2-20. 『罠師』、炎の舞うダンジョンを進む
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楽しんでもらえますと幸いです。
ケンはダンジョンに踏み入れた瞬間から空気が変わったことに気付いた。
暑い。
肺を焼くほどの暑さではないものの、喉をすぐさまに乾かし、水を求めたくなるほどの暑さがそこにはあった。
ケンはすぐさま魔法を唱える。その魔法は身体を冷やす生活魔法であり、自分自身以外にアーレスやメルにも付与する。アーレスやメルはすっと汗が引いて、過ごしやすい温度になったことで険しい表情から柔らかな表情へと変わっていく。
「ケンさん、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして」
そのやり取りを見ていたミィレとソゥラが話を続けていく。
「それにしても見た目通り暑いようね」
「暑いのはあ、嫌ですね……」
ダンジョンはところどころから火が小さく吹いており、設置されている罠と連動する炎などは、罠にかかった者たちの身を物理的に焦がしていく。
しかし、罠を解除できるケンの前では炎が彼らの身を焦がすことなどなく、ダンジョンの不思議さを表す飾り程度にしか過ぎない。
「あ? そうか? これくらいでも動きやすいけどな」
「熱いマグマの中でも平然としているファードにとっては誤差だろうけど……僕たちには結構この暑さは辛いものがあるね」
平然としているファードに、ケンは羨ましそうな目を向けながら違いを説明する。
種族によって、あらゆるものの耐性が異なっている。龍神族はほとんどの状態異常が無効である反面、対龍族の兵器や武器には弱い。
「ミィレさんやソゥラさんは大丈夫なんですか?」
メルがなんとなしにそう訊ねると、ミィレもソゥラも一度見合わせた後にソゥラが先に口を開いた。
ソゥラの手が自身の鎧を指差し、トントンと叩いている。大丈夫な秘密はこれであると言わんばかりの仕草に、アーレスもメルも鎧に注視する。
「大丈夫。私たちはあ、鎧が特別なんです」
「特別?」
メルが目を輝かせて聞いてくるので、ミィレが少し嬉しそうに隠しきれない笑みを浮かべて説明を始めようと口を開く。
「そう、特別なのよ。私のもソゥラのも魔力を消費して、装着者が最も活動しやすいように温度を自動的に調節してくれるの」
「すごい装備ですね!」
人はほとんどの状態異常が効いてしまうが、装備や能力のほか、魔法や加護などによって弱点を補っている。裏を返せば、良くも悪くも影響を受けやすい種族ともいえる。
様々なことに対して、適応力を高めた種族らしい耐性の質である。
「ええ。ただ、誰でも使いこなせるわけじゃなくて、ある一定の強さがないと使いこなせずに、逆に鎧に魔力を喰われ尽くすけどね」
「えっ……」
「えっ……」
「なんて顔をしているのよ……。当たり前だけど、何事も代償は付き物よ。と言っても、私やソゥラは大丈夫だから、安心して」
「そうなんだ……ははは……」
「そうなのですね……ははは……」
アーレスとメルは冷や汗が滲み乾いた笑みを浮かべる。
「ま、この鎧を手に入れるまでは大変だったけどね。私は寒がりだし、ソゥラは暑がりだし。ケンにしょっちゅう魔法をかけてもらってね」
「『罠解除』。ん? ああ、まあ、最初に覚えていたのが各種生活魔法と『罠師』だからね。使えば使うほど熟練度も上がるし、おっと、『罠解除』、まあ、使わない手はないよね」
ケンは自分が話に上がってきたので、近付いて話に加わる。彼が指をクルクルと円を描くように回し、過去の苦労話を楽しそうに話す。
「あれ? 以前、生活魔法は誰でも使えると言っていませんでしたか?」
「そう、よく覚えていたね。使えるけど、効果や範囲は人によるから。僕が一番上手に使えたってだけだね」
「なるほど」
アーレスの的確な質問にケンは彼女の成長を感じつつ、彼女の疑問に丁寧に答えていく。
その後、しばらく、雑談も交えながら、周りを警戒しつつ進んでいく。
「あー、結構歩きましたけど、本当に適度に涼しい。周りはどんどん暑くなっている感じがするけど、快適。ケンさんの魔法、すごい!」
このダンジョンは奥が下へ下へと向かうようになっているタイプだった。
ケンたちはしばらく歩き回って、ダンジョンを隅々と調べて、階段を降りて、徐々に奥へと進んでいる。水があったであろう場所は窪みと魚類の骨を残して渇ききっていた。
「それはよかった。ところで、言っていたように、このダンジョンの中は相当、暑くなっているね。水も渇くくらいに。それに、ところどころ、火を吹いているようだけど、この火、以前からあったのかな」
ケンがちらりとアーレスやメルの方へと目を向ける。その視線に気付いた2人は周りを見渡して、少ししてからアーレスがケンの方を向いて見つめ合うようになる。
「うーん、おそらく、最近だと思います」
「ボクもそう思う」
「理由を教えてくれるかい?」
アーレスは先ほど倒した魔物の一部を見せる。魔物退治がメインではないため、重量からみて換金率の高いものだけを切り取って回収していた。
「先ほどから出現している魔物ですが、火を使ってこないですし、火に耐性のある魔物でもないです。長年、このような火が象徴的なダンジョンであれば、魔物も火を使ったり火に耐性があったりする魔物になると思います」
「ボクもそう思う。魚も泳げるくらいの水があった跡もあるし、もっと言うと、火に弱い魔物もいて、よく見ると瀕死だしね」
メルが指差した先には、彼が言っていた火に弱い魔物がなるべく暑さにやられないように窪んだ場所でじっと身を潜めている。
魔物に命はなく魔力の塊でしかないが、生存本能のようなものは動物たち同様に存在する。魔物でもケガをすれば、撤退することもあるし、仲間が死んだ場合に強敵相手だと悟れば撤退することもある。
「いいね。僕もそう思う。つまり、誰かが意図的にここを火や炎が舞うような場所に変えたってことだね」
「ということはあ、魔王やその配下でしょうかあ?」
ソゥラはつまらなさそうに歩きながらストレッチをしていたが、魔王や魔王の配下がいるかもしれないという話になって嬉しそうにケンにくっついた。
「可能性が高いわね……って、どさくさに紛れて、ケンに抱きついているんじゃないわよ!」
「いいじゃないですかあ」
「仲良くしようね……」
「皆さん、緊張感がないですね……」
「慣れすぎでしょ……」
ソゥラはミィレにべーっと舌を出して挑発し、ミィレはぷるぷると震えている。その様子に、ケンが軽く眉間にシワを寄せて困った様子で宥めていた。
さらに、そのやり取りを見て、アーレスとメルがツッコミを入れる。
ファードは面倒だったのか、やり取りにすら参加せずに横にいつつも無言で歩いている。
「今回は確実に仕留められればいいがな」
「そうだね。さて、そうこうしているうちに最奥……かな?」
ダンジョンはそこまで広くも深くもなかった。
ケンたちの目の前には物々しい扉が設置されており、ダンジョンによくあるボスの部屋の前といった様相で彼らを迎えている。
ケンが開ける。
途端に、扉の奥から何かが焼け焦げた臭いと熱すぎる熱風が彼らに襲い掛かる。熱風は魔法や能力などで対策済みだったが、焼け焦げた臭いには彼らの表情も顰め面に変わってしまう。
「ん? ここまで来られるとはな……歓迎しよう。異世界の勇者ども……かな?」
ケンの耳に凛とした女性の声がはっきりと届いた。
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