2-25. 『罠師』、巨大龍と巨大龍モドキの戦いを見る(前編)
約3,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ケンやアーレスの前に現れた魔物は大きすぎた。10倍以上だと思っていたものは頭部の一部にしか過ぎず、その全容はまるで小さな山だった。
その山のように大きい魔物は全身に粘着性の液体を纏っており、ベチャベチャ、ベトベト、グチャグチャ、グチュグチュ、ヌチャヌチャ、ネチョネチョと聞いている者が不快になりそうな音をしきりに立てて動いている。
ケンは魔物の姿を見て、バカでかいサンショウウオのようだと思っていた。
「罠発動」
その液体は魔物の外へとひとたび飛び出すと取り除くことが難しいほどに浸透し、また、生きている木や草が燃え始めるほどに熱かった。
ケンはまず止めないと、と思うに至って罠を発動させる。
「ヴヴヴ……」
しかし、ケンの発動した罠、耐熱性のロープが地面から伸びるように出現して魔物を大地に拘束しようとするが、拘束具は魔物に影響を与えることなく自然と消えていく。
これは罠が魔物に至らなかったのであり、魔物が罠への耐性がある、もしくは、無効化にする能力があることを意味する。
「これは……まずい! 罠発動!」
「ヴアアアアア……ヴオオオオオォォォォォッ!」
魔物は大きな口を開け、天に向かって大音量で吠える。
遠吠えにも似た鳴き声はどこまで響くのか。
音は衝撃波を伴って辺りの木々を薙ぎ倒したり吹っ飛ばしたりし、振動が地震でも起こったかのように地面を揺らして土煙を舞わせている。
ケンが罠でバリアを張っていなければ、彼とアーレスの鼓膜がおかしくなり、彼らの身体は他の木々同様に衝撃波と振動で吹っ飛ばされていただろう。
「ケンさんの罠が……」
「うーん……魔物の特性として罠無効なら罠が一切効かないし、もしくは、魔王の部下級で罠耐性付きなら罠が今はまだ効かない、かな。後者ならマシだけど、前者なら僕だけだと辛いね。どっちかは、もう少し観察しないと分からないな」
「そうですか。少し厄介ですね」
土煙が収まる頃、アーレスの呟き声が静まり返ったときに通る。
彼女を庇うように、彼女と魔物の間に立っていたケンは聞こえてきた言葉に反応して、どうしたものかと思案している。
ただし、彼がゆっくりと考えている余裕はなかった。
「おっと、延焼を防がないと。罠発動、罠発動」
周りの状況、燃え盛る木々や燃え広がる火の海に気付き、ケンは罠を発動した。先ほど暴走用に張っていた大型のバリアを土壁へと変えて、物理的に燃え広がらないようにした上で、さらに魔物を中心に大きく同心円ですり鉢状に囲っていく。
その後、地上にいた魔物をほぼ全滅させたミィレ、ソゥラ、メルの3人が大型の魔物に気付いてケンに合流した。
「ケン! アーレス! あれは!?」
「ケン、アーレス、大丈夫ですかあ?」
「ケンさん! アーレス!」
ケンとアーレスはミィレたちと合流すると、状況確認をし合う。
「僕たちは大丈夫だけど、そっちはどうかな?」
「小物は逃がしたかもしれないけど、大物は粗方殲滅しておいたわ」
「えっと、大物の基準は?」
「ボク基準です」
「だったら安心だ」
「ちょっと!」
「まあまあ」
ミィレの小物と大物という言葉に、ケンが反応しておそるおそる訊ねてみる。すると、彼女の横からひょこっと出てきたメルが手を挙げてそう告げるので、ケンは安心した。
仮にミィレ基準だとすれば、B級さえ小物同然と言えるからだ。
それを察して、彼の言葉にむすっとして言葉を発するミィレだが、隣のソゥラが落ち着かせるように宥めている。
「ヴアアアアアァァァァァッ!」
「さて、ご覧の通り、あの魔物だけは異様に大きいからね。もちろん強さも相当だろう。ということで、どうしたものか。後、火の魔将もまだいるしね」
ケンが何度も遠吠えをする大型の魔物を見ながら説明をして考えているところで、遥か上空からファードが彼らの前に降り立った。
降り立ったファードはケンを真っ直ぐに見据えている。
「ケン!」
「お帰り、ファード。何か言いたげだね」
「あぁ。ケン、あのバカでかいのはラースに任せとけ。やる気になっている」
遅れて戻ってきたファードの提案は連れている古代龍ラースにあの大型の魔物の相手をさせることだった。
彼の言う通り、遥か上空を飛んでいたラースは最大限にまで巨大化し、大型の魔物に匹敵するほどの大きさでファードに少し遅れて降り立っていた。
その後、ラースと魔物が互いに睨み合いを始めている。
「へえ。横やりしたら?」
ケンは意地悪そうな笑みを浮かべて、ファードを軽く挑発してみる。
ファードがケンの性格を熟知しているからか、彼は一切の怒気も発さずに、むしろ呆れた様子で肩を竦めて両手をひらひらと動かしていた。
「まあ、許さねえ、だろうな。あれはな、疑似炎龍のサラマンドラに近いんだ。龍にとって、疑似龍の類は嫌悪の対象なのさ。存在するだけで自分たちの格を堕とすようだからな」
「なるほどね。あえて、呼びやすいようにあの魔物をサラマンドラとしておこう。で、もう少し突っ込んだ聞き方をすると……じゃあ、許さないってのは、ファードも気持ちも込みってことね」
「まあな」
ケンもファードがここまで言って、これ以上わざわざ怒らせるような真似はしない。承知したといった様子で首を縦に振った後、次に真面目な顔で再び口を開く。
「理解したよ。では、逆に聞こうかな。僕たちが介入していいタイミングは?」
その時、2つの小さな山が動いた。ラースとサラマンドラはお互いに吠えて威嚇をする。
威嚇の後は攻撃に移った。
サラマンドラがゴボッという音を立てて、口から大量の粘液を吐き出そうとすると、ラースがすかさず近くにあった大岩を放り込み、サラマンドラの口を塞ぐようにした。最初は驚いた様子のサラマンドラだったが、大岩も最終的には一部を溶かしてから大顎で噛み砕いてしまう。
再び両者が吠える。
「基本ナシだ。火の魔将が無粋な真似をしやがった時か、決着が着いて火の魔将がすごすごと逃げ出す時か、いずれにしても、サラマンドラはラースの獲物だ」
ケンの問いに、ファードはお前なら分かっているだろうという面倒くさそうな顔をしながらも、ケン以外の周りの反応を見てわざわざ聞いてきた意図を納得し、手間を省かずにきちんと説明をした。
ミィレやソゥラは龍族のメンツやプライドというものにあまり興味を示さなかったようで、ファードの言葉を聞くまでは即時戦闘態勢を解いていなかったが、ケンのアイコンタクトもあり、サラマンドラに敵意を向けなくなった。
「そこは理解しているつもりだし、なるべく意に沿うようにしたいけど、火の魔将が決着前に逃げたら?」
「だったら、ラースとサラマンドラは放っておいてくれ。古代龍はなんだかんだでプライドの塊だ。一度決めたことを邪魔されたら末代まで響くぞ? それでもいいなら構わないがな」
ケンは笑う。
「なるほど。それは遠慮したいところだし、まあ、安心してよ。こんな怪獣大決戦みたいなものに横やり入れられないからね」
ケンがそう言っている通り、ラースとサラマンドラの戦いは激しさを増していた。
炎や岩、魔法などの応酬を先ほどまで続けていたものの一向に埒が明かなかったようで、今しがた肉弾戦を始めようとして、お互いに再び大声で吠え始めたところだった。
「どうだか……目は口ほどに物を言う。口と目の表情は一緒にした方がいいぜ?」
「ファードも『観察眼』をお持ちのようで」
「わざとそう見せているくせによく言う。言っておくが、ラースが必ず勝つ。それだけは何があっても信じろ」
「まあ、手を出さないことは約束するし、約束は守るよ」
「ありがとうな」
ケンとファードはお互いに理解して納得したという合図として、お互いの拳骨を突き合わせて笑い合った。
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次回予定:9/15(日)




