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異世界転移し続ける『罠師』勇者ケンの英雄譚  作者: 茉莉多 真遊人
第1部4章 『罠師』、この世界を少し理解する。

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1-15. 『罠師』、食事から世界を解説する。

約3,000字でお届けします。

世界の違いを少しだけ説明しています。


楽しんでもらえますと幸いです。

 3人は食堂で合流し、干し肉と硬めのパン、スープ、茹で卵という簡単な朝食を済ませようとする。


「この干し肉は美味しいな」


 干し肉はアーレスが説明する限りでは、豚のような家畜の肉を乾燥させたものらしく、味付けも海側の町で得られた塩を使った質素なものである。


「このパンは焼き加減がよい感じですね」


 硬めのパンは言ってしまえば、バゲットのようなパンと説明すれば理解がしやすい。それがいくつか切られた状態で出てくる。


「うーん。このスープはあ、ちょっと苦手かもです」


 スープはじゃがいも以外に具もあまり入っていない塩味の強い汁だ。ソゥラは少し苦手なようで、一口食べた後にケンへ皿をすっと差し出す。彼は仕方ないといった表情でほぼ2人前のスープを飲み干した。


「この卵はなんだか懐かしさすら感じるね」


 この城下町では、鳥類の卵を茹でたものが一般的なようだ。アーレスが言うには、卵を焼いて出す地域もあるらしい。


「毎回そうだけど、どの世界も自分のいた世界に近いものを何かしら有しているね」


「そうなのですか?」


 ケンはそう呟いた後に干し肉を齧り、アーレスはスープを静かに掬いながら質問した。


「そうだね。大きくは違わないというか、根っこが似通っているというか。もちろん、まったく同一のような世界もあれば、この世界みたいに少ししか似ていないけれど、その少し似ている部分が見つけられる楽しさがあるような世界もある感じだけどね」


「世界にもいろいろあるのですね」


 ソゥラは干し肉をゆっくりと味わって食べているようで、話に参加する素振りがない。


「そうだね。食が豊かな異世界では、それこそいろいろなものがある。僕が元居た世界では、毒がなければ、割と何でも食べていたよ。地域によっては虫を食べることだってある」


 ケンはアーレスから聞いていて、虫は虫、鳥は鳥、と話し言葉の上ではある程度同じ言葉で通じることが分かった。


 文字はさすがに完全一致とはいかず、彼は読み書きに少し難儀しそうと感じていた。


「虫ですか……」


 アーレスがどのような想像をしているのか、ケンには理解できていなかったが、身震いしている様子から昆虫食の文化はないようだった。


「そして、僕の元居た世界にはいなかったけれど、異世界ではドラゴンの肉が食用としていたり、魔物のフルコースが出たり、といろいろあったかな」


「えっ、ド、ドラゴンですか? 少なくともこの世界では、別大陸かダンジョン奥深くに生息するAランク、その中でも上位の魔物ですよ。というか、魔物を食べるのですか?」


 アーレスが驚きのあまりスプーンを揺らしてしまい、スープがこぼれそうになった。


「世界によっては、ね。この世界では食べられないかもしれないね。というか、僕たちの仲間に龍神族がいるから、そもそも食べたことないけどね」


「竜人族ですか。亜人の一種ですね。たしかにドラゴンを信仰の対象にしていますから」


 アーレスはドラゴンから派生したヒト型の竜人族をイメージし、ケンはドラゴンを統べる龍神族をイメージしているが、このニュアンスに違いに気付いているのは彼だけだった。


「うーん。多分、同じりゅうじん族という呼称でも、少し意味が違う気がするね」


「そうなのですか?」


 アーレスは最後のバゲットを口に放り込む。


「うん、そうだね。この数日で、アーレスにはいろいろと話してきたつもりだけど、まだまだ細かいところで伝えきれていないようだね」


「お二人の話は興味が尽きません」


「それはいいことだ。さて、ごちそうさま」


「ごちそうさまあ」


「ゴチソウサマ?」


「ああ。食事を終わらせたときの挨拶だよ。この世界は、いただきます、があっても、ごちそうさま、がないのか。中々に難しいな」


「そうですね。食事にしても、挨拶にしてもいろいろとあるのですね」


 食事を終えた3人はそのまま宿屋を出ようとする。


「あ。行ってらっしゃいませ。はい、これ、今日も必要でしょう?」


 宿屋の店主である若い男はアーレスにガイドマップを渡した。そして、男はソゥラの方をちらりと見る。


「いつもありがとうございます」


 ソゥラは店主の男の視線に気付き、笑顔でお礼の言葉を言う。男はデレっとした表情をする。


「なるほど。2日目から値段が安くなったのはそういう理由か」


 ケンがそう言うと、店主の男はバツ悪そうにそそくさと受付に戻り、ソゥラはソゥラで少し固めの笑みを顔に貼り付けていた。


「旅費はなるべく削減したいですからあ、……ね?」


「僕はどうこう言うつもりはないさ。宿屋の奥さんに刺されなければ、ね?」


「さて、どうしましょうか」


 ケンとソゥラの話は深みに入らない内に、地図を見るアーレスの呟きで打ち切られた。実は既にこの城下町に3人が来てから3日目であり、初日も2日目もアーレスのたどたどしい案内を受けながらウィルド城城下町を散策していた。


 彼女もこの国のことはあまり知らないが、文字を読めるので案内係をしている程度だ。


「1日目は有名スポットの観光、2日目は一般居住区および市場でしたね」


 前日、前々日の散策で、多くの場所が散策済みになっている。これは、ケンがその町や世界の文化レベルや生活レベルを見るために行っている散策の順番だった。


「と来れば、3日目はやはり……」


「やっぱり、酒場と歓楽街ですかあ?」


 ソゥラの嬉しそうな声に、思わずケンはズッコケた。アーレスは乾いた笑みを浮かべている。


「……朝からそんな重たいところに行きたくないね」


「いよいよ、冒険者ギルドと教会あたりでしょうか?」


「いいね。昨日も言ったように、そろそろギルドで冒険者登録と、教会で可能なら神と交信をしておきたいね。ギルドや教会の評判もこの2日でだいたい掴めたし、問題ないと判断できたからね」


 勝手に話を進めていくケンとアーレスに、いよいよソゥラは拗ね始めてしまった。


「…………」


 ソゥラの桃色の瞳はジトっとした目でケンを睨み付け、頬を少しばかり膨らませている。


「あー……」


 これだけならその容姿も相まって可愛いで許されるが、ケンはこの状態が長く続くととても良くないことが起こると知っているため、仕方ないと心の中で呟きながら、ソゥラの方を向いた。


「分かった。じゃあ、夜には酒場で楽しもう。これは約束だ」


「やったあ!」


 ソゥラは満面の笑みでケンに抱き着いて感謝の気持ちを表していた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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