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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第1部6章 『罠師』、風の魔将と戦う。
41/89

1-35. 『罠師』、『千里眼』と再会する。

約4,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「罠発動」


 ケンのその言葉と同時に、出現したすべての虫が炎に包まれる。やがて、すべての炎が消えると、フリュスタン、ソゥラの呪詛とアーレスのすすり泣きが聞こえてくる。


「さて、だいぶ魔力も削れたと思うのだけど、どうかな?」


 ケンはフリュスタンに向かってそう話しかけると、彼女は激昂した表情で彼を睨み付ける。


「魔力よりも精神力がガリガリ削られたわよ!」


「それは予定通りだね」


「ほんとに! ムカつくわね!」


 フリュスタンは声も息も荒げて、ケンに最大限の怒りをぶちまける。彼女の睨み付けはそれだけで人が殺せるのではないかと思えるくらいに殺気がこもっていた。


「ケーン♪ 本気で一発叩かせてください! それで許してあげますからあ!!」


「っ!」


 ソゥラが満面の笑みを浮かべて武器を振り回す。武器はハルバードからハンマーに変わっているが、大人1人がすっぽりと入るような体積の金属の塊がぶんぶんと振り回されているので殺傷力に大きな違いはない。つまり、一撃必殺の一発になることだろう。


「そんなもので叩かれたら瀕死じゃ済まないんだけど。おっと、アーレス?」


 ケンに向かって、50を超えるダガーが一斉に飛んでいく。彼が難なく躱すのと同時にアーレスはゆらりと立ち上がった。その瞳には出逢った頃のように初々しい殺意が込められている。


「いい機会です。ケンさんに修行の成果をお見せしましょう……あなたの死をもって……」


「ちょ、ちょっと、仲間割れしている場合じゃないって」


 ケンはソゥラもアーレスも本気で攻撃しに来ていることに気付く。2人とも怒りが頂点に達しているようだった。


「そりゃ仲間割れもしたくなるわよ……」


 フリュスタンは怒りをグッとこらえて、魔力回復のために手出しをしなかった。多勢に無勢ということもあるが、闇雲に戦ってもケンには勝てないということが分かってきたからだ。


「罠発動」


 攻撃から逃げ回っていたケンだが、ついに罠を発動して、ソゥラとアーレスをロープで捕らえた。


「くっ」

「ぐっ」


 ケンはまずソゥラに近付いて耳打ちする。


「お詫びに後でたっぷり相手をしてあげるから」


 ソゥラはその言葉に怒りが溶解する。


「……分かりましたあ……約束ですよ?」


 ケンは次にアーレスに近付く。


「アーレス、ごめんね」


「もう二度とやらないでくださるならいいです」


 アーレスはジトっとした目でケンを睨み付ける。彼はニコリと笑顔になる。


「…………」


「やるんですね!? またやるんですね!?」


 無言のケンに、アーレスはそう叫ぶ。彼は首を縦にも横にも振らない。


「その時は事前にアーレスを別空間に飛ばしておいてあげるから」


「やるんですね……。別空間って、それもそれで怖いんですけど……」


 アーレスはがっくりとうなだれつつも、これ以上の譲歩はないと判断し、怒りの矛を収めるほかなかった。


「さて、と。仲直りも終わったところで」


「約1名、とてもそうには見えないけど……」


 フリュスタンは思わずツッコミを入れる。


「罠発動」


 ケンの言葉に応じて、無数のロープが床から出現し、フリュスタンへと迫る。先ほど彼女の手前で動きを止めていたロープたちが今度はしっかりと彼女を拘束しようとする。


「なっ……私がロープに縛られた? ウインドナイフ! 罠は効かないはず!」


 フリュスタンは魔法で風を生み出し、自分の手首よりも太いロープをズタズタに切り刻む。彼女の魔力量が少なくなっている今、極力魔法は使いたくないようだが、そうも言っていられない状況のようだ。


「ソゥラが言っていたはずだよ? 罠を当てるための条件がある場合があるってね。フリュスタン、君は完全無効というわけじゃないようだ。だから、嫌がらせをして、魔力と精神力を削りに削って、君が罠を防げなくなる条件まで引きずり下ろしたわけさ。罠発動」


「くっ……」


 ケンはフリュスタンの攻撃を避けつつ、ある一定の距離を保っている。罠で生み出された小さな種火が彼女の風の勢いを受けて燃え盛る。彼女は咄嗟に空気の流れを変え、燃え盛る炎を一瞬で消す。


「一応、嫌がらせに意味があったんですね」


 アーレスは思わずそのような言葉を出した。ケンはコケる。


「いや、さすがに怒るよ? ただただ嫌がらせするだけなわけないでしょ……」


「ケンはあ、嫌がる女の子の表情と声が好きだって昔聞いたようなあ?」


「……最低じゃないですか」


 ケンが怒ろうにも、よくよく事情を知るソゥラが味方をしてくれないので、彼にとってはただただ分が悪い状況だった。


「いやいや、否定はできないけど……僕に味方はいないのかな……っと、罠発動」


 ケンが罠を発動すると、フリュスタンは空を急に飛べなくなった。


「……纏っていた風を打ち消した? あったまにきたわ! 私があまり攻撃してこないことをいいことに! もう許さない! ほどほどに痛めつけてあげるわ!」


 フリュスタンが風の刃を強風とともに繰り出す。強風で動きがかなり制限される中での風の刃は本来であれば、殺傷力の高い攻撃である。しかし、ケンは強風に足を上手く動かせないながらも風の刃を器用に躱していく。


「くっ……中々に強い攻撃だな。罠発動」


 風除けのための分厚い壁がいくつも出現する。風の刃も壁を壊すまでの強度はなく、壁を前に散っていく。


「本当に邪魔ばかりね!」


 フリュスタンはイライラが募っていく。


「罠師の本分はそこにあるからね。まずい、これは。罠発動」


 ケンは咄嗟にフリュスタンの周りにバリアを張った。その後、彼女の周りにはどこからともなく無数の矢が彼女を目掛けて飛んでくる。彼がバリアを張らなければ、フリュスタンもただでは済まなかっただろう。


「っ! なに、矢? なんで、あなたが私を守るのよ!?」


「話が終わってないからね」


 何もかもに戸惑うフリュスタンをよそに、ケンはいつでも平静な面持ちで対処する。


「ケン! 元気そうだな! それはともかく、なんで俺の邪魔をした? やつが敵なんだろう?」


 スーツを着崩した男が突如砦の小窓を壊して現れる。深紅の瞳と髪を持ち、浅黒い肌に爬虫類のような鱗を持つファードだ。


「ファード、会えて嬉しいよ。『千里眼』でタイミングを窺っていたようだね」


 『千里眼』。通常の視力では見えない場所まで見ることができる。特定の人物に焦点を当てることができるが、1度でも自分の目で見た相手しか対象にできない(特定の相手を千里眼で見たときの周りの人間は対象外)。この能力と『遠隔』の2つの能力によって、ほぼどこからでも魔法で支援することができる。


「邪魔してすまない。ただ、まだ僕はフリュスタンと話が終わってないんだよ」


 ケンはファードに向けてニコリと笑うと、ファードはつまらなさそうな顔をして後ろに下がる。


「ちっ……早く済ませな……」


「ファードさん、はじめまして、アーレスと申します」


 ファードがソゥラとアーレスがいる方へ向かうと、アーレスが駆け寄って挨拶をする。


「敵もいる中で呑気に挨拶たあ、図太い神経してやがるな」


「す、すみません」


「ふふふ。ファードはあ、褒めているんですよ」


 ソゥラがそう言うと、ファードが何かに気付いたように頬を掻きながら再びアーレスを見て口を開く。


「……褒めてるとまでは言わないが、気に入ったぜ」


「あ、ありがとうございます」


 まるでフリュスタンがいなくなった後のような雰囲気である。フリュスタンはその光景に少し苛立ちを覚えながらもケンを警戒しており気を回す余裕がない。


「さて、フリュスタン、何度でも言うけど、ここから去ってくれないか? 理由が何であれ、犠牲者を出そうとしていない君を倒すようなことはしたくない」


「無理よ、私は魔王様の言うことしか聞かないのよ。勇者なら勇者らしく、私を倒していきなさい!」


 フリュスタンが風を練り始める。


「仕方ない……罠発動」


 ケンがそう言い放つと、床から鉄でできた大きな掌が現れ、フリュスタンを掴んだ後、掌以外の部分が出てくる。それは人形と言うにはあまりにも厳つく、ロボットやメカと言うには武骨な人型兵器、ゴーレムだった。


「うぐっ……ゴ、ゴーレム? あぐっ……あっ……」


 ゴーレムがフリュスタンを締め上げる。このまま握り潰すこともできそうだが、ゴーレムはあるところで、動きを止める。


「さて、ゴーレム、フリュスタンを連れて遠くまで飛んでもらえるかな?」


「は、離して! 私はここを離れたくないの! 魔王様との約束を果たしたいの! 約束を果たさせてくれないなら、いっそのこと、倒してよ!」


 フリュスタンはここで初めて涙声になる。やがて出てきた涙が1つ2つと目じりから零れる。


「っ……なんだ?」


 その瞬間、空気が一気に変わる。ケンは思わず声を上げ、少し和やかな雰囲気も出していたソゥラやファード、アーレスさえも言葉を飲み込み、緊張が走る。その空気はどんどん重くなり、やがて威圧だけでアーレスが膝から屈した。


「悪いが、フリュスタンは返してもらうぞ」


 大音量ではないにも関わらず、全員の頭に響く男の声。その言葉が終わった直後、黒い影がゴーレムの周りを飛び回ったかと思えば、ゴーレムはバラバラの鉄塊と化した。


「ゴーレムが……斬られた?」


 ケンは驚く。強度は通常の鉄とは比べ物にならないくらいに上げておいた。しかし、まるで豆腐のように、いとも簡単に鋭利な何かで切り崩されてしまっている。


「魔王様!」


 フリュスタンは黒い影しか見えなかった男にお姫様抱っこをされていた。そして、彼女はその男を魔王様と呼んで、抱き着く。


「遅くなった。勇者相手によくがんばったな」


 魔王は申し訳なさそうにしながら、お姫様抱っこで使えない両手の代わりに、自分の額をフリュスタンの額に軽く押し当てて親愛を示した。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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