーを知ってる上で参加したりと──つまりこの子は、
「……シンプル多趣味で羨ましいな」
「上城くんには趣味無いの?」
「えー? ………………今は強いて言うなら、エミへの布教?」
「は? 惚気乙」
「いや、前はアニメやボカロとか言えたんだよ? けど、7年も経っちゃうとどうしても当時の熱量がねえ……この状態で趣味と前面に押すのは不誠実じゃね? とか思ってしまう訳で」
「普通にお労しいのやめて。それとちゃかしてごめん」
「これに関しては異世界行っても趣味の一つも見つけれてない俺が悪いから気にしないで?」
「何言ってんだこいつ」
「ざくろ、そいつは向こうでも大体常にそんな感じよ。自責自罰他者優先のエゴ希薄だから、誰かしらが振り回しとかないと一日の中で自分で楽しいを見つけることがほぼ無いの」
「うわぁ……」
「エミー? 景色眺めながら唐突に刺してくるのやめてねー?」
「じゃあ私以外の趣味早く見つけなさいカス」
……こいつ、ざくろとの会話全部聞いてやがったな? 横から見える細まった目がいつもの「だる」って言ってる時のとほぼ同じなんですけど、俺ら割と小声で会話してましたよねぇ!? 平然と語尾が罵倒だしさぁ!?
えぇ……何か気に障ること言ったか? 可愛いとか綺麗とか美人とか、そういう褒め殺し系は今回してないよな……?
「あ、そうそうざくろ。私、アニソンのことはこいつのプレイリストに入ってた幾つか、それも曲しか知らないんだけど、知らない曲が流れた時ってイベントの参加者どんな風に踊ってるの?」
「ダンス上手い人とかは偶にその場で創作ダンスしたり、オタ芸出来る人なら後列で賑やかしに打ってたりするけど、大体の人はそもそも横に捌けて踊りたい人用のダンススペースを作ってるかな」
「おたげい……また知らない単語ね」
「あーそっか、えっとオタ芸って言うのはね──」
もしや何かしらの地雷を踏んだか!? と内心慌てそうになる俺を他所に、特に不機嫌な様子も無く流れるようにざくろへ話しかけるエミ。どうやらカス〆で俺への刺しは終わってたみたいなのだが、刺された理由も脈絡も読めないので誰ぞ僕に解説して頂くことは可能でしょうか? ……あっお話に夢中でダメそうすね、楽しそうならまぁいいや。
(……てか、なんでこの席順なのだろう)
楽しそうに女の子同士がお喋り(尚内容はオタ芸についての解説)を始めたため、その間に物理的に挟まれてる俺は邪魔しないよう壁に徹してはいるのだが、ここで(あれ? てかこの席順おかしくね?)とはたと気付く。
現状はエミ、俺、ざくろの並び順だが、関係値や性別的に普通は俺、エミ、ざくろ(又はその逆)の順になる筈じゃね?
席余ってるから座ってるけど、なんなら俺が立ってるまであるくねこれ?
頭をざくろに寄せてるエミの長い銀髪が手にかかってこそばゆいし、ざくろもざくろで(多分)人一人越しに話すのだるいダルいだろうしと立とうとした刹那──ざくろからは的確に死角となる位置で、エミが俺の太ももを座席に凄まじい力で押し着けてきた!?
え!? 立つなと!? 何故!?!? ……あ待ってこれガチのやつ、少しでも逃げようと腰浮かした瞬間更に力増す。これで表情変わらないどころか俺に一瞥もくれないのマジで怖いんすけど、何がお前をそこまで突き動かしてんの???
「──とまあオタ芸についてはそんな感じなんだけど……上城くん表情変だけどどうかした?」
「エェ?(変に上擦った声) いやぁ、アニソンランダムダンスって銘打ってるけどさ、具体的にどんな曲がよく流れるんだろうなーって想像してただけだよ?」
「思ったよりむずいこと聞くなぁ……うーん、DJさんのセトリやイベント時間にもよるけど……あ、よく流れるとはちょい違うけど、最近特に熱い曲だったら──」
やり方的に多分今俺がされてること話さない方がいいんだろうなと咄嗟に誤魔化してみたところ、エミからお許しの意が込められた脱力を賜ることに成功。
そしてそのままさも当たり前かのように自然な動きで、頭をこてんと俺の肩に乗せてくるのはマジで一体どんな情緒してんだよ。何? 構って欲しいの? 後で衆人環視の目の前で撫でくりまわしたろかコイツ…………等と下らないことを考えている間に、ざくろは答えが出たようで。
大前提として、俺が問うたのは『アニソンランダムダンスでの頻出曲』である。
故に、無知なりに俺が予想していた回答は『有名所のアニメOPED』や『某アイドル育成ゲー系列のアニメ曲』だったのだが……ざくろから返ってきたのは……
「──ダイダイダイ〇ライとか?」
「………………うん???」
おっとぉ? 話が変わってきたぞぉ!?
「投稿が直近なのもあるけど、MVのサビが踊りやすいダンスなのもあってTikTokやYouTubeshortで大バズしてたから、ほぼ確で今回のセトリには入ってる筈……」
「ざくろちゃんざくろちゃん」
「はいなんですか?」
「ア ニ ソ ン なんだよね?」
「そうだよ?」
びっくりしたー。てっきりアニソンランダムダンスでボカロがほぼ確で流れるって言われたと思ったー。
そうだよね、ア ニ ソ ン ランダムダンスなんだから、そりゃ当然アニソン以外も流れるよね。ボカロって大体アニソンみたいなもんだから、まぁ流れたって全然不思議じゃ──
「あー後定番どころだと〇カルカ☆ナイトフィーバーやオドルー〇とか一旦ステイ T〇NIGHT……」
「あ、〇カルカはこの前聴いてるわ!」
「ざくろちゃんざくろちゃん」
「はいなんですか?」
「ア ニ ソ ン ランダムダンスなんだよね!?」
「そうだよ?」
びっくりしたー。てっきりアニソンランダムダンスでボカロでもアニソンでも無い曲が流れるって言われたと思ったー。
そうだよね、ア ニ ソ ン ランダムダンスなんだから、そりゃ当然アニソンでもボカロでもない曲も流れるよね。まぁこの世の中にある大体の曲って音が鳴ってる共通点があることから実質アニソンだって言うことも出来るし、まぁ〇カルカやオドルー〇や一旦ステイ T〇NIGHTが流れたって何一つ違和感なんて──
「あ、そうだ上城くん! これは唐突でとても脈絡の無く流れをガン無視したお願いなんだけど、一回私にアニソンランダムダンスで流れたら特に盛り上がる大好きな曲が何か聞いてみてくれない?」
「……ざくろちゃんざくろちゃん、例えばアニソンランダムダンスイベントで流れたら特に盛り上がりそうな、君が大好きな曲って何がある?」
「チュルリ〇チュルリ〇ダッダッダ」
「──オタクカルチャーランダムダンスの間違いじゃねぇかこのイベント名!!!」
「アニソンランダムダンスっつったらそれはアニソンランダムダンスつってんだろ!!!」
俺もうイベントの内容よりイベント名がこれに決まった経緯の方が一旦気になるわ。
さぁあとがきがエンジンかけてきたぞ!
用語:ゴールデンウィーク特設〇〇〇市コスプレフェス
架空のイベントです。元ネタは幾つか存在しますが実在はしてません。
岐阜にこんなイベントがあればなぁ……(遠征費諸々)
用語:メイドラゴンのコミケ回
月刊アクション及び漫画アクションで連載していた・している作品『小林さんちのメイドラゴン』に存在するコミケ回をここでは指す
凄まじく端折るとメイドになったドラゴンのトールとOLの小林さんの日常コメディ作品であり、この回では(以下ネタバレになるため省略)(アニメでいうと一期7話にあたります)
用語:オタ芸
ライブやダンス等の盛り上げ、或いは純粋なパフォーマンスのため、ペンライトを装備して芸術的な動き(極めて端折った言い方)で応援する行為全般のこと
余談だがオタ芸にはあらゆる技に技名があり、技の披露を『打つ』、オタ芸を打つ者を『打ち師』と呼ぶ
作者の好きな技は『旋風アマテラス』と『エリュサー』
用語:ダイダイダイキライ
投稿日時2025/3/15、いせぬま時間軸では最新となるバズったボカロ曲。
いつの時代も仲良く()じゃれ合ってる喧嘩ソングはいいですよねぇ……執筆中や作業中によく聞いています。
作詞作曲:雨良、原曲歌唱:初音ミク&重音テト
用語:ルカルカ☆ナイトフィーバー
ボカロ曲でダンスと言えばまず上がるのはコレだろレベルで一世を風靡した名曲にして、ボカロナイト曲の始祖。
取り敢えず流れれば盛り上がるし、本当に滅茶苦茶踊れる人は多い。
作者様のご冥福をお祈りします。
作詞作曲:samfree、原曲歌唱:巡音ルカ
用語:オドループ
何を語ってもネタ過ぎるんだよなぁこの曲……(実はとあるアニメ
ED楽曲ではある)
作詞作曲:三原康司、編曲:フレデリック、原曲歌唱:フレデリック
用語:一旦ステイ TONIGHT
Vtuber事務所にじさんじ所属『不破湊』によるオリジナル楽曲。そのあまりの中毒性によって一時期YouTubeとTikTokを制圧した。
なんで一回下げるのかは永遠の謎だが、どこでかかっても馬鹿みたいに盛り上がる。
作詞:七条レタス、作曲編曲:D.watt (IOSYS)、原曲歌唱:不破湊
用語:チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!
この曲に関して言えばアニソンランダムダンスというか、通常のライブ等で流れた時の盛り上がりが常軌を逸しているからざくろが好きだと行ってるところはある。
2016年のニコニコ超パーティーボカロライブステージで結月ゆかりが初参戦しまーす!と歌唱前(曲はまだ不明)に紹介が入ったんですが、(この時期なら……まぁチュルリラやろなぁ……)と予想してたら案の定この曲歌い出して笑った思い出があります(隙自語)
「さぁー! さぁー! 密告だ! 先生に言ってやろー! はい(冷静)」の現地のコーレス本当に楽しいんですよねぇ……
作詞作曲:和田たけあき(くらげP)、原曲歌唱:結月ゆかり
最近作者本人様が10周年記念再録版を投稿して下さったんですが………………10周年???
備考:オタクカルチャーランダムダンスの間違いでは?
でもこの文化の名は『アニソンランダムダンス』なんですよね
まるでフィクションのようなことを書いていますが、これまで書いたことのほぼ全部が事実という。




