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レッドバード  作者: HT
下関大戦争
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1章A 最前線


「……進め!わが軍よ!……」

地の底から湧き上がるような、低く強い圧迫感を与える声。この声は通信機を介したものではない。今、ここで戦う兵士たちの心に直接響くようなものであった。

「魔王様の声だ!魔王様が降臨なされた。」

「そうだ!我々にはあのお方がいる!突き進むのだ!」

「うおおおお!」

その声は、多くの兵士たちの士気をあげる。

彼らは東アジア帝国。国家成立から30年。東アジアの地域を武力で制圧し、今なおその勢力圏を拡大しつつある巨大国家だ。帝国の皇帝、闇の魔王は、魔術としか形容しようのない力を持つという。先ほどの声も、その一つである。

「……悪しきヨーロッパ連邦を排除し、この世界に真の安寧をもたらすため、この拠点を制圧するのだ。道は、進軍によってのみ切り開かれる!……」


魔王の声には、その響き以上の力があるという。その声を聞いた兵士たちは、魔力によって強化をうけると。この世界において、本来魔術という物は存在しない。しかし、魔王の魔術でもなければ、たった30年でどうやって巨大帝国を作り上げることができようか。

今、東アジア帝国は、敵国ヨーロッパ連邦が設置した一大勢力拠点を攻撃している。この拠点の存在によって、東アジア帝国はたびたび、ヨーロッパ連邦からの攻撃を受けていた。連邦は、帝国に領土を奪われた国家と手を結び、その奪還を大義名分にしている。そのため、侵略して手に入れた領土を維持するには、この拠点を叩くことが必要になるのだ。

東アジア帝国は、白兵、無重力浮遊戦車、空中戦艦などを投入し攻撃している。一方の連邦側は、拠点を守るために設置されたキャノン砲やミサイル、起動歩兵を使ってこれに応戦。

膠着状態によって早くも5日。両軍とも疲弊の色が見えてきたのは事実だった。

しかし、状況は変わった。

「先ほどから、わが軍の有利なようにことが動き始めたようだな。これもやはり魔王の野郎の声のおかげか。」

帝国軍のエース、ダリー・ゲーターは、ほくそ笑んだ。拠点の周りを囲んでいたキャノン砲やミサイル発射装置の破壊に成功したとの情報が入ったのだ。拠点に近づくだけで精いっぱいだった今までからすれば大きな成果だ。

「とはいえ、魔王の野郎も完全復活したわけではないからな。面倒だが、ここで決着をつける!」

ダリーは視線を向かってくる敵に向けた。起動歩兵、簡単に言えば大きな戦う人型ロボットが、5機確認できる。通常、ダリーがマシンガン片手に生身で戦っても、余裕で倒すことができる。起動歩兵が弱いのではなく、ダリーの強さが異常なのだ。しかし、今回は珍しく手を焼いていた。

「敵側も精鋭を回してきたか。」

ヨーロッパ連邦は、治める地域の広さから、多くの兵士を動員することが可能だ。その中で精鋭を集中して集めれば、確かに相当な実力を持つだろう。

ダリーはため息をついて敵の正面に出た。先に攻撃をさせて、弾切れを起こさせるためだ。この作戦は当然、起動歩兵から放たれる砲弾を避けきる自信がある者でなくては出来た手ではない。

しかし、ダリーの予想に反して起動歩兵は弾丸を放つことはなかった。代わりに5機全ての機体がダリーに向かって、備え付けられたサーライトを起動した。

「何!見えない!」

咄嗟に複数の光線を浴びたダリーの目がくらんだ。彼の視界を奪った起動歩兵のうちの2機が、肩に搭載していたミサイルを撃ち込む。見事な連携攻撃だ。しかし、その攻撃はダリーに直撃することはなかった。

「隊長!うああああ!」

有人巨大蜘蛛型兵器ガトリングスパイダーが、彼を庇ったのだ。ミサイルが直撃したガトリングスパイダーは、操縦者もろ共爆発した。己の命と引き換えに、仲間を失ったダリー。しかし、ダリーの目に合ったのは後悔ではなかった。

「人望とはこういう時に役に立つな。兵士という駒が一つ減ったが、俺の命と比べればどうということはない。」

彼は冷酷な人間であった。自分以外の命を等しく駒としか考えていない。しかし、そんな傲慢な考えを持つ彼の目は、一つの意志があった。

「俺には、決着つけなければいけない。兄を奪った存在を見つけ出し、殺す。それまでは、どんな命も駒として使うさ。」

彼は他人に対して同情をすることはない。それは己の因縁の敵にすべての怒りを燃やしていることの裏返しなのかもしれない。己の復讐に心を売った男にとって、他人に向ける感情など残っていなかったのだ。

彼は、爆発していくガトリングスパイダーの裏側から、敵に狙いを定めた。敵を倒し、生き残るには今しかない。


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