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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第1部1章 『罠師』、仲間の1人ソゥラと再会する。
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1-3. 『罠師』、ダンジョンの罠を攻略する。

約4,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「罠発動」


「ギギィッ!」


 ケンは太陽の位置を確認する。太陽はほぼ大地に姿を潜めており、空、荒野、彼と彼に群がってきた虫の死がいたちを真っ赤に染めあげている。


「やっぱり出てこなかったか……。余計なものはたくさん出てきたのにね」


 虫とはケンの身長の倍以上あるムカデの化け物だった。そのムカデの化け物たちは、彼が出した鋼線で全身をバラバラにされて転がっている。


「この虫は魔物の一種か。……へぇ、センティプエーデ? この世界は人語が元の世界に近いかな」


 ケンはムカデの化け物の肉塊をジッと凝視した後に、ムカデの化け物の情報をまるで資料を渡されたかのように呟いていく。


 異世界でも言語は大きく変わることがない。正確には、数百数千とある基本言語セットの中から各異世界で時間の経過や言語を介する種族の中で変容していく。


 異世界の神もすべてを一柱でゼロから創り上げることはできないと彼は考えている。


「さて、感傷に浸るのはここまでにしようかな」


 ケンは野盗たちを解放してから開くことのなかった魔法仕掛けの大岩を見つめる。元より彼はまったく期待をしていなかった。そして、中に居る捕われ?の身が仲間であることを確信した。


「さて、何人かを見殺しにした可能性もあるけど、野盗なんだから命の保証は必要ないよね」


 頃合いなのだろう。ケンは魔法仕掛けの大岩の前に足を運び、手を大岩に当てる。


「罠解除」


 ケンがそう呟くと、大岩は、ゴゴゴゴ……という音を出しながら独りでに引きずられている。やがて、彼の視界から大岩は消えた。


「……うーん。これは、野盗の仕掛けにしてはよくでき過ぎているね」


 ケンは穴の中から先ほど嗅いだ匂いをより強く感じた。甘ったるい感じの引き寄せられる匂いである。


「まったく、仕方ないなあ……」


 ケンはそうして歩みを進める。黄土色の洞窟の中は仄暗い。


「【ライト】」


 ケンは【ライト】と呟き、発光しながら浮遊する球を3つほど魔法で生み出した。まだ多少の暗さがあるものの、彼の足運びには迷いがない。


「ん。これは、罠解除」


 入り口から数十歩というあたりで、ケンは何かを見つけたようだ。彼は罠を解除すると、洞窟の壁に視線を這わせて何かを見つけた。


「……矢か。毒矢……麻痺毒かな。推測するに、仲間が間違えた時も考えて、即死は避けたのかな。心配性というか、仲間思いというか、罠としては三流だけど、決して嫌いじゃないよ」


 ケンは手を壁に沿わせながら歩いていく。またしばらく歩くと落とし穴の罠を見つけて解除し、またしばらく歩くと大岩転がしの罠を見つけて解除し、と次々に罠を解除していく。


「罠の数はまずまずだけど、こうも露骨な罠に引っかかることはもうないなあ。自分たちが引っかからないためだろうけど、この程度だとなあ。引っ掛かっても大したことないかも」


 ケンの独り言がまた始まる。誰も聞いていない言葉が立て板に水のごとくさらさらと流れていく。


「しかし、ここまで奥に来られてしまったなら、小出しにせずに一旦油断させてからまた罠を配置すればいいと思うのだけれど。単発かつ単調なものばかり、連鎖的な罠も見かけない」


 ケンは罠の質に対して実に不満げで言葉が次々に形として表れていく。その様子はまるで好きではない玩具を与えられた子供のようである。


「おっと」


 ついに彼は、大した苦労もなく道をしばらく歩いて「罠解除」を数十回呟いた結果、今までとはまったく異なる雰囲気の部屋の前に辿り着く。


「これは中々期待できるかもしれない」


 その部屋はまだ部屋に侵入していないケンの気配に気付いたのか、魔法仕掛けの灯火で部屋全体を明るく照らす。


 照らされた部屋は洞窟内にあると思えないほど広く、形状がドーム状で、色が先ほどまでの黄土色とは異なり、光沢のある陶器のような白色をしている。


 ケンは、入り口手前に足を残したまま部屋の壁の端を手ですっと触る。すると、彼には手袋の上からでも滑らかな造りの壁であることが分かった。


「いくらなんでも広すぎる。それに、壁は魔法反射魔法による鏡面構造かな? ここまでのものだと、当たり前だけど、自然のものでもないし、人工物としても怪しいな」


 ケンは1つ大きなため息を吐いた。彼の表情は理解に苦しむと言わんばかりの歪み方をしていた。


「……神の戯れだろうな。何かしらの目的があるのか、ただの趣味か」


 ケンが部屋の真ん中に視線を移すと、そこには翼を持つ悪魔を模した石像のガーゴイルが鎮座している。


「ガーゴイルか……門番としては、ベタな魔物だね」


 部屋の白さと対照的な黒色寄りの灰色をしたガーゴイルは、多少の魔力を帯びているようで、ケンが試しに足先だけを部屋に入れてみると、鳥のような甲高い鳴き声をあげた。


「……ギギッ……キェエエエエエエエエエンッ!!」


 ケンが足をすぐさま部屋外に戻すと、ガーゴイルは動きをピタリと止めて所定の位置で再び鎮座している。どうやらガーゴイルは、部屋の侵入者に対して襲い掛かってくる仕組みのようだ。


「魔法の大岩といい、この部屋といい、野盗たちは上手く利用できているようだ」


 ケンは部屋を見回してみるも、ガーゴイルの守る宝がなく、扉が奥に見えるだけだった。つまり、このガーゴイルは奥に見える扉の番をしているということになる。


「今までの罠とは違うからね。少しだけ慎重になってみようかな」


 ケンは足元に野盗のメモのような跡を見つけて凝視する。それは、この罠が一筋縄ではいかないことの証明でもあり、初見殺しを回避させてしまうヒントにもなる。


「……なるほど。面白い罠だけど、ほぼ理解した。多重に罠を張り巡らせているようだけど、練度の高い『罠師』である僕にかかれば他愛ないね。せっかくだから、少し遊ばせてもらおうかな」


 ケンは嬉しそうにしている。少し遊び心が出てしまっているようだ。


「……ギギッ……キェエエエエエエエエエンッ!!」


 ケンが初めて部屋の中に入る。ガーゴイルは再びけたたましい鳴き声をあげながら、身体以上に長すぎる腕か前足かという部位とその部位の3倍はあるだろう大きい翼を激しく動かして浮き始める。


「遅い」


 ケンが次の瞬間にはガーゴイルの目の前に現れていた。


 ガーゴイルは侵入者の動きに戸惑って咄嗟に右腕を出すも、いとも容易く躱されてしまう。次に左腕を振り上げるが、その頃には彼の姿がガーゴイルの目の前からいなくなっている。


「キェッ?!」


「だから、遅いよ?」


 ケンはあっという間にガーゴイルを抜き去り、ガーゴイルが振り向き終わる頃には扉のほぼ目の前に迫る。彼の足の速さは尋常ではなく、ガーゴイルがその衝撃波のようなものですぐに行動できなかった。


「さてと、次だ」


 ケンが扉に手を掛けるふりをしてから、すぐさま手を引っ込めて、扉の前から1mほど後ろに遠ざる。いつの間にか、扉横の左右の壁からガーゴイルの腕が飛び出していた。その腕たちが彼を捕まえ損ねたことに気付いてか、2体の新たなガーゴイルが壁から出てくる。


「お次はここかな」


「キエェェェェェッ!」

「キエェェェェェッ!」

「キエェェェェェッ!」


「遅いよ……」


 ケンは、前後3体のガーゴイルの攻撃を易々と躱しながら、再び最初のガーゴイルがいた部屋の中央まで3体を誘導する。


「さて、罠発動」


 次の瞬間、野盗を縛り上げたロープよりも細いロープが空中から突如現れて、ガーゴイルを一纏めに縛り上げた。


 細いロープは魔力を帯びているようだが、ガーゴイル3体を縛り続けられるだけの耐久力はなかったようで、すぐに引き千切られてしまう。


「ケケッ」

「キェッ」


「【アイスアロー】。罠発動」


 ケンの右手から氷柱たちが高速で射出され、ガーゴイルたちに向かっていく。しかし、氷柱が何かに弾かれたようにガーゴイルたちの手前であらぬ方向へと逸れてしまう。


「予想通り」


 そう呟いたケンが先ほど罠で発動したものは、とてもとても小さな火だった。その小さな火たちが千切れた無数の細いロープの至る所から出始める。その小さな火は数こそ無数にあるが、1つ1つがマッチの火程度でしかない。


「キャッ、キャッ」

「ギャ」

「ガッ」


 ガーゴイルたちにもさまざまな感情があるようで、ガーゴイルたちは思わずその小さな火に笑い始めた。これで我らを焼き殺すつもりか、それとも笑い殺すつもりか、とでも言っているかのようだ。


 ガーゴイルたちは突っ立っているケンを目掛けて両腕を突き出す。


 しかし、透明な何かに腕を弾かれてしまった。


「キェッ? キキィエエエッ!!」


 ガーゴイルたちは幾度となく透明な何かを壊そうとするが、まったく壊れる気配がない。さらには、空を飛ぼうにも透明な何かが上もすっぽりと塞いでいるようで身動きがほぼ取れなくなっている。


 ガーゴイルたちのけたたましい鳴き声が透明な何かの中を空しく響く。


「それは対魔法用シールドだよ。ただ、僕が出したものじゃない。これは元々、最初のガーゴイルを守るための部屋の罠の一部だったのさ。侵入される前に強力な攻撃魔法で壊されてしまっては番人の意味がないからね。まあ、シールドがドーム型じゃなくて、壁型にしてないのはよく分からないけど」


 ケンは転がっている石ころをガーゴイルに投げつける。すると透明な何かをすり抜けて、ガーゴイルの頭部にコツンとぶつかる。ガーゴイルたちは不思議そうに石ころを見つめた。


「ただし、シールドだって不都合はある。誰かの攻撃魔法で反応して、一度発動してしまうと、外側からも内側からも魔力の帯びたものは行き来ができない。そう、君たちもね」


 ケンはガーゴイルたちを話し相手に見立てて、解説を始めている。一方のガーゴイルたちは、話を聞いている様子もなく対魔法用シールドを激しく叩いていた。


「そこで僕の罠の出番だよ。その細いローブは僕の魔力を帯びており、そこから出ている火も微量ながら魔法成分を含んでいる。散り散りに引き千切られたロープのいずれかの破片の火がシールド発動の位置に触れていれば、それで完了ってわけだよ」


 ガーゴイルたちはケンが言っていることを理解して、魔法を帯びた火を消そうとするも1つも消すことができないために半ば諦めたようで、火が消えるのを待つことにしたようだ。


 おそらく、彼を帰りに待ち受けることにしたのだろう。知能を感じさせる賢い選択である。


「他人の罠をただ解除するだけではなく、自分の罠の一部に組み込み、敵の予想外の展開に繋げていく。罠師としての面白みの1つだよね」


 ケンはそう言い残して悠々と扉の方へ向かう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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