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奪ったのではありません、お姉様が捨てたのです  作者: 佐崎咲
第三章 それぞれの目論見
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第4話 国を出た人

 エドワード殿下の気を逸らすためだったのだろうとはわかっている。

 だが顔が赤くなったまま収まらないのをごまかしたくて一気に言った私にも、レガード殿下が顔色を変えることはなかった。


「それもある」


 またそういう言い方をする。


「いつからご存じだったのですか?」

「私が知ったのは最近のことだ」

「国王陛下と王妃殿下は?」


 部屋に入るなり質問攻めにした私に座るよう促すと、殿下も向かいのソファに座った。


「前ファルコット伯爵はクレイラーンに留学経験があった。だから知っていたのだ。()()()()()


 いきなりの核心にこちらが言葉を失う。


「とはいっても、当時の王女であって、今では先王の娘、つまりはエドワード殿下の叔母ということになるな」

「では、エドワード殿下が私の顔を見て気が付いたのは、先王に似ていたから、でしょうか」

「もしくは王女なら肖像画でも残っていたのかもしれない。あのネックレスがそこに描かれていたか、何か特別な王家との関りを示すものだったかで気が付いたのだろう」

「最初はそれを持っていた義姉がその娘だと思ったのですね」

「だが指輪を見てローラがそうである可能性に気が付いた。クレイラーンで婚約指輪と結婚指輪をつけるのは王族だけで、そのことは一般にはあまり知られていないらしい。先ほど父上からそう聞いた」

「なるほど、それで……。義姉のことばかり気にしていて失敗しました」


 そこに義姉が私のベールを剥いだりするから顔が見え、確信を深めたのだろう。


「前ファルコット伯爵は町中で平民に交じって暮らすクレイラーンの王女を見つけ、慌てて父に報告したのだそうだ。その時には既に王女の夫は亡くなっていた。それでローラと共に保護することになり、ファルコット伯爵家の後妻という形に収めたのだ」


 まさかそんな経緯があったとは。

 母が王女だったとは思いもしなかったし、あまりにも急なことで混乱し、私の頭はぐるぐるとした。


「母は父と駆け落ちをしてきたのだと思っていましたが。エドワード殿下は城から逃げ出した母を連れ戻そうとしていたのでしょうか」

「いや。表向きにも病気療養のため下がったということになっているし、クレイラーンの王家はローラの母を探す動きを見せていない」


 もはや諦めているということだろうか。

 だが王女が逃げ出したのに探さないなんてことは考えにくい。


「追放されたのか、それとも母が城を出るのを黙認するだけの理由があった……?」

「その理由についてはわかっていない。だがエドワード殿下がクリスティーナをクレイラーンに連れて行こうとしていたのは、おそらく二つ理由がある。一つは否定していたものの、やはり聖女が手に入るならほしいはずだ。もう一つは、王位を狙っているのだろう。エドワード殿下は正妃の子ではあるが第三王子だからな。誰が王位につくか揉めているらしい。だが聖女であり、先王の孫と思われたクリスティーナを連れ帰れば功績が認められ、さらには結婚すれば第三王子という不利を補えると考えたのだろう。――いや、結婚を想定していたのはクリスティーナだけかもしれないが」


 どちらもありそうだ。

 だが私はクレイラーンには行きたくない。

 この国を離れたくはない。

 祖父母や親戚に会いたくないのかと問われれば、気にはなる。

 だが私はずっとここにいたい。


 それが本心だったけれど、口に出すことははばかられた。

 王女にはその立場に見合う責任があったはず。

 母がそれを放り出して逃げたのだとしたら、私に義姉を責める資格などない。

 そうして生まれたのが私なのだから。

 母にも父にも追われているというような切迫感はなかったし、叔母もクレイラーンとやり取りをしているようだったから、これまで軽く考えていた。


「ローラを渡すようなことはしない。あちらとしても聖女の力を持つ人間を一人クレイラーンに連れ出すのだから、もう一人寄越せとは言えんだろう。勢いで返却不可も約束してくれたことだしな」


 だが母がいなくなったことで迷惑をかけられた人や振り回された人がいるかもしれない。

 私はそれを見ないふりしていていいのだろうか。


 母はどんな理由でクレイラーンを去ったのか。

 それを知らない限り、安穏としてこのままでいるわけにはいかない。

 だがエドワード殿下に聞いても知っているかはわからないし、母にとっての事実と他者にとっての事実が違う可能性だってある。

 できるだけ母に近い人からも話を聞きたい。

 それを知り得るのは一人しかいない。


 もう一度叔母を探そう。

 そしてエドワード殿下からも話を聞かなければならない。


 そこにあるのが自分の望む答えではないとしても、それが私が今生きていることの責任だから。

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