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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第2部2章 『罠師』、新しい仲間メルと出会う。

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2-8. 『罠師』、行き先を決める。

約3,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 宿屋内の食堂。そこは食事の時間以外に休憩スペースとして利用できた。


 徐々に依頼を終えた冒険者や仕事を終えた行商人が宿屋に戻ってくる中、ケンたちは全員で飲み物だけを頼んで1つのテーブルを囲う。


 ケンはテーブルの上にランドンケラ全域の地図を広げて、今いる町を指で示す。


「さて、今はここだね。そして、次の行き先だけど、ダンジョンがいいな。何か候補地ないかな?」


 その地図にはいくつか手書きの情報が記されており、これはケンたちが全員で集めた情報を地図上に書き留めているのだ。その情報の中にはもちろんダンジョンの情報もあり、ダンジョンの位置も近いものから遠いものまでいくつかマークされている。


 ミィレが小さく手を挙げて口を開いた。


「この国にダンジョンはいくつかあるみたいだけど、そもそも、どうしてダンジョンなの?」


「理由は3つかな」


「ふむふむ」


 ケンはまず指を3本立てて、その後に人差し指1本だけ立てたまま、ミィレの疑問に答え始める。


「まずは、アーレスとメルの鍛練。上等な魔物から魔石を得たい」


「魔石?」

「魔石?」


 ミィレとファードは魔石に聞き覚えがなかったようで聞き返す。ケンとアーレスが魔石の説明をすると、2人は納得したようで首を縦に振って頷いた。


「なるほどね。お手軽にパワーアップができるのはいいわね」


「手っ取り早く基礎は上げておけば死ぬ確率も減るしな」


「ボクも魔石でパワーアップして早く役に立ちたいです!」


「そうですね」


 ケンはミィレやファードの納得した様子やメルやアーレスの意気込んだ姿を見て、次の説明に移るために人差し指と中指の2本を立てる。


「次に、他の異世界勇者パーティーと遭遇する可能性があるから」


「他の異世界勇者が仲間になると心強いですね!」


「そうはあ、いかないんですよね……」


 アーレスの言葉に、ソゥラが首を横に振って若干否定気味に返す。アーレスが周りを見回すと、ケンもミィレもファードも少し難しそうな顔で頷いていた。


「え?」


「例外はあるけど、基本的に別の勇者たちは競争相手なんだよね」


 アーレスは衝撃を受けた。


 勇者は魔王を倒すという目的がある。この目的を共にする別の勇者たちのことを彼女は仲間の内だと思っていたのだ。パーティーを組まないにしても、連携や協力関係にあってもいいものだと思っていた。


「競争……相手……ですか? どうして? 目的を共にする仲間なのでは?」


「細かい説明は今度するとして、各々がね、自分たちが魔王たちを倒して平和な世の中にしよう、とするんだ」


「あー、ボクのイメージだと、もしかして、トレジャーハンターたちが、お宝の取り分が減るのは嫌だからって競争するのと似てますか?」


「それに近いね」


 ケンが詳細を省きつつ、メルが出した例えに頷いた。


「なるほど。手を取り合うわけではないのですね……戦うことはありますか?」


「さすがに殺し合わないけど、戦うことはあるね。まあ、切磋琢磨するライバルだと思えばいいよ」


「そうじゃないのもいるけどな」


「それもまあ、例外だから、また今度ね」


「あぁ、ちなみに、異世界の魔王たちもそれぞれ協力関係にないから安心しろ」


「複雑すぎませんか……」


 アーレスはケンとファードのやり取りも聞きつつ、いよいよ、異世界の勇者や魔王について分からなくなってくる。


 彼らはほぼ同時に呼び出されたにも関わらず、積極的に協力をせず、各々が独立した存在として、並行して目的をそれぞれが達成しようとする。


「まあまあ……仕方ないさ。さて、最後は、魔王ヴァーフェとその配下かな。彼らは神が造ったダンジョンで何かをしようとしている」


 ケンは最後に指を3本立てつつ、今までで一番難しい顔をしていた。


 異世界の魔王の一人ヴァーフェ。彼は多くの配下を有しつつ、彼自体も強力な魔王である。また、アーレスの闇の部分の多くを男性型として切り離し、魔王ヴェスペルティリオと名乗らせて、アーレスと戦わせようとしているトリッキーさも備えている。


「魔王がダンジョンで何かを? 何を?」


「それはまだ分からない。だけど、嫌な予感がする」


 ケンはヴァーフェの動向が気になっている。ヴァーフェは、配下をダンジョンにわざわざ一時的に置いて、何かを企んでいる様子なのである。


 先日の風の魔将フリュスタンやヴァーフェとの戦闘の後、ケンがダンジョンを調べてみると、何かをされている雰囲気があったものの、『観察眼』を持ってしても何をされたのかが把握できなかったのだ。


「まあ、その魔王だけじゃなく、ほかの魔王も気になるわね」


「というわけで、ダンジョンがいいなと思っているんだ」


 ケンは険しく難しい顔を解いて、いつもの優しい感じの笑みに戻る。それとほぼ同時にメルが力いっぱいに手を挙げていた。


「はい、はーい!」


「メル、元気がいいね」


 メルは呼ばれたことを指名と判断し、挙げていた手をそのまま地図の方に下ろして、ある場所を指差す。そこは、ダンジョンマークの1つだった。


「だったら、このダンジョンがいいと思います!」


「ここはそういうダンジョンなのかい?」


 ケンがそう訊ねるとメルは首を大きく縦に振った。


 メル以外の全員が、このかわいらしいオーバーリアクションと、かわいらしい見た目のせいでまったく男らしく見えないんだよなと思いつつ、言葉にして出すのはやめておいた。


「神様が造ったかどうかは分からないですけど、ランドンケラの中では一番古いって言われています! あと、奥に行くと、Bランクの魔物デュラハンが出ると聞きました」


 デュラハンは大きさが2mを超える騎士鎧の姿をした魔物だが、負の魔力だけで動いているために肉体を持たず、また、頭部である兜を持たない首なし鎧とも呼ばれる魔物である。


 馬車を引く個体も存在するが、狭いダンジョンの中では鎧だけが動いていることも多い。武器は人間なら両手で持つようなサイズの剣であり、それを片手で素早く振り回してくる。


「デュラハンは防御力を高める魔石を出すと聞きますね」


「なるほど。防御力は大事だからね。分かった。ここで決定にしよう」


 ケンはメルの話に乗り、次の行き先を決めた。話がひと段落すると、全員が大きく伸びをする。


「そうと決まったら、今日はゆっくりとするか」


 ファードは椅子から立って、ミィレに向かって手を差し出す。彼は部屋に向かうための鍵を要求していた。その様子にミィレとソゥラが顔を見合わせてから、ソゥラが口を開く。


「ああ……そう言えばあ、まだお話をしていませんでしたけど、部屋が3つなんですよ」


「3つか……難しいね。順当にいけば、ミィレとソゥラ、アーレスとメル、ファードと僕かな?」


「ちょっと待ってください! えーっと、アーレスと一緒は……ボク、男ですから。いろいろと困るんじゃないですか!? ね、アーレス?」


「……そうだね」

「……そうですね」


 ケンはすっかりメルが男であることを失念していた。むしろ、自称で、本当は女性なんじゃないかとまだ疑っている節もある。ただし、ひん剥いて確認するような真似はしない。


 アーレスは今まで野盗たちの頭をしていたこともあり、男と同じ場所で雑魚寝なんかは当たり前にしていたので特に問題がなかった。それに加えて、メルが何かしてくるようなイメージが一切できなかった。要は彼女は困ることがないのである。


「なんですか、2人とも、今の間は……」


「じゃあ……」


 ケンは仕方ないと言わんばかりに部屋割りを再度告げようとする。


「言っとくが、俺も女と一緒の部屋はゴメンだからな?」

「ケンは女の子と寝ちゃダメよ!」


 ファードとミィレがそう言い始めるので、ケンが固まる。


「……いや、どうしろと?」


「メルもケンと一緒だと危ないわね」


「え」

「え」


「いや、待って、さすがに男に手は出さないよ?」


 ミィレがついにメルまでダメだと言い始めたので、ケンは真っ向から否定した。ミィレの嫉妬によって、ケンのイメージがひどいことになっていく。


 メルとアーレスがすごい目でケンを見つめる。


「やっぱり、女の子にはあ、手を出すんですかあ?」


「え」

「え」


「いや、待って、誤解が激しい……取り付く島くらいもらえるかな?」


 ソゥラは面白いと思ったのか、あえて意地悪なことを言い始める。アーレスは少しだけドキッとして頬を赤らめるも口を覆っている布のおかげで表情を読み取られなかった。


「あー、もう、じゃあ、こうだ!」


 結局、ソゥラとミィレとアーレスの部屋、ファードとケンの部屋、メルの部屋という割当てになる。


 ケンは誤解が解けていない状況にどこか釈然としない気持ちで夜を過ごした。


 また、メルは1人で部屋を割り当てられたこともあって、結局、自分が男だと信じられていないんじゃないかというモヤモヤした気持ちで夜を過ごした。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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