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04,圧迫祭り! 狂気のガシャドクロッ!!《後編》


「がぁっしゃしゃしゃしゃしゃぁあああッ!!」


 高らかに笑い上げ、餓者髑髏(ガシャドクロ)のお姉さん・芽志亞が白ランのポケットから何かを取り出した。それは、乳白色の拳鍔(ナックルダスター)。俗にメリケンサックとも呼ばれる武器だ。その色合いと見た目質感から察するに、材質は【骨】。何の骨かまでは不明だが、とにかく骨でこさえられた拳鍔(ナックルダスター)である。


「機装ッ、纏鎧ィイイイ……【弩吼髏握凶(ドクロアァァァク)】ゥゥゥウ!!」


 芽志亞の雄叫びに呼応し、骨の拳鍔(ナックルダスター)が爆発的速度で膨張。瞬く間に膨れ上がった骨は巨大な乳白色のドームとなり、芽志亞の周囲を覆い隠した。ドームは色合いと形状が相まって、まるで卵の様に見える。しかし、その卵の殻を突き破って孵化したのは、雛鳥の可愛さなど欠片も介在しない白骨の化物だった。


『がぁぁああっしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃぁぁあああああッッ!!!』


 さながら六〇メートル級にまで拡大された超猫背の人骨模型。皿助の知る人骨模型との形状的相違を挙げるならば、手首から先が異様に大きい事と、両手の指が各一〇本ずつある事、そして眼窩……眼球が収まるべき穴が左右四つと額に一つ、合計五つ空いている。


 ――餓者髑髏(ガシャドクロ)一族の特機、ドクロアーク。一〇〇年に一度だけ開かれる一族たちの催し【牛潰し大会】に置いて、優勝した者に与えられる逸品。一〇〇年がかりで丹精込めて鍛え上げられるその性能は、各種族の貴族階級が所有する機装纏鎧にも決して見劣りしないと言う。


『ッ……デカいな……!』


 莫大。圧巻。ドクロアークは川原に手を着いて四つん這いなっていると言うのに、ダイカッパーを遥か頭上から見下ろす程だ。

 ドクロアークの圧倒的ダイナミックさに、覚悟を決めた皿助も息を飲まざるを得ない。


「べ、べーちゃん……本当にやる気ですか!? 今、絶対『思ってた三倍はデカいぞこいつ』って心中めちゃんこ焦ってますよね!?」


 危ないからと土手上に避難させられていた縛られ晴華が、皿助の心中を察し声を上げる。

 そんな晴華を落ち着かせるため、皿助は渾身の強がりを親指に込めてダイカッパーにサムズアップさせた。


『確かに、この大きさは予想外だったが……それだけだ。何の問題も心配も無いッ!』


 相手が予想よりデカかろうが小さかろうが、皿助は負ける訳にはいかない。勝つだけだ。


『さぁぁて……』


 ドクロアークの五つの眼窩、その奥から血走った眼球が浮き出し、全てがダイカッパーを捉える。


『まずはァァ、叩き潰すゥゥゥ!!!!!!!』


 重い駆動音を伴って、ドクロアークの右手が振り上げられた。


『がしゃしゃッ、味わいなァァ【執拗な巨掌(スチーキィ・ニギニギ)】ッ!!』

『ぬ、回避ッ!』


 ドクロアークのアンバランスに大きな掌……ダイカッパーすら丸ごと握り込んでしまえそうな規模だ!

 あんな巨大な掌で叩き潰されては当然たまったものではない。


 皿助は後方へ跳ね退く。ダイカッパーの超膂力を以てすれば、一度の跳躍で数百メートルは後退出来る。

 皿助は一気に距離を取り、完全にドクロアークの攻撃射程外へ出た――はずだった。


『んァ甘ァァァァァァいッッッ!!!!!』

『ッ!?』


 不思議ッ。ドクロアークが振り下ろした巨大な掌が、ダイカッパーを直上から影を落とすッ!!


『……ッ!? そんな馬鹿なッ!?』


 距離は充分だったはずだのに。いくら巨大なドクロアークでも、決して手の届かない場所まで回避したはずだのに。


 混乱する皿助を嘲笑うように、ドクロアークの巨掌がダイカッパーへ直撃軌道で高速降下!


『くっ……』


 意味がわからないが、防御しなければならない。

 皿助はダイカッパーの頭部、笠の様な形状の覇皿(バサラ)を起動。頭覇皿はシールドである。起動すれば更に巨大化し、ドーム状の非常に堅牢なシェルターとして、ダイカッパーを守ってくれる。


 ……だがしかし、何事にも許容量と言う物が存在する。

 ドクロアークの一撃が覇皿シェルターに衝突した瞬間。覇皿シェルターは、粉々に砕け散ってしまった。


『なッ!?』


 無情無慈悲。そんな勢いで、ドクロアークの一撃がダイカッパーの巨体を叩き潰す!


『がしゃぁぁぁあああああああああああ!!! 良い感触ぅぅぅぅぅうう!! 潰し応え、最の――高ッッ!!』

「べ、べーちゃん!!」

『ぐ、ぅ、あ……』


 ドクロアークが腕を戻すと、その一撃が降った跡地には一〇本指の手形クレーター。そしてクレーター中心地には、半ば土砂に埋もれたダイカッパー。ぬらぬらとした装甲が、土ですっかり汚れてしまい、所々に小さく薄い亀裂が入っている。


 ウルトラテングではどう足掻いても傷ひとつ付けられなかったダイカッパーが……たった一撃で、ボロカスに!!


『がしゃしゃしゃッ!! 驚き!? ねぇ、驚き!? 不思議!? そりゃあ不思議でしょうさねぇぇえええ!? 回避した!! 避けれた!! 喰らわない!! そう思った様な感じだったしなぁぁあぁああああ!! 残念油断男子可愛いッ!!』

『ッぅ……』


 よろよろと、皿助は頭皿を失ったダイカッパーの上体を起こす。

 ダイカッパーの感覚は全てそのまま皿助にフィードバックされている。薄い亀裂は、人体で言うなればすなわち裂傷。皮と肉が少々断裂してしまっている状態だ。それが全身に……少し動くだけで全身が嫌に軋む。これは本気で痛い。


「べーちゃん! 大丈夫ですか!?」

『ぅ、ぐぅ……ま、まぁまぁだ……!』


 晴華の言っていた通り、昨日の戦いとは訳が違う。これが特機の一撃。

 まぁ、皿助だってその辺は想定していなかった訳ではない。むしろ、予想はしていた。だから懸命に回避しようとしたのだ……だのに、回避できなかった!


『ほぉらぁぁ! もう一度、叩き潰してあぁぁげぇぇりゅぅぅぅぅぅうううう!!!』


 戦闘中に一息を吐く暇など有りはしない。またしても、ドクロアークが右手を振り上げた。


「べーちゃん、気を付けてください! 今、その機装纏鎧の腕が――」

『ああ、大雑把ながら大体の予想は付いているッ!』


 先ほどの不思議現象、おそらくは、丹小又が言っていた【機装纏鎧の固有特性】。

 推測するに、ドクロアークの特性は「腕が伸びる事」か、それに近い物だと思われる。


 ならば、


『逆に飛び込むッ!』


 動くだけで全身が軋み、鈍い痛みに包まれるが、構っていられない。このままではもっと痛いのを喰らう事になる。

 歯を食いしばり、皿助はダイカッパーを走らせた。目的地は、四つん這いのドクロアーク、その懐。

 どこまで腕が伸びるのかは知らないが、芽志亞の余裕から察するに、そう簡単に振り切れる様な距離では無いだろう。だとすれば、このままドクロアークからいくら距離を取っても無駄。回避は至難の極みと考える。


 だったら、距離を詰める!

 古今東西、長距離射程の武器は近距離の相手にめっぽう弱い!!


 その弱点を突いて、皿助から仕掛ける!

 ドクロアークの懐に飛び込んで、必殺の張り手をねじ込んでやろうと言うのだ!

 ダイカッパーも同じ特機。その一撃はドクロアークに充分なダメージを与えられるはず。一撃目で怯ませて、連撃を叩き込んで一気に決める。そうすれば、もうドクロアークの攻撃は飛んで来ない。


 攻撃こそが最大の回避。


『単純明快さねぇぇ……』


 皿助の意図を悟り、芽志亞が静かに笑った。

 そして、ドクロアークの腕が振り下ろされる。

 同時に、ダイカッパーは四つん這いのドクロアーク、その胸の真下に滑り込んだ。


『よしッ!』


 すぐにでも鳩尾(みぞおち)辺りに張り手を入れて「うげふっ」ってさせてやる。そう意気込んで、皿助はドクロアークの胸を見上げた、つもりだった。


『な……』


 見上げた皿助の視界を埋め尽くしたのは、真っ直ぐに迫るドクロアークの一〇本指の掌。

 ズドォォォオオンッッッ!!!!! と言う轟音と共に、ドクロアークの巨掌がダイカッパーを飲み込んだ。


『がしゃしゃしゃ……本当、甘くて可愛い男の子ぉぉぉ!!! ()で潰したくてしょうがないさねぇえええええええッッ!!!』


 芽志亞は愉快極まったと言わんばかりに大笑いながら、ドクロアークに拳を握らせて、引き上げる。

 掌を広げると、一緒に握り込まれた土砂と草に塗れたダイカッパーが、ぐったりと転がっていた。


『ば、か、な……』


 理解不能。不思議が過ぎる。


『ぐ、ぅ……ぁ……ぁぁあッ!』


 皿助は激痛を堪え、ダイカッパーを動かす。

 ドクロアークの掌に手を着いて、プルプルと小刻みに震えながらもダイカッパーが身を起こした。

 まだ動けはする……もはや、虫の息に等しいが。


『河童のお姫様の話、最後まで聞くべきだったねぇえええええ!! まぁ、聞いてドクロアークの特性を理解した所で、回避は不可能だろうけどさぁぁあ!!』

『なん…だと……?』

『ドクロアークの特性は【不可避(にがさず)の掌】ッ!! 獲物がどこに逃げようと!! どこまで逃げようと!! ドクロアークの掌からは逃れられないのさねぇぇッ!!』


 ――ドクロアークの掌は、絶対に獲物を逃がさない。

 伝承にて妖怪・餓者髑髏(ガシャドクロ)が「必死に逃げる農民や牛や馬を簡単に捕まえて握り潰してしまう。出会ってしまえば絶対に逃げられない」と語られるように。ドクロアークは「狙った獲物に目掛けて、掌をワープさせる事が出来る」のだ。

 例えドクロアークが腕を振り下ろし切る前に懐に潜り込もうと、関係無し。振り下ろしている途中の掌を、獲物のすぐ頭上へワープさせてしまえば良い。振り下ろし切った一撃よりは威力が下がるだろうが、それでも大質量の絶大な一撃である事には変わり無い。


『ぐ、そ……お、のれ……中々どうして……本気シビアな……状、況ッ!』

『本気シビアァァ???? 厳しい云々以前に、もうあんたは妖怪将棋で言う詰みにハマったのがわかってないのぉぉぉおおお!? 阿呆の子かぁぁぅわぃいいいいいいいいいぃぃぃぃいいいッッッ!!!』


 ますます楽しくなってまいりましたぁ。と、芽志亞はテンションアップ。

 ドクロアークの掌を、ダイカッパーを乗せたまま強く握り込ませる。ダイカッパーを、握り潰しにかかったのだ!


『ぐぅ、あああぁぁあああぁぁぁああああああああああああああッ!? す、すごく痛いッ!!!』


 ただでさえ全身ボロカスの状態で、握り潰し攻撃……全身への圧迫……!

 皿助は思わず、悶絶っ……悲鳴を上げてしまう!


『さぁさぁさぁさぁぁぁ!!! メインディィィィッシュッッ!! 寿司めいて握り!! ブドウの粒みたいに潰すぅ!! つまりつまりつまりぃぃぃ握り潰すぅぅ!! プチッってしちゃうのぉぉぉおおおおおおんほぉぉぉおおおお!! これが! これこそが!! ドクロアークの醍醐味ぃぃぃぃぃぃいぃぃいいッ!!! 大きいお姉さァんの特権んんんんんんッッッ!!!!!』

『が、ぁああ……く、苦しッい……ぐ、あ、あぁぁあああああ……ッ!!』

「べーちゃんッ!」


 握撃に全身を圧迫され、ダイカッパーの装甲のあちこちに入っていた亀裂がバキバキと広がっていく……!

 痛々しい……余りにも!


「や、やめてくださいガシャドクロさん! もうべーちゃんは戦えませんよ! このままじゃあ死んじゃいます!」

『大丈夫だってのぉぉぉぉおおお!! ちょっと全身をバキバキギュギュッとグシャグシャにした所で死にゃしないさねぇえええええッ!!』

『が、はッ……し、死ぬぅ……!!』

「今死ぬぅって言いましたよ!? 死ぬパターンですってこれ!」

『うるせぇぇぇぇぇぇぇ!! 今こっちはお楽しみの最中なんだよ無粋な河童姫がぁぁああああああ!!! あんたから握り潰してやろうかぁぁぁんッ!?』

『ッ! 待、ッてぁがッ……ぱ、晴華ちゃん、に、手を、出す、なぁぁッ!!』

『うっさいってのぉぉぉおおぉおお!! あんたはアタシの愛撫に夢中になってなァァァァほぉらニギニギニギニギニギュギュギュゥゥゥゥゥゥゥゥウ!!!』

『ぐぅああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』


 ダメだ。このままでは、殺されてしまう。握り潰されて殺されてしまう。そして、晴華も守れない。


『ふ、ざ、ける、なぁぁ……!!』


 あれだけ大見得切って、何ひとつ成せずに死ぬ。そんなの、大恥も良い所だ。


 それでは――【良い男】だなんて名乗れない!!


『お、れ、は……俺、はァァァアアアアアアッッッ!!!!!!』


 マザーウォール、母の笑顔を思い出せ。

 母と誓い合った約束を思い出せ。


 そうすれば、何だってできるはずだ。


 皿助は死力を振り絞る気持ちで、全身に力を込める。

 絡みつく一〇本指を、引き剥がすために!


『がしゃしゃしゃ!! 無駄無駄!! そんなボロカス状態で、ドクロアークと力比べをしようと言うのぉぉぉ!? いくら河童族の特機と言えど……え?』

『ぬぅぅ、うぅぅうぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!』

『!? ば、馬鹿な!? 不思議ッ!? ゆ、指が!? 少しずつ開いていくぅぅぅうううううう!?』


 ドクロアークの叩き潰し攻撃を二度もモロに受け、握撃により徐々にダメージを与えられていたダイカッパー。もはやボロカスと言って差し支えない状態だった。ボロクソボディでは、満足なパワーを発揮するなど不可能なはず……だのに。


『ぅぅう、がぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!』


 ダイカッパーの腕が、足が、四肢が、背中が、全身が。ドクロアークの指を内側から押し開いていく。


『まさか……あの人間の気合に呼応して、機装纏鎧の出力が強化されているッ!?』


 機装纏鎧のエネルギー源は、起動者の気合だ。起動者が気力を振り絞れば振り絞った分だけ、機装纏鎧の性能は相応に上がる。つまり皿助は今、すごく頑張っている。


 だがしかしそれでもやはり、ボロカスなダイカッパーではまともなパワーが出せない。蓄積したダメージにより機体性能が著しく低下している今、そこに少々パワーを上乗せした所で大した事にならないのは自明の理。


 皿助は糞が漏れそうなほどに踏ん張るが、今のダイカッパーではドクロアークの指を完璧に押し広げるには至らない。


『な、ら、ばぁぁぁッ!!』


 ある程度の開き具合に達した所で、皿助は背中の飛行移動(フライト)用の覇皿を射出。

 めちゃんこ大きくて重いダイカッパーを乗せて飛行するため、背中覇皿のスラスター出力は非常に高い。ダイカッパーを乗せずにそのまま飛ばせば、相当の速力が出る。皿助はそんなハイスピードな覇皿を、容赦無く真っ直ぐにドクロアークの顔面へとぶつけた!


『ぎっぱぉッ!?』


 眼球に直撃し、流石の芽志亞もマヌケな悲鳴と共によろめいた。

 ダイカッパーを圧迫する握力が一気に低下する!


『今が脱出の時ッ!!』


 ドクロアークの指を押し退け、ダイカッパーが跳ぶ。

 そのまま、跳ね返ってきた背中覇皿の上に着地。


『ぐぅあぁう……目が、目がぁぁああ……許さないさねあんたぁぁああああああ!! あんたなんか、握ってやるぅぅぅぅううう!!』


 ドクロアークの掌が、ダイカッパーへ向けて放たれる。逃げられはしない。絶対不可避の掌。


執拗な巨掌(スチーキィ・ニギニギ)ィィィ!!』

『もうニギニギされるのは御免こうむるッ!!』


 不可避ならば、避けるまい。迎え撃つ。それこそ合理。

 皿助はダイカッパー両肩の覇皿を起動。それぞれを両手の掌にドッキングさせる。

 肩覇皿は打撃の威力を極限まで高めてくれる武器だ。


力士百人力鋼掌破ドスコイ・デストロイヤァァアアアアッッ!!』


 ダイカッパーの右張り手と、ドクロアークの巨掌が衝突する。


『ッ、がぁ……!!』


 反動だけで、ダイカッパーの全身に走る亀裂が広がってしまう。

 ダイカッパーを通して、皿助に激痛が襲いかかる。意識が焼き切れそうになる。


『無駄よぉぉぉ!! そんな一撃!! 河童の屁でもないッ!! あんたは大人しくアタシにニギニギニギニギされりゅのぉぉぉおおおおおおッッッ!!』

『ぃ、一撃で不足ならばぁぁぁぁッ、更にドスコォォイッ!!』


 皿助は右張り手に加え、左張り手も発射。連続の張り手。即ち突っ張り。一撃で不足ならば二撃。これまた合理。

 二発の張り手衝撃に耐えかね、ドクロアークの巨掌が後方へと跳ねる。


『な、なぁぁああああああああああああああああああああッッ!?!???!!?』

『ぎ、ぅ、あ……!』


 またしても、反動が激痛として皿助の全身を喰い千切る。今すぐにでも白目を剥いてブッ倒れてしまいたい。そんな気持ちに駆られつつも、皿助は歯を食いしばって耐えた。


『決、めるッ!!』


 足場としている背覇皿を操り、ダイカッパーがドクロアークの顔面へ突撃!


『ふざっけんじゃああああぁああぁぁあああああああああああああああッッ!! ニギニギさせろってのにさぁぁあああああああああああああああッッッ!!!!』


 そんなダイカッパーを、どこからともなく現れたドクロアークの両掌が迎え撃つ!


『ニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギニギィィィィィィイイイッッッ!!!!』

『ぅおぉおおおッ! ドスコォイッ!!』


 皿助もダイカッパーの張り手攻撃を繰り出す。ただし、先ほどとは違う。右張り手を繰り出した後、左張り手を繰り出す最中、右手を引く。


『ドスコイッ!!』


 引いた右手を、また突き出した。そして右張り手を放つ最中、今度は左手を引く。


『ドスコイッッ!!』


 左を出しては右を引き、引いた右を出しては左を引き、引いた左を出しては右を引き、引いた右を出しては……これは、ラッシュだ。張り手ラッシュ!


 名付けるならば【力士百人力鋼掌ドスコイ・デストロイヤー怒涛激連破ボルテマウル・オーバー】!!


 一撃放つごとに、ダイカッパーの、皿助の全身が絶叫の悲鳴を上げる。

 ラッシュの最中、意識が何度も点滅する。もはや白目が一周して逞しい黒目が帰って来た。

 皿助はラッシュを止めない。痛みを受け入れる覚悟を決め、痛みへの恐れを克服した……訳ではない。痛みに怯える生存本能的恐怖心を制御するなんて、一介の男子高校生では非常に難しい。だから、その恐怖心を逆手に取って力に変える。


 ここで、一気に決めてみせろ!

 それが出来なきゃあ、もっと痛い思いをする事になるぞ!

 これ以上の痛い思いをしたくないのなら、ここで絶対に決めるんだ!!


 皿助は自身の生存本能に脅しをかけ、限界を越えた力を振り絞らせた!


『うぅおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!』


 少し気を緩めれば情けない喘ぎを上げてしまいそうな喉を、無理矢理に奮わせ、叫び続ける!


『ドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォッッ!!!!』


 一撃ごとに「ドスコイ」と叫んでいるのだが、徐々にラッシュの回転数が上がっているせいで「ドスコイ」と言う発声が間に合わなくなっている。後半はもはや「ド」を連呼しているだけだ。まさしく()涛!


 張り手ラッシュは少しずつ、少しずつドクロアークの巨掌の装甲を破壊!

 秒と待たずに、その両掌を木っ端微塵に砕き散らした!!


『ニギャアアアァァアアアアァァ!? あ、アタシの掌ァァアアアアアア!?』

『ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォォオオ!!!!!!』

『ッ、ちょ、待っ、ニギィヤゥァッ!?』 

『ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!』


 尚も、ダイカッパーのラッシュは止まらず。

 ドクロアークの両掌を破壊した勢いのまま……いや、更に加速しながら、その顔面へと襲いかかる!!


 その勢いは真横から殴り降る緑色の土砂降り……否、そんな温い表現ではまだまだ足りない。緑色の嵐……これまた否。やはりまだ足りない。このダイカッパー本気ラッシュの勢いを上手く言い表せる言葉は、もはやこの世に存在しないのだろう。それでも無理矢理に言葉にするのであれば、ハリケーン染みた嵐ストーム突風的メイルストローム!!

 とにかく筆舌に尽くし難いほどにめちゃんこ激しい、すべてを出し尽くすような超絶怒涛の連撃!!


『にぎゃ、が、がっ、がが、がががががががががががががががッ!?』


 無惨ッ。ダイカッパーの猛襲を前に、芽志亞(ドクロアーク)は間抜けな悲鳴を羅列する事しか出来ない。

 この勝負、結果は見え切った。決まりである。そして、決着の時!!


『ドドドドドドドドドドドドッ!! …ドォス、コォォォォォォォイィィィィァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』


 トドメの一撃。ダイカッパーが深く踏み込み、アッパーカットで振り抜いた右張り手。


『に、ぎ、ぃいいいあああぁぁあぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!』


 ドクロアークの巨体が、ロケット噴射の如き勢いで遥か上空へと舞い上がる。真上にあった大きな白い雲を弾き散らす。

 一瞬の間に、六〇メートル級の乳白色の塊が、晴天の空に溶け込む様に消えて見えなくなった。


『よし、ッ……ぐぅッ…!?』


 直後、ダイカッパーの両腕を包んでいた緑色の装甲がボロボロと砕け、剥がれ落ちる。腕の装甲だけでは無い。全身の装甲が同様。崩壊は止まらない。どころか、速度を増していく。

 もはや、皿助には機装纏鎧を機動状態で保つ気力が残っていないのだ。本当に、限界ギリギリの勝利だったと言う事。

 当然だろう。同じ特機同士、つまりはほぼイーブンの条件下での戦いで、相手は戦闘のプロ。昨日ダイカッパーで戦い始めた皿助では、本来なら勝利など拾えるはずも無い戦いだったのだから。


『……宣言、通り……俺の、勝ちだ……ッ!』


 だが、それでも皿助は勝った。

 晴華を救い、守り、自身も死なずに乗り越えたのだ!



   ◆



 機装纏鎧は、中々にユーザーフレンドリー。

 ダメージ感覚のフィードバックはあれど、その損壊自体は反映されない仕組みになっている。

 なのでダイカッパー状態であれだけボロボロになったにも関わらず、皿助の逞しい肉体に傷は皆無。ただその両腕に、ジンジンと鈍痛の余韻が残っている程度だった。


「ふむ、これは有り難いな」


 土手に腰かけ、皿助は率直な感想と共に安堵の混じった一息を吐いた。


「…………しかし……」


 皿助が横目で視線を送った先には、そっぽを向いて膝を抱えている晴華の背中。


「晴華ちゃん、その……」

「……私は、逃げてくださいって、言ったのに……」


 どうやら、皿助が晴華の言葉を強引に突っぱねて戦闘に臨んだ事が不満らしい。


 まぁ、それもそうだろうな。と皿助も思う。


 自分のために友が傷つく所など、誰も見たくはない。当たり前の心理。

 当然、皿助もその心理はよくわかる。わかり過ぎると言ってもいい。

 だのに皿助は晴華の制止を無視して芽志亞と戦い、生身へのダメージこそなかったものの、酷く痛めつけられる結果となった。

 その点に関して、皿助には申し開きようが無い。


「少し間違ってたら、本当に死んでたかも知れないんですよ……こんな風に助けられたって、嬉しくないです……今回の私は絶対に、御礼も言いませんし感謝もしません。べーちゃんのやり方は間違ってます!」

「……本当にすまない。俺の想定が甘かった。次はもっと慎重な姿勢で事に臨もう」

「次、ですか……やっぱり、べーちゃんは優しいですね……」

「友に優しくしない理由が無い」

「……なら、私にはもう関わらない方が良いと思います」

「……!?」


 思わぬ言葉に目を剥く皿助。

 振り返った晴華の顔は、とても悲し気だった。


「べーちゃんはとても優しくて、すごく良い人です。きっと、また同じような事が起きます。そんな気がするんです」

「……確かに、その可能性を否定する事はできない」


 またMBFの刺客が現れたとしても、きっと皿助は立ち向かうだろう。今回のように、酷い目に遭うかも知れないとわかっていても……皿助自身、そんな気がする。

 晴華が皿助の身を案じ、距離を取りたいと申し出るのは不思議な話ではない。


 だが、皿助はそんな提案に対し、素直にハイソウデスカを返せるほど、成熟した思考は出来ない。

 未熟な彼では、如何な理屈を以てしても「友を見捨てるような行為」を割り切れないのだ。若さ。

 愚かであると謗られようと、退けない、退きたくはない。友のためなら、愚か者の汚名くらい。そう思ってしまう。

 故に。どうにか、晴華の申し出を「あくまで合理的に拒否」するための理屈を考える。


「……そうだ」


 そして、思い付いた。希望は、今朝の丹小又との会話の中にあった。


「まずは手を尽くそう。俺がこの件から手を引くか否かは、その後で決めさせてはくれないか?」

「手を尽くすって……一体、何をするつもりですか?」

「要するに、俺がもっと危なげなく刺客を追い払えるくらい強くなれば、キミは何も不安や不満に思う事は無いだろう?」

「それは……まぁ、片手間くらいで助けてもらえるなら、甘えたいですけど……そんなの……」

「【あて】はある」


 皿助が思い返すのは、今朝、部屋に現れた猫又・丹小又の発言。


「【陰陽師(おんみょうじ)】だ」


 陰陽師。メディアで特集されているイメージで語れば、「何か大昔からある占い師と霊媒師を合体させた様なオカルティック色の強い職業、及びその職を全うする者」と言った所か。

 妖怪退治云々は後世が後付けしたモノだと言う説が有力であるが……実際、今朝の丹小又の口ぶりから、妖怪相手に「厄介な人間」と認識されている存在である事は確か。


 長久に渡り妖怪と戦ってきたとされる彼らなら、妖怪の自治組織から特別視されている彼らなら、「知っている」かも知れない。

 妖怪がジャンケンで言うグーであるなら、パーに匹敵する何かを。


「これから、【陰陽師】に会いに行こう」


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