9章D
太郎の動きはそれまでの彼のものではなかった。バードソンの動きを読めるようになったというのもあるが、それだけではない。
「この動き、まるで参次郎そのものだ。」
バードソンは彼の可能な限りの速さで、切り込もうとするが、太郎の方が上手で、斬撃を受け止める一方になってしまう。彼は最早太刀打ちできていない。防戦で精いっぱいなのだ。
その事実に、バードソンは太郎には勝てないという己の勘が、正確であったことを理解する。その動きは、かつて参次郎が黒い鳥のリーダーと繰り広げた激闘を思い出させた。
激しい斬撃は火花を散らす。
その一部は、この部屋の機器類にもあたり発火している物ある。ヒートソードの赤と電撃ソードの白が何度も交差し、消えかけの蛍光灯のように明滅する。
「うああああああ!」
太郎は叫んだ。自らの使命を果たすため。力を貸してくれた赤い鳥に報いるため。仲間の思いをつなげるため。
彼はまだ、気づいていなかったが、この戦いは初めて己の意志を貫いたものだったのかもしれない。
警察の指示の下で動いたのではなく、己の使命を見定めた。そして、赤い鳥という存在に、己の意志で協力を求めた。
彼の中の何かが変わったのだ。今、彼の中にあるすべての思いを込めて
太郎はバードソンの視認を超えた一撃を繰り出した。それは、バードソンの左方に深く一撃を与える。
「う!」
その一撃で、大きな負傷を折負ったバードソンは、顔を歪ませる。最早彼は武器を構えることができなかった。勝敗は決したのだ。
「俺は俺だ。参次郎と似ているところはあるかもしれない。でも、俺は俺の使命を全うするため、今戦っている。」
「そのお前の使命とやらが、このバードソン・ハンターを打ち負かしたというのか。」
バードソンは、敗北の屈辱から太郎を睨む。その一方、太郎の表情は穏やかだった。
「いいや、決着は付けないさ。俺は、まだ話し合えていない。」
「何?!」
「赤い鳥が教えてくれた。人は組織や先入観に縛られ、殺し合っている。確かに己の命が優先だ。だからいつも情けはかけられない。だが、今だけは、お前を見逃す。話し合える日が来ることを望んで。」
それはバードソンが、太郎に賭けた情けとは違った。あの時、バードソンは太郎の様子を不憫に思い、見逃したのだ。しかし、太郎は、和解するために助けたのだ。
「参次郎も俺を仲間にすることを望んでいたな。だが、人は簡単には分かり合えない。後悔するぞ。」
「まだわからないだろ。」
太郎は装置を起動する。重傷を負ったバードソンはそれを見ていることしかできなかった。そうして太郎は、これ以上何も言わず立ち去った。
「芽里太郎、お前はいつか決着をつけなければならない。必ず……」
バードソンも、最後の力を振り絞り、仲間たちの下へ向かった。




