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ボッチはボッチとボッチを卒業したい!

作者: 楠井 仁

9月中頃、残暑と言うにはあまりにも暑い日々が続いていた。何もしていなくても汗が吹き出るし、ジメッとした湿気が不快感を募らせる。これも地球温暖化とかのせいなんだろうか。こんなのがいつまで続くのかみんな参ってしまっている。


廊下の奥からカッカッカッと足音が響いてきた。


『おはよーございます!今日もいい天気ですね!』


肉声とも間違えそうになるアニメ声のような合成音声が教室に響く。

人形のように細いボディに同じように細い手足。誰もが美少女と評価するであろう顔を持ったロボットが、セーラー服を着て教室に入ってきた。

今日も『ロボ美』は元気そうに見える。表情がないから分からないけどきっとそうなんだろう。


『おはよーございます!!』

「お、おはよーロボ美」

「おぅロボ美、おはよー」


クラスメイトの1人1人に順に挨拶をしていくロボ美。それにクラスメイトは苦笑いで適当に答えていく。


そもそも彼女は3ヶ月前まで、つまり夏休み前まではロボットなんかじゃなかった。体型なんて少しぽっちゃりしているくらいだったけど今なんてモデル顔負けの体型だし、髪型だって今みたいにお姫様カットではなく前髪で目元を隠していたから表情なんて分からないくらいだった。今は裸眼だけど眼鏡もかけていたし変化が凄すぎる。


噂によると下校時に事故にあったんだそうな。今の世の中、事故や生まれつきで体が欠けてしまっても、非常に発達した義肢医療によって出来た本物の部位と見間違うほど精巧な義肢をつけている人も珍しくない。今ではタトゥーのように、気軽に手足を義肢に変える酔狂な人間さえいるくらいだ。それくらい義肢というものはごく自然と俺たちの日常に溶け込んでいた。


だが全身が『生身』じゃない人はロボ美が初めてじゃないだろうか?


お見舞いに行こうにも面会謝絶だったと聞いていたが、そういう事かと妙に納得してしまった。


最初こそ物珍しさからかクラスメイトはもちろん、他のクラスからもロボミの事を見物しに来る生徒も多かった。元の姿からは全く違う容姿を一時は学園全体の生徒が見物しに来るほどだった。だが元々大人しい性格で注目されることがなかったからか すぐに口ごもってしまう。そんなロボ美の様子に段々と興味を失っていった生徒たちはすぐにロボ美から離れていった。

俺だってクラス替えがあった時に数回会話したことがあるくらいだ。


これではいけないと頑張って大人しいキャラを活発なキャラに変えたようだが、時は既に遅くただクラスから浮いている美少女ロボットが出来上がっただけである。


それでもロボ美は友人を作るチャンスとばかりに声を掛けまくっているのだ。


そんな様子をただただ不憫に思った。


放課後---


『それじゃあ皆さん!今日もありがとうございました!!また明日!!!』


だれ1人返事を返さないと分かっていてもロボ美は今日も挨拶をする。


『・・・それじゃあ!さよーなら!!!』


カッカッカッと足音が段々と遠ざかる。


聞こえなくなったところで誰かがため息をついた。


「・・・しんどい」

「うぜぇよなアレ」

「なんかうるさいよね」

「いいよねぇ。楽してダイエット成功じゃんw」

「あの声って製作者の趣味だったりして」


それを皮切りに次々と不満の声がこぼれた。

アイツが何かをした訳でもないのに次々と出てくる悪口。どれを聞いても大した理由はない。


ただうるさかったから。

見ていて痛々しい。

なんか違和感がある。

妬ましい。


その程度でしかないのに出てくる言葉は尽きることがない。


「・・・情けないな」


つい呟いてしまい辺りを見渡す。みんなは楽しい楽しいお喋りに夢中で気がついていないようだ。

最近の子供は残酷だ。自分たちと少しでも意見が違う少数派を、手段を問わず全力で排除しにかかってくるだろう。


自分が()()()()にならずに済んだことにホッと一息をついたが、そこに安堵してしまった自分に心底嫌気がさした。


むしろ情けないのは俺の方か。


実を言うと、俺は人を好きになれないだろうと幼少期に自覚してしまった。なぜなら現実より2次元の女の子を愛でるのが好きだからだ。

現実の女の子と言えば、イケメンアイドル、イケメンの先輩、年上の彼氏だとかの話ばかりだ。

高すぎる理想(イケメン)を求めるあまり、ごく一般的な男子たちには見向きもしない。

そりゃ男子だって現実の女の子なんか見なくなるさ。


その点あのロボ子はどうだろうか!!

キャラは多少痛いがあの麗しい見た目を持つロボ女子!!あれはまるで2次元の世界からそのまま出てきた美少女と言っても差し支えない!

隣を横切って行った時に嗅いだいい匂いといったら最高だった!全身ロボットなのにちゃんと匂いにまで気を使えるなんていいじゃないか!!それに足音だ!全身が機械であんなに音が軽いということは軽量化に成功するくらい技術力の結晶ということだ!!これを神秘と言わずなんと言う!!!


つまり何が言いたいかと言うと、俺、青山陽斗(あおやまはると)はロボ子こと仁科由希(にしなゆき)に恋をしているようだ。


生身の時にはなんとも思っていなかったのに、機械化した途端に興味を持ち始める。変わり身が激しい自分に後ろめたさも感じる。


そんな感情もあってか、恋している相手が孤独の中にいるのに我が身可愛さに勇気を持てない小物ムーブをカマしている訳である。

そりゃ情けない以外なにものでもない。


自慢じゃないが人生16年間でまともに会話したことがある異性が母と祖母しかいないのである。そのせいで異性への耐性なんてない。目が合おうもんなら即恋に落ちかねない程にチョロい思春期なのだ。


少なくとも友達になりたい。

そう思ってからはや1ヶ月。今日も勇気が出なかった自分を頭の中で罵倒しながら帰路に着く。この状態に慣れつつある自分が本当に情けない。

だけどいざ話しかけたとして友達どころか変なやつとして見られかねない。それは嫌だと変なプライドが邪魔をしてくる。


どうしたものかとトボトボ歩いていると、ふと視界にコンビニが入ってくる。

あ、こんな所にコンビニ出来たんだ。

晩御飯はカップ麺でいいか。自炊とかもうめんどくさいし、炊いたのを忘れて1ヶ月放置しちゃった米とかもうゴメンだ。


物色するためにコンビニに入ると誰かがイートインスペースにいるのに気が付いた。


ハグッハグッハグッ

ズルズルズルズル

モグモグモグモグ

ゴクゴクゴクゴク


なんかすんごい食べている奴がいるなぁ。

ま、俺には関係ないしいいや。無視して夕飯を物色してお会計を済ませる。


ハグッハグッハグッ

ズルズルズルズル

モグモグモグモグ

ゴクゴクゴクゴク


店を出ようとする時もずっと食べている音が聞こえてきた。


こんなに音がするなんて一体誰がこんなにめちゃくちゃ食べてんだ??


つい好奇心からイートインスペースを除くと・・・


ハグッハグッハグッ

ズルズルズルズル

モグモグモグモグ

ゴクゴクゴクゴク


美少女がやっちゃいけないだろう暴飲暴食をしている意中の相手、ロボ子がそこにいた。


既に食べたであろうコンビニ弁当の山。

大量の空のペットボトル。

お菓子の空き箱や空き袋などなど。


開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。食事などはイメージすら湧いてなかったが・・・まさか経口摂取可能だったとはテクノロジーの進化って凄いなー。


『ふぅー・・・食べた食べた!いやぁ、やっぱり病院食は味薄くてダメだねぇ。育ち盛りなんだからもっとこう脂が足りないよね全く!』


一息ついたであろうロボ子はそのまま通学カバンを漁ると、そのままゲーム機を取りだした。


『よっしゃ!今日もこのままブルモンの色違いを厳選してやりますか!!おっほー!陰キャが進むー!確率低いからねぇ、エリートハムスターは時間さえあれば周回するのだ・・・・え?』


おっとバッチリ目が合ってしまった。


「お、おっす」

『あェ!?』


よし!ちょっと怪しかったが挨拶できた!


『あェェェエエエェェェェエエエ!?!?あ、あああああ青山くん!!??』


あ、名前覚えてくれてた嬉しい。


一心不乱に食べていたから乱れていた髪を、急いで手櫛で整えるロボ子。

うーむ、何かタイミング悪かったみたいだ。


『あ、嫌!見ないでー!!』


急いで食事の残骸を体で隠すが、残念もう遅いバッチリ見ちゃったからね。


『どどどどどうして青山くんがここにいるの!?』

「待て待て待て、一旦落ちつけ!俺の家すぐそこだからだよ!」


相手が慌てていると、相方は冷静になるのって本当なんだなぁ。


『こ、この残骸は私知りませんからね!他の人が食べていたのを放置していただけですからね!!』

「わかったわかった!頼むから落ち着いてくれ!店に迷惑になる!」


必死に宥めようとするが余計にヒートアップしていくロボ子。そして、、、


「あのーお客様?」

『「あ」』


はい怒られました。初めて来たのにもうこのコンビニ使えないじゃーん。


『あぅぅ。お恥ずかしいところをお見せしました・・・』


場所は変わって近くの公園。小さい頃はよく来ていたけど、久しぶりに来ると小さくなったと感じる。

夜だからロボ子の顔に影がかかっているがそれでも分かってしまうくらい顔が赤くなり、頭からは白い湯気があがっていた。きっと排熱しきれていない熱が顔面を覆う人工皮膚を紅く染めているのだろう。


「ほんとね、もうあそこ使えないじゃん」

違う違うそんなことが言いたいんじゃない。


『はぅ・・・』

「えっと、学校帰りはいつもあんな感じなの?」

『ま、ままままさか!今日だけですよ!いつもはあんなに食べたりなんてしません!そりゃ、病院食に味が薄いとか量が少ないとか多少の不満はあったかも知れませんけどいつもじゃありませんから!つい魔が差しちゃっただけですから!!』(早口)


・・・ん?病院食?


「ロボ子ってゲームやるんだね?」

『は、はい。お、お医者様からはもっと指先を使わないと右手のリハビリにならないよって言われちゃってるですけどね。両手が自由に使えないのはた、た、確かに厳しいですけど左利きだからまだ何とかなってますハイ。』


・・・んん?リハビリ?何だこの違和感。


「あー、、、ブルモン好きなの?」

『はい!今プレイしているのは第6世代なんですけど、これは第3世代のリメイクなんですよ!システムもグラフィックも一新されているのです!あ、もしかして青山さんもブルモンにご興味が?でしたらご一緒にいかがですか!?このゲーム実は対戦機能もあるのですよ!私結構やりこんでいるので強いですよ!!』(早口)

「お、おう」


何だこの醸し出す陰の気は?


「はい、一旦ストップ」

『は、はい?』


首をこてんと傾げるロボ子さん。おっふ、面がいいと映えるね。

だがしかしちょっと聞きたいことがあるからもうちょっと耐えろ俺の理性。


「あの・・・ちょっと聞いてもいいですかね?」

『な、なんでしょうか?』

「病院食とかリハビリってどゆこと?」

『・・・はい?』


あれ?変な事聞いたかな?


『えっと・・・どゆことですか?』

「・・・全身を機械化したんじゃないの??」

『してませんよ?」


え?


「機械化したのは右手と両膝から下だけです」


・・・え??


「左手も金属っぽいのは?」

「片方だけ生身なのはちょっと不格好なのでグローブを・・・」

「体型が変わったのは?」

「アハハ、病院食ばっかりだったので痩せちゃいました」

「その高めのアニメ声は?」

「地声です!」

「その顔は?」

「特にいじってませんけど」

「・・・ロボットじゃない?」

「はい・・・そうです」


・・・・なんてこった。彼女はロボ女子ではなく、普通の美少女。つまり俺が愛してやまない2次元から飛び出してきたのではなく、もともとその世に存在していたという事になる!

なんてこった!ただの現実じゃん!!


超絶ショックに襲われている俺の反応を見てロボ子は恐る恐る聞いてきた。


「えっと、わ、私ってどんな、あ、扱いになってるんですか?」


不安に思ったのか、美少女オーラをかき消すほどの陰のオーラがロボ子を包んだ。

うん。この雰囲気は間違いなく同族だ。


「えーっと、雰囲気が変わりすぎてどうしたらいいか分からないんじゃないかな」


かーなりぼかした言い方になったが・・・


「えっ・・・?つまりそれって遅めの高校生デビューしてキャラ変大失敗しためちゃくちゃ痛い陰キャじゃないですかーーー!!!!!」


やはり陰の者。悪い方向に捉えるか。


「オワッタ・・・・」


ベンチに横になり、まるで死んだ魚のような目になっているロボ子。


「しかしなんで急にキャラ変までしたんだ?」

「だって・・・見た目が変わったから行けると思って」

「変わりすぎててAIの疑いも出てるよ」

「えー・・・やっぱり不自然ですよね。空回りしているのはわかっているんですけど、なんか引っ込みがつかなくなっちゃって」


ははーん。あの妙なポジティブキャラはそういう事だったのか。


「あの・・・青山くん」

「ん?なんだい?」

「もしかしなくても青山くんも友達いませんよね。誰かと話しているの見たことありませんし」


突然の右ストレート。


「ぐはッ!?」

「その反応!やっぱりボッチでしたか!!」


水を得た魚のように急に元気になりやがった!


「そうだと思いました!休み時間に入るや否や、読書を始めるか寝始めるしかしていなかったですもんね!それで周囲に聞き耳を立てて、自分が悪く言われてないかおっかなびっくり探っているんですもんね!」

「う、うるせぇ!そうだよ!小物ムーブをカマしている最底辺だよ!!」

「私だってそうです!」


フンッ!と鼻息しながら胸を張るロボ子。

そこ威張れないぞ!てかお前もボッチかい!


「だ、だから!」


意を決したように両手で俺の手を取る。

右手の固くヒヤリとした金属と、左手の柔らかく暖かい手の感触が同時に襲ってきた。


「わ、私とおおおお友達になってくれませんか!」


「・・・へ?」


突然の事で脳が追いつかず間抜けな顔を晒してしまっているのは分かっている。


彼女の真剣な眼差しから目を背けることが出来ずにいた。


「な、なんで俺なんだよ」

「自慢じゃありませんが私は1度にこんなに会話をしたことがありません。貴方だけです!」


『貴方だけ』

そんな特別感溢れる言葉に口の端がニヤケそうになるのをなんとか抑える。ここでふひってしまう訳には行かない!


「で、でも俺生まれてこの方家族以外でまともに会話したことすらないよ!会話だって長続きしないと思うし」

「私だって同じです!何故かみんなすぐにいなくなっちゃって寂しいんです!それに!」


そう言ってロボ子は俺のカバンに着いているキーホルダーを指差す。


「貴方もボルモン好きなんですよね?だったら共通の話題もあるから大丈夫じゃないですか!」

「そう言われればそうだけど・・・」

「だったら!私とぜひ!」


興奮しているロボ子が更に顔を近づけてくる。


「お友達になってください!!!!!」


心臓がバクバクしているのが聞こえてくる。それが自分の音なのか、それともロボ子から聞こえてきているものなのかわからない。きっと顔が真っ赤なのは、最近続いている残暑のせいじゃない事くらい俺にだってわかる。


彼女は本気だ。きっとものすごく勇気を振り絞ったはずだ。夏休み前の自分から変わるためにたくさん努力をしていたんだろう。俺の手を包む彼女の両手が小刻みに震えている。陰キャ道まっしぐらな俺じゃ出来なかった事を、彼女は乗り越えた。


だったら・・・


「お・・・」


俺だって


「おお俺からも、よ、よろしくおねぎゃいします」


前に進めるはずだ。


「ッッッ!?」


彼女の頬を涙が伝う。ようやく踏み出せた1歩の大きさを噛み締めているんだろう。俺の手から離した両手で涙を拭うが、留まることを知らずどんどんと溢れてくる。


まだ冷たさと温かさが残っている手で俺はカバンからハンカチを取り出して彼女に差し出す。


「はい!よろしくお願いいたします!」


ハンカチを受け取りながらロボ子、いや仁科由希(にしなゆき)は今日1番の笑顔を見せた。


さて、こうして俺たちはボッチを卒業することになった。ここから友達を増やせるかどうかはまだわからない。

でもこの先誰になんと言われようと、この繋がりだけは絶対に失いたくない。


俺の人生史上、最高のスタートだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます!(´▽`)

だいぶ期間が空いてしまっての投稿ですが、少しでも多くの人の目に留まれると嬉しいです!

これからは復帰し、また新しい短編をどしどし書いていこうと思ってますのでお楽しみに!!


それでは次の作品でお会い出来ることを願って!

ありがとうございました!!

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