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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第1部1章 『罠師』、仲間の1人ソゥラと再会する。
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1-4. 『罠師』、『色欲』を持つ仲間と再会する。

約3,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「さて、ガーゴイルが守っているから扉の奥がゴールだと思ったら単なる中間地点か。ということは、ここら辺に隠し宝箱がありそうなものだけど」


 ガーゴイルの部屋の先には、また黄土色の道が奥へと続いている。当てが外れて悔しがるケンだが、隠し宝箱を期待して付近の壁や床を触ってみる。


「ということは、天井かな」


 ケンは天井に目を凝らし、少し経ってから何かを見つけたようで、天井のある部分をぐいっと押し込んだ。すると、カチッという音の後に、彼の頭に丸く巻かれた紙のようなものが3つ落ちてきた。


「3つ……。1つはここの地図かな。こんなにしっかりとしたものがあるということは、やっぱり神の造ったダンジョンかな」


 しばらく、3つの見取り図を眺めてみる。


「もう2つも地図のようだけど、別の場所のようだ。こういうのはいわゆる、だいじなもの、なんだよね」


 ケンは2つの地図を腰の小さなカバンにしまい、ここの地図を片手に歩き始めた。


「さて、匂いがより濃くなってきた。さすがと言うべきか、少なくともこちらには誰一人逃げきれてないようだ。ただ、死臭もしないから、何とか全員生きているといったところかな」


 少し安堵したような顔をして進む。


「罠解除、罠解除、罠解除……まったく、単純作業だとつまらないね」


 その後の罠は入り口の罠よりも少しずつ高度になっているが、ケンにかかれば相も変らぬ児戯のようなものだった。若い野盗が無数と言っていた罠も発動しなければ、この洞窟自体は割と平坦で歩きやすい。


 さらにこの洞窟は、ダンジョンの割にその道中でモンスターも出没しなかった。


「もしかして、このダンジョンは……む。そろそろかな」


 ケンは匂いを頼りに歩き、ようやく薄い光の零れる穴を見つけた。


「よいしょ、っと!」


 ケンは穴に入る前に自身のぼろきれのようなマントを取り去って、匂いを発する先に投げつける。


「わっぷ。急に、なんですかあ……? ああ、この匂いは……ケン♪」


「ソゥラ……僕のこと、匂いで分かったのかい……?」


 ケンは話し相手をソゥラと呼んだ。ソゥラと呼ばれる彼女は彼が現れたことで嬉しそうである。


「もちろん♪ ケンのことが大好きですからあ。この後、私の相手をしますかあ?」


「ほぼ裸だったか……まずはそのマントをきちんと羽織って隠すべきところを隠してもらえるかな? あと、もうピクリとも動かないその野盗は解放してあげて……」


 ケンは、目の前で一糸纏わぬ姿のソゥラにマントで体を覆うように指示をした。その後に、彼は部屋にゆっくりと入りながら辺りを見回す。


 部屋は、先ほどのガーゴイルのいた部屋よりも一回り小さいくらいの十分な広さを持ち、少しばかりの明かりで薄暗く、野盗たちの荷物がそこかしこに置かれていて死角も意図的に作られている。


「……多少は乗り込まれてしまった時のことを考えているようだね。あ、こら、ソゥラ。もうその野盗は使い物にならないから、本当に離してあげて」


「はあい♪」


 ソゥラは妙齢の女であり、髪と同じ桃色の瞳をケンに向けながら、甘ったるい声色で返事をする。その後、同じく一糸纏わぬ野盗の上から離れる。何をしていたのかは想像に難くない。


「ぷはあ……運動の後の水分はあ、最高ですね♪ お酒ならもっといいんですがあ」


 彼女は桃色のセミロングの髪を揺らしてマントをきちんと羽織る。そのまま、近くにあった水筒の水で喉を潤し、近くに乱雑に捨て置かれていた自分の装備を身に着け始める。


 ケンがさらに辺りを見回すと、数十人の野盗たちはみな衣類をまったく身に着けずに小さな息をしながら倒れている。どうやら息絶えている者はいないようだ。


「そういえばあ、よく私だって気付きましたね? すぐにマントを投げてきてびっくりしましたよ」


「それは、さっき帰ってきた野盗たちがいたでしょ? そのうちの一番若そうな野盗から担がれていた君みたいな人の話を聞いたからね」


「若い男ですかあ」


 ソゥラは少し考えてから視線を動かした。ケンがその視線に合わせて見ると、若い野盗が肩で息をしながら裸で倒れていた。


「……桃色の髪をした女戦士なんてそうそういるものじゃないと思うしね。一人で、ってことは、ミィレやシイド、ファードとは一緒じゃなかったのかい?」


「ということはあ、ケンも一人なんですね♪ シイドさんやファードさんは分かりません。お姉ちゃんはだいぶ遠くにいるのかあ、あまり感じられません。……しばらく、二人きりですね♪」


「そうか。今回はバラバラか。早めに5人全員集合といきたいね」


「最後の聞いてませんね……」


 ケンは再び周りに目を移し、埃1つも見逃してはいけないと見回している掃除夫のように丁寧にじっくりと見渡している。その姿は何かを警戒しているようにも見えた。


「しかし、ソゥラさん? 捕まったのはわざとだよね? この世界に来て1週間も経たないうちにもうこうなるとはね……。さすが『色欲』のスキルだね。エネルギーのストックは十分かい?」


 色欲とは、ソゥラが持つスキルの1つである。


 満たされた性欲をエネルギーに変えることができる。このエネルギーはストック可能であり、任意のタイミングでエネルギーを純粋なエネルギー源として解放し、自身の攻撃にブーストを掛けることができる。


 また、性欲エネルギーを得るために、相手を魅了するフェロモンも常時放出している。なお、魅了のフェロモンは、エネルギーのストックが少ないほど強く発生する。ちなみに、ソゥラ以外に向けてエネルギーを解放すると……。


「ええ、エネルギーのストックは早いうちにしておいて損しないですからね♪ でも、やっぱり、相手はあ、ケンがいいです♪ 満足できませんからあ」


 ソゥラはすべての装備を身に着け終わった。


 彼女は、褐色気味の豊満な身体つきを彩るような肌の露出が多い女戦士の鎧、自身の身長を超える長いハルバードを持ち、そのような装備が似つかわしくない純朴そうな可愛らしい顔と垂れ目がちな目の中に綺麗に妖しく光る瞳をしていた。


 その美少女ソゥラの周りには、不思議な色を放つ何かが浮遊している。


「数十人を逃がさず相手にしているのに、満足していないのか……」


「体の満足と心の満足はあ、別なんです! 実際、ここの皆さん、体力も技術も普通なので、体の満足もそこそこでしょうかあ。生かすように手加減するのも大変なんですよ? ケンはいつ相手をしてくれますかあ?」


「偉いね。手加減できたのはいいことだよ。それと、今は遠慮しておくよ。僕はロマンチックな状況がいいな」


「雰囲気は大事ですよね! 私はあ、この薄暗い怪しい場所も大好きですけど!」


「まあ、それだけじゃないんだけどね……」


 ケンは誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた後に若い野盗を揺り起こした。


「はっ!」


「おはよう。楽しいひとときだったかな?」


「……まさか。良かったのは最初のうちだけで、最後の方なんか身体は勝手に動くし、いつもよりドッと疲れるし、意識は薄れるし……まるで何の気なしに地獄の淵まで覗いちまったかのようですぜ」


「誰も地獄にそのまま堕ちなかっただけマシだよ……」


 若い野盗は周りを見渡した。誰かを探しているようで、一人一人を薄暗い中でまじまじと見ていた。結局、お目当ての人が見えなかったのか、彼はケンに話しかける。


「ところで、頼める立場ではないんですが……ちょいとお耳を」


「ん?」


 ケンは若い野盗が動けないので、彼の口元まで耳を近づける。ケンは彼の耳打ちに対して、首を縦に2回振った。


「わかった。悪いようにはしないよ。仲間思いは嫌いじゃない」


「すみません。助かります」


「さて、ソゥラ、少し彼らの荷物でも漁ろうか。目ぼしいものがあるといいけど」


「はあい♪ 美味しいものとお酒があ、あると嬉しいです♪」


 ケンとソゥラが野盗たちの荷物を確かめようと荷物の山に近付いていくと、積み上がった荷物の陰からナイフが二人を目掛けて一斉に十数本ほど飛んでくる。


 すべてが的確に彼らの急所を狙っており、速度も十分に速かった。


「っ!」


 ソゥラが小さな音に反応し、少しでも時間を稼ぐために後退した。


「このくらいなら僕程度で大丈夫だよ」


 ケンは、ソゥラとは逆にナイフの方へ進み、腰の両側に携えていた2本の得物を抜き放った。彼の獲物は2本ともソードブレイカーと呼ばれる防御特化の短剣だった。


 彼は全てのナイフを叩き落とした後、荷物の方をじっと見つめる。


「まだお仲間がいたのですね。まったく気づきませんでしたあ」


「……今からでも遅くない。先ほどそこの若いのに頼まれてね。大人しくしてくれたら、荷物を少しいただくだけで君を見逃すよ? それとも、いまさら戦うのかな?」


「……っ。私は一派の頭としての誇りに懸けて、一矢報いるだけだ。それで死のうとも悔いはない」


 ケンはソードブレイカーを腰の鞘に戻して、やれやれといった表情で話を続けた。


「まるで武士のような言い回しだね」


「ブシという分からぬ言葉で私を惑わす気か!」


 埒が明かないと思ったソゥラが前に出ようとするので、ケンはそれを制止する。


「ソゥラ。ちょっと待機。ほんの少し会話が必要だからね」


「はあい」


 ケンは前に進み出た。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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