9章B
ゴードンからの情報を注意深く注視する太郎。この基地の複雑な構造が、爆破装置の位置をわかりづらくしている。
「速く、速く。時間はもうない。」
太郎の焦りは最高潮に達していた。一刻も早く見つけなければ、リスクは増えていく。参次郎たちが、敵を食い止められなくなる可能性もある。彩矢たちもバリアを解除しなければ脱出できないのだ。
「あった。ここか。」
太郎は、一つの暗い部屋に飛び込んだ。そこの一番奥に、爆破のための装置がある。装置を起動してから爆破までのタイムリミットは5分。一回起動すれば止められない。壁に張ってあった注意事項をよく確認する。
そして、安全装置を解除した太郎。後は装置を起動するだけ。その時だった。
「させるかあああああ!」
バードソンが、太郎に向けて銃弾を撃ち込んできた。監視カメラを利用し、太郎の目的に気づいたバードソンは、作戦を阻止するため駆けつけたのだ。
咄嗟に銃弾をよける太郎。しかし、避けたがために、装置から遠ざかってしまった。
「参次郎たちを振り切ってきたのか。」
太郎の前に今、最後の壁が立ちふさがった。仲間を殺し、彩矢を誘拐した互角の実力を持つ相手。
バードソン・ハンター。
「まさか、自爆装置を敵が押そうとしてくるとは。赤い鳥にとっては、この基地から情報を抜き取るために、この基地は残しておきたいはずだ。破壊して得られるものと言えば、市ヶ谷彩矢を一刻も早く脱出させる脱出路のみ。お前はともかく、赤い鳥がそこまで市ヶ谷彩矢に執着する理由はないはずだが。」
参次郎も太郎も、彩矢の脱出の成功のためだけに動いている。赤い鳥は戦闘自体を楽しんでいる節はある。
しかし、他の暴力団なら基地の情報や、兵器の奪取を手土産にしたいはずだ。だが、赤い鳥はそれらの追加の利益を一切狙っていない。
「お前らにはここまでして、戦う価値があるのか。」
参次郎の電撃ソード裁きは、少しずつボーグを圧倒し始めていた。先ほどまでボーグは攻めの一手だったが、今は守りに転じている。
「お前、マジで強いぜ。バードソンが警戒するわけだぜ。それほどの力を、どうして、何の関係もない、少女の救出作戦なんかに使う。」
ボーグはバードソンと同じように疑問をもった。その問いかけに参次郎はフッと笑った。
時を同じくして、地下3層で戦っている太郎にも、同じ笑みが浮かんでいた。
「そんなの、参次郎なら絶対こう言うだろう。」
太郎が言った。
「その疑問、俺の答えは一つだ。気に入った奴に手出しをする行為なら正義も論理も関係ない。」
参次郎が、つぶやいた。
「「気に入らねえからぶっ潰す!」」
太郎と参次郎の言葉が一つに重なった。
参次郎と初めて出会ってから、日は浅い。なのに、彼の考えを、行動を、太郎は驚くほど理解していた。その姿、ヘルメットの中の太郎の顔を見て、バードソンはとあることに気づいた。
「お前は参次郎の素性をどこまで知っている。」
「ほとんどわからない、でも、なぜかな。俺はあの男の事をよく理解できる。」
バードソンの気づきは、太郎の言葉によって確信に変わった。
「そうか。お前は参次郎の素性を知らないつもりで、本当誰よりも理解している。当然だ。お前はあの男の仮面の中を誰よりも知っている。文字通りの意味でも、比喩の意味でも。」
「どういう意味だ。」
バードソンは、今、太郎にはまだ理解できない真実にたどり着いた。その真実に基づいて発せられる言葉は、靄がかかっていて、太郎には理解できない。
「参次郎から直接聞け。俺に説明する義務はない。きっと、この事実からすれば、俺はお前に勝てないんだろうな。だが、抵抗させてもらう!」
バードソンはヒートソードを構えた。刃で決着をつけようというバードソンの意思を理解した太郎。バードソンと相対し、武器を構える太郎。
そして斬撃が交わった。




