13,河童大復活! その名はダイカッパー・コンゴウッ!! 《後編》
黄金の巨大天狗、キング・ペリュドンが静かに降下。河原へと降り立つ。
『機装纏鎧ごしのダメージとは言え、あれだけの損壊。ショック死は不可避。あの人間は死に、川底へと消えたのじゃ。つまり……晴華は余のもの。ついに、最胸☆おっぱいランドを開園する時が来た!!』
のじゃははははと高笑いし、天跨がキング・ペリュドンの腕を晴華へと伸ばす。
月匈音がニンジンをクナイのように構えて晴華とキング・ペリュドンの間に割り込むが、目に見えて無謀。
天跨も「無駄ァ!!」と叫んで月匈音を磨り潰そうとしたが――その瞬間、川の水面が弾けた。
飛び出したのは――覇皿!!
晴華たちを襲おうとしていたキング・ペリュドンの手首を覇皿が強襲し、弾き飛ばす!!
『のじゃ痛ァ!?』
思わず手を引きながら跳ね退くキング・ペリュドン。
覇皿はブーメランめいて弧を描き川へと戻ると、水面が大爆発を起こしたッ!!
ズッパァァァァアアアアアンッッッ!! と言う豪快な破裂音と共にド派手な水柱が上がる。水を纏って空へと舞い上がった翡翠の巨躯――まぎれもなく、ダイカッパー。千切れたはずの腹はしっかり繋がっている。一度、生身に戻ってから機装纏鎧を起動し直したのだろう!!
『ぬぅ、存外しぶとい!』
『【良い男】は、志半ばでは倒れない!』
ダイカッパー、着地。地に降りていたキング・ペリュドンと、初めて同じ高さで睨み合う。
『フン……まぁ、良い。余裕を見せつけるためにも褒めてやろう。余のつづらを受け切ってなお生き残るとは実に天晴……と言う訳で褒美をくれてやる。ワンモアタイムじゃ』
キング・ペリュドンの掌で光が躍り、七つのつづらが生成された!!
『同じ手が何度も通用すると思うな。そのつづらの攻略法は、既に考えてもらった!!』
『ほざきおる……ん? 考えて、もらった?』
『ええ、この守護霊である私がね!!』
『!?』
ダイカッパーから響く、女性の声。明らかに皿助の声ではない!!
『自己紹介するわね、天狗のお姫さまさん。私は冷体井幽子ッ!! 本日付けで皿助くんの守護霊になった元エクソシストな元陰陽師の元地縛霊よッ!!』
『守護霊……!? と言うか、陰陽師じゃとォ!? 何故、ダイカッパーから陰陽師の声が!?』
『私は今、生前の示祈歪己を使って、皿助くんと【融合】しているのよッ!!』
冷体井幽子の生前の示祈歪己、その名は【魂合隣抱良迩】。
地縛霊になった後に発現した【魂乞淋堕拉迩】は「淋しいから仲間を増やすために、生者を囲んで逃がさず殺すため」に発現した示祈歪己だった。しかし、魂合隣抱良迩は違う。この示祈歪己は「仲間が死んでしまうと淋しいから、仲間を守るため」に発現した示祈歪己なのだッ!!
その能力は、端的に言うと【全能力強化】ッ。自らの魂を仲間の身体に溶け込ませて超・融合、「精神力と思考力の共有」と「自らの身体的ポテンシャルを相手に上乗せする」と言う示祈歪己であるッ!!
つまり、今、皿助は二人分の精神力・思考力を保有し、二人分の身体能力を手に入れた。
ここで重要なのは、精神力。
機装纏鎧のエネルギー源は、気合だ。気合は、生命体の中枢・丹田で精製されている訳だが……その精製能力は、精神力に大きく依存している。今までのダイカッパーは、皿助一人分の精神力に起因する気合で形成され、稼働していた。そこに、今は幽子の精神力も加わった。バッテリーの容量と出力が増えたのだ。当然、パワーアップしない訳がない!!
『言うなればッ!! 今のダイカッパーは……ダイカッパー・魂合真現だッ!!』
河童の力を借りた男子高校生と、エクソシストから陰陽師に転向した後に地縛霊となりそこから今度は守護霊に転向したシスター。異色のタッグがひとつの機体を駆り、今、禍々しい黄金の天狗と対峙するッ!!
『どこからそんなケッタイな陰陽師を引っ張ってきたか知らぬが……じゃから何ぞ!! キング・ペリュドンのつづらの前では陰陽師すらも無力じゃい!! 攻略できるというのなら、してみるが良い!!』
放たれる七つのつづら……今度は中から何が飛び出すのか、未知数!!
――だが、関係無い。つづらが放たれたのと同時、ダイカッパー・コンゴウはあるアクションを起こした。それは……【合掌】ッ!!
『示祈歪己、発動!!』
響いたのは、幽子の声。発動したのは、地縛霊として獲得した示祈歪己。ダイカッパー・コンゴウが合わせた掌から、眩い閃光が弾ける。その光に照らされ、ダイカッパー・コンゴウの影が八本に分岐。それぞれの影の先端から、ニュニュニュ~~~ッ……と這い出して来たのは、なんとダイカッパー・コンゴウだッ。両眼が真っ黒に塗り潰されている以外は本体のダイカッパー・コンゴウと全く差異の無い、ダイカッパー・コンゴウの分身が八体ッ!!
地縛霊・幽子の示祈歪己【魂乞淋堕拉迩】……いや、今はもう、その名に込められた願いは存在しないのだから。ここは新たな名が必要っ。よって名付けよう!!
『『超・河童幻影集団【黒百合の花束】!!』』
『増えたのじゃ!?』
『増えたわ!! そしてッ!!』『こうですね、幽子さん!!』
突然ッ、ダイカッパー・コンゴウとその分身体八体が、軽快なステップで踊り出したッ!?
否ッ!! このステップはただの陽気な愉快ダンスにあらずッ!!
『っ、シャッフルする気か!!』
そう、ダイカッパー・コンゴウとその分身たちは入り乱れて舞う事で、それぞれの立ち位置をシャッフル。どれが本体か分身か、立ち位置で判別する事を不可能にしたッ!!
『これではつづらがどの機体を追尾すれば良いか迷う……攪乱か。よう考えた――が』
マヌケめ……天跨が嗤う。
ダイカッパー・コンゴウ本体の目は皿助のようにキラッキラに輝いている。対して、分身の方の目元は、墨をブチまけて塗り潰したよう。いくら集団ブレイクダンスで激しく入り乱れようと判別は容易!
しかし当然、それは皿助たちも承知している。ダイカッパー・コンゴウとその分身体が、一斉に手を振り上げ……その手で目元を隠したッ。さながら風俗店のwebサイトの風俗嬢紹介画像の如く、手で目元を隠したダイカッパー・コンゴウと八体の分身が、なおも踊り狂い続ける。立ち位置は完全にシャッフルされ、唯一の相違点である目元は風俗嬢流のプライバシー保護術で秘匿された。
七つのつづらたちは、ダイカッパー・コンゴウ本体を見極める術を完全に見失ったッ!!
『のじゃぐぬぬ……マヌケと言う心象は撤回してやろう。じゃが、まだ甘いッ!!』
つづらは七つ、ダイカッパー・コンゴウとその分身の総数は九……九分の七で、本体をブチ抜ける!!
『余のクジ運は、それなりぞ!!』
天跨の咆哮に呼応し、つづらが加速――つづらの操縦を自動追尾ではなく、天跨の手動に切り替えたのだ!!
合わせてダイカッパー軍団も動き出した。九体全員、目元を隠しつつ真っ直ぐにキング・ペリュドンへ突進開始!!
『さぁ、なんならば一発目で本体に当ててやろうなのじゃあ!!』
『あらあらあら……良い事を教えてあげる。私はね、皿助くんの守護霊――【盾】になると宣言してここに来たのよ』
『盾……? はッ……まさか……!?』
ダイカッパー軍団の中から、一体だけが郡を抜いて前へと躍り出た。目元は真っ黒、分身だ。その操作権は今、幽子にある。
『あらあらあら!! こうやって開ければ良いのかしら!?』
先行した分身が、つづらを殴って破壊ッ。つづらの中身が外へと噴き出す。分身に襲いかかったのは、ごうごうと燃え滾る紅蓮の炎剣。炎剣は紅い軌跡を刻んで分身を一刀両断ッ。その一閃で分身は消失した。
『ま、まさかそんな力業で攻略をォ!? くっ、余に……余に近寄るな集団下郎め!!』
天跨の叫びも虚しく、分身たちが次々とつづらを開封していく!!
分身の数は減っていくが、着々とダイカッパー軍団がキング・ペリュドンへと迫る!!
『そうじゃ、つづらを追加するっ……追いつづら!!』
キング・ペリュドンの七つのつづらには、制約がある。それは「つづらは常に七つまでしか存在できず、七つ同時にしか精製できない」。つまり先に作ったつづらが一つでも残っていると、つづらの補充は不可能。だったら、つづらが全て開け切られた瞬間に、新たなつづらを生成すれば良い。しかし……もうダイカッパー軍団は目前、間に合うか!?
そして最後のつづらが開けられた。大爆発が起き、黒い爆煙が上がる――その煙を裂いて、ダイカッパー・コンゴウと最後の分身が並んで躍り出た!!
もはや、ダイカッパー・コンゴウとキング・ペリュドンは、手を伸ばせば届く距離!!
『のじゃあああ間に合え、余はできる姫ェ! こやつらに絶対、追いつづらを喰らわせてやるのじゃあ!!』
迫るダイカッパー・コンゴウと分身。キング・ペリュドンがつづらの生成に入り輝き出した右手を、銃口のように突きつける!!
『あらあらあらぁぁはいはぁぁいッ!! 喰らっちゃうぅぅぅ!!』
幽子が操る分身ダイカッパーが、跳ねた。キング・ペリュドンへと跳び掛かる。そして、異変。マウスガード、要するに口に当たる部分が、横一文字にバックりと裂け開き――無数の牙が露出した。
……幽子は以前、先ほどのと同じセリフを吐いて、皿助が駆るダイカッパーに襲いかかった事がある。その時、幽子は何をしたか?
『いッただき、まッす!!』
大きな口を裂け拡げた分身ダイカッパーが、キング・ペリュドンの右手に喰らい付き、そしてその全霊の顎力を以て――手首から上を、喰い千切ったッ!!
『のじ――ぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!?』
天跨が泥水のように濁った汚い絶叫を上げる!!
『その痛みは知っている。すごく同情するが……それとこれとは話が別と言う事にさせてもらうッ!!』
『ぎぃッ……!?』
皿助が…ダイカッパー・コンゴウがキング・ペリュドンの懐に入り、覇皿を掌とコネクト。
『幽子さんッ!!』
『あらあら、はいはぁ~いッ!!』
皿助の声に応え、幽子が駆るダイカッパー分身も覇皿射出して掌にコネクト。
『ッぁ、ご、の……!!』
キング・ペリュドンが翼を広げ、空へ逃げようとしたが……間に合わない!!
『さぁ、行くぞッ!!』『確か掛け声はぁぁぁ……』
『『ドォスコイッ!!』』
『のじゃぐぁッ!?』
皿助が駆るダイカッパー・コンゴウと、幽子が駆るダイカッパー分身の張り手が、同時にキング・ペリュドンの顔面へ突き刺さるッ!!
『のじゃぎゃ、はッ……』
腐っても天狗の姫か。右手首から上を食い千切られ、顔面に思いっきり張り手二発を喰らった痛みに喘ぎながらも、キング・ペリュドンは翼を前面に向けて振るった。空へ逃げるのではなく、ダイカッパー・コンゴウたちへ攻撃した!!
しかし、悲しいかな。
キング・ペリュドンの翼はそれなりの強度を誇るが、あくまで本質はただの飛行機構。決して武器や防具ではない。そんな代物で……ダイカッパー・コンゴウとその分身を迎撃できる道理は無い。
『『ドスコォォイッ!!』』
『のじゃぐわッ……!!』
ダイカッパー・コンゴウとダイカッパー分身の張り手が、またしてもキング・ペリュドンへ襲いかかる。
二発とも、キング・ペリュドンの翼をぐしゃぐしゃに砕きながら、本体へと突き刺さった!!
これで終わり……だったらば、キング・ペリュドンが再度攻勢に転じ、優位を取り戻す展望もあっただろう。だが当然、皿助たちはこれで終わらせなどしない。
ここで決める。キング・ペリュドンを倒すまで、その張り手を止める事は無いッ!!
張り手、超連打ッ!!
放つは、必殺の力士百人力鋼掌・怒涛激連破、二倍盛り。
つまり……力士百人力鋼掌・怒涛激連破・烈撃倍咬ッ!!
『『ドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスコイドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッッ!!!!!!!!』』
『のじゃ、のじゃじゃじゃじゃ、じ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッ!?!!?!?!』
過去最長の怒涛張り手ラッシュ!!
そして数千発を悠に越える張り手ラッシュに、堂々たるシメの瞬間が訪れる!!
『『ドドドドド……ドッシャァァァァァーーーッ!!』』
『のじゃ、ぱげるぁぁぁぁああああーーーッ!?!?!』
二体のダイカッパー、その張り手が、キング・ペリュドンの腹を突き破り、貫通ッ――完全破壊ッ!!
『『俺たちのぉ……勝ちだァッ!!』』