1-2-A1:岐阜が舞台の作品は名作の法則
深き夜を一生回して只今四層
「ぜぇっ……ぜぇっ……ゴホッゴホ!?」
「……本当に体力不足が深刻ね、まだ二分よ?」
「学校っ……休んどいてっ……学校以上にっ……疲れてるとか……マジぃ……?」
「でも運動しようとする姿勢は偉いわよー。肉体強化もしてないし」
死にそう。
体力作り兼散策に家を出て数分、息も絶え絶えで公園の原っぱに転がりながら俺は自分自身に絶望していた。
周りから向けられる目線なんて気にしてる余裕無い。ただただ地獄みたいに苦しくてマジで死ぬ。
……おかしいなぁ!? したことなんてなんて事の無い軽度のランニングだぞ!? それで秒殺される俺の体力は一体どれだけ果てしなくカスなんだよ……!?
「み、ず……」
「手でいい?」
「ありが、と…………ゴホッ!?」
「どうどう、ゆっくり飲みなさい」
口が温かい手の平で塞がれて、直後にとくとくと冷たい水が喉を伝う。ごくり過ぎて噎せても嫌がらず介抱してくれるこの子は女神の生まれ変わりか何かだろう。
並の魔道士が魔法で作る水は不味過ぎて飲めた物じゃないが、ちゃんと魔法学を修めて適切に式を組んだ物なら店売りの水と遜色ない味になる。エミ水はその後者の例から更に不純物を取り除き栄養を追加した至高の飲料水。味の着色こそ無いが真心を感じる唯一無二のミネラルウォーターだ。我ながら分析がキモイな?
「──それにしても、こっちの世界って本当に魔道士いないのね」
「んぐっ……はぁー……ありがと。お陰で一息付けた」
「どういたしまして。……結構堂々と魔法反応出してるのに、やっぱり誰も気付かないわ」
「……魔法使いが現代に居ると仮定した場合、一般に知られてない以上隠れて暮らしている筈だ。認識出来ないように隠してるのか、認識した人間の記憶を弄ってるのか、そのどっちかは知らんけど」
「居ない場合は?」
「相手は絶対にグーかチョキを出します。相手は自分がパーかチョキしか出せないのを知りまん。これでチョキ出された時の考えてもどうせ勝てないから考えるだけ無駄でしょ?」
「イマイチ喩えが分かりにくいわね……」
──身分証や異世界アイテムの換金方法を考えてはみたものの、正攻法では不可能というのが俺達の出した結論だ。
偽装するツテなんざあるわけなく、アイテム達も価値を知らない人に安く買い叩かれるか誤った使い方で大災害を起こすのがオチ。そこで考えた手は『こっちの魔法使いを見つけて交渉する』というもの。
俺とエミの特異性は現状『魔法分野に精通している』ことだ。
魔法が使えるのは勿論として、魔法現象──例えば人払いの結界──の知覚や、対象が魔法使いかどうかの判別なんかも出来る。
取り敢えず何かしら魔力の流れさえ見つかればいい。魔法使い一人にさえ辿り着ければ後はどうとでもなるだろう、と……そうして朝っぱらから体力作りも兼ねて散策を始めた訳だが、得られたのはどうしようもない疲労感と夥しいまでの乳酸、そして久しぶりのエミ水のみ。
「いや、成果の少なさの原因は俺なんすけど……探索出来た範囲が狭すぎる……ッ!」
「最初はウォーキングから始めましょ? 一々倒れられたらキリないし、流石に体に悪いわよ」
「でも人間には超回復という仕様がありまして……」
「続けられるの? それ。ウパ水も無しに毎日毎朝長時間」
「……無理かも」
向こうはアラン君の体だから鍛えてたのであって、男としてのプライドというしょうもないもの以外他に頑張る理由が無いし。
……まあ確かに急ぐ理由も薄いか。命がかかってる訳でも無いし、長期的に継続出来るようもう少し楽にやろう。……そもそも真人間未満のステータスしかないんだから、まずは人間になるところから始めねば。
マイナスを0にする努力。……人間になるところから始めるってなんだ?
「近所の散策も兼ねてると思うんだけど、そもそもここって地理的にどこなの? 東京(漫画知識の地名)……では無いのよね?」
「岐阜。日本の地理的な意味での中心地。都会か田舎の二択なら田舎側」
「その割には建物結構あるけど……魔法学的には国の中心って結構なスポットね」
「……言われてみれば。何も無い土地がそれなりにあるし、なんか都合のいい施設とか魔法で秘匿されてたりしないかなぁ」
「あら、またお得意のメタ読み?」
「まっさかー。神も運命も無いこっちで働く訳ないでしょ」
そんな直ぐ成果が出る程俺は現実を楽観視してないよ。別にここ岐阜ではあるけど中心地からはズレてるし。
ゴールデンウィークはまだ続くし、そもそも探し始めて一日目だ。これで何かすぐ見つかるようなご都合展開なんてある訳ないでしょ、漫画やゲームの世界じゃあるまいし。
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「魔道管理局へようこそ。本日はどうされましたか?」
んなアホな!?
用語:エミ水
エミが魔法で生成した水。場面に応じて地味にブレンドを変えている。新が世界で二番目に信用している水分(毒や汚染、罠の可能性が無い+美味いので)
用語:ウパ水
新が世界で一番信用している水分。詳細非公開




