1-30. 『罠師』、神の造りし砦に辿り着く。
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楽しんでもらえますと幸いです。
ケン、ソゥラ、アーレスの3人は神の造りし砦の前へとたどり着いた。古くからある石造りの砦は、緻密に積まれた象牙色ともいえる明るい薄茶色の石に風化や劣化の痕跡が見られず、全体が不思議な魔力を帯びている。誰が見ても、神が作った砦と考えて間違いなさそうだった。
「やけに静かだね」
「そうですね」
ここまでの道中、不気味なくらいに何もなかった。アーレスが出くわしたトロール以降、トロールや他の魔物がダンジョン外に出現した様子もない。ただただ、この神の造りし砦が無人になった周りの町の静けさと相まって異様さを醸し出す。
「さて、いよいよだ。中がどうなっているのかは分からないけど、注意を怠らないようにしよう」
ケンはソゥラとアーレスの方を向いて話しかけると、2人はゆっくりと肯いた。陣取っている風の魔将の性格にもよるが、扉を開けた瞬間に即死級の攻撃が放たれることもある。実際、ケンやソゥラはそういった敵とも遭遇したことがあり、仲間の機転で助かったことも逆に助けたこともしばしばあった。
3人は扉の前に立たずに少し隠れた状態で待ち、ケンが罠のロープを使って扉を勢いよく押し開けた。しばらくして、何もないことを確認して、アーレスとケンが中を確認する。
「誰も……いない?」
「罠も……ないようだね」
「逆に怖いですね。風の魔将さんはあ、配下がいないんでしょうかあ?」
3人が中に入る。しかし、それでも何かが出てくる気配はない。3人を待っていたのは、がらんどうの1階大広間だった。2階へと続く階段があり、地下へと続いているのか妙な雰囲気の扉もある。
「どうだろうね。下手に配下を持たない少数精鋭タイプか、統率できるほどの指揮力を持たない単独先行タイプか、はたまた、ただの考えなしか」
ケンはコツコツと足音をあえて鳴らしながら歩き回る。存在感を出し、挑発するセリフを吐き、相手の出方を待っている。軽快な口調と歩調とは裏腹に、不意打ちを常に警戒している。
「……言ってくれるじゃない? 安い挑発だけど、買ってあげるわ」
突如聞こえてくる若い女性の声に3人は身構える。全員が声のする方に目を凝らしてみると、そこには金属管があった。
「っ。伝声管か。君が風の魔将か?」
「風の魔将って……可愛い私にそんな仰々しい名前は似合わないわ。フリュスタンって気軽に呼んでよ」
風の魔将、フリュスタンはとても敵と思えない軽い調子で3人に話しかけてくる。
「よろしく、フリュスタン。僕はケン、残りの2人はソゥラとアーレスって呼んでほしい」
思わずアーレスがギョッとする。
「なんで素直に名乗っているのですか……」
「相手が名乗ってくれたんだ。こちらも相応の礼儀を示さないといけないと思っただけさ。さて、本題だ。フリュスタン、君をここから退けるのが僕たちの目的だ。欲を言えば、できることなら君を倒しておきたい」
ケンはアーレスの言葉を意に介した様子もなく、紳士然とした対応として名乗り、そして、目的をフリュスタンに告げる。
「でしょうね。今まで見たやつと違うもの。あなたたち、勇者でしょ?」
「ご名答。さすが、伊達に異世界から来てないね」
アーレスはケンとフリュスタンの会話に違和感を覚えつつ、自分が手出しのできない雰囲気を感じ取る。彼女がソゥラを見てみると、ソゥラは関係ないと言わんばかりにぼーっとしているように見え、アーレスの視線に気付いて手を振るほどゆったりとしている。
「お世辞はいらないわ。だったら、勇者らしく、お題を出してあげる。私はここの2階にいるのだけど、カギを掛けたわ。地下のダンジョンにカギを置いてきたから取ってきて私の部屋に入ってきてちょうだい。話はそれからよ、じゃあね」
伝声管からの声は一方的に終わりを告げ、ケンは顎に親指を当てて思案顔になる。
「なるほど、強制イベントか。なら仕方ないな」
ケンがそう呟くと、アーレスは口を開く。
「2階の扉を無理やりこじ開ければいいのでは?」
ケンは目を見開く。
「過激だね。たしかに、できなくもないけど、何が起こるか分からない。まして、ここは神が造りし砦だからね。フリュスタンがそれを上手く利用しているとなると、神の仕掛けに抗うことになる。せっかく道を示してくれているんだ。素直に従っておこうと思うのだけど、どうかな?」
アーレスはケンの言葉を吟味して、しばし無言が続いた後に、素朴な質問として言葉を出す。
「それが罠だとしたら?」
ケンはハッとした。自分はいつから試すことを忘れてしまっていたのか、と。イベントをイベントとして疑問に持たなくなってしまったのか、と。
「鋭いね。たしかに、それは新鮮な考え方だ。どうやら、僕は自身の経験に縛られていたようだ。それじゃ、地下に降りる前に確認してみよう」
3人は地下へと向かわずにまずは階段を上り、2階に辿り着く。そこには他の室内の扉より少し大きい程度の扉があった。鍵穴が異様な存在感を示し、ここにカギを差し込めと主張しているかのようだった。
「これが2階の扉ですか。たしかに鍵穴があって、今は扉が開かないですね」
アーレスは押してみたり、金具を使って横に引っ張ったり、手前に引いたりしてみたが、ビクともしない。少なくともカギはきちんと掛かっていることが確認できた。
「さて、アーレスならどうする?」
「では、破壊してみましょう」
ケンの言葉に促されて、アーレスは壊すことにしてみて刀剣をいくつか生成して扉に攻撃をしてみるが、壊すどころか削り取ることさえできなかった。
「……ダメみたいですね。ソゥラさんでもダメですか?」
「やってみましょうかあ」
アーレスは刀剣での破壊を諦め、ソゥラの力に期待してみる。ソゥラは自分の出番ということで張り切って、拳を扉に叩きつけた。とてつもない威力なので、風圧だけでアーレスは飛ばされてしまう。ケンはロープでアーレスを無事に捕獲する。
「ケンさん、ありがとうございます。危うく壁に叩きつけられるところでした。だけど、ソゥラさんの怪力でもダメですか」
「あ、アーレス、怪力はちょっと言い方があ……」
ソゥラは扉が壊れないことよりもアーレスの何気ない一言にしょんぼりとした表情で彼女を見つめる。
「あ、すみません。そういうつもりでは……」
アーレスが申し訳なさそうにもごもごとしていると、ケンが両手でパンパンと音を立てて、話を強引に戻す。
「さて、と。僕だけど、罠解除はできない。そもそも、これは罠という定義じゃないからね。神の力による試練のようなものさ。じゃあ、逆に罠を発動させて開けられるか、ということだけど、時間を掛ければ可能とも言える。だけど、どれほど掛かるか分からないから、僕個人としてはオススメしないかな」
ケンは自分の限界と言わんばかりに言葉で説明する。アーレスは首を縦に振った。
「なるほど。分かりました。お手間を取らせてすみません」
「いや、大事な感覚だよ。僕たちが言っていることを鵜呑みにせず、自分で考えて試して失敗する過程で学ぶこともある。言うことを聞くだけのいい子では得られない経験だよ」
ケンは笑顔でアーレスを見つめる。弟子の成長を喜ぶ師匠として、彼女が自ら考えて動くことに満足しているようだった。
「ありがとうございます」
「さて、気持ちを切り替えて、地下のダンジョンをクリアしに行こうか」
「おー。がんばりますかあ」
「はい。行きましょう!」
3人は1階へと一度戻り、そして、いくつか扉を開ける。依頼を受ける上で、砦内にある物は必需品として勝手に持って行っていいという約束を取り付けて、いくつかめぼしいアイテムを回収した後に、いよいよ地下のダンジョンへと降りていくのだった。
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