1章E 煙の中で
一方、太郎のいるところから、少し離れたビル。4階の窓に狙撃者はいた。
不敵な笑みを浮かべている。フードをかぶっているが、その顔立ちから少年であることがわかる。目は青く、金髪であることから白人のようだ。肩には、予備のマシンガンを入れたバッグをかけている。
彼の名はゴードン・カッター。今、警察や自衛隊と戦っている暴力団、人民解放共同団という組織のスナイパーだ。幼いころ、大陸から連れてこられたいわゆる少年兵でもある。
しかし、ゴードンは今の仕事にやりがいを感じていた。人民解放共同団は長い間国家転覆をはかり戦ってきた組織だ。規模でいえば国内2位の実力があった。だからこそ、ここでスナイパーとして働くことで、成果を上げ、報酬を手にしてきた。
しかし、ここ2か月、警察、自衛隊組織に人民解放共同団は追い詰められていた。結果的に今回の攻撃に耐えられなければ、この組織も終わりだった。
「まだ終われねえよ。ここで俺はもっとやりたいことがある。」
少年はそうつぶやき、持っているスナイパーライフルのスコープを覗く。
煙などで視界は悪い。
しかし、少年は次のターゲットをとらえた。太郎の近くにいた広山だ。ガトリングスパイダーの残骸に隠れているつもりだろうが、背中が丸見えだった。
どうやら、太郎たちはどの方向から狙撃されていないのかわかっていないらしい。広山はまだ、こちらにはまだ気づいていない。
少年はニヤッと笑った。狙いを定め、トリガーに指をかける。
「ファック、ユー!」
弾丸は放たれた。広山は咄嗟のところでその攻撃に気づく。しかし避けきれない。
「うわあ!」
叫び声をあげ、広山は倒れた。
「広山、大丈夫か!」
「足をやられた、血が止まらん。」
幸いにして、広山がやられたのは足だけであった。
しかし、応急手当は早い方がいい。広山だけ離脱させたいが、今の状況ではスナイパーから逃げ切れない。
「煙幕だ。煙に身を隠せ!無駄な弾丸は撃てないはずだ。」
一時的に太郎は守りの姿勢を取った。敵は追い込まれているはずなのだ。持久戦に持ち越せば勝機が高まる。太郎はそう考え、行動した。
「チッ!」
一方、ゴードンは致命傷を与えられなかったことに苛立った。煙幕がばらまかれ、再度の狙撃は難しい。
「なめた真似を。だが、まだ弾丸はある。せいぜいけん制するか。」
闇雲にでも煙の中に弾丸を打ち込めば、太郎たちは煙の中で移動できなくなる。今できることはこれだけだ。
ゴードンは煙に向けて、数回、銃弾を放った。
「さて、ここからどうするかな。」
彼は様子を伺う。太郎たちに動きはない。このままなら、煙が消えた時ゴードンは簡単に太郎たちを狙い撃つことができる。
しかし、そう甘くはなかった。突如、ゴードンが隠れているビルの3階に爆弾が投げ込まれたのだ。
「やられた!」
戦闘に熟達した者の中には、よく耳を澄ますことで、銃声から敵の正確な方角を割り出すことができる者も多い。視界が奪われた状況で位置を特定されるとは、ゴードンは思わなかった。
すぐにスナイパーライフルとバッグを捨て、爆弾から少しでも距離を取ろうと体を投げ出す。彼が体を投げ出すやいなや、爆炎がそれまで彼のいたところを包み、あっという間に火の海を形成した。