9章E
「ヤバイヤバイ、これはやばいぜ。」
「勝ち目ないっすよこれ。」
ボーグやシャンパンノ、それに黒い鳥と暗殺団の部隊は赤い鳥の3人によって追い込まれていた。決着も時間の問題かと思われた、その時。
「参次郎、爆破装置を起動した。」
太郎からの通信だった。それは、勝利の合図だった。
「よくやった。よし、そのまま格納庫に来い。すぐに逃げるぞ。」
装置が起動してから爆発するまでの時間は5分。決して長くはない。
「立津人、境川、途中でも引き上げるぞ。作戦成功だ。」
参次郎が指示を出す。
「了解だねえ。」
「まだ敵を倒しきれてないんだがな……」
立津人は残念そうだったが、あと5分でここは塵と化すのだ。文句は言っていられない。
参次郎がいち早く、黒い鳥の脱出艇に乗り込む。緊急用のため、認証システムなどは搭載されていない。これならば、脱出が可能だ。
境川、立津人も参次郎を追って脱出艇に乗り込む。
「あとは、太郎が来るのを待つだけだね。」
「そう、悠長なことも言ってられない。太郎、速く来てくれ!」
参次郎は脱出艇の機器を起動させ、エンジンをかける。参次郎は、多くの空中戦艦を動かしてきた歴戦のパイロットだ。緊急用の脱出艇一つ簡単に動かせる。
「よし、後は太郎の帰還を待つだけだ。」
参 次郎がそう言った時、太郎は、階段を上り終え格納庫に姿を現した。行く手を阻む者はいない。太郎がたどり着き、作戦終了のはずだった。
「ん?なんだこれは?」
参次郎が操縦機器の表示を見て、目を見開いた。境川と立津人は、参次郎の様子を気にして、操縦席を覗き込もうとする。しかし、その前に参次郎は席を立ち、大声で叫んだ。
「逃げろ!ここにいたらヤバい!」
「何?」
「どうなっている!」
境川と立津人は戸惑いながらも、言われるがままに脱出艇の外に出る。続いて参次郎も大慌てで出てきた。
そして、次の瞬間、脱出艇から轟音が響いた。同時にそこは火の海と化した。状況を整理できず、唖然とする参次郎たち。
そこに太郎が駆けつける。
「これは、どういうことだ。」
「わからないねえ。」
「どうして脱出艇に爆破装置なんかついているんだ。」
いくら、用意周到なバードソンと言っても、赤い鳥に脱出艇を盗まれる前提で爆破装置をつけたりはしないはずだ。
むしろ、脱出艇に本来乗るはずなのは黒い鳥の隊員だから、バードソン自身の命が危うい。境川、立津人は頭を抱えた。しかし、参次郎はこんな時でも冷静だった。
「原因は後でいい。ほかの脱出艇にも同じように爆弾を仕掛けられているとしたら、俺たちはほかの手段で逃げなければいけない。」
彼らに今使える船はない。
「バリアが通信障害を引き起こすから外の仲間に助けも求められないしねえ。」
最早、彼らに残された手段は一つしかなかった。
「彩矢さんを乗せたマグマドラゴンシップに来てもらうことだけ。」
市ヶ谷彩矢を逃がすために、先に船で逃げてもらったのに、これでは本末転倒だ。しかし、これ以外の手段がないのも事実だった。
だが、参次郎が苦い顔をした。
「それが、ゴードンとの連絡がつかない。何かあったのかもしれない。」
そこでさらに、とある事実に気が付く。
「バリアの内側でキャノン砲の音が聞こえるぞ。」
「ミサイルの男も聞こえるねえ。」
基地外にあった防衛装置が、攻撃を行っている音だ。
「シールドと防衛用の兵器は連動していたのか。」
参次郎の推測に太郎は反論する。
「そんなはずない。状況的に彩矢さんに被害を及ぶことは分かるはずだ。バードソンが、誘拐する対象を殺してしまうようなリスクを冒すか。」
「バードソンも全ての物事を自分でやっているわけじゃない。部下が防衛装置を切り忘れたんだろう。」
太郎たちは。絶望した。マグマドラゴンシップの装甲は決して薄くはない。しかし、キャノン砲やミサイルを何度も喰らえば、当然破壊されてしまう。
彩矢救出そのものが失敗した可能性が濃厚になってきたのだ。
「致し方ない。もう、これに賭けよう。」
太郎がそう言って取り出したのは、参次郎からもらったあのボタンだった。これは、仲間に助けを求めるボタンである。確かに、これならば、マグマドラゴンシップに助けを求める信号にもなる。
「最後の生命線がまさかそれになるとはな。」
参次郎にとって、そのボタンは役割を終えた物と思っていた。だからこそ、ここで最後の希望になることが意外であったのだ。太郎は、望みをかけそのボタンを押した。




