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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第3部2章 『罠師』、異変に遭遇する。

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3-6. 『罠師』、要望に応えて能力を披露する。

約4,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 ケンたちは少し開けた場所を探して、直径十数メートル程度の能力を披露するためにおあつらえ向きの空間を見つけた。


「これくらいの広さがあれば十分かな」


 ケンは満足そうにその場所の中央に立ち、ほかの仲間たちがまるで舞台と観客席が分かれているかのように開けた場所の縁の方で立ち見を始める。


「あまり広くないですね」

「もっとデカくて、スキルの説明も派手な感じにすると思ったよね」


 ケンが周りを見渡してゆっくりと頷いていると、アーレスやメルがキョロキョロと見回して状況を確認する。


「まあ、正直、僕のスキルたちは地味なのと、そのほとんどを見せているからだけどね」


 ケンの「地味」という言い分に、ミィレやソゥラ、ファードは難しい顔をして、アーレスとメルは不思議そうな顔をする。


「えっと……『罠師』、『神速』、『観察眼』……それと先ほどのですか?」


「そうそう。前に少し言ったかもしれないけど、僕はここが異世界で6つ目なんだ」


 ケンが右手の装備を外して素肌を露わにすると、手の甲に5つの白い星があった。ただし、遠巻きに見ていては分からないため、メルがケンの近くまで歩いてマジマジと手の甲を見つめる。


「これが勇者の証?」


「そうか、メルにはまだ見せてすらいなかったか」


「うーん……この証、消えない」


 メルは綺麗に星の形になっているアザのようなものを試しに擦ってみた。


 もちろん、勇者の証である星のアザは消えることも黒ずむこともなく真っ白なままである。


「いやいや……それで証が消えたらさすがに焦るんだけど……で、僕たちはどの世界でも1つずつしか能力を得ていないんだ」


「つまり、まだこの世界で能力を得ていないということですから……5つ……ですか?」


「そういうこと」


 メルが再び開けた場所の縁まで歩いている間にケンとアーレスの間で話は進む。


 5つの能力。勇者や魔王の持つ能力は1つでも絶大な力を持っている。この時点で異世界から来た者たちがどれだけ優位に立っているのかが窺い知れる。


 勇者として世界を救った経験、魔王として世界を滅ぼした経験、いずれにしても、その経験は一筋縄ではないと言外に物語っているようなものである。


「私も5つね」


「私はあ、6つです」


「え? ソゥラ、もう能力を得たの?」


「そうですよ」


 ソゥラはすでに『分身生成』という能力をこの世界で得ていた。ミィレはそれを知らずに驚いている。


「伝えてないことが多すぎたね。でも、ソゥラのはまた今度ね。で、僕のを1つずつ紹介するよ。まずは1つ目の世界で得た『罠師』。罠発動。このスキルは、最初の世界の……『職業系』スキルなんだよ。その職に類する能力しか得られない世界だったな」


 ケンは情報伝達を怠っていたと言いたげに苦い顔をしたが、すぐに自分の話題へと戻した。


 ケンが罠発動と言うと、無数のロープが地面から生え始めて、ゆらゆらと海の中の海藻のように揺らめき始めている。


 このロープは本来何かの条件によって反応して条件に該当した対象を縛り上げるが、今はただ発動しただけのようですぐに消え去った。


「『罠師』……何でもありのチートスキルですよね」


「あはは……最初は……罠発動……これしかできなかったけどね」


 ケンが乾いた笑いの後に自虐気味にそう言い放ちながら出した罠は背の低い草を結んだ足掛け用の罠だった。


「……草結び? 足を引っ掛ける?」


「そう、子どものお遊びのようなスキルで、『罠師』はトップオブ最低辺の職業スキルだった」


 ケンは苦々しい記憶を思い出したのか、取り繕うように楽しそうな表情を浮かべることもなく、少し落ち込んだような表情で少しばかり俯いている。


「最底辺? 信じられません。何でもありのチートですよね?」


「地道にレベルを上げたら最強職になった感じかな。そもそも、草結びしかできないようなスキルを何百、何千、何万回と……しかも一度に仕掛けられる罠は1つだけだから、結んでは解き、結んでは解きを繰り返して……やっと次のレベルに行ったと思ったら……はあ……思い出すだけでも辛いね。まあ、というわけで、そんな『罠師』でいろいろと試そうなんて思わないだろうし」


 ケンの表情は苦労で滲んでいた。彼の境遇を知るミィレやソゥラが少し涙ぐむ。


「あの時は大変だったわよね……今じゃ最恐だけど」


「ケンを守ってあげなきゃって、母性がくすぐられましたあ……今じゃ最凶ですね」


「俺とケンたちは2つめの世界で会ったから、俺が知る頃には最狂だったな」


 ミィレ、ソゥラ、ファードが思い思いにケンの『罠師』について口を開くが、いずれの「さいきょう」も若干意味が異なっている。


「……3人の言い回しにちょっと引っ掛かるけど、とりあえず、次は『神速』。2つ目の世界は『最も〇〇』なスキルだね」


 ケンはそう言うと、開けた場所を縦横無尽に駆け巡る。アーレスの目の前に立っていたかと思えば、次の瞬間には別の場所にいて、さらにアーレスが彼を目で追っていても見失い、見失った瞬間に別の場所にさっと現れる。


 まるで神出鬼没を体現しているようだ。


「最も〇〇?」


「そう。『神速』は最も速い、だね。2つ目の世界ではそもそも、勇者スキルを得られる者が少なくて、その世界の住人のほとんどが無能力者だったな。まあ、魔法の概念はあったから、スキルが無くてもある程度は戦えていたけどね」


 ケンがどこからでも現れ、どこにいても消えている。そのからくりは単純に速く動いているだけだが、アーレスやメルからすれば、俄かには信じがたいようで眉間にシワが寄る。


「……なるほど? 最も速い……ですか。いつの間にか消えていて捉えられないと考えると……これもチートに近いですね」


「まあね。これは動作だけでなく、思考速度や反応速度にも適用されるんだよ。はい、これ」


 アーレスが試しとばかりに『刀剣生成』で出現させたダガーをケンに向かって射出してみると、ケンは特段の苦労をした様子もなく射出されたダガーを手に取って、アーレスに渡そうとする。


 アーレスは小さく溜め息を吐いた。


「はあ……捕まえられないし、罠はばら撒かれるし……恐ろしいですね……」


 2つ目で既にアーレスとメルはギブアップとばかりに、肩を竦ませるように両手を小さく挙げた。


「で、3つ目の能力は『観察眼』。この世界の能力は『目に関する』ものだったな」


「『観察眼』もすごいですよね。能力は……目に関するものですか?」


「そのほかだと、たとえば俺は『千里眼』だな。かなり遠くまで見られるんだ」


 ファードが自分の能力を少しだけ説明する。ケンの『観察眼』、ミィレの『審美眼』、ファードの『千里眼』はいずれも同じ世界で得られたスキルだ。


「そうそう。僕の『観察眼』は前にも説明したように、状況把握や整理、推測をするために役立つスキルだよ。目に映るすべてが何らかの情報として事細かに分かるようになる」


「最初はあ、情報の波? に負けて、よく吐いていましたね」


 ケンはまたもや苦々しい思い出が蘇って顔が強張る。


「そうだね。今ではある程度慣れたからマシになったけどね。まあ、一歩間違えると情報の荒波に酔うけどね」


「能力を得て良いことばかりではないのですね……」


「ボクたちのスキルも何かあるのかな」


 アーレスとメルは、能力によって副作用や代償を伴うことを知る。能力の弱点や不便さと違い、副作用や代償は直接自分の身に降りかかることとあって、2人の表情に躊躇いの色が生じていた。


「まあ、あるかもね。でも、それを恐れるなら旅をやめた方がいい。普通の生活はできるだろうしね」


 ケンは優しさと同時に少し冷たく突き離すような言葉を口にする。


 迷いや躊躇いは死に直結するからだ。


「いえ、旅を続けます」


「そうそう、ボクだってやめる気はないよ」


 アーレスもメルもケンの言葉を突っぱねるように強い意志表示を見せる。


 ケンは静かに肯いた。


「さて、次は4つ目の世界で得たスキルで、先ほど見せたどこにでも貼りつくことができるスキルとも言える『家守の加護』。4つ目の世界は『〇〇の加護』で〇〇は動物や植物だったなあ」


「……ヤモリ?」


 ケンが先ほどと同様に木の幹や枝に垂直になって、まるで足が木にペタペタと吸い付いているように難なく歩いてみせる。


 一方、アーレスが聞き覚えのない言葉に首を傾げ、メルの方を向いてみると、メルもまた知らない単語だったようで同じように首を傾げていた。


「多分、この世界にもいると思うけど、爬虫類で壁や天井にペタペタ貼りついて動き回るやつ」


「……爬虫類?」


 ヤモリに続き、爬虫類という言葉にもアーレスとメルの2人が首を傾げる。


「……うん。この前、ちらっと見かけたから多分言葉が違うか、認識がないかだけだと思う。今度、図で説明するけど、とりあえず、一旦さて置いて、そういう動物ってことね」


「な、なるほど」


「う、うん」


 話が進まないと判断したケンが話をごり押して、アーレスもメルも疑問を横に置いた。


「後、この『家守の加護』は、暗闇でもモノをはっきりと見えるようになるんだよ。それと、自動再生能力もあるけど、大きな欠損は回復魔法とかじゃないと無理だから思ったよりも役立たないかな」


「ヤモリ……すごいですね」


「もっとすごいものもいるけどね。で、僕の5つ目、現状での最後の能力は『怠惰』だよ」


 ケンはいつの間にか地面に降り立っていた。彼はそのまま、まるで時間が止まったかのように微動だにしなくなる。ゆっくりと目を閉じ、呼吸の上下すら見えず、周囲から隔絶されたような彼の放つ静寂がこの場を侵食して支配を始めていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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