1-13. 『罠師』、親玉ガーゴイルを瞬殺する。
約3,500字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
さらに翌日。初日が5体で、昨日は15体と、アーレスは着実に成長していた。『刀剣生成』はスキルアップもあって、射出速度や回転速度、最大本数、武器の強度や種類など様々な要素が徐々にパワーアップしている。
もちろん、アーレス自身の身体能力や反応速度なども着実にパワーアップしている。さらに、魔石のおかげで魔法防御力がかなり高まった。それでも、ケンやソゥラに比べるとまだまだ見劣りする。
「久々に能力向上を実感しています」
「それはよかった。これからもそれは実感できるさ」
アーレスにはまだまだ向上の余地がある。
「今日でこの鍛錬も終わるだろう。最後まで気を抜かないでほしい」
「はい!」
今日はアーレスの鍛練の総仕上げとして、復習しながらのガーゴイル討伐である。彼女はまだ2体を相手取るには力量不足だが、1体であれば難なく倒せる程度にレベルアップを果たしていた。
「……おかしいな」
「そうですね」
しばらくして、アーレスが5体ほど倒して魔石を吸収した頃、ケンと彼女はそう話し合う。
「何がですかあ?」
たまたま2人の呟きが聞こえたソゥラが2人に問う。
「魔石持ちの出現頻度がここに来て格段に落ちている。ソゥラは作業になっているから気にしていなかったようだね」
「たしかにそう言えばあ、私が倒してばかりですね。それになんだかあ、再出現までの時間も長引いているようなあ?」
ケンがそう言うと、ソゥラも気付いたようだ。
「おかしいな。見立てではまだ5~7体ほど出るはずなのだけど」
ソゥラが魔石を持たない3体を一気に倒して時間も空いたので、3人は一度集まった。
「初日よりも昨日、昨日よりも今日、頻度が落ちているのは確実ですね」
「何か見落としているのだろうか」
「うーん。ああ、そう言えばあ」
「ん?」
ソゥラが何かに気付いたようで、ケンは彼女に注目する。
「私が倒した数が大体70体で、アーレスが倒したのが25体くらいだとすると、そろそろ100体になるなあ、って」
「……そういうことか。ソゥラ、ありがとう」
「えへへ♪ 褒められちゃったあ」
「どういうことですか?」
ソゥラの話に、ケンが何かに気付き納得する。まだ分かっていないアーレスは気付いた彼に向かって首を軽く傾げる。
「どうやら、このダンジョンが今、大きなご褒美を用意してくれているようだ」
ケンが皮肉っぽくそう言うと、部屋全体が小さく揺れ始めていた。
「地震?」
「それにしてはあ、長い気もします」
揺れはいまだに続き、徐々に大きくなっている。
「ソゥラの計算は大ざっぱだけど、ソゥラが65体、アーレスが25体倒している。残り10体で100体の大台に迫るってことだね」
「ガーゴイルを100体ですか……」
「そう。そして、この手のダンジョンにはセオリーがあって、100体倒すと大型が出る場合と、100体に近付くと何かの条件で100体までの残数分の強さを持つ大型が出る場合があるんだ」
ケンは2人にゆっくりと丁寧に説明している。
アーレスの喉は唾を飲み込むためにゴクリと鳴った。一方のソゥラは昔を思い出したのか、何か納得したような顔をしている。
「つまり?」
「つまり、このダンジョンでは、10体の時点で10体分の力を持った大型のガーゴイルが出るってことだね。さらに言うと、その大型の魔石は残りの5つ~7つ分だ」
ケンがすべてを説明しきった直後、揺れが一度ピタリと止まった。3人は周囲を警戒している。
「来るね」
突如、部屋の中央の床からガーゴイルの片腕が生えてきた。その片腕は、今までの数倍の大きさを持ち、ほぼ黒色と呼んでもおかしくないほどの濃い灰色だった。
「ガーゴイルの親玉が登場だね」
「親玉って……。あれは、ヒュージガーゴイルと呼ばれるものだと思います」
「なるほど、ヒュージね。あれはガーゴイルよりも強いけど、同じBランクなのかな? それともAランク?」
「正確には分かりませんが、おそらく、Bランクです。ただし、かなり上位だと思います。ランクによる強さの違いは、今までのベテラン冒険者の感覚で決められますが、ランクから次のランクまで30倍ほど強いと言われていますから。Aランクには届かないかと」
その後、ガーゴイルの片腕と同じ色をした頭、身体が出現し始める。
「約30倍ってマグニチュードみたいな感じかな」
「マグニチュード?」
「後で説明するよ。しかし、それにしても、ランクごとに30倍とは大げさな。この世界で魔物と呼ばれるかモンスター呼ばれるかはそう言えばまだ知らないけど、Eからあるって言っていたよね。それだと、EからAまでで100万倍も差があるってことになるよ?」
「そう言われると……まあ、感覚的なものでしょうし、正確に測定できる何かがあるわけではないですから」
「そうか。それなら、仕方ないね」
「GEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
最後に、もう片腕と後ろ足が出たところで、ガーゴイルの5倍ほどの大きさのヒュージガーゴイルが雄たけびを上げる。
ケンとソゥラは、翼のないガーゴイルだと思った。しかし、翼の代わりに背中の方から腕がさらに左右から2本ずつ生え、腕が計6本になった。
「大迫力だね。だけど、罠発動」
残念ながら、いくら大きく強くなろうとケンの罠である魔力を帯びたロープの前では、ヒュージガーゴイルにさえ太刀打ちする術がなかった。
「さて、アーレス」
「はい」
「君に選ばせてあげよう。自分の力試しをしたいか、僕の戦いを見たいか、ソゥラの戦いを見たいか」
アーレスは考えた。まず、いくら強くなったとはいえ、自分の力量では倒しきるのは難しいだろう。ただ、今までと同じようにフォローをもらいながらだろうから、いずれは倒せる相手であることは間違いない。
しかし、2人の戦いを見てみたい気持ちもある。
「そうですね……ケンさんの戦い方を見てみたいです」
「分かった。そんな難しそうな顔しないで。どれも間違いではないよ。自分の力量から、戦いを避けた冷静な判断力はいいことだと思う。では、『罠師』の戦い方を見せよう」
その後は凄絶な光景だった。
「罠発動。罠発動。罠発動。罠発動。罠発動。罠発動。罠発動。罠発動。罠発動。罠発動。【ライトニング】」
ケンはロープでヒュージガーゴイルを縛ったまま、罠発動を連呼し、最後に魔法で小さな電撃を繰り出した。
その電撃魔法はヒュージガーゴイルに1つの傷も負わせることがなかったが、罠を連鎖して発動させるためのスイッチとして十分だった。
昨日のような四方八方からの攻撃はもちろんのこと、ヒュージガーゴイルの内部から小さな爆発音がいくつも鳴ってはその身体に無数のヒビを入れた。ロープがヒュージガーゴイルの身体をさらに縛り上げてヒビが大きくなる。
次に、何か得体の知れない無定形のものたちが召喚される。ヒュージガーゴイルの周りを浮遊していたそれは、ヒュージガーゴイルの身体を削り壊してけたたましい笑い声を上げながら持ち去って再び消えていく。
ヒュージガーゴイルは結局、雄たけびを1度でさえ上げることも許されずに、最終的には大きな魔石の塊だけを残してなくなっていた。
「まあまあの出来かな」
ヒュージガーゴイルの解体ショーの間、彼は一歩も動くことはなく、手も電撃魔法を打つ際に人差し指と中指を揃えてヒュージガーゴイルに向けただけである。
ソゥラやアーレスは、彼の張ったバリアに守られて、爆風の余波をそよ風さえ感じることなく、ただただ見るだけだった。
「……まあまあ?」
アーレスはケンの言葉に思わず反応した。
「そう。罠は一種のアートだと思っている。簡単な構成にすることもあれば、多彩なギミックや攻撃を取り入れた複雑怪奇な構成にすることもある」
「……そうなのですね?」
「そう。だけど、何よりも大事なのは前にも言ったように敵の動きを止めること。そして、どれだけ相手に最も的確にダメージを与えることと、自分たちの被害は最小限にすることだね。極論、落とし穴だけでも十分なこともある」
「なるほど。率直に言うと、戦い方が参考にならないことだけは分かりました……」
「そうだね。戦闘のスタイルが違うから難しいかもしれないね。今後も他の罠を使ってみるから、もし使えそうなところがあったら取り入れてみてね。さて、ここでの鍛練も終わりにしよう。今日は疲れただろうから、明日出発にしよう」
違う、そういうことじゃない、と言いたかったアーレスだが、彼女はぐっと言葉を飲み込んだ。
「たまにもっともっとひどいのがありますからあ、気を付けてくださいね。特に精神的に来るのがありますからあ……」
ケンが先に戻っていく中、ソゥラはアーレスの肩を軽く叩いて、小言でそう伝えた。
アーレスには、ソゥラの力のない笑顔から彼女が何らかの苦い過去を思い出した様子であることが容易に想像できた。
「えぇ……」
アーレスはこれ以上の何かを見る日が来ないことを切に祈っていた。
翌日。ガーゴイルをソゥラが数体倒すものの魔石が出なくなっていた。
ヒュージガーゴイルを倒したことで、ケンがダンジョンの休養が必要と判断した魔力量とほぼ一致したことが判明したため、3人はそのままダンジョンを後にして町へと向かった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ブックマークや評価、感想などをいただけますと励みになります。




