9章A
黒い鳥と暗殺団の隊員は、赤い鳥との戦闘で格納庫に集中している。そのため、基地の地下は無人状態だった。
非常階段で地下3層へ向かう太郎。むき出しの岩盤が、この基地が自然の地形を利用して造られたものであることを、理解させてくれる。太郎は緊張と不安が全身を駆け巡っていた。爆発のタイミングを間違えたり、逃げ遅れたりすれば命はない。
冷静な判断が要求されるこの状況。太郎は呼吸を整え、地下3層に到着した。
大量の自動攻撃を、華麗な操縦さばきで避けていく彩矢。しかし、いつまでも避けてばかりもいられない。
「さて、腕慣らしは終わりです。」
彩矢は、操縦桿に備え付けられているボタンに手をかけた。この機体に備え付けられている武器を発射するための物だ。
嘔吐を繰り返し、ゾンビのごとく死にそうなゴードンは、恐る恐る彩矢に問いかける。
「一体……何を?」
声が途中で裏返っているゴードンのことも気に留めず、彩矢は口角を上げた。
「決まっているじゃないですか。反撃に出るんですよ!」
車を運転している人は、していないときと比べ、少し人格が変わるという。まさに、今、空中戦艦の操縦桿を握った彩矢の事がそれを実証してくれている。
彩矢は戦艦をわざと、ミサイルの発射装置やキャノン砲に近づける。自動的に攻撃を行うそれらの装置は当然、敵が近づけば攻撃する。それらの攻撃に対し、船体を回転させて、次々に避けていく。
そして、操縦桿横のボタンを押した。マグマドラゴンシップからビームが放たれ、キャノン砲に直撃する。そんなものを喰らえば、当然キャノン砲は爆発し、機能を停止する。
「まず一つやりました!」
彩矢は、次の獲物に目を向ける。
左側から向かってくるミサイルの軍団。その先に発射装置を見た彩矢は船体を、そちらの方向に向けた。
「さすがにこの数は、避けきれませんね!叩きのめしてやりましょう。」
言っていることがどんどん物騒になっている。彩矢は足のレバー操縦桿の下にある、二つのボタンを押した。
「サンダーフィッシュ、発射!」
サンダーフィッシュ。赤い鳥の最悪のネーミングセンス丸出しの、ミサイルが発射された。
名前はともかく、このミサイルは、敵のミサイルの束をたった2発ですべて破壊した。赤い鳥の武器の性能は高さが証明されている。
「これはすごいです!よほどの技術者がいるようですね!」
このようにして、シールド内に設置された、大砲、キャノン砲、ミサイル発射装置を、次々に破壊していく彩矢。その操縦の腕は、一流であったが、ゴードンは、終始地獄であった。
「これはちょっと厄介だな。」
これまで戦っていたボーグに加え、バードソンの足止めにも回った参次郎。状況は決して楽観できるものではなかった。
ボーグのハンマーによる攻撃を盾で食い止める参次郎。
しかし、後方からバードソンの銃撃が加わる。危機一髪これをかわす。しかし、黒い鳥と暗殺団の精鋭二人を前に、彼は限界を感じていた。
「2対1ならこちらが有利だ、参次郎。無用な血は流したくはない。投降しろ。」
バードソンは警告を発する。参次郎さえ投降してしまえば、赤い鳥の士気は下がり、戦闘は終わる。
しかし、もし参次郎を殺してしまった場合、立津人と境川が特攻まがいの攻撃を行う可能性がある。ただでさえ強いあの二人がそのような行動に出れば、より多くの犠牲が出るのは確実だ。
だからこそ、参次郎を降参させる必要があるのだ。
「なるほど。しかし、お断りだな。お前ら二人の事の事は気に入っているんだ。敵じゃなきゃ仲間にしたいくらいな。だから、お前らが仲間になるまで、俺は負けるわけにはいかないんだよ。」
参次郎はここにきてまだ、余裕の笑みを浮かべている。バードソンは、呆れたが、どこか恐ろしくも感じた。命を奪い合っている相手に対して、仲間になる可能性を捨てない彼の考えに。
しかし、バードソンはその考えを振り払った。
「そうだよな。お前には現実が見えていない。」
バカとは、可能性がほとんどない状況でも、希望と余裕を持ち続ける呑気な連中だ。参次郎もその一人にすぎないはずなのだ。そんな人間の先にあるのは破滅だけ。
「なら、教えてやるよ。お前みたいなバカが、一体どんな末路をたどるかということを。」
バードソンは、参次郎を倒し理解させようと考えた。例え、境川や立津人が特攻をかけようと。このようなふざけた人間を二度と生まないために。
今ここで、正義の名のもとに、この無謀な人間を打ち砕いてやろうと考えたのだ。しかし、参次郎は急に声色を変え、つぶやいた。
「現実が見えていないのはどっちだ。」
その声は、低く地の底から響くような物だった。その途端、バードソンは何か大きな恐怖を感じた。人間を本気で怒らせたときの恐ろしさを。
「え……」
一瞬、何かに縛り付けられたようにすら思えた。急におかしくなったバードソンの様子を、心配するボーグ。
「おい、どうした。速く参次郎を倒すぞ!」
しかし、バードソンは恐怖とともに、何か別の違和感を覚えた。先ほどまで、バードソンは誰と戦っていたかを思い出す。そしてその誰かが今見当たらない。
「太郎はどうした。」
「あ……」
バードソンがその違和感の正体に気づいたとき、参次郎は迂闊にも反応してしまった。バードソンの勘はとても鋭い。一回違和感を見つけてしまえば、敵の作戦など簡単に見抜ける。
参次郎が慌てて、バードソンに襲い掛かる。考える隙を与えないために。弾切れとなった参次郎は、武器を電撃ソードに切り替えた。しかし、彼の斬撃は届かない。
「やらせないぜ!」
ボーグが、参次郎の攻撃を遮ったのだ。
「ここは俺が食い止めるぜ。その間にお前は太郎がどこに消えたのかを調べろ!」
「ああ、すまない。」
バードソンはそういって、その場から動く。
「まずい!このままじゃ作戦が……」
バードソンを行かせてしまえば、作戦は失敗するかもしれない。何とかしてここで食い止めたいが、それは叶わない。
「よそ見をするんじゃないぜ!」
ボーグからの攻撃の対応で精いっぱいなためだ。
「太郎、すまない。」




