表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レッドバード  作者: HT
encounter with idiots
49/54

9章F



1分、2分と時間が過ぎていく。そう、この基地の爆発のタイムリミットへ。黒い鳥の隊員たちは、専用の脱出経路を使って逃げている。

しかし、赤い鳥がそこに行こうとすれば黒い鳥の反撃を受けるだろう。立津人達の実力をもってすれば突破は可能だ。

しかし、脱出経路の先に待ち構えているのは黒い鳥の援軍の可能性がある。流石にその援軍すら突破できるほど、立津人と境川に体力は残っていない。

この格納庫で、彩矢たちを待つしかないのだ。

「こっちもタイムアップみたいだねえ。」

「基地爆発まであと20秒、言い残すことはあるか。」

格納庫の入り口、すなわち機体を発進させる場所は崖にある。

つまり、戦艦出なければそこから出ることは叶わない。ほかの脱出経路には黒い鳥がいることを考えれば、最早、船や戦闘機なしに生き残るすべはない。

「最後は、もう、神頼みだな。」

半ばあきらめかけた、その時だった。

「ん?参次郎。あれを。」

太郎が何かを見つけたようだ。その指先にあったのは、彩矢たちの乗るマグマドラゴンシップだった。その船体は、傷を負っていたが、飛行に差し支えるほどのものではなかった。

空中で、ブースターの角度を調整し、後方のハッチが基地の入り口に渡せるようにする。

「あの防衛装置の束から生き残るとはな。」

「奇跡だねえ。」

「ま、まあ、俺が設計した船の性能が良かったんだなあ。」

参次郎や境川は感心する一方、なぜか立津人だけ得意げになっている。太郎は、そんな様子を見ながら、心から安堵していた。

彼らは足早に船に乗り込むとハッチが閉まり、船体は基地を離れる。

そこから間もなく、基地に轟音が鳴り響いた。先ほどまで太郎たちがいた場所は、火の海になり崩れていく。

「皆さん、ご無事でよかったです。」

操縦席から聞こえてきたその声に、太郎たちは目を丸めた。

「どうして彩矢さんが操縦を。」

「小さいころやったゲームのおかげです。久しぶりにはしゃいでしまいました。」

彩矢は、随分とすがすがしい笑顔で、太郎たちを見た。一方、トイレから現れたゴードンはまるでゾンビのような顔をしていた。

「一体、何があった。」

「死にかけ……オェェェ……た。空中戦艦に……アクロバティックな動きをさせてはいけない……オェェェ」

太郎は、ゴードンの様子を見て、彩矢がマグマドラゴンシップにいかに無茶な動きをさせたか理解した。

バリアは消失し、防衛装置の攻撃を避けながらマグマドラゴンシップは、赤い鳥の基地へ向かう。

「まあ、いろいろあったが、お前の使命を果たせてよかったじゃないか。」

「ああ。参次郎、一つ聞いていいか。」

太郎は、神妙な面持ちで参次郎を見る。もともと、ひと段落したタイミングで、太郎は気になっていたことを聞いてみるつもりだった。

「ん?」

「黒い鳥はどうして、彩矢さんを誘拐したのか。彼らは結局最後まで目的を明かさなかった。でも、バードソンを見ると何か、彼らなりの使命があったんじゃないかと思うんだ。」

赤い鳥と黒い鳥は組織として、対立している。

だが、それは考え方の相違であり、黒い鳥の隊員の人間性に関してだと、参次郎は好感を抱いているように見える。

それは、バードソンの使命に満ちた眼差しから太郎も何となく理解できた。

「同感だな。奴らは、私利私欲のために動く奴らじゃない。やり方は極端だが、道を外れたことはやらない。今回の事件も、相当に深いわけがあったのかもな。」

深いわけ。

もしかしたら、黒い鳥が行おうとしたことは、この世界の今後に良い影響を与えてくれることだったのかもしれない。そのことを考えると急に、自分のやったことは正しかったのかという疑念がわいてくる。

しかし、それを見透かしたかのように参次郎は口を開いた。

「でも、俺は一人の女子大生が、巨大組織に狙われている事実が気に入らねえ。だからもう2度と誘拐させねえよ。」

「気に入らない……か。」

そうだ。それがどれほど正しいことであっても、彩矢を誘拐したことに変わりはない。それに抗い、救出しただけでも太郎たちの行いは誇っていいのではないだろうか。

「でもまあ、市ヶ谷彩矢は、守られるだけの人間じゃねえ。」

「最終的に助けられたのはこっちだった。」

そう言って二人は笑った。

「あと、これを返すよ。」

太郎は最後に、ボタンを取り出し参次郎に差し出した。これ以上、赤い鳥に頼るわけにもいかないという、彼の真面目さからだろう。

しかし、参次郎は首を振った。

「いや、まだ持っていろ。お前のことは気にいった。つながりを失いたくない。」

参次郎の返答に、太郎は少し困ったような顔をした。しかし、参次郎と同じように太郎も、このつながりを簡単に途絶えさせたくはなかった。

「じゃあ、お言葉に甘えるよ。これからも頼む。」

「ああ、こちらこそな。」

太郎たちは、船の窓から輝く夕日を見た。静岡の海に沈む、赤い太陽だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ