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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第1部5章 『罠師』、風の魔将と戦いに備える。
29/89

1-28. 『罠師』、Eランククエストを楽しむ。(後編)

約3,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 地下水道。城下町の地下は、網目のように水路が張り巡らされており、増改築を繰り返した結果か、壁や床の色の違いはもちろん、多少の段差や行き止まりになっている道もいくつかあった。


 定期的に清掃しているのは、負の魔力が溜め込まれないようにする側面もあるが、城からの脱出経路もあるからだろうとケンは推測する。


「思ったよりも綺麗だね。Bランクが出るってのは少し脅しすぎたかもしれない。しかし、地下水道特有の臭いはあるけど、負の魔力が中々見当たらないな」


 ケンはお得意の独り言が出る。負の魔力が溜まりやすい地下水道は、その魔力から上位の魔物が出やすい、と彼は過去の経験から考えていた。


「【クリーン】。【クリーン】。【クリーン】。【クリーン】。【クリーン】。【クリーン】。【クリーン】。【クリーン】。って、これじゃ、罠発動って言い続けている戦闘中と変わらないじゃないか」


 生活魔法は初級未満の低魔力で使える魔法を指している。


 火属性なら【ファイア」で種火が出せて、水属性なら【ウォーター】でちょっとした水が出せるなどがあり、これらは属性に適応がなくてもよい。さらに、【クリーン】は無属性であり、それこそ誰でも修得すれば簡単に使えるが、使用者によって範囲や効果が変わるので使い勝手は使用者による。


 ケンでも半径3mの球状の限られた範囲であり、効果は洗剤をつけた雑巾による水拭きで落とせる汚れを落とす程度だ。仮に純粋な魔法使いなら鍛錬次第だが、その倍の範囲と効力はまず得られる。


「【クリーン】。【クリーン】。と、思ったよりも早く終わったかな? 昼過ぎくらいだろうか」


 臨時であることや専門業者ではないことを加味されてか、それとも単純に手作業での効率を考えてか、依頼の清掃範囲はそれほど広くなかった。


「せっかくだから、負の魔力が溜まっていないか、いろいろと見てみるか」


 ケンはそう呟いて、依頼の範囲外へと足を延ばす。闇雲に歩くと迷子になりそうなので小さな魔力の目印を付けながら進む。彼が奥へ奥へと進んでいくと、少しずつ負の魔力が見えてきた。


「【クリーン】。【クリーン】。【クリーン】。ようやくぽつぽつと見えてきたけど、思ったより小さいな。すごいな。これほどの広さの城下町にも関わらず。清掃業者さんの頑張りが窺える」


 ケンは見たこともない清掃業者に賛辞を送っていた。


「ん? 鉄格子? もしかして、城の下かな?」


 ケンは鉄格子の隙間から奥を覗いてみる。清掃業者にも許されていないのか、極端に負の魔力の強さを感じる。


「セキュリティのためとはいえ、これではまずいね。罠発動」


 鉄格子がぐにゃりと曲がり、ケンはこそっと侵入する。鉄格子の先は他の水路よりも背も高く大きいが、流れがところどころ詰まっているようにも見える。壁も床も掃除がされていないためか、汚れがこびりついており、虫や小動物の住処にもなっているようだった。


「なるほど。この世界にもこういう虫はいたか。勉強になるね。【クリーン】。【クリーン】。【クリーン】」


 ケンは【クリーン】と連呼しながら、虫や小動物を追い払っていく。たまに大型の虫に出くわして襲い掛かってくるが、彼は罠で難なく撃退する。


「ん? はてさて、奥には何がいるかな。【クリーン】。【クリーン】」


 ケンは奥から獣のような喚き声が聞こえることに気付いた。やがて、広い場所に辿り着くと、人影のようなものを見つける。


「ガアアアアアアアアアアアッ!」


 その人影はケンを見ると、もう1度大きく吠えた。


「でかいな。もしかして、これは……グレンデルか?」


 グレンデル。負の魔力から生み出されるBランクの魔物であり、沼地などを住処とする体長が3mを超える隻腕の人型である。


 グレンデルは毛むくじゃらの中にある鋭い眼光をケンに向け、怒りを露わにする。


「いくら片腕とはいえ、グレンデルほどの魔物が鉄格子で出られないわけもないと思うけど。ひたすら、虫や小動物を食べながら、負の魔力を溜め込み続けているのかな。Bランクでも手強そうだ」


 グレンデルがケンに向かって走ってくる。その後、グレンデルがその隻腕を大きく振りかぶって、彼に襲い掛かった。しかし、彼は難なく避け、グレンデルの拳が地下水道の床にめり込む。


「少し狭いから避けにくいし、アーレスだと少し分が悪い戦いになっていたかもしれないね。僕でよかった、よかった」


 グレンデルはケンの言葉を理解しているのか、はたまた、余裕そうな雰囲気に気付いたのか、怒りを増長させた。


「ガアアアアアアアアアアアッ」


 グレンデルは巨躯に合わない素早い動きで殴り掛かるが、ケンには掠りもしない。


「たまには魔法を、と思う部分もあるけど、ただの地下水道で魔法をぶっ放すのもまずいだろうな」


「ガアアアアアッ」


「ソードブレイカーも強度的に怖いからな」


 グレンデルのラッシュはことごとく外れ、グレンデルはケンに足を掛けられることで前へ大きく倒れ込んだ。


 彼はどうやってグレンデルを倒そうか考えている。


「やっぱり、僕にはこれしかないか。罠発動」


 無数の毒矢がグレンデルの背中に刺さる。


「ガッ!」


「罠発動」


 グレンデルは視界がぐにゃりと歪んでいく感覚に吐き気を催した。


「ガアアアッ」


「ミィレがいれば、光属性の上級魔法で簡単なんだけど」


 ケンはいないパーティーメンバーのことを思いながら、次々にグレンデルを状態異常にしていく。麻痺、眩暈、吐き気など、グレンデルに効果のあるありとあらゆる状態異常を微調整する。


「ガアア……」


「うまくいっているようだね」


 やがて、グレンデルの苦し気な声は小さく静かになっていき、身体も構成していた負の魔力も霧のように消えていく。


「ん。魔石か。良いお土産になるね」


 ケンは赤色の魔石を手に入れて、元来た道を戻っていった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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