2-28. 『刀剣生成』、『銃器生成』、火の魔将と戦ってみせる
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楽しんでもらえますと幸いです。
ケンたちがケルツェの目論見に考えを巡らせているとき、メルは隣で立っていたアーレスにちょんちょんと肘どうしをぶつけるように小突いた。
アーレスがその小突きに気付いてメルの方を見ると、メルはさらに人差し指と中指を揃えた手をつくってケルツェの方を指し示す。
声を出すとバレると思ったのか、メルは悪戯を思いついた子どものように無邪気に口をパクパクさせてアーレスに伝えようとする。
ボ、ク、た、ち、で、ケ、ル、ツェ、の、ゆ、く、て、を、は、ば、む、く、ら、い、し、よ、う、よ。
アーレスにとって、その提案は何より魅力的だったようで一瞬だけ目を大きくさせて光らせる。しかし、一瞬だった。先ほどケンに制止されたこともあって、即答するまでに至らないようで首が縦にも横にも振られることがなかった。
煮え切らない態度のアーレスに、メルはさらに続ける。
ケ、ン、さ、ん、に、よ、ろ、こ、ん、で、も、ら、え、る、っ、て、ぜ、っ、た、い、に、さ。
そのメルの言葉にアーレスの心は揺れ動いたのか、彼女はピクリと小さく跳ねてからケンの方をちらりと見る。ぶつぶつと呟いているケンはアーレスの視線に気付く素振りも様子もなく、まるで地面か空かが恋人かのように上を向いたり下を向いたり忙しくしていた。
わ、か、っ、た。
アーレスはメルの方に向き直し、そう口を動かした。メルは嬉しそうに顔を右の方へと向けて進む方向を示しているようだった。
その後、2人はケンたちにもケルツェにも気付かれることなく、ケルツェの背後まで回ることができたのであった。
「不意打ちや多勢を悪く思わないでくださいね!」
「戦略ってものだからね!」
ガンッ……ガガガ……ガキキギ……バァンッ……キンッ……
アーレスがショートソード双剣状態で手数を頼りに攻め続けていく。その合間、合間にメルの銃撃がアーレスをすり抜けるようにケルツェと襲い掛かるも、ケルツェまで至ることなく大剣にすべてを弾かれていた。
「ふむ。私としたことが侮っていたばかりにお前たちを見落としてしまうとはな。不意打ち? 多勢? 大いに結構。お前たちくらいであれば、100人くらいきたところで問題にもなるまいて」
ぞんざいな扱いにアーレスとメルはカチンときたようで、その言葉を聞いた途端に表情が険しくなる。圧倒的な力量差があることを考慮しても、あまりな物言いであることは彼女たちの表情が物語っていた。
「減らず口を叩くな!」
「そこまで言うなっ!」
ケルツェは大剣を軽々と振り回し、アーレスの斬撃とメルの銃撃を危なげなくいなしていく。彼女は顔に余裕を浮かべて、段違いの強さでアーレスを押していく。
「どうした? どうした? 勇ましく出てきた割にはこの程度なのか?」
「油断していると足を掬われますよ!」
「身体に穴を空けてやるっ!」
単純な力比べでは勝てないことを知っているアーレスは、メルの動きを一切考えることなく、全力を持って斬撃を打ち込んでいった。
メルはメルで、アーレスの動きを逐一観察しながら、射線上にアーレスを入れないようにしながら器用に弾丸を撃ち放っていく。
金属どうしがぶつかり合う甲高い音が絶え間なく鳴り続けるが、誰も大きな傷を負うこともなく時間と体力だけが消費されていった。
「はははっ! 油断したところで問題ないのであれば、それは余裕というものだ。ほらほらほら! お前は動きが速いが動きだけだ! こちらから速度を上げてやろうか?」
「何を! ぐっ!? ぐうううううっ! がっ!」
ケルツェの大剣による攻撃が激しさを増していく。アーレスはその攻撃を受けたり避けたりすることに精一杯になってしまい、ケルツェが不意に放ってきた回し蹴りを思いきり脇腹に食らってしまう。
ケルツェは転がっていくアーレスを見て満足そうに笑っている。
「はははっ! 遅い! 遅いな! 判断を下すのに動きが鈍っているぞ? 最適な答えを探し過ぎているな? それと、大剣の動きに囚われ過ぎているからそうなる!」
「こっちも忘れているんじゃない? うらららららあっ!」
メルは大型の機関銃を生成し、その機関銃をしっかりと大地に固定して無数の弾丸を横殴りの雨のようにケルツェへと連射した。
「ファイアウォール」
「なっ……」
最初は驚いたような顔をしていたケルツェだが、ファイアウォールと唱えて、メルとの間に自分が隠れる程度の大きさの厚みのある炎の壁を用意する。
弾丸は超高温の炎に溶かされ尽くした。
「こちらも速いだけで、ただただちっぽけな金属の塊だろう? 知らないのか? 金属は熱で溶けるぞ?」
「ちいっ!」
「くっ!」
弾丸を一瞬で溶かし尽くす温度の炎など出されてしまっては一たまりもなく、熱波だけでメルとアーレスはケルツェから離れざるを得なかった。
「何度でも言うが、お前たちはたしかに速いがそれは単なる動きの速さだけだ。本当の速さとは、判断や反応の速度なども要素に加わる。そういう意味でお前たちは遅い! 動きが速いという才能にばかり頼って、経験値がまだ足らん!」
ケルツェはアーレスやメルを仕留めるつもりがないのか、何か別の意図が働いているのか、必要以上の攻撃を仕掛けない上に説教まで始めてしまう。
敵から相手にされず、説教まで受けたアーレスやメルの屈辱は計り知れない。その証拠に険しい顔がさらに険しさを増していく。
「ならば、これだ!」
アーレスはまだファイアウォールで近づけないこともあり、空中に円月輪と呼ばれる投擲刃物を生成し、高速回転させながら飛ばしていく。
円月輪はファイアウォールを避ける意図もあって、曲線的な動きを見せながらケルツェへと襲い掛かる。
「手数に頼るのは悪くないが、決め手に欠けているな。それに持ち前の速度は落ちるようだ。何でもかんでもしようとするから判断力が鈍る」
ケルツェに円月輪が届くことはなく、軌道を読まれた円月輪は虚空を裂いてあらぬ方向へと飛んでいく。
「くっ! まだまだあああああっ!」
「笑止……己の利が分からんようだな!」
アーレスがケルツェの大剣に対抗するためか、自身が出せる最大の得物クレイモアを構えて明らかに速度の落ちた攻撃を繰り出そうとする。
「アーレス、一旦終了!」
メルはアーレスを制止した。
「メル、何故だっ!」
「悔しいけど、でも、ボクたちの目論見は無事に完了したからだよ」
そう言うメルの横を通り過ぎ、ケルツェへと刃を振り抜くケンが笑みを浮かべて現れる。
「ありがとうね。よくがんばったね。でも、後で説教だよ」
「あっ……ケンさん……」
当初の目論見を失念していたアーレスは間の抜けた声をあげていた。
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